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大学・研究所にある論文を検索できる 「細胞低接着性コラーゲン(LASCol)のスフェロイド形成能に着目した髄核摘出後脊椎椎間板変性の抑制」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

細胞低接着性コラーゲン(LASCol)のスフェロイド形成能に着目した髄核摘出後脊椎椎間板変性の抑制

Takeoka, Yoshiki 神戸大学

2020.03.25

概要

はじめに
脊椎椎間板変性は腰痛の主たる原因の一つであり,疼痛のみならず脊髄麻痺などの神経障害にも関与する.現在の治療は椎間板切除が主であるが,結果,脊柱の可動性や衝撃吸収能といった椎間板本来の機能が損なわれ,却って症状の増悪を来すことがある.そのため椎間板機能が温存可能な新たな再生治療が切望されているが,椎間板は免疫学的に隔離された人体最大の無血管組織で低栄養かつ低酸素の環境にあり,その過酷な生体環境が組織再生の大きな障壁となっている.過去に幹細胞や成長因子を用いた再生治療,組織工学的アプローチが試みられてきたが,ヒトへの治療効果や安全性が確立した生物学的治療は未だ存在していない.

一方,組織再生において生体組織に近い三次元の微小環境を維持できる細胞凝集塊(スフェロイド)の有用性が近年注目されている.今回,共同研究者らは I 型コラーゲンの N 末端と C 末端のテロペプチド配列の大部分を除去することに成功し,高いスフェロイド形成能,水溶性,生体吸収性,低抗原性を特徴とする細胞低接着性コラーゲン(LASCol)を開発した.そこで共同研究契約を締結し,ヒト椎間板細胞を用いた細胞実験とラット椎間板髄核摘出モデルを用いた動物実験を行い,LASCol による脊椎椎間板変性の抑制効果について検討した.

対象と方法
LASCol はブタ真皮由来の I 型コラーゲンにアクチニダイン加水分解を施して作成した.細胞実験においては 7.0 mg/ml LASCol ゲルをプレートに貼付し,動物実験においては 42.0, 21.0, 14.0, 7.0 mg/ml の各濃度のインジェクタブルゲルを用いた.既存の生体材料としてアテロコラーゲン(AC)を対照群とし,細胞実験では 2.1 mg/ml,動物実験では 7.0 mg/ml の ゲルをそれぞれ用いた(AC の難溶解性に起因).動物実験に用いたインジェクタブルゲルは氷上では注射可能な粘性を保ち,体内に注入して温度が上がるとゲル化するように調製した.

細胞実験ではヒト椎間板髄核・線維輪手術検体より抽出した細胞を使用した.髄核細胞は 15 症例を用い,平均年齢は 39.2±17.1 歳 [16–76],男性 10 例,女性 5 例,椎間板変性度(Grade 1~5)の中央値は 2±0.6 [2–4]であった.線維輪細胞は 12 症例で,平均年齢は 61.8±11.6 歳 [41–80],男性 9 例,女性 3 例,椎間板変性度の中央値は 3±0.5 [2–4]であった.両細胞を LASCol ゲル貼付プレートと AC ゲル貼付プレート上で培養し,細胞数とスフェロイド数を経時的に計測した.培養細胞に対し,細胞形質マーカーと細胞外基質マーカーの多重蛍光免疫染色を行い,陽性細胞率を両群間で比較した.また,培養細胞から抽出した mRNAを用いて軟骨分化マーカーの Real-time RT–PCR を行った.

動物実験では 12 週齢雄 Sprague–Dawley ラットの尾椎椎間板に髄核摘出術を施行後,15 μl の 21.0 mg/ml LASCol ゲル,7.0 mg/ml AC ゲル,溶媒のみ(対照)をそれぞれ注入した.術後 56 日まで経時的に X 線撮影を行い,椎間板高の群間差を比較した.また術後 28 日で MRI を撮影し,T2 mapping 像で T2 value を計測した.至適濃度を明らかにすべく LASColゲルの濃度別効果を検証し,4 種類の濃度の LASCol ゲルを髄核摘出後の椎間板に注入して経時的にX 線撮影を行った.組織切片にサフラニンO 染色を行い,椎間板内細胞数とサフラニン陽性部面積を計測し,群間比較を行った.かつ髄核形質マーカー,細胞外基質マーカー,マクロファージマーカーの多重蛍光免疫染色を行い,陽性細胞率の群間比較を行った.

