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大学・研究所にある論文を検索できる 「食料農業社会学研究室」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

食料農業社会学研究室

片野 洋平 明治大学

2022.08.15

概要

現在の中心的な研究内容
本研究室は食・農・環境にかかわる社会学的・法社会学的な研究を行っている。
近年では,地域社会の要請に応じる形で,地域社会における耕作放棄地問題,空き家問題,放置山林問題を中心に研究している。
戦後急速に増えた日本の人口(この原稿を執筆している段階では約1.2億人)も2000年代にすでに転換点を迎え,現在日本の人口はかなり大きなジェットコースターの下り局面にちょうどはいったところにいる。ジェットコースターをイメージする場合,今私たちは,カタカタと登ってきた頂上地点から,あとは「ギャー」というちょうど「直前」のところにいる。今から約80年後の2100年前後には,日本の人口は急落下し約5000万人程度に減少することが予想されている。人口減少だけではない。明治維新のころまでは農業 国だった我々の社会はこの150年で大きく様変わりした。地域社会を例にするならば,農業の機械化,土地所有制度の変化,農業従事者の専業から兼業の増加など,私たちの社会が急速に変わっていく中で,私たちは社会変化に対応した様々な対応に迫られている。 典型的でわかりやすい対応としては,全国の隅々まではりめぐらされた電気・水道・道路の対策が考えられる。電気・水道・道路といったハードなインフラは必ず老朽化し修繕が必要となる。この修繕を人口規模が縮小する中でこれまで通り全国の隅々まで行うのか,私たちの一人一人の考えが問われている。
同じように,地域社会における土地使用に対する様々なルール,集落やコミュニティのありかたといったソフトなものにも様々なレベルでの再構築が必要となる。本研究室での取り組みはこのソフトなものを対象としている。
人口も減少し,社会構造も変化している中で,「自分の親は地域社会で家を構え,農地を所有し,山林所有までおこなっていたが,自分自身は親の仕事を継ぐことはない」という都会暮らしの者は驚くほど多い。近年書店に行けば,「田舎の資産の処理方法」に関するコーナーをしばしばみかける。親から資産を受け継いだ継承者は,自分自身は二度と帰ることがない故郷における資産の処理に困り果てている。
こうした土地は,放っておけば,耕作放棄地問題,空き家問題,放置山林問題につながっていく可能性がある。また,近年問題となる所有者不明の土地問題の原因になっていく可能性もある。
この放置された土地の問題に対して,当研究室では「放置財」という,新しい見方を提示し,そうした見方をすることの有利な点について主張している。「放置財」とは,その態様には様々なグラデーションがあるが,「主に都会の人々によって,田舎で放っておかれる困った,複数の資産」のことである。

当研究室で行った社会調査の結果によれば,以下のような条件に部分的にでも該当すれば,「放置財」となりえる。
①所有地と所有者の所在地が離れている。
②所有される資産は未把握あるいは小面積である。
③総じて資産に対する管理意欲が弱い。
④所有される資産は単一ではなく,農地,家屋など,複数存在する場合がある。
⑤所有する資産の管理に負担を感じている。
⑥所有する資産の継承者が決まっていない。
⑦所有者は故郷に帰ることを希望していない。
⑧自ら利用,賃貸,売却する意思がない。
⑨今後の管理や利用について,本人もどうしていいかわらずに困っている場合が多い。
 その中身には・・
1) 売れない,貸せない,手続きがめんどうだなど,現実的な課題に直面している。
2) すでに亡くなった過去の親族の想いとの間で折り合いがつけらずに困っている。
3) 自らの子孫がどのように資産を利用,管理すればいいのか,将来の資産のありかたに対して折り合いがつけられず困っている。
⑩所有者不明ではなく工夫すれば連絡が取れる。
⑪所有者は相続してしまっている。
⑫所有する資産によって地域社会や行政に迷惑がかかっている。

