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大学・研究所にある論文を検索できる 「癌関連線維芽細胞はPAI-1の分泌を介して食道扁平上皮癌の進展に寄与する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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癌関連線維芽細胞はPAI-1の分泌を介して食道扁平上皮癌の進展に寄与する

Sakamoto, Hiroki 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景・目的】
 食道癌は世界的には癌関連死因の第6位であり、組織学的には食道腺癌と食道扁平上皮癌(ESCC)に大別される。ESCCは東アジア圏に多く見られる組織型であり、その危険因子としてタバコ、アルコール、人種、アカラシアなどが知られている。癌微小環境は癌細胞以外に癌関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblasts以下CAF)、腫瘍関連マクロファージ(tumor-associated macrophage、以下ΤΑΜ)、その他の炎症細胞、血管内皮細胞などの様々な細胞成分と細胞外マトリックスやサイトカインなどの細胞外成分から構成され、腫瘍の進展に重要な役割を担っていることが知られている。申請者らの研究グループでは癌微小環境の主要な構成細胞であるCAFやΤΑΜの協調作用が上部消化管癌の進展に関与することを報告した。特にESCC組織においてαSMAやFAPといったCAFマーカーの発現量や腫瘍促進能を有するM2マクロファージのマーカーとして知られるCD204陽性ΤΑΜ浸潤数がESCCの不良な予後と相関していることを見出した。また、CAFの起源とされる「骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)Jと「ESCC細胞株との共培養によって作製したMSC由来のCAF様細胞」との間でcDNAマイクロアレイ解析によって遺伝子発現様式の比較を行うことにより、CAF様細胞においてSERPINE1(serine protease inhibitor El)が高発現していることを見出した。SERPINE1によりコードされるΡΑI-1(plasminogen activator inhibitor-1)は、近年では乳癌などの様々な癌腫において腫瘍促進的に作用することが報告されている。しかしながらESCC微小環境におけるPAI-1の役割は未だ十分に解明されておらず、本研究ではESCCの進展におけるCAF由来のPAI-1の役割に着目し解析を行った。

【材料と方法】
 ESCC細胞株(TE-8, TE-9, TE-15)は理研バイオリソースセンター、ヒト骨髄由来MSCはATCC社から購入した。健常人のヒト末梢血からautoMACS®を用いて磁気細胞分離により単離したCD14+単球にrhM-CSFを6日間作用させてマクロファージを作製した。Transwell cell culture insert(0.4μm pore size filter. BD Biosciences)の上層にESCC細胞株、下層にMSCを播種し、7日間間接共培養させてCAF様細胞を作製し、RT-qPCR、westernblottingを用いてCAF様細胞におけるαSMA、FAPの発現を確認した。3D-Gene® Human Oligo chip 25k(TORAY)を用いてcDNAマイクロアレイ解析を行いMSCとCAF様細胞との間で遺伝子発現様式を比較した。ESCC細胞およびマクロファージの運動能についてはtranswell migration assay、浸潤能についてはCorning Bio Coat™ Matrigel Invasion Chamber(Corning)を用いて評価した。Quantikine ELISA Human PAI-1 immunoassays(R&D Systems)を用いてCAF様細胞の分泌するPAI-1を定量化した。siRNA targeting humanLRP1(Santa Cruz)を用いてPAI-1の受容体LRP1(low-density lipoprotein receptor related protein 1)をノックダウンしたESCC細胞株およびマクロファージを作製し検討に用いた。術前治療の施行されていない69例のESCC切除標本におぃてΡΑΙ-1、LRP1の免疫組織化学を行いそれらの発現強度をスコアリングし、X2検定を用いて臨床病理学的因子との比較検討を行った。Kaplan-Meier法を用いて各生存期間との相関を検討した。

