Identification of double-stranded DNA in the cerebrospinal fluid of patients with acute neuromyelitis optica spectrum disorder
概要
〔背景および目的〕
視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)は、主に視神経と脊髄が傷害される中枢神経系(CNS)の炎症性疾患である。NMOSD患者の大多数では、特異性の高い自己抗体である抗アクアポリン4抗体(抗AQP4抗体)が血中で検出される。アクアポリン4(AQP4)は、CNSのアストロサイトに豊富に発現する水チャネル分子であることが知られている。NMOSDの病因における抗AQP4抗体の本質的な役割は、in vitroおよびin vivoモデルの両方で実証されている。抗AQP4抗体は、補体依存性細胞傷害を誘発することによりアストロサイトの傷害(ネクローシス)を引き起こす。抗AQP4抗体の直接的な細胞傷害効果に加えて、NMOSDの病理は、好中球、好酸球、およびミクログリアの関与によっても特徴づけられる。宿主由来のdsDNAは、特定の状況、特に自己免疫において免疫応答を加速することが知られている。核およびミトコンドリアにdsDNAが存在するが、アポトーシス、壊死、およびNETs(neutrophil extracellular traps)を放出するNETosisにより、自己由来のdsDNAが細胞外に放出される。アストロサイトの壊死と好中球の浸潤はNMOSD病変の特徴であるため、自己由来のdsDNAが脳脊髄液(CSF)中に大量に放出され、CNS炎症の増幅に寄与すると推測される。しかし、NMOSD患者における自己由来のdsDNAの関与を示す報告はこれまでにない。
本研究では、dsDNAがNMOSD患者の髄液で増加しているかどうかを調べることを目的とした。
〔方法並びに成績〕
髄液サンプルは、2009年から2019年に富山大学附属病院、大阪大学附属病院、近畿大学病院に入院したNMOSD患者24名、多発性硬化症(MS)患者26名、他神経疾患(OND)患者42名から採取した。NMOSD患者はすべて抗AQP4抗体陽性であり、2015年のNMOSD診断基準を満たした。MSは2010年のマクドナルド診断基準に従って診断し、2名のclinically isolated syndrome(CIS)患者が含まれていた。ONDの患者(n=42)は、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP、n=13)、ギランバレー症候群(GBS、n=4)、ミラーフィッシャー症候群(MFS、n=2)、筋萎縮性側索硬化症(ALS、n=12)、パーキンソン病(PD、n=7)、および特発性正常圧水頭症(iNPH、n=4)であった。本研究は、富山大学附属病院(承認番号:29–32)、大阪大学附属病院(承認番号:12091-6)、近畿大学病院(承認番号:25-138)の倫理委員会によって承認され、すべての患者から書面によるインフォームドコンセントが得られた。髄液サンプルは再発期に24人のNMOSD患者から採取され、内9人については治療後(静脈内メチルプレドニゾロン(IVMP)治療)にも採取された。MS患者からの26の髄液サンプルはすべて、再発期に採取された。髄液サンプルを2,000g、4℃で10分間遠心分離し、上清を分注し、分析まで-80°Cで保存した。DNA抽出SPキット(和光、大阪、日本)を使用して、プロトコルに従って髄液サンプルからDNAを抽出した。Qubit™dsDNAHSアッセイキット(Invitrogen、アメリカ合衆国)及び、Qubit®2.0蛍光光度計を使用して測定した。
NMOSD患者の平均年齢は54.3歳、平均罹病期間は36.0か月、平均総合重症度スケール(EDSS)は3.9であった。これらの患者の脊髄(83%)、脳(50%)、視神経(33%)に病変を認めた。MS患者の平均年齢は44.3歳、平均罹病期間は74.3か月、平均EDSSは3.3であった。病変は、これらの患者の脊髄(76.9%)、脳(93.3%)、および視神経(15.4%)に認められた。対照群としてのOND患者の平均年齢は60.9歳であり、平均罹病期間は25.3ヶ月であった。髄液サンプルは、NMOSD(n=24)、MS(n=26)、およびOND(n=42)の患者から腰椎穿刺によって得られた。NMOSD患者ではMS患者に比べて髄液細胞数が、23.7±47.56/mm3(平均±SD)と有意に高かった。また多核球が11.0±35.0/mm3と増加していた。髄液蛋白濃度、ミエリン塩基性蛋白(MBP)、またはIgGインデックスのレベルに有意差は認めなかった。
dsDNAレベルは、NMOSDで0.10±0.14ng/μl(平均±SD)、MSで0.04±0.03ng/μl、ONDで0.02±0.01ng/μlであった。NMOSD患者の髄液dsDNA濃度はOND患者よりも有意に高く(p<0.01)、MS患者よりも高い傾向が強かった(p=0.0513)。NMOSDで治療後の髄液サンプルが9人の患者から得られた。それら9人全員の患者はIVMP治療を受けた。NMOSD患者の髄液dsDNA濃度は、再発期の0.10±0.14ng/μlから治療後の0.03±0.02ng/μlに有意に減少した。
NMOSD患者では、髄液dsDNA濃度と髄液細胞数(ρ=0.7717、p=0.0088)、髄液タンパク質濃度(ρ=0.3860、p=0.0160)および髄液MBP(ρ=0.7357、p=0.0314)の間には有意な正の相関を認めた。髄液dsDNA濃度とIgGインデックスの間には有意な相関は認めなかった(ρ=0.0571、p=0.2886)。一方、MSの患者では、髄液dsDNA髄液と、髄液細胞数(ρ=0.1220、p=0.6935)、髄液蛋白濃度(ρ=0.0813、p=0.4084)、MBP(ρ=0.3270、p=0.0643)およびIgGインデックス(ρ=0.1298、p=0.4828)の間には有意な相関を認めなかった。
〔総括〕
これまで多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)において二本鎖DNA(dsDNA)を測定した報告は無かったため、本研究ではバイオマーカーの乏しいこれらの疾患において髄液中dsDNAが何らかのマーカーとなり得るかを検証した。その結果、NMOSDおよびMSにおいて髄液dsDNAが他神経疾患と比較して有意に高値を示すことを発見した。NMOSDにおけるdsDNAはMSより高値を示す傾向がみられたが有意ではなかった。またNMOSD群にはdsDNAが著明高値を示す一部の患者群が存在したが、これらの患者はいずれも脊髄の長大病変を有していたり、臨床的に重篤であった。またdsDNA値は炎症を反映する髄液細胞数や髄液蛋白などと正の相関を示した。さらにdsDNA値はステロイドパルス療法後に有意に低下した。以上より髄液dsDNAは特にNMOSD患者の疾患活動性や重症度、治療反応性を反映するバイオマーカーとなり得る可能性を示した。dsDNAの由来としてはNMOSDでは障害されたアストロサイトからの放出やNETosisが関与している可能性が考えられ、MSでは傷害されたオリゴデンドロサイトあるいは2次的に傷害されたアストロサイトから放出された可能性が考えられるが今後の検証が必要である。また今回のNMOSD患者が24名、MS患者が26名と十分ではなかったため今後症例を蓄積して解析してゆくことも必要である。