リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「但馬牛における新たな評価基準に基づくモノ不飽和脂肪酸割合と小ザシの改良指標の確立」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

但馬牛における新たな評価基準に基づくモノ不飽和脂肪酸割合と小ザシの改良指標の確立

北垣, 菜美子 神戸大学

2022.03.25

概要

但馬牛はブランド牛肉である但馬牛・神戸ビーフの素牛であり,厳格な基準により定義されている.そのなかで他県の黒毛和種種牛を用いないブリーディング手法を定めており,このような育種手法(閉鎖育種)を取り入れた和牛集団は他に例を見ない.しかしながら, 閉鎖育種はブランドカの向上に寄与した一方,遗伝的多様性を低下させる影響が懸念される.脂肪交雑基準(BMS)の偏重により,その能力の高い特定の種雄牛に交配が集中するなか,閉鎖育種を継続しながら遺伝的多様性を維持するためには,新たな形質に着目した改良目標の分散化が求められる.

オレイン酸に代表されるモノ不飽和脂肪酸( _ ) 割合は牛肉の風味を高めることが明らかとなっており,黒毛和種を用いた試験では風味だけでなく食感や甘い香りとの関係も示唆されている. MUFA割合を含めた脂肪酸組成の測定は従来, ガスクロマトグラフィー法により行われていたが, これは作業が煩雑で長時間を要するため, 大規模なサンプル収集が困難であった. しかし, 近年開発された近赤外光ファイバー法を利用した脂質測定装置によって, 枝肉市場で迅速にMUFA割合を評価することが可能になったことから, 改良指標としての活用が期待されている. また, 脂肪交雑のキメの細かさ( 小ザシ) も嗜好性との関係が報告されており, 小ザシは枝肉横断面撮影装置で取得した画像を専用のアプリケーションで解析することにより「細かさ指数」として数値化することが可能である.

食味に関するこれらの形質を改良に活用することは,ブランドカの向上だけでなく,BMS能力に偏らない種雄牛の多角的な評価に役立つと考える. しかし, 交配種雄牛の選択は基本的に飼養農家の選択に基づくもので,MUFA割合や細かさ指数の活用が経済性の向上に貢献しない場合, それを意識した選択の可能性は低いと想像される. そこで本研究では第1章において枝肉格付成績,脂質測定装置によるMUFA割合および細かさ指数が枝肉の経済的価値に及ぼす影響を検討した.

更に, これらの形質を但馬牛の改良に用いる場合, 現在の改良指標である枝肉格付成績との逮伝的関連を確認する必要がある. そこで, 第2 章では枝肉格付成績, 細かさ指数に加え, 測定方法と測定部位の異なるMUFA割合( 脂質測定装置で筋間脂肪を測定した数値とガスクロマトグラフィー法によりロース芯内脂肪を測定した数値) について, 遺伝的パラメータを推定した. これにより, 両形質が枝肉格付成績と同時に改良を進めることが可能か検討するとともに, 脂質測定装置による筋間脂肪のMUFA割合を用いた改良が, 可食部であるロース芯内MUFA割合の改良に対しても有効か検討を行った.

また, 食味に関する新たな改良形質を検討していく過程において, 消費者の嗜好性を調査することは重要である.既報によりMUFA割合や小ザシ指標は官能特性との関連性が明らかにされているものの, 官能特性がそのまま消費者の嗜好性と相関するとは限らない. 消費者の嗜好性は時代により移り変わる可能性が指摘されており,好まれる牛肉の特徴は夕ーゲットとする消費者の国籍および嗜好タイプにより異なることが報告されている.神戸ビーフにおいてもターゲットとする地域にて嗜好性に関する詳細な調査が求められることから, 第3 章では神戸ビーフを用いた消費者型官能評価を実施し, 好ましいと評価される神戸ビーフの特徴を明らかにするとともに, MUFA割合や小ザシ指標を含めた分析形質と好ましさの関連性について検討を行った.

第1 章 枝肉格付成績, モノ不飽和脂肪酸割合および小ザシの評価が兵庫県産黒毛和種の枝肉単価に及ぼす影饗
兵庫県内の食肉卸売市場に出荷された黒毛和種6, 465頭を用いて,枝肉単価を目的変数とした最小二乗分散分析を実施した. 統計モデルには母数効果として性, 販売日, BMS, 肉色( B C S ) および脂肪色( B F S ) の5 変数, 共変量効果として屠畜月齢, 枝肉重量, ロース芯面積, バラの厚さ, 皮下脂肪厚, 細かさ指数および脂質測定装置によるMUFA割合の7 変数を組み入れた. その結果, 皮下脂肪厚とBFS以外のすべての変数で有意な効果が認められた( P<0. 05).なかでもBMS,販売日および屠畜月齢が枝肉単価に強く影饗することが確認できた一方, 細かさ指数とMUFA割合においても枝肉単価に有意な影響を与えていた. 更にBMSによりデータを4 区分して検討したところ, 細かさ指数はBMSNo. 10以上, MUFA割合はBMSNo. 6から9の範囲において,特に枝肉単価に影響することが明らかとなった.また,両形質の偏回帰係数はすべて正の値であったことから,細かさ指数およびMUFA割合を高めることは枝肉の経済的価値を髙め,その効果はBMSNo. 6以上の神戸ビーフと認められた枝肉で大きいことが示された. 枝肉格付において評価されない形質である細かさ指数やMUFA割合が枝肉単価に一定の影響を与えていたことから, 購買者が両形質で評価される肉質に関する特徴を枝肉の外観から把握し,少なからず重視している可能性が示唆された.

