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大学・研究所にある論文を検索できる 「中性子反同時計測検出器を含めたXENONnT実験のデータを用いたWIMP感度評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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中性子反同時計測検出器を含めたXENONnT実験のデータを用いたWIMP感度評価

水越, 彗太 神戸大学

2022.03.25

概要

暗黒物質の存在は,宇宙論や銀河の銀測などにより,強力に示唆されているにもかかわらず,未だ直接検出には至っていない.暗黒物質の候補として非相対論的速度で運動する粒子を仮定するCold Dark Matterモデルが有力である.特に,Weekly Interacting Massive Particle(WIMP)と呼ばれる未知の弱い相互作用をする重い粒子が探索されている.

暗黒物質と通常の物質との散乱を検出する実験が世界で実施されている.XENON実験はその中でも世界をリードする実験である.XENON実験はキセノンニ相式Time Projection Chember(TPC)を用いて,電子散乱と原子核散乱を区別することで,強力に背景事象を弁別することが可能である.また,キセノン中のドリフト時間を用いて,イベント位置の3次元再構成をすることで,さらに背景事象を低減している.

世界最高の感度での探索を報告していたXENONlT検出器をXENONnT検出器にアップグレードした,XENONnT検出器を用いたXENONnT実験の調整が終わり,現在結果の報告のための準備をしている.検出器のアップグレードでは,単にTPCを大型化するだけでなく,中性子背景事象をタグするための中性子反同時計測(nVeto)検出器を導入する.中性子背景事象は前述の電子散乱と原子核散乱の区別ではWIMPの信号と識別することができないため,nVeto検出器の稼働が探索に必須となる.

本研究では,新たに構築するnVeto検出器の性能評価を行う.nVeto検出器はガドリニウムを質量比0.2%溶融させた水で満たされた水チェレンコフ検出器である.ガドリニウムは中性子に対して非常に高い捕獲断面積を有し,TPCで原子核を散乱した中性子を捕獲する.その後すぐに高エネルギーのッ線を放出して崩壊する.このッ線由来のチェレンコフ光を検出することで,TPCの中性子事象をタグする.

nVeto検出器の性能評価を行う上で,nVeto検出器内面を覆っている反射材の光学特性は非常に重要である.nVeto検出器の反射材として延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)が用いられている.ePTFEは高い反射率を有するが,定盤的に水中での光学特性は評価されてこなかったこのePTFEの反射率は,水の吸収長とあわせて,nVetoのタグ効率に影響する.導入前に測定を行った上で,実験中に反射率を測定することができる,リフレクティビティモニターと呼ばれる光学キャリブレーションシステムを導入した.リフレクテイビティモニターはレーザー光をnVeto検出器内部からePTFE壁面に照射するシステムである.いずれかの光電子増倍管(PMT)で検出されるか,水やePTFEに吸収されるまで,ePTFEで光子は何度も反射される.ePTFEの反射率が良ければ,光子は長い時間吸収されずにnVeto検出器の中に残り続ける.したがって,レーザー光を照射してから光子がPMTで検出されるまでの時間分布を用いることによって,実効的なePTFEの反射率を測定することができる.この測定値は,光学シミュレーションのパラメーターとして導入されている.実効的に,光学シミュレーション中で現実の光子の振る舞いを再現できたと言える.

また,放射線源を用いたキャリプレーションを用いて,nVeto検出器の性能の確認とシミュレーションの調整を行った.アメリシウム・ベリリウム線源は広く用いられている中性子線源である.中性子はnVeto検出器中の水に捕獲され,2.2MeVのッ線を放出する.このッ線を用いて,nVeto検出器に用いられているPMTの効率を補正するCorrection factorを得た.これらのデータを用いたシミュレーションの開発により,高い精度でnVeto検出器の挙動を理解することが可能になった.

加えて,検出器調整期間のデータを用いて,波形を再現するシミュレーションを構築した.典型的な波形,ゲインの分布などを入力とするシミュレーションは,XENONnT実験で,取得したデータに対して用いられている解析ツールをシミュレーションに対しても用いることを可能にし,直接にデータとシミュレーションの比較を行うことができる.

加えて,シミュレーションを用いて,nVetoを行う解析条件の検討を行った.PMTは数kHzでの暗電流があるため,全ての光子検出に対してVetoを行うと過剰にTPCのlive timeを減らしてしまう.また,Vetoを行う時間幅についても最適な調整を行う必要がある.本研究では,時間幅,ヒット数,検出合計電荷量のパラメータを用いて,適切な条件を求め,タグ効率84.8%,TPClivetime98.9%を得た.また,系統誤差についても保守的に評価した.開発したシミュレーションを用いて,背景事象量を評価した.中性子はnVetoシステムによって十分に弁別可能であると評価されており,十分な実験期間ののちにはニュートリノが背景事象となると考えられる.20トンX年の測定を行ったXENONnT実験の感度は50GeV/c2の質量の,スピン依存しない相互作用をするWIMPに対して,1.4X10・48cm2の核子•暗黒物質の断面積と評価された.また,スピン依存する相互作用をするWIMPに対しては,陽子•暗黒物質断面積,中性子•暗黒物質断面積への感度まそれぞれ1.4xlQ-48cm22.2x1Q-43cm2と評価された.本研究により新導入のnVeto検出器の構築,較正,検証が行われ,WIMP感度の定量的評価を行うことができた.XENONnT実験の探索結果報告の基盤となる研究である.

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