リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「食の調達実践にみるベトナム難民の社会関係と生活世界 ―市場交換と自給の交錯から―」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

食の調達実践にみるベトナム難民の社会関係と生活世界 ―市場交換と自給の交錯から―

瀬戸徐, 映里奈 京都大学 DOI:10.14989/doctor.r13575

2023.09.25

概要

論⽂要旨
⽒名:瀬⼾徐映⾥奈
論⽂要約「⾷の調達実践にみるベトナム難⺠の社会関係と⽣活世界−市場交換と⾃給の交
錯から−」
論文内容の要旨:
本論文の目的は、兵庫県姫路市に居住する難民として渡日したベトナム人一世世代に着
目し、日常の食材調達において、どのような市場や自然が利用され、その際にどのような社
会関係が介在してきたのかを明らかにし、食と農の視点からその自律的な生活世界を描く
ことである。
まず第1章では、食材調達に関わる実践について議論する前提として、その実践がどのよ
うな背景や経験をもつ人々によってなされているものなのかを主に聞き取り調査から明ら
かにした。それぞれの出国経緯を先行研究と照合しながらベトナムの南北分断や戦争、統一
後の混乱に至る複合的な社会状況と、出身地・出身階層・エスニシティによって生み出され
るそれぞれの難民化の要因を整理した。
第2章では、関連組織の資料や関係者の聞き取りから難民の受け入れ施設であった一時
滞在施設と姫路定住促進センターが設置された経緯やそこでの生活支援を明らかにし、そ
のうえで就労斡旋後のベトナム難民それぞれの動向から、なぜ姫路市が居住先として選択
され、難民を中心としたベトナム人集住地域が形成されたのかについて考察した。
第3章では、食べ慣れたものを食べるために必要な食材を調達する行為を食の調達実践
と設定し、その調達実践に利用される社会関係を明らかにした。食材は貨幣で購入できる一
方、自然から直接調達することもできる財であることから、経済人類学の基礎を築いたポラ
ンニーの経済統合形態を援用し、貨幣を用いて必要なものを調達する市場交換、自ら調達す
る自給、無償でもらう、または別のモノと交換する互酬という3つの食の調達実践を設定し、
それぞれがどのように展開・収束するのかを分析した。分析の結果、ベトナムへの一時帰国
が可能になり、日越関係の発展や日本におけるベトナム料理が普及していくなかで、互酬に
依存せずとも、多様な食材を日本で市場交換によって容易に調達できるようになっていく。
しかし、すべてが市場交換で賄われるのではなく、生鮮食材、とくに野菜類の場合は、自給
(栽培)での調達が拡大されていくことが浮かび上がった。
第 4 章では、姫路市のベトナム人が農地にアクセスする過程と、実際の耕作の際に地域社
会がどのように対応したのかを分析することを通して、ベトナム人による農地利用がどの
ような社会的条件のもとに実現したのかを明らかにした。都市開発から取り残された農地
のある姫路では、就労や学校などの生活場面でベトナム人と農地所有者との出会いがもた
らされた。また、生活の安定化に伴い、戸建て住宅へ転居するベトナム人が増加する。居住
先で、日本人との新たな近所付き合いや町内会活動を通して、農地所有者と出会い、貸借関
1

係を結ぶに至ったことがわかった。農地管理をめぐるかつての村落共同体(ムラ)の営みは、
縮小しながらも現存しており、一部の農地所有者が利用を許可したベトナム人耕作者を排
除するのではなく、柔軟に受け入れながら維持されていることが明らかになった。
第 5 章では、採集や狩猟、栽培といった在日ベトナム人にとっての食を自給する意味につ
いて検討した。ベトナム人たちにとって、故郷で見慣れた動植物を手元で育てることは懐か
しさや心地よさを得るために行われていることがわかった。また、難民のベトナム社会との
繋がり直しや日越関係の発展のなかでベトナムの輸入食材が増えていくが、それにもかか
わらず、農薬や成長促進剤などを恐れて食の安全を確保することも栽培の動機となってい
た。また、日本人の農地所有者たちは、農地を転用できる機会を狙いながら、農地管理の責
務を負っているため、生計のためではなく、習慣的にまたは余暇活動として自家消費用の米
や野菜の栽培を継続している場合が多い。ベトナム人と日本人の農的な営みは農地という
空間を共有しており、そのなかで収穫物のやりとりなど新たな関係性を結び、互いへの認識
を深め合う様子も見られた。農地に設置された菜園を通して、ベトナム人たちにとって、採
集や栽培といった行為は、ただ食べるためでなく、その行為自体に遊びや楽しみが伴われて
おり、ときに日本人の営みと相互に影響しあっていることを捉えることができた。
終章では、第 3 章から第5章までで明らかにしてきたベトナム人の食の調達実践を、整
理・分析した。そこから浮かび上がったのは、生活の安定に伴う経済力の向上や、ベトナム
やその他の難民受け入れ国との間に結ばれるトランスナショナルなエスニック・ネットワ
ークが発展し、多様な食材が市場交換や互酬によって調達しやすくなったにもかかわらず、
一部の精肉や野菜などの生鮮食材を賄うことは困難であり、自給での調達が必要になった
ことである。その背景には、日本社会への定着が進み、就労や教育現場、町内会などの地域
社会における社会関係が広がるなかで、農地が貸借できるように安定かつ大量に調達でき
るようになったことが大きい。重要なのは、日本での生活基盤が安定化するなかで、食材調
達の実践がすべて市場交換に収斂するのではなく、自ら食べるものを採集・栽培する自給も
個人差はあれども維持・強化している点である。これらのことからいえるのは、在日ベトナ
ム人にとって食の自給は、異文化社会で生活するゆえに必要な食材を調達しにくい国際移
住者ならではの実践であり、しかし、それはただ食べるだけのために行われるものではなく、
異文化社会での生活において居心地のよさを確保する意味合いを伴っている。食の自給が
帯びる楽しさといった普遍性のある動機によって行われるものでもあったことがわかった。
以上のことから本論文は、食と農の視点からベトナム人の生活世界を描いたことで、生活
の安定化やベトナム社会との関係回復のなかで、かれらの食の営みが市場経済にただ包摂
されるのではなく、自給といった非市場経済が内在していることを実証するとともに、さら
にそのことが生み出す社会関係の形成過程と諸相を明らかにすることができたといえる。 ...

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る