光・磁気・電気的特性を複合的に示す新規分子性物質の開発

概要

令和４年度

京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
光・磁気・電気的特性を複合的に示す新規分子性物質の開発
Studies on Multifunctional Molecular Materials
大阪公立大学大学院 理学研究科 化学専攻 藤原研究室

酒巻 大輔

研究成果概要
本研究では、京都大学化学研究所スーパーコ
ンピュータシステムを利用し、低分子系パイ共役
分子を対象に Gaussian プログラムを利用した電
子状態計算を行い、酸化還元能、電荷輸送特
性、光吸収・発光特性についての知見を得る。
主な対象は原子数 100 程度の低分子系有機分
子を扱い、これらについて Gaussian プログラムによる構造最適化、振動解析および TD-DFT
計算による吸収スペクトルの予測をおこなう。以下に、本年度の研究の概略を記す。アセンの
炭素原子の一部をヘテロ原子で置き換えたヘテロアセンは、発光特性、半導体特性など様々
な機能を有し、高い化学的安定性と合成の簡便さから複合機能材料として期待できる。これま
での研究より、benzo[b]phenoxazine (BPO)に対して二段階の酸化的カップリングを行うことで、
十字形二量体を経由し、窒素と酸素原子を含むダブルヘテロヘリセン分子 1 を効率的に合成
で き る こ と が 示 さ れ た 。 本 研 究 で は 、 BPO の 酸 素 原 子 を 硫 黄 原 子 で 置 き 換 え た
benzo[b]phenothiazine (BPT)に対して本手法を適用し、窒素と硫黄原子を含むダブルヘテロ
ヘリセン分子 2 の合成を試みた。TD-DFT 計算から分子 2 の HOMO→LUMO 遷移はほぼ禁
制であり、UV-vis 吸収スペクトルにおいて極めて弱い
吸収として観測された。分子 2 は凍結溶液中および固
体マトリックス中において、分子 1 より強い燐光発光を
示した。この原因を調べるため、励起一重項および三
重項状態の構造最適化および各状態間のスピン-軌
道相互作用定数(SOCC)の計算を行った。その結果、
分子 2 は T2 状態が S1 状態とエネルギー的に近接し
ており、さらに S1→T2 のスピン軌道相互作用定数
(SOCC)が大きいことから、S1→T2 の項間交差が起き
やすくなっていることが示された。本研究をまとめた論

図 1 分子 2 の励起状態のエネルギーと SOCC

文は現在投稿中である。
発表論文（謝辞なし）
1. D. Sakamaki, Y. Inoue, K. Shimomura, D. Taura, E. Yashima, S. Seki, Tetrahedron Lett. 2023, 114,
154294. ...

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