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大学・研究所にある論文を検索できる 「線虫の神経活動の光制御を実現する長波長光でアンケージ可能な新規ケージド化合物の開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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線虫の神経活動の光制御を実現する長波長光でアンケージ可能な新規ケージド化合物の開発

高橋, 光規 東京大学 DOI:10.15083/0002001680

2021.09.08

概要

研究の背景と目的
 近年,ケージド化合物,光スイッチング分子,光遺伝学などのように光に応答する分子を用いることで細胞や動物個体内での分子レベルの現象を制御する実験技術が広く用いられるようになった.このうち,ケージド化合物は,ケージ基と呼ばれる光分解性保護基によって化学修飾され,生理活性が低下した分子である.光照射によってケージ基が脱離し活性が回復する(アンケージと呼ぶ)ため,光照射した部位でのみ刺激を与えることができる.これまでに開発されたケージド化合物は,アンケージに細胞毒性の高い波長300~400nmの紫外光を必要とするものが大部分であり,波長500nm以上の可視光でアンケージ可能なケージド化合物は数少ない.
 本研究では,550nm以上の可視光でアンケージできるケージド化合物を開発し,線虫C. elegansの神経活動を光制御することを目指す.線虫は,体が透明であることから光を用いた実験技術と組み合わせやすく,神経科学のモデル生物として多くの利点を持つ.一方,線虫は波長300~500nmの紫外光~青色光に対して,先天的な光忌避反応を示すため,光制御技術を用いた神経機能解析が正確にできない恐れがある.そこで,本研究では波長550nm以上の光でアンケージでき,生理活性物質の放出速度が速い新規ケージド化合物を開発し,線虫の神経活動の光制御を試みた.また緑色蛍光Ca2+センサータンパク質GCaMP6sを用いて,神経活動の同時記録を行った.

結果
 新規ケージド化合物の開発は,以前当研究室で開発した ケージド化合物を長波長化することで行った.4-aryloxy BODIPYケージド化合物は,蛍光色素1,3,5,7-tetramethyl BODIPYのホウ素原子にフェノール誘導体(アリルオキシ基)を導入したものであり,波長500nmの光照射により4位B-O結合が開裂しフェノール誘導体が放出される.このアンケージ反応は,アリルオキシ基から蛍光団へのphoto-induced electron transfer(PeT)により生じる電荷分離状態を経て進行すると考えられており,導入するフェノール誘導体のHOMOエネルギーレベルを最適化しPeT効率を調整することで,高いアンケージ効率を実現できる.
 本研究では,580nmの光で励起可能な長波長BODIPY誘導体であるKFL-1をケージ基として利用できないか検討した.はじめに,KFL-1でも同様のアンケージ反応が起こるか,またどの程度のHOMOエネルギーレベルを有するフェノール誘導体を導入した際にアンケージ反応が効率よく起こるかを検討すべく,KFL-1のホウ素にHOMOエネルギーレベルの異なる4種類のフェノール誘導体を導入したaryloxy KFL-1を合成した.Aryloxy KFL-1は導入したフェノール誘導体のHOMOエネルギーレベルが高いほど蛍光量子収率が低く,PeTによる消光が起こっていることが確かめられた.続いて,これらのKFL-1誘導体に580nmの光照射を行い,アンケージ反応が進むかどうかを分析したところ,導入するフェノール誘導体のHOMOエネルギーレベルが−0.2hartree付近でアンケージ量子収率が最大となることが分かった.
 線虫の神経活動を光制御するため,唐辛子の辛み成分であるカプサイシンとそのイオンチャネル共役型受容体TRPV1を利用することとした.カプサイシンは,フェノール類似構造からアミドリンカーを介して脂肪鎖が伸びた構造をしており,そのHOMOエネルギーレベルは−0.204hartreeであるため高いアンケージ効率が期待される.ケージド化にあたっては,カプサイシンと同等の活性を持ち,高純度な市販品が安価に手に入るカプサイシン誘導体N-vanillylnonanamide(VN)を用いることとした.
 VNのフェノール性水酸基をKFL-1ケージ基で保護したKFL-VNは,最大吸収波長が577nmであり,580nmの光を照射してLC/MSで分析したところ,光分解してVNが放出されることが確かめられた.光反応におけるVNの化学収率は40%程度となった.
 KFL-VNを生きた状態の線虫に適用し,神経活動の光制御を行うにあたり,線虫頭部に存在する感覚神経ASHに注目することとした.まず,餌である大腸菌にKFL-VNを混合して線虫に取り込ませ,KFL-1に由来する蛍光を観察することでKFL-VNの局在を観察したところ,口腔,咽頭,腸管といった消化管に分布が認められた.次に,ASHの神経活動を観察するため,ASHにTRPV1を発現した線虫株kyIs200Xおよび野生株に対し,sra-6プロモーター下にGCaMP6sを配置したプラスミドをマイクロインジェクションして,ASHにGCaMP6sを発現する線虫株を作製した.これらの線虫株にKFL-VNを与え,共焦点蛍光顕微鏡を用いてGCaMP6sの蛍光変化を観察しながら,565,575,585nmの混合レーザーを照射しアンケージを試みた.線虫の頭部全体に光照射したところ,TRPV1発現株では,光照射に応じてASH内のCa2+濃度上昇が観察された.一方,対照群では光照射してもASHのCa2+濃度に変化は見られなかった.
 最後に,KFL-VNを用いて線虫行動の光制御を行った.線虫は,嫌悪刺激に出会うとASHが活性化し,前進停止・後退・方向転換という一連の回避行動を示す.そこで,ASHにTRPV1を発現した株と野生株それぞれにKFL-VNを投与し,実体顕微鏡下で線虫の行動を撮影しながら545-580nmの光照射を行い,嫌悪刺激の模倣を試みた.光照射すると,TRPV1発現株は一連の回避行動を示したが,野生株は行動変化を示さず前進を続けた.

結論
 本研究では,長波長BODIPY骨格蛍光色素KFL-1を母核としてKFL-1ケージド化合物の開発に成功した.具体的な化合物としてKFL-VNを開発し,ASHにTRPV1を発現した線虫において光忌避反応を惹起しない580nm前後の光でアンケージし神経活動を光制御できること,また,GCaMP6sと併用してイメージングすることで神経活動の同時記録ができることを示した.さらに,自由行動中の線虫にKFL-VNを適用することで,嫌悪刺激によるASHの活性化を模倣し,個体の行動までも光制御できることを示した.
 今後,本研究で開発した手法を用いて,動き回る線虫において青色光忌避反応を惹起することなく神経活動の光制御と記録を同時に行うことも可能であると考えられる.また,4-aryloxy BODIPYケージド化合物とaryloxy KFL-1ケージド化合物を組み合わせることにより,500nmおよび580nmの2色の光で,独立して異なる生理活性物質をアンケージし細胞機能を制御することもできると期待される.

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