リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「植物寄生線虫による植物および線虫捕食菌との相互作用の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

植物寄生線虫による植物および線虫捕食菌との相互作用の解析

阿波連, 功 アハレン, イサオ 東京農工大学

2022.07.18

概要

【第一章 緒論】
植物寄生性線虫は世界中に生息しており、トマトやナス、砂糖大根 (テンサイ) への寄生による収量の減少が問題となっている。一方、植物は自身の成長や老化、病原菌の感染、環境ストレスに対して、過酸化水素などの活性酸素種 (ReactiveOxygen Species : ROS) を用いたシグナル経路によって自身を防御している。現在植物寄生線虫の防除のため、化学合成農薬が使われているが、環境影響への懸念から安全な代替法の開発が望まれている。その方法の 1 つとして天敵微生物を用いた防除法が存在するが、殺線虫能の低さが課題となっている。一方、植物寄生線虫と植物および土壌微生物との分子レベルでの詳細な相互作用は未だ明らかになっていない。そこで本研究では、まず植物‐線虫の相互作用について、シロイヌナズナとテンサイシストセンチュウ (Heterodera schachtii) を用いて、線虫の植物への寄生時における、抗酸化因子グルタチオンペルオキシダーゼ (GPx) の機能について検討した。次に、線虫‐真菌の相互作用について、サツマイモネコブセンチュウ (Meloidogyne incognita) と、その天敵微生物である線虫捕食菌 (Purpureocillium lilacinum) を用いて、M. incognita の存在下における、P. lilacinum の分泌タンパク質の解析を実施した。同様に、P. lilacinum 存在下におけるM. incognita 内の遺伝子発現解析も実施した。

【第二章 植物細胞内の ROS 産生に対する、植物寄生線虫のグルタチオンペルオキシダーゼの関与】
まず、BLASTp 解析により、H. schachtii において、ジャガイモシストセンチュウ (G. rostochiensis) の GPx 遺伝子と 88%の相同性を持つ配列の存在が明らかとなり、これを HsGPx とした。次に、HsGPx の H. schachtii 内の発現を検討したところ、in situ hybridization により、食道の腺細胞における発現が認められた。また、qRT-PCR による各成長段階における発現検討の結果、J3 期において最も発現量が多かった。さらに、HsGPx の二本鎖 RNA の遺伝子組み換え株を用いて、H. schachtii の寄生への影響を検討したところ、雌の線虫と融合細胞の大きさが有意に小さくなった。以上の結果より、HsGPx が植物細胞に分泌され、寄生後の雌の線虫および植物の融合細胞の大きさを制御することが示唆された。

【第三章 植物寄生線虫の培養上清処理時の、線虫捕食菌が分泌するタンパク質発現解析】
次に、M. incognita の応答を誘導する線虫捕食菌の因子を同定するため、P. lilacinum の培養上清を用いて、質量分析を実施した。まず、寒天培地で維持していた P. lilacinum の胞子を回収し、二群に分けてフラスコ内で液体培地に 10 日間培養した。この際、一方の群には培養 3 日目に M. incognita の培養上清 (NemaWater) を処理した。10 日間の培養後、培養上清を回収、濃縮し、SDS-PAGE、質量分析を行った。その結果、P. lilacinum の培養上清に、キチナーゼ等の線虫の捕食において重要な因子が含まれていることが明らかとなった。一方これら因子は、M. incognita の NemaWater 処理により、発現が変化しなかった。また、ヒスチジン酸ホスファターゼ、Tat pathway signaling sequence を含む因子、phosphoglucomutase、Hsp70 の発現が有意に変化したが、これにより、真菌の生体物質である細胞壁や糖タンパク質の産生の抑制、タンパク質の輸送の抑制する方向に機能すると考えられる。したがって、M. incognita の培養上清に含まれる分泌物により、 P. lilacinum の恒常性や病原性が減少すると考えられる。

【第四章 線虫捕食菌の培養上清処理時の、植物寄生線虫の遺伝子発現解析】
次に、P. lilacinum のタンパク質存在下における、M. incognita のトランスクリプトーム解析を行った。まず、M.incognita の mRNA データベースに対して、自由生活線虫の Caenorhabditis elegans (C.elegans)で同定されている免疫関連タンパク質の配列を用いて BLAST 解析を実施した。その結果、p38 MAPK 経路、TGF-経路、インスリン様受容体経路を構成するタンパク質が保存されていることが明らかとなった。次に、P. lilacinum の培養上清を M. incognita の幼虫に処理し、RNA を回収して RNA-seq を実施した。その結果、8500 の M. incognita のコンティグ配列がアセンブル された。そのうち、P. lilacinum の培養上清処理により、217 のコンティグ配列の発現が有意に上昇し、44 のコンティグ配列の発現が有意に減少した。さらにこれらコンティグ配列を用いた blast 解析により、発現が上昇したコンティグ配列は、神経伝達や筋肉の運動や表皮の代謝に関連する因子と高い相同性を示した。また、NADH dehydrogenase のサブユニット等、ROS 産生に関与する複数の遺伝子も発現が上昇した。以上より、M. incognita は、P. lilacinum の分泌物を受容体で感知して神経細胞を介して情報伝達し、ROS 関連因子を含む遺伝子発現を増加させていたと推測できる。

【第五章 結語】
第二章の結果より、HsGPx が植物細胞内の ROS を除去することで、ROS による線虫体への傷害の抑制、および植物の免疫シグナル伝達の抑制に寄与すると考えられる。また、第三章の結果より、線虫の存在により、線虫捕食菌の病原性が低下する可能性が示唆された。そして、第四章の結果より、線虫が真菌の存在を感知して神経細胞を介して伝達し、ROS関連因子を含む遺伝子発現を増加させていることが示唆された。本研究より、植物と植物寄生線虫、植物寄生線虫と線虫捕食菌の相互作用の一端が明らかとなり、植物寄生線虫内の ROS 関連因子を含む因子が植物寄生線虫防除の重要な標的となりうることが示唆された。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る