結果
細胞実験:髄核・線維輪細胞ともに AC 上では単調増加を示したが,LASCol 上では細胞数は一定数以上増加しなかったがスフェロイド形成を認めた.髄核細胞は AC 上と比較して LASCol 上で brachyury,Tie2,aggrecan,collagen type II の発現亢進を認めた(P < 0.01).線維輪細胞は AC 上と比較して LASCol 上で collagen type V alpha 1,CD146 の発現亢進を認め(P < 0.01),aggrecan は LASCol 上の細胞で発現が高い傾向にあったが AC と比較して有意差には至らなかった.Collagen type I は両群で発現が亢進しており,両ゲルの I 型コラーゲン由来を反映してゲル自体の濃染を認めた.Real-time RT–PCR では LASCol 上の細胞で SOX9,COMP,TGFB1 の発現亢進を認めた(P < 0.05).以上より,スフェロイド形成を介した LASCol の椎間板髄核細胞への有用性が示唆された.

動物実験:X 線学的検討で椎間板高は術後 56 日間に渡り LASCol 群で AC 群と対照群より高値であり,対照群と有意差を認めた(P < 0.01).MRI でも同様に T2 value は LASCol 群で AC 群と対照群より高値で,対照群と有意差を認めた(P < 0.05).LASCol 濃度別の X 線学的検討では高濃度 LASCol 群で椎間板高が維持されている傾向にあった.組織学的検討では術後 56 日に渡り LASCol 群は AC 群,対照群よりも椎間板内細胞数,細胞外基質の蓄積を示すサフラニンO 陽性部面積が有意に多かった(P < 0.01).Collagen type I と type II の多重蛍光免疫染色ではゲルの存在を示すcollagen type I 陽性領域が LASCol 群では術後 3 日目に著明な細胞浸潤を呈し,術後 7 日目に collagen type II 陽性の基質様組織に置換されていた一方,AC 群では経時的変化に乏しかった.Brachyury,Tie2,aggrecan 陽性細胞率は LASCol 群で AC 群と対照群より有意に高く(P < 0.01),LASCol ゲルに形質が保持された内在性細胞が浸潤しており,LASCol が組織変性の抑制に関与している可能性が示唆された.また,マクロファージマーカー陽性細胞率も LASCol 群で有意に高く(P < 0.01),LASColの早期消褪に寄与していると考えられた.

考察
本研究は LASCol による椎間板変性抑制を証明した初の研究である.細胞実験では LASColによるスフェロイド形成を介した椎間板細胞の形質保持と軟骨分化能が示された.動物実験ではラット尾椎椎間板髄核摘出モデルに LASCol ゲルを注入し,X 線学的な椎間板高の維持と組織学的な変性の抑制を認め,内在性細胞の形質保持とマクロファージ浸潤を介した組織修復が示唆された.近年,幹細胞や成長因子を用いた椎間板再生治療の研究が行われているが,安全性や費用などに未だ課題がある.細胞形質の賦活化や細胞外基質の増生をもたらすスキャフォールドの報告は他にもあるが,明らかなスフェロイド形成能を示すものは LASColのみである.インジェクタブルゲルを用いた投与方法は簡便であり,安全・安価・簡便な椎間板変性抑制治療を確立すべく,臨床応用を目指したさらなる研究が必要である.

本研究にはいくつかの限界がある.細胞実験で用いたヒト椎間板細胞には年齢や性別,変性度などに多様性がある.動物実験で用いたラット尾椎はヒト脊椎と生物学的・力学的な違いがあり,髄核摘出モデルもヒトの椎間板変性疾患を完全に再現したモデルとは言えない.今後,大型動物を用いた実験で投与濃度,量,形態などの適正化を図る必要があると考えられる.

LASCol は幹細胞や成長因子を必要とせず,スフェロイド形成,細胞表現型維持,マクロファージ浸潤を介して椎間板変性を抑制するスキャフォールドであることが示され,ヒトへの臨床応用に際して注射可能なゲルであることも利点と考えられた.