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大学・研究所にある論文を検索できる 「マクロファージとの相互作用により食道扁平上皮癌において発現誘導されるS100A8/A9はAktおよびp38 MAPK経路を介して癌細胞の運動能、浸潤能を亢進させる」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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マクロファージとの相互作用により食道扁平上皮癌において発現誘導されるS100A8/A9はAktおよびp38 MAPK経路を介して癌細胞の運動能、浸潤能を亢進させる

谷川, 航平 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景・目的】
食道癌の 2020 年時点での世界における罹患率は第 7 位、死亡率は第 6 位であり、特に東アジアでその頻度が高い。食道癌は扁平上皮癌(ESCC)と腺癌に分けられるが、本邦を含む東アジアでは 90%以上をESCC が占めている。ESCC のリスクファクターとして喫煙、飲酒などが知られている。ESCC の治療は外科治療、放射線療法、化学療法などが年々進歩しているものの、ESCC は進行が早いことが多く、一般的に予後は極めて不良である。そのため、ESCC の進展メカニズムの解明が求められている。

癌微小環境は、ESCC を含む癌の進展に深く寄与していることが知られている。腫瘍関連マクロファージ(tumor-associated macrophage、TAM)は癌微小環境の主要な構成要素である。TAM は癌細胞の増殖能・生存能・運動能・浸潤能の亢進、血管新生の誘導、細胞外基質の変性・分解などにより癌の進展に関与する。申請者の研究室では、ESCC において CD204 陽性 TAM の浸潤数が ESCC の不良な予後と相関することを報告した。さらに、TAM による ESCC の悪性形質の亢進にいくつかの分子が関与していることを ESCC とマクロファージとの間接共培養系によって明らかにした。しかし、実際の癌組織中では、癌細胞とマクロファージが接着する像も観察されており、直接接着下での相互作用の解析も重要であると考えた。本研究では、ESCC 細胞と末梢血由来マクロファージとの直接共培養系を新たに確立し、共培養後の癌細胞の悪性形質、シグナル伝達、遺伝子発現の変化を解析した。

【材料と方法】
ESCC 細胞(TE-9、TE-10、TE-11)は理研バイオリソースセンターから購入した。ヒト末梢血から CD14 陽性単球を自動磁気細胞分離装置(autoMACS®)により選択的に回収し、M-CSF を 6 日間作用させ、マクロファージを作製した。ESCC 細胞をマクロファージ上に撒き、2 日間の直接共培養を行った。癌細胞とマクロファージが直接接着し、また直接共培養状態にあるマクロファージの多くが M2 化していることを蛍光免疫染色で確認した。2 日間の直接共培養後に、autoMACS®を用いて EpCAM 陽性細胞を選択的に回収することで、直接共培養状態から癌細胞のみを分離、回収した。ESCC 細胞を 2 日間単独培養した後に同様に autoMACS®で回収した癌細胞を対照として用いた。マクロファージと直接共培養後の TE-11 と単独培養後の TE-11 との間で cDNA マイクロアレイ解析(3D-Gene®、東レ株式会社)を行い、遺伝子発現を比較した。S100 calcium binding protein A8(S100A8)、S100 calcium binding protein A9(S100A9)の RNA レベルでの発現は RT- PCR、real-time PCR で確認し、タンパク質レベルでの発現、分泌はそれぞれ Western blotting、 ELISA で確認した。運動能は Transwell migration assay、Wound healing assay、浸潤能は Corning® BioCoatTM Matrigel® Invasion Chamber(Corning)を用いた Transwell invasion assay、細胞内シグナルは Western blotting で評価した。Recombinant human S100A8/A9 protein(rhS100A8/A9)、 PI3K 阻害剤、p38 MAPK 阻害剤を作用させたときの運動能、浸潤能の変化を上記の各種 assay、シグナル伝達の変化を Western blotting で検討した。S100A8/A9 の knockdown は、S100A8 と S100A9 の siRNA(siS100A8、siS100A9; Sigma-Aldrich)と Lipofectamine RNAiMAX(Invitrogen)を用いて行った。69 例の ESCC 切除標本での S100A8/A9 の免疫組織化学は Leica Bond-Max automation とLeica Refine Detection kit(Leica Biosystems)を用いて行った。癌の浸潤部における S100A8/A9 の染色強度により低/高発現の 2 群に分け、臨床病理学的因子との関連を検討した。また、Kaplan-Meier 法を用いて生存期間との関連についての検討を行った。

【結果】
マクロファージと直接共培養後の ESCC 細胞(TE-9 co、TE-10 co、TE-11 co)では、単独培養を行った ESCC 細胞(TE-9 mono、TE-10 mono、TE-11 mono)と比較して、運動能や浸潤能が有意に亢進しており、Akt や p38 MAPK のリン酸化が亢進していた。これらの悪性形質の亢進やシグナル伝達の活性化にどのような遺伝子発現変化が関与しているかを調べるために、TE-11 mono と TE-11 co の間で cDNA マイクロアレイ解析を行ったところ、TE-11 co で S100A8 と S100A9 の発現が著明に亢進していた。そして、TE-9 co、TE-10 co、TE-11 co において、それぞれ TE-9 mono、 TE-10 mono、TE-11 mono と比較して、RNA レベル、タンパク質レベルともに S100A8 とS100A9 の発現・分泌が有意に亢進していることを RT-PCR、real-time PCR、Western blotting、ELISA で確認した。

