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小児心臓CTの造影剤注入後の撮影タイミングに関する研究

並木, 洋子 東京大学 DOI:10.15083/0002002351

2021.10.13

概要

【背景】
CT が開発されて間もなくから造影剤を用いた CT 撮影方法に関する研究はなされてきた。 CT が進歩していくに伴い、造影法も一定の造影剤を一定の速度で注入するという方法から、組織間のコントラストを明瞭化させ、より詳細な診断を行うための造影剤投与法の最適化 について、研究されるようになった。それらの研究の中で患者の循環動態に応じた造影剤の 到達タイミングを bolus tracking 法で決定するといった、個人差を考慮した投与方法や撮 影方法が検討されるようになった。

成人では、冠動脈や心機能の評価を目的とした心臓 CT の撮影が日常的に行われている。 CT の進化に伴い、被曝感受性が高い小児でも低線量での心臓 CT が撮影されるようになった。これによりエコーでは診断が困難であった構造的な先天性心疾患をより詳細に診断することが可能になり、小児に対する心臓 CT の依頼は増加傾向にある。乳幼児の心疾患の特徴として、複雑な心疾患であっても高圧や低酸素により心筋に変性をもたらすだけの時間が経過していないため、心機能低下が見られることは少ない。また、先天性心疾患の CT の特殊性として、左心系・右心系ともに評価しなくてはいけないため、生理食塩水による造影剤の後押しの必要がないことが挙げられる。成人同様、小児でも心疾患を有する際は腎血流量が減り、腎機能障害が生じることは知られており、造影剤はできる限り少なくすることが望ましい。また、小児での心臓 CT は心臓カテーテル検査の直前に行われることが多く、造影剤減量のニーズはより高い。そもそも造影剤の乳幼児に対する安全性は確立されていない。

成人の心臓 CT では 22.2mgI/kg/sec(例:50kg の成人で 0.8ml/kg)が一般的であり、 2ml/kg に比べて約 6 割の造影剤減量が達成されている。これらの造影剤の減量に対し、小児心臓 CT で 2ml/kg が使われる理由としては、小児の造影剤の循環にどの程度の時間を要するのかが分かっていない、先天性心疾患の病態によって循環時間が異なる、血管が細く、成人での経験値が参考にならないといった点が挙げられる。造影剤の特定の臓器から他の臓器までの移動時間に関する文献はないが、過去のカテーテル検査から造影剤の注入開始からある構造までの到達時間を計測することはできるはずである。現状の小児心臓 CT での造影剤使用量の妥当性について、過去の症例から検討していくことは可能である。

【目的と方法】
本研究では、実際に造影剤が注入されてから、目的とする臓器まで到達するまでの時間を調べることによって、将来的に小児の心臓 CT 撮影時の造影剤を減量することを目的としている。その前段階として、過去に小児に対して行われた心臓カテーテル検査の血管造影の結 果をもとに、心血管の構成要素(上大静脈から右心室、肺動脈から大動脈弓、大動脈弓から下行大動脈)への造影剤到達時間を調べ、上大静脈から下行大動脈への総到達時間を調査する。また、その結果と体重や月齢、基礎疾患との関連についても検討することを目的とした。

2010 年から 2014 年にかけて当院小児科で心臓カテーテル検査が行われた患者のうち、合併症を伴わない心室中隔欠損症(ASD)や心房中隔欠損症(VSD)のみを有する 32 名を対象とした。患者平均年齢 2.5±2.6 歳(ASD 群 4.5±2.7 歳、VSD 群 1.4±1.9 歳)、平均体重 11.5±7.4kg(ASD 群 16.7±8.13kg、VSD 群 8.75±5.60kg)である。心臓カテーテル検査の血管造影の画像データより以下の1.から4.の心血管の各構成要素への造影剤の到達時間を放射線科医 2 名で目視にて測定し、その平均を算出した1.上大静脈造影で、造影剤を上大静脈から注入してから、右心室が十分に濃染するまでに要した時間、2.肺動脈造影で、造影剤を肺動脈から注入してから、大動脈弓が濃染するまでに要した時間、3.大動脈造影で、造影剤を大動脈から注入し、大動脈弓が濃染してから下行大動脈が薄く染まるまでに要した時間、4.下行大動脈が薄く染まってから濃染するまでに要した時間。上記4.は造影剤の到達時間には関与しないが、心臓 CT の撮影タイミングは下行大動脈の濃染を基準としているため、測定項目とした。またそれぞれの結果と体重との相関を調べた。

