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Pathogenic mechanism of Lenz-Majewski syndrome caused by dominant gain-of-function mutations of PS synthase 1

菅原, 小莉 東京大学 DOI:10.15083/0002005166

2022.06.22

概要

【序論】
 ⽣体膜を構成するリン脂質の⼀種であるホスファチジルセリン(PS)は極性頭部に負電荷を持ち、アポトーシス細胞の貪⾷や⾎⼩板凝集などの様々な⽣理現象に関与する。また細胞内では特徴的な分布を⽰すことが知られ、細胞膜及びエンドソーム膜の脂質⼆重層内層に限局して存在する。PSの合成酵素にはPS synthase(PSS)1/2が存在し、それぞれホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)を基質として極性頭部の塩基交換反応によりPSを合成する。PSS1/2の活性は、合成産物のPSによって負のフィードバック調節を受けることが知られ、培養細胞にPSを添加すると抑制されることも報告されている。
 近年、PSS1のヘテロ顕性変異が、先天性希少疾患であるLenz-Majewski syndrome(LMS)の原因であることが報告された。LMS患者は、頭蓋・四肢の⾻格形態異常、進⾏性の⾻硬化症、⽪膚弛緩、精神遅滞等の症状を⽰す。⽂献での報告は20例ほどで、10⼈の患者で6種類の変異が報告されている。いずれも機能獲得型変異であり、患者由来線維芽細胞ではPS合成活性が亢進し、またPS添加によるフィードバック抑制に対して耐性となっていた。PSの過剰合成により多様な症状を⽰す興味深い症例である⼀⽅、疾患発症メカニズムは未だ不明である。そこで本研究では、LMS患者の進⾏性⾻硬化症の症状に着⽬し、PS合成亢進による疾患発症機構の解明を⽬指した。

【⽅法と結果】
1. LMS型PSS1により破⾻細胞の多核化・⾻吸収活性が抑制される
 破⾻細胞は⽣体内で⾻を分解する主要な細胞であり、⾻を産⽣する⾻芽細胞と協調して絶えず⾻の局所的な分解・産⽣を繰り返すことで、⾻の量や質を⼀定に維持する。⼀⽅、破⾻細胞の⾻吸収活性の低下は⾻硬化症を導く。破⾻細胞は造⾎幹細胞に由来し、サイトカインMCSF(Macrophage-colony stimulating factor)とRANKL(Receptor activator of nuclear factor kappa-B ligand)の作⽤によって分化する。マウス由来⾻髄細胞をサイトカイン存在下で4-5⽇培養することで成熟破⾻細胞をinvitroで得ることができ、分化初期には破⾻細胞特異的な遺伝⼦群が発現上昇し、後期には破⾻前駆細胞同⼠が融合して多核の破⾻細胞を形成する。
 LMSにおけるPSS1の変異は顕性であるため、野⽣型マウスの⾻髄細胞にレトロウイルスを⽤いてLMS型PSS1(Q353R変異体、以降PSS1*と表記)を導⼊する系を採⽤した。まず破⾻細胞のPS合成活性を14C-Serineの取込により評価したところ、PSS1*発現によりPS合成活性の亢進が認められた。さらにPSを添加した際には、PSS1発現細胞(コントロール細胞)ではフィードバック抑制が⾒られたが、PSS1*発現細胞ではPS合成が抑制されないことが確認された。この時、破⾻細胞を特異的に染⾊するTRAP染⾊により破⾻細胞形成を評価したところ、PSS1*発現により多核細胞の減少が認められた。さらに⾻吸収活性を評価したところ、PSS1*発現時には吸収孔の⾯積が減少し、⾻吸収活性も減弱していることがわかった。
 破⾻細胞分化初期に発現上昇する遺伝⼦群には破⾻細胞の融合・多核化や⾻吸収に重要な遺伝⼦が含まれる。定量PCR解析の結果、代表的な破⾻細胞マーカー遺伝⼦の発現には影響がなかった。さらに、マイクロアレイにより遺伝⼦発現を網羅的に⽐較した際にも、PSS1*発現時に⼤きく発現変動する遺伝⼦は認められなかった。以上から、破⾻前駆細胞にPSS1*を発現すると、PSの合成が促進すること、破⾻細胞の多核化と⾻吸収活性が抑制されること、破⾻細胞特異的遺伝⼦の発現には影響しないことが明らかとなった。