S100A8 とS100A9 は生体内では基本的にS100A8/A9 heterodimer(S100A8/A9)として機能し、いくつかの癌においてその進展に寄与することが報告されている。しかし、ESCC における S100A8/A9 の役割はまだ明らかになっていない。そこで、rhS100A8/A9 を TE-9、TE-10、TE-11に作用させて運動能や浸潤能の評価を行ったところ、いずれにおいても rhS100A8/A9 の添加により運動能や浸潤能がともに有意に亢進した。この悪性形質の亢進に関与しているシグナル伝達を検証するために、TE-9、TE-10、TE-11 に rhS100A8/A9 を作用させた上で、シグナル伝達分子のリン酸化の変化を観察したところ、すべてにおいて rhS100A8/A9 添加後 10 分で Akt やp38 MAPKのリン酸化の亢進を認めた。さらに PI3K 阻害剤、p38 MAPK 阻害剤を加えると、rhS100A8/A9 により誘導されていた運動能や浸潤能の亢進が抑制された。そして、直接共培養系に siS100A8 と siS100A9 を作用させて S100A8/A9 を knockdown することで、マクロファージとの直接共培養により亢進していた TE-9、TE-10、TE-11 の Akt や p38 MAPK のリン酸化レベル、運動能、浸潤能がいずれも低下した。以上より、S100A8/A9 はAkt やp38 MAPK を介してESCC の運動能や浸潤能の亢進に寄与していることが示された。また内在性に S100A8、S100A9 を最も発現している TE-11において、siS100A8 と siS100A9 を作用させて S100A8/A9 を knockdown すると、運動能、浸潤能およびAkt や p38 MAPK のリン酸化が低下した。

さらに ESCC 切除標本における S100A8/A9 の発現を免疫組織化学により検証した。すると、 S100A8/A9 は正常食道扁平上皮細胞では一様に強く発現しているものの、浸潤部の癌細胞における発現は症例間で大きく異なっていた。そこで、浸潤部における S100A8/A9 の発現強度により低発現と高発現の 2 群に分けて臨床病理学的因子との関連を検討すると、S100A8/A9 の発現強度は壁深達度(P = 0.015)、リンパ管侵襲(P = 0.041)、リンパ節転移(P = 0.002)、病期(P = 0.001)、 CD204 陽性マクロファージ浸潤数(P = 0.001)と正の相関を示した。また、Kaplan-Meier 法による検討では、S100A8/A9 の高発現群は、ESCC 患者の無病生存期間(P = 0.005)、疾患特異的生存期間(P = 0.038)において有意に不良な予後を示した。

【考察】
本研究では、in vitro の共培養実験の中ではより生体の癌微小環境の状態に近い直接共培養系を、ESCC とマクロファージとの間で確立し、直接共培養後の ESCC を高純度に分離することに成功した。そして、直接共培養後の ESCC では運動能や浸潤能の亢進、Akt や p38 MAPK のリン酸化の亢進とともに、S100A8/A9 の発現・分泌が亢進していることを見出した。さらに S100A8/A9が Akt や p38 MAPK の活性化を介して ESCC の運動能や浸潤能の亢進に寄与していることを明らかにした。また、ESCC において内在性の S100A8/A9 を knockdown することでも運動能、浸潤能および Akt や p38 MAPK のリン酸化が低下したことから、Akt や p38 MAPK を介した ESCC の運動能や浸潤能の亢進には、癌微小環境に放出されてオートクリン因子として作用する S100A8/A9 に加えて、ESCC 細胞内でパラクリン因子として作用するS100A8/A9 も重要であることが示唆された。

S100A8/A9 は主に骨髄系細胞で発現し、炎症のマーカーとして知られているが、正常の食道扁平上皮においても発現が見られることが報告されている。本研究では、S100A8/A9 は正常食道扁平上皮細胞で一様に強く発現を認めるが、ESCC 浸潤部の癌細胞における S100A8/A9 発現は症例間で大きく異なっていることを発見し、浸潤部における S100A8/A9 の高発現は ESCC 患者の無病生存期間、疾患特異的生存期間を有意に短縮させることを示した。さらに、浸潤部の癌細胞における S100A8/A9 発現強度と、CD204 陽性細胞密度は有意な正の相関を認めたことから、M2 化マクロファージが Akt や p38 MAPK の活性化を介して ESCC の運動能や浸潤能の亢進に寄与していることが示唆された。

本研究の limitation として、Akt や p38 MAPK を介したESCC の運動能や浸潤能の亢進に関与する S100A8/A9 の受容体を同定できなかったことと、今回の in vitro の実験により得られた結果を in vivo で確認できていないことが挙げられる。

【結論】
本研究では、マクロファージとの相互作用により ESCC において発現誘導される S100A8/A9 は Akt およびp38 MAPK 経路を介して癌細胞の運動能、浸潤能を亢進させることを示した。以上より、 S100A8/A9 は ESCC の悪性形質を示す新規バイオマーカーや新規治療標的分子となる可能性が示唆された。

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