この「放置財」という切り口から対策を考えることは,国内で問題とされ議論される耕作放棄地問題,空き家問題,放置山林問題,あるいは,所有者不明問題の切り口とは異なることになる。まず,耕作放棄地,空き家,放置山林という個々の資産に対するアプローチは,それぞれの資産のあるべき姿に応じて処理していく考え方からなっている。それに対し,「放置財」アプローチは,所有者から見て「田舎の資産」という包括的観点から貫かれている。全国に散らばっていった地域社会出身者が,抱える「複数」の「主に小さい」,「困った田舎の資産どうする?」といった課題に対応することが可能となる。
また,従来の資産別のアプローチでは,所有者の葛藤にはそれほど配慮がなかったように思われる。これに対し,「放置財」アプローチは,不在所有者が何に困っているのか,その葛藤に着目し,葛藤に応じた対応を想定することが可能になる。不在所有者は,売りたいのか,貸したいのか,資産を安心する誰かに託したいのか,あるいは,単にめんどうなのか,葛藤に応じた対応が可能となる。
そして,昨今盛んに議論される所有者不明の土地問題では,所有者へのアクセス,相続や登記の問題が中心となってくる。これに対し「放置財」アプローチは,連絡を取ろうと思えば取れる者,すでに相続してしまっているが問題を抱えている者,継承しているが登記はしていない者など,所有者不明の土地が特定する要件からあぶれた事象を所有者不明土地予備軍として把握することができる。別の表現をすれば「放置財」アプローチは,所有者不明土地問題が抱える原因のより根元のほうまで見据えることが可能になる。
さらに「放置財」アプローチは,資産のあるべき姿から所有の形を模索するという演繹的あるいはトップダウン的なアプローチではなく,資産の所有者が抱えるリアリティから,彼らの求める解決方法を模索するという点でこれまでのアプローチとは異なる。かつて,食品偽装が生じたとき,複数の所管省庁がそれぞれの視点から複雑な形で対策をとっていたが,それでは問題があるので消費者目線から「消費者庁」が誕生した,という考え方と類似している。「消費者」という視点から見た場合食品偽装はたった一つの問題でしかなく,不在所有者にとってみても田舎の資産問題はたった一つの問題でしかない。
また,「放置財」アプローチをとることができれば特に初動においてスピーディーな対応が可能となる。複数の資産を所有する不在所有者にとって,それぞれの資産を資産別に処理することは経済的にも精神的にも負担が大きい。生きている間に資産の処理をしてしまいたいが残された時間が少ないという高齢者も多い。不在所有者にとって,何度も故郷の役場に通うことは体力的にも経済的にも難しいために,ついつい資産の管理がおろそかになってしまう場合も多い。これに対し,地域の「放置財」対応窓口が,すべての田舎の資産問題を解決する努力をしてくれるならば,不在消費者にとってはありがたいはずだ。さらに従来の資産別アプローチは丁寧で高コストで時間もかかるが,放置財アプローチは雑になってでも素早く柔軟に低コストで行うアプローチだ。所有者自身が手放したいと思っている資産に対しては従来通りの手間をかける必要はない場合もある。放置財アプローチは,機動性と即応性に優れたアプローチとなるはずだ(以上近刊仮題『放置財がコミュニティを毀損する』より抜粋)。以上のように,本研究室では,事実の分析を行い,
分析から新たな社会的な提案をするところまでを一つの研究課題としている。

本研究室の専門領域
本研究室は,地域の要請に基づく形で「放置財」研究をおこなってきたが,本研究室にとって,「放置財」研究が,いわゆる本研究室の専門領域だと認識していない。
本研究室では食・農・環境にかかわる様々な社会問題を社会科学的な視点から切り取るという視座そのものを専門領域として重視している。そのためには,社会科学の理論と方法に関わる鍛錬は欠かせない。様々な社会科学的な分析手法や考え方を身につけ社会問題に適応できるよう研究室では指導している。指導内容は,地域活性化の諸条件,食の安全と安心の乖離についての問題,食文化を規定する条件など,多岐にわたる。