Effect of coexisting advanced extrapulmonary solid cancer on progression of Mycobacterium avium complex lung disease
概要
1. 序論
肺非結核性抗酸菌症の有病率は各国で増加しており、その中でも特に肺Mycobacterium avium complex症は罹患率が高い(MarrasandDaley,2002;Donohue,2018)。
また、治療の進歩に伴い悪性腫瘍患者の予後は改善してきている(Kawabata-Shoda et al.,2015)。そのような中、肺非結核性抗酸菌症と肺癌および血液悪性腫瘍との関連は報告がある(Meieretal.,2017;Lai et al., 2012)が、他の癌腫に関する研究は少ない(Jhun et al., 2020)。そこで、肺非結核性抗酸菌症と肺癌および血液悪性腫瘍を除いた肺外固形癌との関係を分析した。
2. 方法
2005年10月から2019年3月に横浜市立大学附属病院および横浜市立大学附属市民総合医療センターで抗酸菌検査を受けた患者を対象として、データを後ろ向きに収集した。研究は横浜市立大学附属病院および横浜市立大学附属市民総合医療センターの倫理委員会の承認を得て行われた(承認番号:B171200032)。
米国胸部学会によって定められた肺非結核性抗酸菌症の診断基準を満たすものが選択された(Griffith et al., 2007)。その中からさらにMycobacterium avium症とMycobacterium intracellulare症を合わせたMycobacterium avium complex症のみを対象とした。肺Mycobacterium avium complex症の中でも肺癌および血液悪性腫瘍以外の肺外固形癌の診断歴があるものを抽出した。その中でも、根治的な手術や放射線治療の適応の無い、つまり根治性を有さない進行癌を有する患者を進行癌群とし、手術など根治的な治療が可能な早期癌を有する患者を早期癌群とした。
肺Mycobacterium avium complex症の中でも免疫低下に関連する合併症のない患者を選択し、対照群とした。早期癌群、進行癌群、対照群の患者背景を比較した。
また、肺Mycobacterium avium complex症の進行を画像所見の悪化として定義した上で、3群の進行までの期間を比較した。また、特に進行肺外固形癌の合併が肺Mycobacterium avium complex症の進行に与える影響に関しても検討した。
3. 結果
286人が診断基準を満たし、進行癌群20人、早期癌群36人、対照群102人だった。進行癌群、早期癌群、および対照群の進行までの期間の中央値は、それぞれ432日、3595日、および2829日であった(P<0.01)。
比例ハザードモデルで肺Mycobacterium avium complex症の進行に影響を与えた因子を解析したところ、進行肺外固形癌(HR、6.096; 95%CI、2.688–13.826; P<0.01)、空洞影の存在(HR、2.750; 95%CI、1.306–5.791; P<0.01)は有意な因子であった。
4. 考察
今回、進行肺外固形癌の合併により肺Mycobacterium avium complex症の進行が早まった可能性が示唆された。肺結核においては、肺癌を含む悪性の固形癌の合併により肺結核が増悪する可能性が示唆されている(Kim et al., 2008)。その報告を考慮すると、肺結核と同じ肺における抗酸菌症である肺Mycobacterium avium complex症においても、進行肺外固形癌の合併により進行が早まった可能性は考えられる。また、肺Mycobacterium avium complex症はときに急速に悪化することもあるため、特に進行肺外固形癌を合併した肺Mycobacterium avium complex症の診療においては急な進行に注意が必要である。