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大学・研究所にある論文を検索できる 「脂質モデル膜におけるガングリオシドGM3とEGF受容体膜貫通ペプチドの相互作用」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

脂質モデル膜におけるガングリオシドGM3とEGF受容体膜貫通ペプチドの相互作用

中野, 幹人 大阪大学 DOI:10.18910/82017

2021.03.24

概要

細胞接着やタンパク質認識などを媒介する役割を担うことで知られる糖脂質は,生体膜中の機能ドメインに集積してその機能を発揮する.このような機能ドメインの形成を誘起する糖脂質の側方的な分子間親和性について興味が持たれているが,理解は進んでいない.特にガングリオシドGM3(図1)は,2型糖尿病やアレルギー性喘息との関連が報告されており,シアル酸を含む糖脂質のうち最も単純な構造を有する生合成初期産物である.GM3は上皮成長因子(EGF)受容体のリン酸化を阻害し,細胞増殖シグナルの膜内への移行をコントロールすることでも知られる1.EGF受容体の活性化には膜貫通領域を介した二量体の形成が不可欠であることから,GM3がその過程に影響を与えていることが示唆される.また,脂質ラフトドメインとの関連も報告されており,GM3がEGF受容体のドメインへの局在に関与しているとの仮説が提唱されている.

本研究では,脂質―膜タンパク質の相互作用の詳細な解明を目指し,GM3とEGF受容体膜貫通領域が親和性を発揮するメカニズムを均一な脂質モデル膜中で再現することを試みた.まず,①蛍光標識膜貫通ペプチドを新規合成し,均一組成の脂質モデル膜中における挙動を評価した.続いて,②ペプチドプローブとGM3の親和性の定量解析が可能となる実験系の確立を試みた.特に,一回膜貫通型の膜タンパク質の配座・配向は実験条件に左右されやすく,さらに脂質との結合寿命が非常に短いため,さまざまな要因が実験結果に影響を与える.いくつかの条件を最適化することで,サンプル調製・および測定上の諸問題を克服し,親和性の定量評価を達成した.

① 蛍光標識ペプチドの合成と脂質モデル膜中での挙動解析
EGF受容体膜貫通(TM)領域に対応する34残基の疎水性ペプチド(表1)を固相合成によって作製し,N末端を蛍光団NBD(nitrobenzoxadiazole)で標識して新規プローブ・NBD-TMを調製した.疎水性ペプチドの精製に用いられるギ酸を含む溶出液によって,カラムへの配列特異的な吸着が促進され,目的物を高純度で精製することができた(図2).脂質モデル膜サンプル中での自己消光実験によって,NBD-TMプローブが脂質二重膜に再構成され,プローブ濃度と二重膜の相状態が会合体の形成に影響を与えていることが明らかとなった(図3).また,膜に5 mol%のGM3を含んだ場合,蛍光強度が有意に上昇し,ペプチドの会合に伴う自己消光が減少した.このことから,NBD-TMの膜へ再構成され,その会合挙動が膜中における環境に対応していることを確認した.

② GM3と膜貫通ペプチドの特異的な相互作用を検出するための方法論の開発
Förster Resonance Energy Transfer(FRET)測定をモデル膜中の蛍光分子ペアに適用する際には,膜中における蛍光分子のランダムな拡散などに起因するバックグラウンドのFRETが誤差の原因となる.この影響を最小限にとどめるために実験条件を検討した結果,DOPC(1,2-dioleoyl-glycero-phosphocholine)からなる二重膜中にNBD-TMを0.005mol%で組み込み,蛍光標識GM3(ATTO594-GM3)を0.1 mol%加えた場合に,温度上昇に従ってFRET効率の増加が認められた(図4).ATTO594-GM3は親水性の大きな赤色蛍光団によって標識されたプローブであり,脂質膜中で天然のGM3と同等の振る舞いを示すことが報告されている3.一方,ホスファチジルエタノールアミン(PE)の頭部がNBDで標識されたNBD-PEをFRET実験のコントロールとして用いた場合,温度変化の影響がみられなかった.この条件において,TMペプチドの会合による影響を抑え,TMペプチドとGM3の相互作用を特異的に観測できることを見出した.

得られたFRET結果から結合定数を算出し,van’t Hoffプロットによって結合自由エネルギーのおおよその値を見積もった(ΔG ≈ −10 kJ / mol; ΔH ≈ 20 kJ / mol; ΔS ≈ 100 J / K mol).その結果,ΔGの値は先行研究において得られたTMペプチドの二量化エネルギー(ΔG = −10.5 ~ −11.7 kJ/mol)とおおむね一致した4.このことから,GM3とTMペプチドの間に働く脂質膜中の相互作用について,NBD-PEをコントロールとして利用したFRET解析によって定量的な解析が達成されたと考える.また, ∆𝐻,∆𝑆が正の値となったことから,TMペプチドとGM3の親和性は主に疎水性相互作用に起因していると推定された.膜中でペプチドが不安定となりやすい高温条件おいて特異的なFRETが増加したことは,EGF受容体膜貫通ペプチドと膜脂質が共存する条件においてGM3が膜への挿入や配向を制御していることを示唆している.

以上の結果から,EGF受容体のTM領域において,GM3が有する親水性頭部がTM・脂質膜表面における特異的な相互作用を通じてTMペプチドの配向を安定化していることが示された.

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参考文献

(1) Bremer, E. G.; Hakomori, S. I.; Bowen-Pope, D. F. J. Biol. Chem. 1984, 259, 6818–6825.

(2) Coskun, Ü.; Grzybek, M.; Drechsel, D.; Simons, K. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2011, 108, 9044–9048.

(3) Komura, N.; Suzuki, K. G. N.; Ando, H.; Konishi, M.; Koikeda, M.; Imamura, A.; Chadda, R.; Fujiwara, T. K.; Tsuboi, H.; Sheng,R.; et al. Nat. Chem. Biol. 2016, 12, 402–410.

(4) Chen, L. Merzlyakov, M. Cohen, T. Shai, Y. Hristova, K. Biophys. J. 2009, 96, 4622–4630.

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