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大学・研究所にある論文を検索できる 「インフルエンザウイルスゲノムの小胞媒介性輸送と協調したウイルス粒子の質保証機構」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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インフルエンザウイルスゲノムの小胞媒介性輸送と協調したウイルス粒子の質保証機構

黒木, 崇央 筑波大学

2022.11.24

概要

背景と⽬的
 インフルエンザウイルス感染症は⼈獣共通感染症であり、ヒトでは急性の呼吸器疾患を引き起こす。インフルエンザウイルスの感染性・伝播性は強く、⽇本では2015年から2020年までの平均で毎冬約10⼈に1⼈が感染している。多くの場合短期間で寛解するが、⾼齢者や乳幼児、基礎疾患患者では重篤化し、合併症を発症して死亡するリスクが上昇する。また、他の動物種に感染していたウイルスがヒトに伝播した場合、抗原性が⼤きく異なる新型インフルエンザウイルスとして世界的⼤流⾏(パンデミック)を引き起こす可能性が懸念されている。このような理由から、⼈類社会にとってインフルエンザウイルス感染症の脅威は依然と⼤きく、その⾼い感染⼒・伝播性を規定するウイルスの増殖メカニズムの理解が求められている。
 インフルエンザウイルス粒⼦上には、ウイルス膜タンパク質HAおよびNAがスパイク状に発現している。ウイルススパイクタンパク質はコレステロール結合性であり、細胞膜上ではコレステロールに富んだ膜ドメイン“脂質ラフト”に集積する。ウイルス出芽部位(budozone)は刺激に応じたラフトのクラスタリングによって形成されると考えられており、budozoneからスパイクタンパク質に富んだ“良質”なウイルス粒⼦が形成される。核内で複製されたウイルスゲノムはviral ribonucleoprotein(vRNP)を形成し、核外輸送後、中⼼体周囲のEndocytic recycling compartments(ERC)に集積し、ERCから出芽したRab11a陽性⼩胞(リサイクリングエンドソーム;RE)を介して細胞膜へと輸送される。細胞膜へと到達したvRNPは効率よくウイルス粒⼦に取り込まれ、vRNPを含まない“空”のウイルス粒⼦はほとんど産⽣されない。このことはvRNPの細胞膜への到達と協調してbudozoneが形成され、感染性・伝播性の⾼い“良質”なウイルス粒⼦の形成を促進している可能性を⽰唆する。しかし、ウイルス粒⼦形成“量”に着⽬した研究に⽐べてウイルス粒⼦の機能的・構造的な“質”に着⽬した例は少なく、ウイルスがRab11a依存的にvRNPを輸送する意義は不明であった。そこで本研究ではvRNPの細胞内輸送と協調したbudozone形成の時空間的な制御機構の解析を通して、“良質”な粒⼦のウイルス⽣存戦略上の意義を解明することを⽬的とした。

対象と⽅法
 主にヒト肺上⽪由来のA549細胞における、⼈獣共通に感染するA型インフルエンザウイルスの増殖機構を研究対象とした。vRNPの輸送と協調してbudozone形成を制御する因⼦を同定するにあたり、⼤腸菌由来のビオチンリガーゼBirA(R118G)とRab11aの融合遺伝⼦を恒常的に発現する細胞株を作製し、近位性ビオチン標識法(BioID)と質量分析法を⽤いた解析を⾏なった。第7分節vRNAを認識するfluorescence in situ hybridization(FISH)プローブを作製し、ウイルスゲノムの細胞内局在を解析した。ウイルス粒⼦の抗原性を解析するため、不活化粒⼦をPoly(I:C)アジュバント共にマウス⿐腔に接種し、⿐腔洗浄液に含まれる抗ウイルスIgA抗体の⼒価と中和活性を評価した。アクチンフィラメントの動態を測定するため、Lifeact-TagGFP2を恒常発現する細胞株を作製し、fluorescence recovery after photobleaching(FRAP)法による解析を⾏なった。

結果
 vRNPはRab11a陽性RE依存的に細胞膜へと輸送されるが、Rab11エフェクター分⼦を介した詳細な分⼦機構は不明であった。BioIDスクリーニングの結果、感染細胞においてRab11aと相互作⽤する因⼦としてRab11エフェクタータンパク質のFIP2とFIP5およびRhoファミリー低分⼦GTPaseに対するGAPであるARHGAP1を同定した。FIP2ノックダウン(KD)細胞とFIP5KD細胞におけるFISH解析の結果から、vRNPはFIP2/5陽性のリサイクリングエンドソームを介して細胞膜へと順⾏輸送されることが判明した。FIP2KD細胞およびFIP5KD細胞においても感染性ウイルス粒⼦放出量の減少はわずかであった⼀⽅、FIP2KD細胞およびFIP5KD細胞から放出される粒⼦はHAの充填率が低下していた。さらに、そのような“低質”粒⼦を⽤いて免疫付与した場合、“良質”な粒⼦の場合より強く中和IgA抗体の産⽣を誘導したため、“低質”な粒⼦は抗原性が⾼いことが判明した。⾼速原⼦間⼒顕微鏡(HS-AFM)と蛍光顕微鏡の相関観察、およびFRAP解析より、budozone形成にアクチンフィラメントの安定化が必要であることが明らかになった。ARHGAP1はFIP5依存的なvRNPの輸送と協調して細胞膜直下に輸送され、アクチンフィラメントの安定化、budozone形成、および“良質”な粒⼦形成を促進していることが⽰された。

考察
 外部に露出するHAのヘッド領域は中和抗体の主要ターゲットであり、抗原変異を頻繁に繰り返している⼀⽅で、物理的に隠れているストーク領域に対する抗体は産⽣されにくく、株間での保存性が⾼い。“低質”な粒⼦を免疫源とした場合、通常より多くの中和抗体が産⽣されたことから、“良質”なウイルス粒⼦形成の意義は免疫系に露出するエピトープを制限し、交差反応性の⾼い抗体の産⽣を抑制することにあると考えられる。

結論
 インフルエンザウイルスはウイルスゲノムの輸送にRab11a-FIP2/5-ARHGAP1系を選択することが判明した。ウイルスがこの経路を選択する意義は、vRNPの到達に合わせてアクチンフィラメントの動態を安定化し、脂質ラフトのクラスタリングを介したbudozone形成を促進することで抗原性の低い“良質”な粒⼦を産⽣することにあると考えられる。本研究で明らかとなったウイルス粒⼦の質保証機構は、宿主細胞機構を利⽤したウイルスの新規免疫逃避機構としてウイルスの感染性・伝播性維持に貢献していると推測される。

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