レプチンによる肺線維芽細胞の活性化作用と喘息病態に及ぼす作用の検討
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名 渡邉 かおる
本研究は気管支喘息のフェノタイプの一つである肥満合併喘息において重要な役割を果
たしていると考えられるレプチンが、ヒト肺線維芽細胞の活性化作用および喘息病態に及
ぼす作用を明らかにするために行った研究であり、下記の結果を得ている。
1.
レプチンは濃度依存的に肺線維芽細胞による Eotaxin、MCP-1、IL-8、IP-10、IL-6 の
産生を mRNA およびタンパク質レベルで有意に上昇させた。レプチンは肺線維芽細胞
による α-SMA および細胞外マトリックスの成分であるラミニンの産生を増強させ、肺
線維芽細胞の増殖能を増強した。real-time PCR およびフローサイトメトリーで肺線維
芽細胞の Ob-R の発現を確認した。Ob-R の siRNA を導入した肺線維芽細胞にレプチン
を作用させると Eotaxin、IP-10、IL-6 の産生が抑制されたため、レプチンによる肺線維
芽細胞からのサイトカイン産生増強作用には Ob-R が関与していることが示唆された。
Ob-R 以下のシグナル伝達経路については、特異的阻害剤を用いた実験から、JAK2、
p38 MAPK、ERK1/2 経路が関与することが示された。また、STAT5、p38 MAPK、
ERK1/2 のリン酸化抗体による WB より、レプチン刺激によりこれらのリン酸化が促進
されることが示された。
2.
肺切片の免疫組織染色により、喘息患者では非喘息患者と比較して気道粘膜下に著
明な細胞浸潤を認め、それらは抗レプチン抗体および抗 CD163 抗体で陽性に染色され
た。末梢血から精製した単球は、real-time PCR と WB 法によりレプチンを発現してい
ることが示され、単球がレプチンを産生している可能性が示唆された。
3.
喘息と非喘息肺線維芽細胞によるレプチンの反応性についての比較では、2 群間で
Ob-R の発現、サイトカイン産生能、p38 MAPK リン酸化について有意差を認めず、喘
息と非喘息の肺線維芽細胞のレプチンに対する反応性は同等であることが示唆され
た。
以上、本論文はレプチンが肺線維芽細胞によるサイトカイン/ケモカインの産生、α-SMA
の発現、細胞増殖能を亢進させ、反応の少なくとも一部には Ob-R や p38 MAPK 経路が関
与している可能性が示唆された。また、単球がレプチンを産生し気道局所でのレプチン発
現量が増加することで喘息の病態悪化に関わる可能性について示したことは、喘息の病態
形成機序を解明するうえで重要な貢献をなすと考えられる。
よって本論文は博士( 医学 )の学位請求論文として合格と認められる。