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大学・研究所にある論文を検索できる 「癌関連線維芽細胞および癌細胞で発現するMetallothionein 2Aは食道扁平上皮癌の進展に関与する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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癌関連線維芽細胞および癌細胞で発現するMetallothionein 2Aは食道扁平上皮癌の進展に関与する

清水, 将来 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景・目的】
食道癌による死亡数は 2020 年の統計では世界で年間 500,000 人を超え、がんによる死亡原因の第 6 位に位置している。食道癌は食道扁平上皮癌(ESCC)と食道腺癌(EAC)の二つの組織型に分類され、北米や欧州では EAC が多く見られるが、世界的にみると ESCC が食道癌の 90%を占める。食道は粘膜下層に豊富な網状リンパ管が存在し、漿膜を欠くため、比較的早期の症例でもリンパ節転移を高頻度に認め、進行した症例では大動脈、気管、心嚢など主要隣接臓器に浸潤しやすい。これらの組織学的、解剖学的理由により食道癌は難治性であり、それゆえにその進展機構を解明することは重要である。

癌微小環境中の線維芽細胞は癌関連線維芽細胞(CAF)と呼ばれ、種々の癌に対して促進的な役割を果たすことが知られている。申請者の研究室では ESCC 組織において CAF マーカーの一つである FAP の発現量が不良な予後と相関することを報告し、また CAF の起源の一つである骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)を ESCC 細胞と間接共培養することで FAP の発現が亢進することを確認し、これを CAF 様細胞と定義した。さらに MSC と CAF 様細胞との間で cDNA マイクロアレイ解析を施行し、CAF 様細胞において発現、分泌が亢進する IL-6、CCL2、PAI-1 が ESCC 細胞の悪性形質を促進することを示した。本研究では ESCC 微小環境における CAF の役割をさらに解明するために、上記の cDNA マイクロアレイ解析の結果を検証し CAF 様細胞において最も発現が亢進していた metallothionein2A (MT2A)の機能解析を行うことにした。

【材料と方法】
ヒト ESCC 細胞(TE-8、TE-9、TE-10、TE-11、TE-15)は理研バイオリソースセンター、ヒト骨髄由来 MSC は ATCC から購入した。Transwell cell culture insert(0.4 μm pore size filter, BD Biosciences)の上層に ESCC 細胞を下層に MSC を播種し、7 日間間接共培養させ、qRT-PCR、western blotting を用いて FAP の発現を確認した。ESCC 細胞株の増殖能については MTS assay、運動能は transwell migration assay、浸潤能は Corning BioCoatTM Matrigel Invasion Chamber(Corning)を用いて評価した。Human IGFBP-2 Quantikine ELISA Kit(R&D Systems)を用いてCAF 様細胞の分泌する IGFBP2 を測定した。CAF 様細胞および ESCC 細胞の MT2A ノックダウンには siRNA targeting human MT2A(Santa Cruz)を用いた。69 例の ESCC 切除標本についてMT2A の免疫組織化学を Leica Bond-Max automation と Leica Refine Detection kit (Leica Biosystems)を用いて行い、癌間質、癌胞巣における発現強度をスコアリングし、臨床病理学的因子との比較検討を行った。予後の検討には Kaplan-Meier 法を用いた。

【結果】
MSC と 3 種類の ESCC 細胞(TE-8、TE-9、TE-15)を間接共培養し、CAF マーカーである FAPが高発現していることを確認した上で、これらの細胞を CAF 様細胞(CAF8、CAF9、CAF15)として以下の実験に用いた。単独培養した MSC と CAF 様細胞との間で行なった cDNA マイクロアレイ解析において CAF 様細胞で高発現することを見出した MT2A が、CAF 様細胞において mRNA レベルやタンパク質レベルで発現が亢進していることを確認した。CAF 様細胞における MT2A の機能を解析するために、siRNA を用いて CAF 様細胞の MT2A 発現を抑制し、CAF 様細胞から分泌される液性因子への影響をサイトカインアレイによって確認した。MT2A の発現変化によって影響を受けるサイトカインとして insulin-like growth factor binding protein 2 (IGFBP2)を見出した。IGFBP2 は MSC と比べて 3 種類の CAF 様細胞において発現、分泌が亢進し、MT2A を発現抑制した CAF 様細胞では発現、分泌が低下することを確認した。CAF 様細胞から分泌される液性因子の ESCC 細胞に対する影響を調べるため、CAF 様細胞と ESCC 細胞を間接共培養し、ESCC 細胞株の運動能、浸潤能を調べた。CAF 様細胞と共培養した ESCC 細胞では運動能、浸潤能が亢進し、そこに IGFBP2 の中和抗体を添加すると CAF 様細胞との共培養によって亢進した ESCC 細胞の運動能、浸潤能は抑制された。また IGFBP2 の ESCC 細胞への影響を検討するため recombinant human IGFBP2 protein (rhIGFBP2)を ESCC 細胞に添加すると、Akt、Erk、NFκB 経路の活性化を介して運動能、浸潤能を亢進させた。さらに Akt、Erk、NFκB の阻害剤を添加すると rhIGFBP2 の添加により亢進した運動能、浸潤能が抑制された。

