リスクに基づくアプローチにおけるモニタリング方法およびリスクの特定・評価とリスク軽減策の関係性に関する臨床試験および臨床研究での前向き評価
概要
【背景】RBM(Risk-based Monitoring(リスクに基づくモニタリング))および RBA(Risk-based Approach(リスクに基づくアプローチ))は 2011~2012 年以降の臨床試験で導入されており、2016 年に ICH(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)) E6(R2)が発行された頃には、すでに広く知れ渡った概念であった。ICH E6(R2)が Step4 に到達以降、日米欧の規制に組み込まれたため、少なくともその管轄地域で実施することが義務付けられている。しかし、RBM および RBA は一部の企業で普及が遅れており、その理由として、計画者側の RBM 導入に対する意識上の壁とリスクの特定・評価、リスク軽減策の計画を行う上で一貫した手法がないことが挙げられる。現在、SDV(Source Data Verification)および SDR(Source Data Review)を含むオンサイトモニタリング、オフサイトモニタリングおよびセントラルモニタリングにより検出された eCRF(electronic Case report form)データおよび原資料の全ての誤りを用いて、実臨床試験または実臨床研究での RBM の評価を前向きに実施した論文報告はない。また、医療機関のリスク評価を用いたモニタリング方法の評価を前向きに実施した論文報告もない。加えて、リスクの特定・評価とリスク軽減策(マニュアル、手順書、説明書、トレーニング)との関連性については、論文等では明らかになっておらず、リスクの特定・評価、リスク軽減策の計画をする上で、手法の選択に対する情報が不十分である。
【目的】医療機関のリスク評価とセントラルモニタリングを適応することでオンサイトモニタリングの範囲と頻度を削減するモニタリング方法(Partial SDV・SDR)の有用性を全 eCRF データおよび原資料の修正を用いて示すことおよび、2つのリスクの特定・評価方法によって立案されるリスク軽減策とその効果をデータエラーと逸脱を用いて前向きに評価することを目的とした。
【方法 1】GLP1 受容体作動薬で治療中の 2 型糖尿病患者を対象としたトホグリフロジン併用による製造販売後臨床試験のリスクを特定し、評価した後、リスク軽減策とモニタリング方法を計画した。試験開始時および試験実施中に、CRA(Clinical Research Associate(臨床開発モニター))が医療機関のリスクを評価し、セントラルモニタリングを実施した。医療機関のリスク評価およびセントラルモニタリングの結果に応じて、高リスク医療機関を Partial SDV・SDR から 100% SDV・SDR に切り替えた。Partial SDV・SDR に切り替えた医療機関と 100% SDV・SDR を実施した医療機関の間で、eCRF データまたは原資料の誤りとオンサイトモニタリングの時間を比較した。
【方法 2】リスクの特定・評価の目的としてリスク軽減策を決定する方法の中から、リスクの特定の最も細かいカテゴリー数が最も少ない方法(Risk Assessment Form(RAF))と最も多い方法(Risk Assessment Tool (RAT))を選択し、それぞれを用いて、慢性期慢性骨髄性白血病患者におけるポナチニブの血中濃度と治療アウトカムに関する研究に対して、リスクの特定・評価、リスク軽減策の計画を実施した。RAF は抽象的な問いからリスクを特定する形式であり、RAT は具体的なリスクが列挙されており、その中からリスクを選択する形式であった。参加した医療機関を 2 群にランダム化し、RAF および RAT から計画したリスク軽減策をそれぞれに実施し、RAF 群と RAT 群の間で、1 症例 Visit あたりのエラーデータと逸脱の数を比較した。
【結果 1】Partial SDV・SDR を行った医療機関は、試験実施中に SDV・SDR を実施していなかった部分に対し CRA が試験終了時に SDV・SDR を実施した時も含め、いかなる重要な eCRF データおよび原資料の修正も発生しなかった。Partial SDV・ SDR を行った医療機関では、オンサイトモニタリング時間が 30%短縮された。
【結果 2】1 症例 Visit あたりのエラーデータ数が、RAT 群に比べRAF 群の方が少なく、1 症例 Visit あたりの逸脱数は RAF 群に比べ RAT 群の方が少なかった。逸脱の実件数としては RAT 群に比べ RAF 群の方が少なかった。
【結論】医療機関のリスク評価とセントラルモニタリングを適応することでオンサイトモニタリングの範囲と頻度を削減するモニタリング方法が、試験結果の信頼性を効率的に確保できる戦略の一つであることが示唆された。リスクの特定・評価、リスク軽減策の計画にあたっては、臨床試験または臨床研究に対して重要だと考えられる少数の抽象的な問いから、リスクを具体的に特定する方法をとることが効果的であることが示唆された。