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大学・研究所にある論文を検索できる 「ミヤコグサにおける根粒菌共生シグナルの研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ミヤコグサにおける根粒菌共生シグナルの研究

久間木 孝史 東北大学

2022.03.25

概要

【背景・目的】
マメ科植物と根粒菌との共生において、根粒菌は根粒の中で大気中の窒素をアンモニアに固定(窒素固定)することで宿主植物に窒素源を供給し、宿主植物は見返りとして光合成産物である炭素源を根粒菌に供給する共生関係を結んできた。
すなわち、この共生窒素固定は、化石燃料に依存しない窒素肥料の生産になることから、農業分野における持続可能な開発目標(SDGs)の一つとしてもその応用が期待され注目されている。マメ科植物と根粒菌の共生は、それぞれの種における特異的な共生関係が構築されており、それらはシグナル分子を介した相互認識により成立している。
植物宿主の根から分泌されるnod gene inducerと呼ばれる共生シグナルを、根粒菌がNodD受容体を用いて特異的に認識することにより、nod遺伝子群の転写が誘導されNod Factor(NF)と呼ばれるリポキチンオリゴ糖が合成される。根粒菌から分泌されたNFを宿主植物はLysM型受容体様キナーゼタンパク質であるNF受容体で認識し、特異的な遺伝子発現変動とともに皮層細胞の分裂や根毛のカーリングなど形態変化を伴いながら根粒菌を受け入れ共生が開始される。
ダイズにおいては、フラボノイドの一種であるダイゼインが根から分泌され、これが共生シグナル分子としてダイズ根粒菌のNodD受容体において認識され、特異的な共生関係が始まることが知られている。すなわち、マメ科植物と根粒菌との共生関係における種特異性は、根粒菌のNodD受容体が認識するマメ科植物側の根から分泌されるnod gene inducerの違いと、マメ科植物の根にあるNF受容体が認識する根粒菌NFの違いによって制御されている。
ミヤコグサは日本では北海道から南西諸島宮古島までに広く分布し、ミヤコグサ根粒菌とともにそのゲノム情報はかずさDNA研究所においていち早く解読され、マメ科のモデル植物として根粒菌との共生メカニズムの研究に広く利用されているナショナルバイオリソースの一つである。
しかしながら、共生に関わる最初の宿主側nod gene inducer分子の探索には、これまでに多くの研究がなされてきたがその特定には至っていなかった。また、菌側には 2 つのNodD受容体遺伝子がコードされており、遺伝学的な解析によりいずれか一方があれば共生は成立するが両方備わることで、より効率的な共生関係が構築されることが知られており、異なる宿主側の共生シグナルをそれぞれ認識するものと考えられていた。
そこで、本研究ではミヤコグサとその根粒菌における共生シグナルの特定と菌側の NodD 受容体との解明を行った。

【結果・考察】
1)根粒形成促進剤 TLG1 のミヤコグサへの応用によるnod gene inducer解明への試み
これまで、宿主植物からの共生シグナルの同定には水耕栽培などを通して、その水耕液を集め濃縮し、カラムクロマトグラフィー等により分離分画し、各フラクションをin vitroでの根粒菌培養時に添加して菌側のnod遺伝子群の発現をβ-galactosidaseレポーター遺伝子を用いてアッセイする方法が一般的であった。
そこで、ダイズ栽培で市販されている根粒形成促進剤(TLG1)をミヤコグサに添加し、ダイズと同様に根粒形成が促進されるか、また水耕液中の根から共生シグナル分子が増産されるか、根におけるフラボノイド合成関連遺伝子群の発現変動がみられるかなど検討した。
その結果、ミヤコグサにおいてもTLG1の添加はミヤコグサ根粒菌との根粒形成数を有意に増加させるとともに、根においてはフラボノイド合成関連遺伝子群の発現を誘導すること、水耕液中にはフラボノイドはじめその前駆体に相当する分子量140~320のなかで約40種の分子が増加することが示された。
TLG1をダイズに添加した際にも分子量254の推定ダイゼイン分子が増加することも確認された。以上のことから、ミヤコグサ宿主共生シグナル分子の探索には根粒形成促進剤TLG1の添加が有効であることが示唆された。

2)新規nod gene inducerフェノール酸の同定とその受容体としてのnodD1遺伝子
日本大学青木研究室との共同研究において、同研究グループでは各種フラボノイドならびにその前駆体を含む類縁体40種のケミカルライブラリーをミヤコグサ根粒菌の培養時に添加してnod遺伝子のレポーター遺伝子による発現アッセイとともにNFリポキチンオリゴ糖の産生について直接UPLC-MS/MS法により解析された。
その結果、NodD受容体により転写誘導されるⅢ型分泌装置遺伝子群のレギュレーターttsI遺伝子を用いたレポーターアッセイ法では活性分子を特定することができなかったが、高感度のUPLC- MS/MS法では5種のフェノール酸がNFの産生を誘導することを見出した。
このうちクマル酸、フェルラ酸はミヤコグサの根からの分泌物としても検出された。そこで、レポーターアッセイの感度を増強するとともにミヤコグサ根粒菌のNodD1またはNodD2のいずれの受容体が、これらフェノール酸の受容体として働くのか明らかにする目的で、nodD1あるいはnodD2遺伝子をプラスミドベクターで導入することによりコピー数を増やした。
その結果、いずれのフェノール酸もNodD1が受容体として働くことを見出した(図)。さらに、これらのフェノール酸の添加によりミヤコグサの根粒形成数が増加することも明らかになった。

本研究で見出されたnod gene inducerのフェノール酸は、フラボノイドやリグニン合成の前駆体として植物に広く普遍的に存在することから、ミヤコグサ根粒菌はミヤコグサ以外の非宿主植物に対しても相互作用を及ぼす可能性が示唆される。
実際、ミヤコグサ根粒菌はシロイヌナズナの根圏でエピファイトとして良く増殖することも、近年報告されている。従って、宿主ミヤコグサに対してはD1に加えてD2受容体で、未同定のフラボノイドなどを感受し、感染時の宿主特異性を高めているのかもしれない。
また、ミヤコグサ根粒菌の D1 と D2 受容体のアミノ酸配列は高度に保存されているが、199-206 番目の配列には大きな違いがみられる。この配列を含む周辺 32 アミノ酸配列で相同性検察を行ったところ、ミヤコグサNodD1だけが、他のマメ科植物根粒菌のNodD配列と大きく異なっていた。一方、NodD2の配列は、他のマメ科植物根粒菌のNodDと高い相同性を有していることがわかった。

以上の結果から、ミヤコグサ根粒菌は、宿主特異的なフラボノイド化合物をnod gene inducerとして利用するマメ科植物に普遍的な共生メカニズムだけではなく、新たにフェノール酸を認識するためのNodD1受容体を創出し、エピファイトを含めた多くの植物種との相互・共生関係の拡大をはかったものと考えられる。

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