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大学・研究所にある論文を検索できる 「血中タンパク質AIMの活性化機構に基づく新規診断薬および治療薬の創出」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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血中タンパク質AIMの活性化機構に基づく新規診断薬および治療薬の創出

山崎, 智子 東京大学 DOI:10.15083/0002002322

2021.10.13

概要

当研究室で、その発見から機能解析まで20年に渡り研究を続けている血中タンパク質AIMは、クッパー細胞をはじめとする組織マクロファージにより産生される分泌型タンパク質で、システインを豊富に含む約100アミノ酸からなるscavenger receptor cysteine-rich(SRCR)ドメインが3つ連なった構造をしている。最近、AIMは、過剰な脂質、癌細胞、死細胞など生体にとっての異物・不要物の除去を促進することによって、肥満、脂肪肝、肝癌、急性腎障害、真菌性腹膜炎など様々な疾患の早期治癒を促すことが次々と明らかになってきた。また、組換えAIMタンパク質(rAIM)を投与することによって、これらの疾患の治療を行うことができることも疾患モデルマウスを用い示してきた。興味深いことに、健常時は、AIMはIgM五量体に結合し、不活性型として高濃度(約5μg/ml)で血中に存在するが、特定の疾患時には、AIMがIgM五量体から解離し、『活性型AIM』となりAIMの持つ疾患抑制効果を発揮することが分かっている。

 当研究室の最終目標は、このようなAIMの疾患制御効果を基盤とした、様々な難治性疾患に対する新規治療法を開発することである。私は、この目標に向け、博士課程期間に、(1)血中へ投与したAIMやIgM五量体から解離した活性型AIMの血中動態・代謝制御、(2)NASH肝癌患者における特異的なAIMの活性化の解明と、その疾患バイオマーカーとしての臨床応用可能性の探求、そして、私自身の博士課程の総括的な研究として、(3)IgMに結合した不活性型AIMをIgM五量体から解離させ活性化する低分子化合物(=AIM活性化剤)の探索、の三つの研究を遂行した。以下にそれらの概要を記載する。

 (1) AIMの血中代謝様式(p46-):IgM五量体と結合していないAIMは、血中において何らかのプロテアーゼにより速やかに切断され、全長AIMよりも88アミノ酸短いshort AIM(sAIM)になることを明らかにした。健常時では、全長AIMが尿中へ排泄されることはないが、プロテアーゼによりAIMが切断されsAIMになると、尿中へ選択的に排泄されることが分かった。また、sAIMは全長AIMと異なりIgM五量体への結合能を失っている一方で、sAIMは、尿細管管腔を閉塞させる死細胞に付着し、KIM-1と介してそれらを近位尿細管上皮細胞に貪食・除去させる、という一連の腎障害の治癒メカニズムを推進することも明らかにし、sAIMは急性腎障害の治療剤として臨床応用できる可能性を示した。

 (2) NASH肝癌患者におけるAIM活性化の発見とその臨床的意義(p72-):これまでAIMのIgM五量体からの解離・活性化は急性腎障害時に特徴的に起こる事を明らかにしていたが、私は、こうしたAIMの活性化が特異的な肝疾患においても生じることを、ヒト患者血清の解析によって明らかにした。興味深いことに、肥満に起因する非アルコール性脂肪肝性疾患(NAFLD)の中で、単純性脂肪肝(NAFL)および脂肪性肝炎(NASH)患者は健常人と同じくほとんどAIMの活性化は認められなかったが、NASH肝癌患者において、血中でAIMの活性化が顕著に起きていた。そこで、活性化AIM値の新規NASH肝癌診断マーカーとしての可能性を検討したところ、Cutoff値1.6µg/mlでは感度88.5%、特異度86.4%と、既存のウイルス性肝癌診断マーカーであるDCPやAFPよりも優れた診断能を示し、これまで優れた診断マーカーが存在しなかったNASH肝癌の新しいバイオマーカーとなり得る可能性が高く、現在すでに工業化を進めている。

 (3) AIM活性化低分子化合物の探索(p92-):rAIMタンパク質の投与が急性腎障害を始めとする様々な疾患に対する新たな治療戦略として有望である一方で、我々の血中には常時高濃度(約5µg/ml)のAIMがIgM五量体と結合し不活性型としてストックされている。私はこのことに着目し、IgM五量体からAIMを効率よく解離させ、活性化させることによって、rAIMタンパク質の投与と同等の治療効果を得られるような、低分子化合物の開発を推進した。活性型ヒトAIMのみを認識する抗体を新たに作成し、その抗体を用いてHomogeneous Time Resolved Fluorescence(HTRF)法による高速大量スクリーニング(High Throughput Screening; HTS)系を構築した。これは、ヒト血清から単離したIgM-AIM complexと低分子化合物を反応させ、低分子化合物がAIMを活性化した場合のみ、抗体が活性型AIMを認識し、抗体間で蛍光共鳴エネルギー転移が起き、AIMの活性化を検出ができる仕組みである。この系を用い、本学創薬機構の有する約20万個の低分子化合物をスクリーニングし、AIM活性化能を持つ低分子化合物として、約9000個の候補化合物を得ることができた。今後は、これらの候補化合物の中から、AIM活性化能の高い化合物をさらに絞り込み、確定ヒット化合物を得たいと考えている。

 以上の様に、私はAIMを用いた治療法の基盤となる上記の研究に取り組み、(1)AIMの血中代謝動態を解明し、(2)ヒトの疾患時におけるAIM活性化の新規知見として、NASH肝癌患者におけるAIMの活性化の発見、及びその新規NASH肝癌診断マーカーとしての可能性を示し、(3)AIM活性化能を持つ低分子化合物の探索を推進した。これらに加え、修士課程から携わってきた様々な臨床研究及び基礎研究の成果は、全て、AIM活性化機構に基づく新規治療法の開発という大きな“海”に向かうものであった。今後、AIM活性化機構を基盤とする治療法の実現に向け、候補低分子化合物の絞り込みやリード化合物の最適化、治療効果の証明、安全性の確認など、乗り越えるべき課題は多いが、課題を克服した暁には、様々な疾患に対する新規治療法として多くの人へ貢献するものとなることが強く期待される。

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