【結果】
 3種のESCC細胞株(TE-8, TE-9, TE-15)と間接共培養したMSCではCAFマーカーであるαSMAとFAPが高発現しており、CAF様細胞として以下の実験に用いた。単独培養したMSCとCAF様細胞との間でcDNAマイクロアレイ解析を行ぃ、CAF様細胞におぃて高発現する遺伝子としてSERPINE1を見出した。CAF様細胞ではMSCと比較してSKE/TOE2 mRNAが高発現していることをRT-qPCRで確認した。CAF様細胞の培養上淸中にはMSCと比較してPAI-1の分泌が亢進していることをELISAで確認した。次にESCC細胞株とマクロファージにおいてPAI-1の受容体であるLRP1の発現を確認した。リコンビナントPAI-1を作用させたESCC細胞株およびマクロファージは運動能、浸潤能の亢進とAkt、Erkl/2シグナル経路の活性化を認めた。そこでAktおよびErk経路を阻害するとPAI-1により亢進したESCC細胞株およびマクロファージの運動能、浸潤能が抑制された。またCAF様細胞と間接共培養することでESCC細胞株およびマクロファージの運動能、浸潤能が亢進し、そこにPAI-1の中和抗体を作用させることでCAF様細胞との共培養により亢進したESCC細胞株およびマクロファージの運動能、浸潤能の減弱を認めた。一方で、PAI-1投与によるマクロファージにおけるM2マクロファージマーカー発現量の変化は認めなかった。
 上記のESCC細胞株およびマクロファージに対するPAI-1の影響が受容体LRP1を介して生じていることを検証するため、siRNAを用いてLRP1をノックダウンしたESCC細胞株、マクロファージを作成した。LRP1をノックダウンしたESCC細胞株およびマクロファージではPAI-1により亢進した運動能、浸潤能とAktおよびErk1/2のリン酸化の減弱を認めた。
 69例のESCC切除標本において、PAI-1およびLRP1の免疫組織化学を行ったところ、癌間質におけるPAI-1、LRP1高発現症例は無病生存期間が有意に不良であった。癌胞巣におけるLRP1高発現症例は疾患特異的生存期間が有意に不良であった。さらにPAI-1とLRP1の発現強度の組み合わせを検討すると、「癌間質におけるPAI-1」と「癌胞巣もしくは癌間質におけるLRP1」の両者が高発現する症例では、無病生存期間および疾患特異的生存期間がさらに不良な傾向を示した。臨床病理学的因子の検討では、癌間質におけるPAI-1、LRP1の発現強度は腫瘍の深達度、CAFマーカーであるαSMAやFAP、M2マクロファージマーカーであるCD204の発現量と有意に正の相関を示した。癌胞巣におけるLRP1の発現強度はFAP、CD204の発現量と有意に正の相関を示した。

【考察】
 申請者らの研究グループではESCC細胞株との共培養によりMSCはFAPを高発現するCAF様細胞に分化し、CCL2やIL6の分泌を介して腫瘍細胞とマクロファージの増殖能および運動能の促進、さらにはマクロファージのM2分化に寄与することを過去に報告した。CAFは様々な起源やサブセッ卜が提唱されている。FAPを高発現したCAFは主に免疫抑制に寄与することで癌進展の促進することが他の研究グループから報告されているが、これは申請者らの先行研究結果と矛盾せず、MSCとESCC細胞株の間接共培養がESCC微小環境を再現しており、間接共培養により作成したCAF様細胞をESCC微小環境の解析に用いることの妥当性を支持していると言える。
本研究ではMSCとCAF様細胞の間でcDNAマイクロアレイ解析を行うことによりCAF様細胞において遺伝子SERPINE1が高発現することを確認した。SERPINE1によってコードされるPAI-1は通常は血管内皮細胞や肝臓で産生され、tissue plasminogen activator(tPA)urokinase-type plasminogen activator(uPA)と結合することで線溶系反応を制御するため一般的には血栓症における役割が知られているが、近年では癌領域における報告も増加している。食道癌を含めた様々な癌種において癌組織中のPAI-1発現強度もしくは血清PAI-1値が不良な予後と相関することが報告されている。申請者はPAI-1が受容体LRP1を介してAktおよびErkl/2を活性化することでESCC細胞株およびマダロファージの運動能および浸潤能を‘亢進することを検証した。本研究はESCC微小環境におけるPAI-1の主要な産生源の一つがCAFであることを示し、CAF由来のPAI-1のESCC細胞およびマクロファージへの影響を詳細に検討した最初の報告である。
 本研究ではPAI-1によるマクロファージM2分化の促進は確認できなかった一方で、免疫組織化学検討では癌間質におけるPAI-1の発現強度とNJ2マクロファージマーカーであるCD204陽性細胞数との間に正の相関を認めており、この結果はCAF由来のPAI-1がESCC組織中へのマクロファージ動員に寄与することを示唆する。
 種々の癌組織においてPAI-1もしくはLRP1を高発現する症例は予後不良な傾向を示すことが報告されているが、本研究は免疫組織化学においてリガンドとレセプターの関係にあるPAI-1とLRP1両者の発現強度を癌胞巣と癌間質を区別して評価した最初の報告となる。癌間質においてPAI-1を、癌胞巣もしくは癌間質においてLRP1を高発現する症例は予後不良な傾向を示し、さらにPAI-1、LRP1の両者を高発現する症例ではさらに予後不良な傾向を認めた。

【結論】
 MSCとESCC細胞株の共培養によりin vitroで作成したCAF様細胞はESCC組織内のCAFを解析する上で有用なモデルであり、CAF様細胞において高発現するPAI-1はLRP1との相互作用によりAktおよびErkl/2シグナル経路を活性化しESCC細胞およびマクロファージの運動能、浸潤能を促進することでESCCの進展に寄与することが示唆された。またESCC組織におけるPAI-1、LRP1の発現強度は不良な予後と正の相関を示した。従って、PAI-1/LRP1経路はESCCの進展に寄与し、新規の治療標的となる可能性が示唆された。

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