2. LMS型PSS1により破⾻細胞のアクチン⾻格パターンが異常となる
 破⾻細胞は分化過程の形態変化に伴い、そのアクチン⾻格を⼤きく変化させることが知られている。破⾻細胞はポドソームと呼ばれるアクチン構造を持ち、ドット状構造(コア)とそれを囲むリング状構造(クラウド)からなる。Invitroの破⾻前駆細胞ではポドソームが集合してクラスターを複数形成し、破⾻細胞へと成熟が進むにつれリング状に変化し拡⼤しながら辺縁部まで広がり、アクチンベルトと呼ばれる構造を形成する。ポドソームのクラスター形成、リング形成は、細胞の遊⾛・融合に関与し、またアクチンベルトは破⾻細胞が⾻基質上で形成するアクチン⾻格Sealing zoneと構造が類似し、⾻吸収を⾏うための重要な構造である。
 PSS1*によるアクチン細胞⾻格への影響を観察した結果、コントロール群ではアクチンベルトを持つ細胞や⼩さなポドソームクラスターを多数持つ細胞が観察された。⼀⽅、PSS1*を発現した場合には、少数のポドソームクラスターを持つ細胞のみが認められ、またクラスターサイズが増⼤しておりアクチン⾻格パターンが異常となることがわかった。F-アクチン蛍光プローブを⽤いてポドソームクラスターのライブイメージングを⾏ったところ、コントロール細胞ではクラスターが形成・消失を繰り返し経時的に変化するのに対して、PSS1*発現時に⾒られるクラスターは⻑時間残存しており、ポドソームクラスターの動態に異常があることがわかった。⼀⽅、ポドソームクラスター内におけるG-アクチンの代謝及び運動性をFRAP実験により解析したところ、コントロール細胞群とPSS1*発現細胞において、蛍光の回復速度・割合は同程度であり、G-アクチンの代謝異常は認められなかった。以上よりPSS1*発現時には、局所的なアクチン重合には影響がないが、アクチン⾻格パターンが異常となることがわかった。

3. LMS型PSS1はPSの脂肪酸鎖組成変化およびPIの減少を引き起こす
 次にPSS1*によるリン脂質組成への影響を解析した。まず総量を⽐較すると、PSS1*発現時にはPS合成が亢進しているにもかかわらずPS量には変化がなかった。⼀⽅、予想外にホスファチジルイノシトール(PI)の減少が認められた。次にPSの脂肪酸鎖組成を⽐較すると、PSS1*発現時にはPSの特定の分⼦種で増減が認められた。
 PSS1はin vitroではserine, ethanolamine, choline全てを基質として利⽤できる。過去にPSS1活性⽋失変異として、塩基交換活性完全⽋失変異(E200A)およびserine特異的塩基交換活性減弱変異(N209A)が報告されており、PSS1*にこれらの変異を導⼊した際のリン脂質組成を調べた。まず、PSS1*(E200A)とPSS1*(N209A)のいずれでもPSS1*のPS過剰産⽣能は消失することが確認された。次に、PS,PIのリン脂質組成を⽐較すると、PSS1*(E200A)ではPSの脂肪酸組成およびPI量はコントロールと⽐べ変化がなかった。⼀⽅、PSS1*(N209A)ではPSS1*と同様にPI量の減少が認められたが、PSの脂肪酸組成変化は起こらなかった。以上から、PSS1*の発現により、PS量には変化が無いがPSの脂肪酸組成に変化が⾒られること、N209A変異はPSS1*によるPSの脂肪酸組成変化とPI量の変化を分離できることがわかった。

4. LMS型PSS1によるアクチン⾻格パターン異常は、PSの脂肪酸鎖組成変化に起因する
 アクチン⾻格関連分⼦はPSやPI phosphates(PIPs)と相互作⽤することが知られる。PSS1*によるアクチン⾻格パターン異常がどのリン脂質変化に起因するか、PSS1*(E200A)およびPSS1*(N209A)を⽤いて検証した。その結果、いずれの変異体でもアクチンベルトや多数のポドソームクラスターが認められ、アクチン⾻格パターンは正常であった。PSS1*(N209A)ではPI量が減少していたがPSの脂肪酸鎖組成は正常であったことから、PSS1*が引き起こすリン脂質への影響のうち、PSの脂肪酸組成変化によってアクチン⾻格パターンの異常が誘導されることが明らかとなった。

【まとめと考察】
 本研究において私は、PSS1のヘテロ顕性変異によるPS分⼦種の変化が、アクチン⾻格パターンの制御を通じて破⾻細胞の機能を抑制していることを明らかにし、LMSの発症に破⾻細胞の機能破綻が関与している可能性を初めて⾒出した。
 PSS1*発現時には、基質であるPCの主要分⼦種に由来すると考えられる32:0や34:1等が増加していた。⼀⽅でPSの分⼦種のうち36:1は膜内で他の脂質とドメインを形成し、その直下でアクチン⾻格形成が制御されることが報告されている。PSS1*発現時には32:0,34:1等が増加し相対的に36:1が減少することで、アクチン⾻格パターンの制御が破綻している可能性がある。

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