最低空軌道を用いた局所化学ポテンシャルの近似手法

概要

令和 4 年度

京都大学化学研究所

スーパーコンピューター

利用報告書

最低空軌道を用いた局所化学ポテンシャルの近似手法
Approximation of local chemical potential using the lowest unoccupied molecular orbital
京都大学大学院 工学研究科 マイクロエンジニアリング専攻 生命数理科学研究室
田中海斗
研究成果概要
リチウムイオン伝導体内の Li の伝導経路を明らかにすることは, リチウムイオン 2 次電
池の改良のために重要である. しかし, 既存にある手法を用いたイオン伝導経路推定では
計算コストが莫大となる問題がある. そこで, 申請者の研究グループにて定義されている
局所化学ポテンシャルを用いたイオン伝導経路が検討されている.
本研究では, イオン伝導経路推定に局所化学ポテンシャルを用いるにあたり, 従来の近
似手法の見直し, 新たな近似手法の提案を行った. 具体的には, 最低空軌道を用いた近似手
法を新たに提案した. 新たな近似手法の妥当性を確認するために, 先行研究[1]にて行われて
いるプラチナクラスター(Pt2 と Pt2H2)への水素分子吸着位置推定を新たな近似手法を用いて
再計算した. また, 他の検証例として Coronene(C24H12)への Li 原子吸着位置推定についても
調べた. これらの計算は, Gaussian16 を用いた量子化学計算によって行った.
研究成果として, 今回の検証例に対しては, 新たな近似手法が従来の近似手法よりも良
い近似であることが示された. しかし, プラチナクラスターへ水素分子を吸着させる際に,
もともとプラチナクラスターに付いている水素原子が移動してしまうので, クラスター表
面の局所化学ポテンシャルで吸着位置を評価することが難しくなった. また, Coronene は原
子の数が多いため, 分子表面の局所化学ポテンシャルの評価方法が課題となった. 今後の
課題として, 分子表面の局所化学ポテンシャルの定量的な評価方法を考えることが挙げら
れる. Coronene のように構成する原子の数が増えると, 表面上の局所化学ポテンシャルの評
価が難しくなる. そのため, 吸着位置を推定するための定量的な評価方法を考える必要が
ある. 現在, 結合の種類(イオン結合や共有結合)によって方向性の強弱が異なることに着目
して, 評価方法を考案している.
参考文献
[1] P.Szarek, K.Urakami, C.Zhou, H.Cheng, and A.Tachibana. J.Chem.Phys. ...