アルミニウム合金とマグネシウム合金の 異材摩擦攪拌接合に関する研究
概要
近年,省エネルギー観点から,輸送機器を中心とした構造物の軽量化が進められており,鉄を主成分とした材料から,アルミニウム合金を中心とした非鉄金属への転換が行われている.また,さらなる軽量化を実現する為に,実用金属の中で比重が最小のマグネシウム合金の活用が求められている.
他方,接合継手に目を向けると,適材適所,高機能化,多機能化および低コスト化の観点から複数の材料を組み合わせて,製造する“マルチマテリアル技術”が必要とされている.これらを実現する為には,信頼性の高い異種金属材料接合技術の確立が必須である.
アルミニウム合金やマグネシウム合金の異材溶融溶接は,両者の間で脆い金属間化合物が生成する.そのため,信頼性のある継手を得難く,両合金の異材溶接技術の確立には解決すべき課題を有している.こうした中,異種材料接合技術の一つである摩擦攪拌接合(FSW)が注目されており,工業的な適用が検討されている.本接合法は,ツールと母材の摩擦熱により発生させた塑性流動を用いて接合する固相接合である.この塑性流動の最適制御こそが,異材接合技術の確立に繋がると考えられる.しかし,異材接合の場合,変形特性の異なる材料の塑性流動を取り扱うことから,両者の間で協調的な攪拌を起こすことが難しく,これが欠陥形成に影響を及ぼしている.そこで,塑性流動に関する,「材料特性」「材料配置」「ツール回転数や接合速度などの接合条件」「ツール形状」の因子に着目した.これらの因子が塑性流動に与える影響を調査し,塑性流動を制御することができれば,欠陥形成を抑制することができると考えた.本研究では,単に健全な溶接継手を形成する条件を見出すのではなく,これらの仮説を検証することで,欠陥形成に与える影響を調査し,FSW を用いた異材接合における基本指針を提起することを目的とした.
本論文は第1章から第6章までの構成である.
第1章は,序論であり,摩擦攪拌接合の理論や特徴に示し,本研究を行う意義等を述べた.
第2章では,材料配置,接合速度および接合ツール回転数が与える影響について,A5083アルミニウム合金,AZ31 マグネシウム合金を用いて調べた.材料配置については,AS 側に A5083 を配置し接合を行うことで効果的な結果を得た.また,攪拌のされやすさはツール回転数に影響を受け,攪拌部の形成は接合速度の影響を受けていることが明らかになった.さらに,異材接合における材料配置と接合条件は,高温領域における材料の機械的特性,流動能を考慮する必要があると結論付けた.
第3章では,形状が異なる複数の接合ツールを作製し,ツール形状が塑性流動にどのような影響を及ぼすのかを作動流体を用いた可視化実験ならびに摩擦攪拌点接合法を実際の金属である,A6061-T6 アルミニウム合金に適用して,ツール形状の影響を調べた.
その結果,可視化実験において,ダブルスパイラルツールは,シングルスパイラルツールに比べ,下方向の攪拌力増大効果が認められた.また,摩擦攪拌点接合において,ダブルスパイラルツールは,シングルスパイラルツールに比べ,攪拌部最大幅で 0.7mm(113%UP),試料下部で 0.5mm(119%UP)の攪拌領域の拡大効果が認められた.
第4章では,第3章で効果的な結果が得られたダブルスパイラル形状の接合ツールを用いて,A6061-T6 アルミニウム合金,A5083 アルミニウム合金および AZ31 マグネシウム合金を用いて摩擦攪拌接合を行い,接合性,継手組織を検討した結果を述べた.
A6061 同士の同種材料の接合においては,ダブルスパイラルツールはシングルスパイラルツールに比べ,ルートフロー抑制に効果がある条件を見出すことができた.一方,条件によってはバリ等が発生しやすく,ダブルスパイラルツールの攪拌力の優位性は認められたものの,全条件範囲において,ダブルスパイラルツールによる,ルートフロー抑制効果を認めることができなかった.ダブルスパイラルツールによる,ルートフロー抑制効果をより広範囲の条件で成功する為には,軟化し,上方へ金属の流動がなされることにより生じるバリを抑制する為の,ショルダーの最適化が必要であると推察される.
異種材料の接合においては,ダブルスパイラルツールはシングルスパイラルツールに比べ,攪拌量が増し,ボイドを含まない明瞭なオニオンリングが形成される傾向にあった.入熱量がほぼ変わらない状況で攪拌量が増大されることは,異材摩擦攪拌接合プロセスの低温化に効果的に,寄与するものである.
第5章では,第4章で得られた,接合継手について,引張試験片を採取し,シングルスパイラルツールとダブルスパイラルツールが,機械的強度に与える影響について検討した結果について述べた.ダブルスパイラルツールを用いると,材料同士がより広範囲にわたって協調的な攪拌作用を受けて攪拌部組織が形成され,その結果として継手強度の増加に効果があると考えられる.ダブルスパイラルツールは,攪拌量増加を促す塑性流動の促進をもたらし,欠陥形成の抑制と攪拌領域の拡大につながる.すなわち,ダブルスパイラルツールは異種材料の接合に効果的である.
第6章では,本実験で得られた実験結果について,総括を行っている.