統計学的解析は、体重と月齢の相関、体重と造影剤到達時間との相関を Pearson の積率相関係数検定を用いて検証した。統計学的有意水準は p<0.05 を基準とした。解析項目は体重、上記1.から4.に加え、5.上大静脈から下行大動脈までへの造影剤到達時間(上記の1、 2、3、の合計とし、以降、総循環時間と定義する) とした。また疾患により総循環時間に有意差があるかを最小二乗法による多変量解析を用いて検証した。同一患者の循環時間において 2 名の放射線科医による総循環時間は有意差があるのかを Bland Altman plot を用いて検証した。

【結果】
患者の体重と月齢での相関係数はASD 群で 0.977、VSD 群で 0.978 と強い相関係数が見られた。そのため、以降は体重との相関のみを解析することとした。循環部位ごとの平均循環時間、各々の平均循環時間と体重との相関係数を表 1 に示した。肺動脈から大動脈弓までの平均循環時間と体重との相関係数は ASD 群で 0.943(p<0.0001)、VSD 群で 0.914(p<0.0001)と強い相関係数が見られ、統計学的に有意な結果となった。一方、その他の各平均循環時間に関しては、VSD 群での大動脈弓から下行大動脈への平均循環時間と体重の相関係数 0.688(p=0.0006)、ASD 群での下行大動脈が薄く染まってから、濃染するまでの平均循環時間と体重の相関係数 0.894(p=0.0002)のみが統計学的有意な結果となった。上大静脈から下行大動脈が薄く染まるまでの循環時間の合計である総循環時間は ASD 群で 4.19±0.618 秒、VSD 群で 3.42±0.709 秒となり、いずれも体重との相関係数はASD 群 0.936(p<0.0001)、VSD 群 0.799(p<0.0001)と統計学的に有意な結果となった(図 1)。総循環時間は ASD 群のほうが有意に遅延しており、約 0.8 秒程度の差が認められたが、最小二乗法による多変量解析を行ったところ、p=0.604 となり、原疾患による影響は見られなかった。放射線科医 2 名による総循環時間の測定データに有意な差は見られなかった。

【考察】
総循環時間と定義した上大静脈から下行大動脈が薄く染まるまでの時間はASD 群で4.19±0.618 秒、VSD 群で 3.42±0.709 秒となり、末梢静脈から右心室までの循環時間は約 3 秒との他の報告より、末梢静脈から上大静脈へは約 2 秒で到達していると想定すると、造影剤注入から下行大動脈が薄く染まるまでは、ASD 群で約 6.19 秒(最大 7.78秒)、VSD 群で約 5.42 秒(最大 7.03 秒)と算出することができる。また撮影の最適なタイミングとしては下行大動脈が薄く染まってから濃染するまでに要した時間、ASD 群で0.71 秒(最大 1.13 秒)、VSD 群で 0.48 秒(最大 0.70 秒)を上記に加算した、ASD 群で6.90 秒(最大 8.91 秒)、VSD 群で 5.90 秒(最大 7.73 秒)が最適な撮影タイミングであると考えられる。当院の小児心臓 CT の撮影プロトコルは造影剤注入から 20 秒以上(体重 により異なる)後に撮影しているが、今回の結果より最大でも約 9 秒での撮影でも理論上は造影剤が十分循環した状態で撮影できることを示唆している。これまで小児の大血管の循環時間を検討した事例はなく、経験的に体重×2ml の造影剤が使用されてきた。撮影タイミングが短くなるということは造影剤注入に要する時間が短縮することであり、造影剤の減量にもつながる。

今回、ASD 群とVSD 群の 2 群に分けて、循環時間を比較したところ、ASD 群のほうが有意に遅延していた。VSD では右房、右室の拡大がほとんど見られないが、ASD では右房、右室が拡大するため、循環時間が長くなると当初考えていたが、多変量解析を行うと有意差がなくなってしまう程度の差であった。疾患による影響ではなく、体格による影響のほうが大きいと考えられる。

今後の展望としては、体重や月齢だけでなく、心臓カテーテル検査で既に得られている心機能の評価項目(心係数や心拍数など)と循環時間の相関を検討していく。また今回は心臓カテーテル検査のデータを元に循環時間を検討したが、過去の小児心臓 CT のデータを元に一律に 2ml/kg としていた造影剤量の妥当性について検討していく。そして実際に造影剤を推定量まで減量し、より早いタイミングで心臓 CT を撮影した際の画像データを収集し、造影剤量や注入時間の妥当性を評価検討していく。それらを基に小児心臓 CT の最適な撮影プロトコルを確立していく。

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