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大学・研究所にある論文を検索できる 「慢性腎臓病における分子病態の理解に向けた疾患関連蛋白質の機能解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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慢性腎臓病における分子病態の理解に向けた疾患関連蛋白質の機能解明

井阪, 亮 大阪大学

2022.03.24

概要

慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease;CKD)とは、原疾患を問わず慢性的に腎機能が低下していく状態を指し、多くの腎疾患を包含する疾患概念として提唱されたものである。世界におけるCKDの罹患者数は、2017年の時点で6億9,750万例と試算されており、これは全人口の10%にあたる。本邦においても、その罹患者数は1330万人と、およそ成人の8人に1人が罹患しており、日本の新たな国民病として注目されている。CKDは、病状が進行すると最終的には末期腎不全に陥り、人工透析をはじめとする腎代替療法を必要とするなど、患者のQuality of Life(QOL)を著しく低下させる要因となる。従って、CKDに対する治療には、早期発見による介入によりCKDの進行を効果的に抑制することが求められるが、現状、CKDに対して適用される介入方法としては対症療法に終始しており、有効な治療法が確立していないことが臨床における大きな課題となっている。そのため、CKDの進行を効果的に抑制する治療標的や治療戦略の確立が必要とされるも、腎機能低下が進行するメカニズムは、多岐にわたる分子が寄与する非常に複雑なものであることから、未だ全容の解明には至っておらず、CKDの分子病態の理解に向けた、CKDにおける腎機能低下に関わる疾患関連蛋白質の探索が不可欠とされている。また、CKDが進行すると、腎臓の尿毒症物質をはじめとする老廃物を除去する能力が失われ、その血中濃度が上昇することが知られている。さらに、一部の尿毒症物質は、腎細胞に取り込まれることで病態をさらに悪化させる可能性が報告されるなど、CKDにおける腎機能低下の一要因として懸念されるものの、尿毒症物質が腎病態に影響を及ぼす詳細なメカニズムの理解には至っていないのが現状である。以上の背景から、本研究では、CKDで生じる腎機能低下の分子機序の理解に向けて、CKDにおける新たな疾患関連蛋白質の同定とその機能解明、さらには、CKDの進行過程で血中濃度が上昇する尿毒症物質が腎細胞に及ぼす影響評価を実施した。

 まず著者は、CKDにおける疾患関連蛋白質の同定に向け、①腎臓にて恒常的に産生される腎分泌蛋白質の中から、②腎病態に関連して発現変動する蛋白質をスクリーニングすることで、効率的に腎疾患関連蛋白質を見出すことにつながるのではないかと考えた。すなわち、腎分泌蛋白質の探索を目的とした、健常人の腎前後血清を用いたプロテオーム解析と、得られた候補蛋白質の中から腎疾患関連蛋白質を絞り込むことを目的とした、疾患モデルマウスを用いたバリデーションを実施することで、病態との関わりが示唆される疾患関連蛋白質を見出すことにつながるものと期待される。このような独自のアプローチにより、著者は、細胞の接着や延展に関与するvitronectinが、CKDの病態の中でも腎線維化に関与して発現上昇することを明らかとした。さらに、vitronectinが腎線維化において果たす役割評価を実施したところ、vitronectinは腎線維化の過程で生じる近位尿細管の上皮間葉転換(Epithelial Mesenchymal Transition;EMT)に対して、インテグリンαVβ3やインテグリンβ1を介して抑制的に作用することを明らかとした。また、腎線維化の発症・進行過程において、病態の増悪に寄与するマクロファージのM2サブタイプへの分極に対して、vitronectinがM2マクロファージへの分極を抑制し、M2マクロファージにおけるTGF-β1の発現上昇を抑制することを見出した。以上の通り、vitronectinは近位尿細管におけるEMT、マクロファージにおけるM2サブタイプへの分極をそれぞれ抑制し、腎線維化に対して保護的に作用することを示した。これらの知見は、vitronectinの腎保護機構に基づく治療戦略の提案にもつながり得ることから、本研究のさらなる推進により、腎線維化の進行を抑制する手法が確立された暁には、非常に多くのCKD患者のQOL向上に貢献できるものと期待される。

 続いて著者は、CKDにおける腎臓病態の増悪機序のさらなる解明に向け、CKD進行の過程で血中濃度が上昇する尿毒症物質に着目した。尿毒症物質の蓄積は、意識障害や頭痛、むくみ、貧血などの要因となるため、CKDにより腎機能の減衰が深刻化した患者では、血中の尿毒症物質を除去するための血液透析が必要となる。中でも、血清蛋白質結合性低分子の一つであるインドキシル硫酸は、血中でアルブミンと強固に結合し、透析による体外排泄が非常に困難であるとともに、患者における血中濃度が健常者と比較して非常に高いため、インドキシル硫酸が腎病態に及ぼす影響が憂慮されているも、その影響や悪化機序の全容解明には至っていない。そこで、インドキシル硫酸が腎細胞に及ぼす影響について評価したところ、インドキシル硫酸はマクロファージにおける炎症惹起を介して、近位尿細管細胞において生じる炎症応答を増強することが示された。本知見は、CKDが進行した際に血中に滞留するインドキシル硫酸が、腎機能をさらに低下させていく機序の一端を明らかとしたものである。今後は、インドキシル硫酸のマクロファージを介した炎症誘導機構を追究していくことで、透析患者のさらなる腎障害の進行を抑える治療法の確立にも貢献できる。したがって、本研究の推進が、本邦において約32万人にも上る慢性透析患者のさらなる腎不全悪化の予防につながり、QOL低下の緩和に資するものと期待される。

 以上、本博士論文では、著者が同定してきたCKDにおける疾患関連蛋白質vitronectinや病態の進行過程で血中濃度が上昇するインドキシル硫酸に着目し、vitronectinが腎線維化の過程で生じる病変を抑制することで腎保護的に作用することを見出すと共に、尿毒症物質インドキシル硫酸がマクロファージを介して病態の増悪を誘導することを示した。これらの知見は、腎病態に関連して増加する分子の役割解明を通じて、CKDの分子病態のさらなる理解に貢献するものである。将来的には、本研究のさらなる推進によって、腎機能低下を抑制する新規治療法の開発に向けた基盤構築につながり、CKD患者のQOL向上に貢献できるものと期待する。

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