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大学・研究所にある論文を検索できる 「大動脈遮断脊髄虚血再灌流障害マウスモデルにおけるヒト骨髄由来間葉系幹細胞の静脈内投与による脊髄保護効果」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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大動脈遮断脊髄虚血再灌流障害マウスモデルにおけるヒト骨髄由来間葉系幹細胞の静脈内投与による脊髄保護効果

Nakai, Hidekazu 神戸大学

2021.09.15

概要

【序論】
胸部下行及び胸腹部大動脈瘤手術時の脊髄虚血/再灌流障害(SCIR)による術後対麻痺は最も重篤な合併症の 1 つである。開胸人工血管置換術及び胸部ステントグラフト内挿術の対麻痺の発生率は、それぞれ 13.4%及び 5.2%と依然として高い。従って、新たな治療法の開発は急務である。

マウス SCIR モデルは、大動脈及び脊髄灌流が解剖学的にヒトと類似することに加え遺伝的に統制されたマウスが複数系統存在するため詳細な分子生物学的解析が可能であることから、当該疾患の有用なモデルの 1 つである。同モデルにおける SCIR の遅発性対麻痺の発生機序として、脊髄虚血/再灌流に引き続く脊髄組織中のミクログリアの活性化に伴う炎症惹起及び神経細胞内のカスパーゼ 3 の活性化によるアポトーシスが示唆されている。

以上の知見から、SCIR による対麻痺発生を抑制するには、少なくとも脊髄組織の炎症制御と神経細胞死抑制が重要である。そこで、我々は、SCIR に対する治療・予防戦略として、骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)に着目した。MSC は、多分化能、免疫調節機能、細胞修復・保護作用を有し、同種移植が可能である。さらに MSC は現在では、再生医療等製品として造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病(同種細胞投与)及び脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害(自家細胞投与)に対して薬事承認され、一定の安全性が担保されている為、MSC 投与は当該疾患に対する有力な治療法となり得ることが期待される。既に、ラット SCIR モデルに対する同種異系 MSC 投与の短期治療効果が報告されているが、マウス SCIR モデルに対する治療効果に関する報告はなく、またヒト MSC を用いた治療効果に関する報告はない。

本研究では、野生型マウス SCIR モデルに対し、ヒト骨髄 MSC(hBM-MSC)又はリン酸緩衝液(PBS)(対照群)を静脈内投与し、SCIR 後 24 時間における下肢運動機能、脊髄組織所見及び脊髄組織の遺伝子発現パターン並びに 28 日までの下肢運動機能、生存率の経時的推移及び 28 日における脊髄組織所見を 2 群間比較し治療効果を検証した。

【方法】
マウス SCIR モデルの作成
全身麻酔下にC57BL/6J マウス(雌、10 - 21 週齢、19.0 - 25.5 g)の胸部を正中切開し、直腸温を 36.5 ± 0.5 ℃に維持し、ヘパリン投与後、大動脈弓部及び左鎖骨下動脈を 4 - 6 分間遮断することにより SCIR モデルを作成した。右大腿部血流をレーザードップラーでモニターし、血流が動脈遮断前に比較し 90%以上低下を認めた時点で動脈遮断が完遂されたものと定義した。

下肢運動機能評価
下肢運動機能は、Basso Mouse Scale(BMS;完全麻痺:0 点、正常:9 点)を使用して評価した。再灌流後 0、2、8、24、48 時間、3、7、14、21、28 日にBMS を評価した。

割付・投与
再灌流後 2 時間に対麻痺を発症した(BMS:0 – 2 点)マウスを、hBM-MSC 群または対照群に無作為に割り付けた。 hBM-MSC 群に対しては、hBM-MSC 懸濁液を尾静脈内に投与し、対照群に対しては等量の PBS を尾静脈内に投与した。モデル作成前から観察期間を含め全試験期間において免疫抑制剤の投与を行わなかった。

組織学的解析
マウスを安楽死させ頸椎から腰椎までの脊髄を採取し、脊髄腰膨大部横断切片を作成し、再灌流後 24 時間及び 28 日の脊髄前角部の NeuN 陽性運動ニューロン数及び断面積を測定した。また別途、再灌流後 8 時間の脳、脊髄、心、肺、腎、肝及び脾を採取し、投与 hBM-MSC(投与前に DiIでラベリング)の局在を調べた。