第2 章 兵庫県産黒毛和種における枝肉格付成績, 画像解析形質およびモノ不飽和脂肪酸割合の遺伝的パラメータの推定
兵庫県産黒毛和種29, 942頭を用いて,枝肉格付成績,画像解析形質,MUFA割合に関する遗伝的パラメータを推定した.分析した形質は,枝肉格付5形質(枝肉重量,ロース芯面積,*バラの厚さ,皮下脂肪厚,BMS),画像解析2形質(胸最長筋の脂肪割合,細かさ指数),脂質測定装置(NIRS法)で筋間脂肪を測定したMUFA割合およびガスクロマトグラフィー (GC)法でロース芯内筋内脂肪を測定したMUFA割合である.多形質アニマルモデルを適用し, AIREMLF90プログラムを用いて9形質同時に解析を行った結果, 画像解析形質とMUFA割合の遗伝率は0. 395から0.740と中から髙程度を示し,各形質間に深刻な遗伝的拮抗が見られなかったことから, 従来の改良指標である枝肉格付成績と同時に改良を進めることが可能と考えられた. NIRS法による筋間MUFA割合の遗伝率は0.450とGC法による筋内MUFA割合の遺伝率0.542よりもやや低かったものの,両者の遗伝相関は0.804と髙かった.NIRS法MUFAの間接選択によるGC法MUFAの改良効率は0.73と試算され,GC法にかかる時間や 人件費を考慮するとNIRS法が実質的にMUFA割合を改善する代替評価法として利用可能なことが示唆された.また,繁殖雌牛の出生年別平均予測育種価からみた遗伝的趨勢では,BMSや月旨肪割合に比べ,細かさ指数とMUFA割合の改良が進んでいないことが明らかとなった.

第3章 兵庫県産黒毛和種牛肉の消費者型官能評価に影響を及ぼす要因の検討
特徴の異なる去勢牛6 頭の神戸ビーフを用いて, 消費者型官能評価を行った. 枝肉左半丸の同一部位から採材した神戸ビムフリブロース肉の胸最長筋をサンプルとし,沸騰した生理食塩水で2分間ゆでたものを官能評価に供した. 性および年代に偏りのない78人をパネルとして,6種類全てのサンプルを評価させた.評価は設問1で「食感」「味や香りj「全体」について, 好ましさによる8段階評価法(1=非常に好ましくない〜8=非常に好ましい)で回答させ, 設問2 では, 好ましさに当てはまる用語を25 個の評価用語群から全て選択させるCheck-All-That-Apply (CATA)法を実施した結果,「食感』の評価でサンプルによる差が認められた. さらに, 好ましさの評点を用いて階層クラスター分析によりサンプルを分類したところ, 吁価の高いグループと低いグループの2 つに大別された. 牛肉の特徴を可視化するため実施したコレスポンデンス分析では, 食感を表わす第1成分軸で正負に二分されたサンプルと上言έの分類が一致したことから,食感が好ましさに強く影響することが明らかになった. きらにペナルティ分析から, 食感の「かたい」ことが好ましさ評価を下げることが示され, 食感の評価にはMUFA割合が影響している可能性が示唆された. その一方, 味では「さっぱり』や「しつこい」といった異なる特徴を持つ牛肉が好まれることから,消費者の味の嗜好性は一方向ではなく,多様であることが示唆された.

本研究の結果, MUFA割合と小ザシの指標である細かさ指数を用いた改良は, 生産者には収益の増加をもたらし,消費者には良食味牛肉の提供につながる可能性が示された.また,両形質において中程度の遗伝率を確認し, 現在の改良指標である枝肉格付成績との間に深刻な遺伝的拮抗が見られなかったことから, 格付成績と同時に改良を進めることが可能なことが示された. 繁殖雌牛の遺伝的趨勢からは両形質の改良が枝肉格付成績に比べて進んでいないことが確認され, 枝肉の経済性を高めると共に, 嗜好性の髙い牛肉を目指すためにも, 早急に両形質の改良に着手する必要があるだろう. また, 神戸ビーフの嗜好性において「食感Jが重視されており,「食感」に対するMUFA割合の関与が示唆された一方, 消費者の嗜好は多様で, 異なる味の特徴を持つ牛肉が好まれることが明らかになった. 今後はこれらの特徴に関連付けられる形質の探索を行う必要があるだろう.改良形質の多角化は但馬牛集団の遗伝的多様性の維持に貢献することが期待される.

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る