次に ESCC 細胞における MT2A の役割を明らかにするために MT2A が高発現していた 2 種類の ESCC 細胞(TE-10、TE-11)において MT2A の発現をノックダウンしたところ、細胞形態は円形で密な増殖様式に変化し、さらに運動能、浸潤能、増殖能の低下を認めた。一方、MT2A をノックダウンした ESCC 細胞では細胞間接着分子 E-cadherin の発現上昇を認め、その下流のシグナル伝達分子であるβ-catenin の転写活性の不活化に関与するリン酸化の亢進を認めた。さらに蛍光抗体法では MT2A ノックダウン ESCC 細胞において E-cadherin の細胞膜上での発現とβ-cateninの共局在を認めた。

最後に 69 例の ESCC 手術検体に対し MT2A の免疫組織化学を行い、癌間質、癌胞巣における MT2A の発現強度を低発現と高発現の 2 群に分け、臨床病理学的因子との関連を検討した。癌間質における MT2A 高発現は壁深達度(p = 0.001)、リンパ管侵襲(p <0.001)、脈管侵襲(p =0.008)、リンパ節転移(p = 0.031)、病期(p = 0.031)、αSMA(p < 0.001)や FAP(p < 0.001)の発現強度、CD163 陽性(p = 0.004)や CD204 陽性(p < 0.001)マクロファージの浸潤数と有意に相関を認めた。また癌胞巣における MT2A の高発現は壁深達度と相関する傾向を認めた(p = 0.07)。また Kaplan-Meier 解析では癌間質における MT2A 高発現は全生存期間において有意に不良な予後(p = 0.046)を示し、無病生存率においてもその傾向を認めた(p = 0.066)。また癌胞巣における
MT2A 高発現は癌特異的生存率において有意に不良な予後(p = 0.015)を示した。

【考察】
MT2A は分子量約 6kDa の低分子タンパク質で、豊富なチオール基を有することで必須微量元素の恒常性維持や亜鉛などの重金属と結合することで解毒の役割があると考えられている。癌における MT2A の役割は不明な点も多く、本研究は ESCC 微小環境における CAF や癌細胞で発現する MT2A の役割についての最初の報告である。

本研究では CAF における MT2A が IGFBP2 の発現、分泌を調整していることを明らかにした。MT2A は NFκB などの転写因子の活性を調整するという報告があり、何らかの転写因子を介してIGFBP2 の発現、分泌を調整している可能性が考えられた。また本研究において IGFBP2 の受容体は特定できなかったが、IGFBP2 は他癌種においてはインテグリンや EGFR と結合することで腫瘍を促進すると報告されている。

E-cadherin の発現は zinc finger E-box binding homeobox (ZEB)によって抑制されており、MT2Aは亜鉛供給体として働くことで zinc finger 蛋白質を介した E-cadherin の発現調整を行なっている可能性がある。また E-cadherin は細胞質においてβ-catenin と結合することで細胞接着をより強固にしているが、E-cadherin と結合していない細胞質のβ-catenin は Wnt 存在下で核内移行し転写因子として働き、Wnt 非存在下では 45 番目のセリンなどのいくつかの部位でリン酸化を受けた後に分解される。本研究では MT2A をノックダウンした ESCC 細胞で E-cadherin とβ-catenin の発現増加と細胞膜上での共局在を認めたことから、高発現した E-cadherin によりβ-catenin が捕捉されることによって転写活性が抑制され、腫瘍細胞の悪性形質が抑制されたと考えた。以上からESCC における MT2A の高発現は E-cadherin/β-catenin 経路を介して腫瘍進展に関与していることが示唆された。

【結論】
本研究では癌胞巣と癌間質における MT2A の高発現が腫瘍進展に寄与することを明らかにした。MT2A は CAF においては IGFBP2 の発現、分泌を調整することで、ESCC においては Ecadherin/β-catenin 経路を介して腫瘍促進的に働くことが示され、MT2A とIGFBP2 は ESCC の新規治療標的となりうると考えられた。

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