脊髄組織の遺伝子発現解析
再灌流後 24 時間に脊髄を採取し、脊髄組織における mRNA の発現を定量的real-time PCR 法により解析した。

【結果】
脊髄虚血時間の後肢運動機能へ与える影響
対麻痺は、再灌流後の脊髄障害が発生する時期により、即時性対麻痺(DP)と遅発性対麻痺(IP)に分類される。マウス SCIR モデルでは、短時間(3 - 5 分)虚血により DP、長時間虚血(6 – 9 分)により IP が発生すると報告されている。しかし、中枢温及び実験環境により虚血時間と対麻痺発生時期が異なる可能性がある為、我々の実験環境下で直腸温 36.5 設定のもと、4 – 6 分虚血と再灌流後 48 時間までの後肢運動機能と生存率を確認した。その結果、4 分虚血では、DP:0%、IP:0%、死亡率:0%、4.5 分虚血では、DP:50%、IP:0%、死亡率:0%、5.0 虚血では、DP:0%、IP:25%、死亡率:25%、5.5 分虚血では、DP:0%、IP:75%、死亡率:25%そして 6 分虚血では、DP:0%、IP:25%、死亡率:75%であった。以上の結果から、本研究では 5.5 分虚血モデル(IP モデル)を用いた。

投与 hBM-MSC の局在
hBM-MSC(DiI でラベリング)静脈内投与後 6 時間(再灌流後 8 時間)において、hBM-MSC は脊髄腰膨大部、肺及び腎で検出された。一方、脳、心及び肝では検出されなかった。

後肢運動機能と生存率
計 20 匹のマウス(hBM-MSC 群:N = 12、対照群:N = 8)を対象に再灌流後 2 時間から 28 日までの後肢運動機能及び生存率を比較した。再灌流後 2 時間の BMS スコアの中央値(範囲)は hBM-MSC 群は 0(0 – 2)点、対照群は 0(0-0)点であった。対照群では、すべての生存マウスにおいて再灌流後 0 時間から 28 日まで対麻痺の状態が持続し BMS 値は 0 点であった。一方、hBM- MSC 群では、再灌流後 24 時間にはBMS 値は 9(4 – 9)点に回復し、その後、再灌流後 48 時間から 28 日まで、hBM-MSC 群が対照群よりもBMS スコアが有意に高かった。再灌流後 28 日の生存率は両群とも 50%で有意な差はなかった(P = 0.8527)。hBM-MSC 群における死亡例(N = 6)はすべて再灌流後 24 時間には BMS スコアが 7.5(4 – 9)まで回復したが、48 時間では、0 点(N = 4)又は死亡(N = 2)となり、生存例も 7 日にはすべて死亡した。一方、hBM-MSC 群の生存例は28 日までBMS スコア 9 点を維持した。

脊髄腰膨大部横断面での脊髄前角✰運動ニューロン数及び断面積
脊髄前角部の NeuN 陽性運動ニューロン数は、再灌流後 24 時間では、hBM-MSCs 群は対照群に比して有意に多かった(P <0.01)。28 日においても、hBM-MSC 群は対照群に比して有意に多かった(P < 0.05)。脊髄前角✰断面積は、再灌流後 24 時間では両群間に差異がなかったが、28 日では、hBM-MNC 群に比し対照群において減少(萎縮)傾向が認められた(P = 0.0933)。

再灌流 24 時間における脊髄組織中の mRNA の発現パターン
炎症性サイトカイン、すなわち tumor necrosis factor-α(TNF-α)、induciblenitric oxide synthase(iNOS)及び interleukin-1β(IL-1β)mRNA 発現レベルは、hBM-MSC 群は対照群に比して有意に低かった(TNF-α:P < 0.01、iNOS : P < 0.05、IL-1β:P < 0.01)。ところが、抗炎症性サイトカイン interleukin- 10(IL-10)の mRNA 発現レベルは、hBM-MSC 群が対照群よりも有意に低かった(P < 0.01)。抗アポトーシス因子の 1 つである insulin-like growth factor-1(IGF-1)の mRNA 発現は、hBM-MSC 群で有意に高かった(P < 0.01)が、抗アポトーシス関連タンパク質である B-cell lymphoma-xL(BCL- xL)と myeloid cell leukemia -1(Mcl-1)の mRNA 発現レベルは両群間に有意差はなかった。神経成長因子であるnerve growth factor(NGF)と brain-derived neurotrophic factor(BDNF)の mRNA 発現レベルは両群間に有意差はなかった。血管増殖因子である vascular endothelial growth facto(r VEGF)と hepatocyte growth factor(HGF)は hBM-MSC 群で有意に高かった(VEGF:P < 0.05、HGF:P < 0.05)。また angiopoietin-1(Ang-1)は hBM-MSC 群で高い傾向であった(P = 0.0814)。

【考察】
マウス SCIR モデルにおいて、直腸温 36.5 C設定下、5.5 分で IP を発症するという本研究の結果は、Smith ら(J Surg Res. 2012)の結果をほぼ再現するものであった。

本研究では、hBM-MSC 群は対照群に比較して、再灌流後 24 時間までは死亡もなく、後肢運動機能は著明な回復を示した。しかし、hBM-MSC 群のうち 1/3 のマウスは再び完全対麻痺となり、半数のマウスは 7 日までに死亡した。一方で、hBM-MSC 群のうち生存マウスは再灌流後 24 時間から 28 日まで対麻痺を再発することなく正常な後肢運動機能を維持し続けた。この結果から、 hBM-MSCs の静脈内投与により SCIR に伴う対麻痺症状を改善又は軽減するが、全生存率を改善しないことが示唆された。

hBM-MSC 群と対照群間の BMS スコアで最も有意な差異が観察された、再灌流後 24 時間での腰髄におけるmRNA の発現を解析した結果、hBM-MSC 群では炎症性サイトカイン(TNF-α、iNOS、 IL-1β)の mRNA 発現レベルは対照群に比較して有意に低かった。hBM-MSC の投与により、脊髄ミクログリアの調節を介して、炎症性サイトカインの発現を抑制し、結果としてニューロンの保護に寄与した可能性が考えられた。脳虚血モデルにおいては、MSCs は虚血周辺部組織において抗炎症性サイトカイン IL-10 の発現を上昇させることにより神経保護作用を発揮することが知られているが、本研究では、脊髄における IL-10 の mRNA 発現レベルはむしろ hBM-MSC 群で対照群と比較して有意に低かった。Smith ら(Circulation. 2012)の研究では、SCIR 後の脊髄組織のサイトカインの発現パターンは時間単位で変動することが示されている。従って、炎症性・抗炎症性サイトカインの発現パターンを議論するには、1 ポイントのみの観察では不十分で、再灌流後時間単位での経時変化を評価する必要があるかもしれない。 IGF-1 の mRNA 発現は対照群よりも hBM- MSC 群で有意に高かったが、両群間でアポトーシス抑制因子(BCL-xL、Mcl-1)の mRNA 発現レベルに差異はなかった。同観察時点(再灌流後 24 時間)での脊髄組織においては、既に NeuN 陽性運動ニューロン数は hBM-MSC 群に比較し、対照群では有意な減少していることから、神経細胞死が再灌流後 24 時間までに完了していた可能性がある。そのため、再灌流後 24 時間以内の mRNA 発現を解析することが適切であるかもしれない。血管新生促進因子(VEGF、HGF)の mRNA発現レベルが対照群に比して hBM-MSC 群で有意に高かったことは、血液脳関門や微小循環の調節を担う神経血管ユニットの再生又は修復を通じて運動ニューロンの保護に関与した可能性が示唆された。

【結論】
マウス SCIR モデルに対する hBM-MSCs の静脈内投与により、脊髄組織の運動ニューロンは温存され、脊髄虚血再灌流障害が軽減されることを明らかにした。その効果機序には、少なくとも脊髄組織における炎症性サイトカインの発現抑制並びに抗アポトーシス因子及び血管新生促進因子の発現上昇が関与している可能性がある。今後、臨床応用へ向けて更なる研究が必要である。

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