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大学・研究所にある論文を検索できる 「各種末梢血免疫担当細胞サブセットの網羅的トランスクリプトーム解析による成人発症Still病の病態解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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各種末梢血免疫担当細胞サブセットの網羅的トランスクリプトーム解析による成人発症Still病の病態解明

白井, 晴己 東京大学 DOI:10.15083/0002002404

2021.10.13

概要

成人発症Still病(Adult onset Still’s disease: AOSD)は、spike fever、関節炎、サーモンピンク疹、咽頭炎を特徴とする自己炎症性疾患である。血液検査所見においては、好中球優位の白血球増加、肝酵素上昇、フェリチン上昇などを特徴とする。汎血球減少、マクロファージ活性化症候群、血球貪食症候群やアミロイドーシスを合併することもあり、しばしば難治性となる。AOSDの診断基準は感度・特異度が高いYamaguchiらの基準が世界的にも最もよく利用されている。治療の基本はステロイドによる加療であるが、加療困難な症例では、抗IL-6抗体製剤やTNFα阻害薬などの生物製剤が使われている。

 AOSDは代表的な炎症性疾患であり、自然免疫系の過剰な活性化が病態の中心と考えられている。一方、IL-4産生T細胞、IFN-γ産生T細胞が増加する傾向にあることやTh17細胞の増加とフェリチンやIL-17、IL-1βなどのサイトカイン増加が比例することなどが報告され、獲得免疫の関与についても示唆されている。しかしながら、その病態および発症機序は依然不明な点が多い。

 近年、各種自己免疫疾患において細胞サブセットを細分化しトランスクリプトーム解析を行うアプローチがなされているが、AOSD患者に関するこのような解析アプローチは十分になされておらず、各種免疫担当細胞サブセットを細分化して評価を行った既報はない。そこで私は、AOSD病態解明を目的とし、AOSD患者と健常者より採取した末梢血を用いてCD4陽性T細胞亜分画、B細胞など21種の免疫担当細胞サブセットに分取し、遺伝子発現データと臨床情報の統合的解析を行った。

 2002年2月から2016年10月までの間に東京大学アレルギー・リウマチ内科の外来に通院中の患者または、新規発症した入院患者で、Yamaguchiらの基準を満たした患者14名と、健常者(HC)28名を研究対象とした。臨床情報として、年齢・性別、罹患期間、発熱や関節痛、皮膚所見などの臨床症状、加療内容などの収集を行った。検査所見として、白血球数、リンパ球数、好中球数、肝酵素値、フェリチン値、CRPのデータを収集した。研究対象者から採取した末梢血単核球(PBMC)から各種免疫担当細胞サブセットをセルソーターを用いて分取しRNA-sequencing(RNA-seq)を用い、上述の臨床情報との統合解析を行った。

 その結果、HC群と比し、AOSD患者群でCD16-monocyte、naïve B cell、switched memory B cell、double negative B cell、plasmablast(PB)、naïve CD4+ T cell、memory CD4+ T cell、Th2、Th17、T follicular helper(Tfh)、CD4+CD25-LAG3+ regulatory T(Treg)、activated Treg(aTreg)サブセットにおいて、その存在比における有意差を認めた。特にAOSD患者群でPBの割合は、HCが12.0±6.1%であるのに対し、29.9±28.1%と著明な増加を認めた。これまでにAOSDにおいてPBが増加するという報告はなく、広義の自己炎症性疾患であるAOSDにおいてB細胞より分化したPBが病態形成において重要な役割を果たしていることが示唆された。

 AOSD患者群およびHC群より得られたデータをPCA(principal component analysis)法を用いて解析した結果、PC1、PC2の展開にて、各細胞系統毎に分離することが出来た。更にt -statistic Stochastic Neighbor Embedding (t–SNE)法を用いて次元圧縮を行い、PCA法よりも更に細分化された各種免疫担当細胞サブセット毎に分離されることを確認した。これにより、今回検討するデータが各サブセットを特徴付ける遺伝子発現プロファイルを有していることが示された。次に、各免疫担当細胞サブセットにおけるRNA-seqデータを用いて、HC群とAOSD患者群間における発現変動遺伝子(differentially expressed gene: DEG)を算出し、両群における遺伝子発現プロファイルの違いにつき検討を行った。その結果、PBにおいて1774個と最も多くのDEGを認め、次いでactive Treg789個、CD16+ monocytes 700個でDEG数が多かった。

 私は、AOSD群においてPBMCにおける存在比が有意にHC群よりも高く、DEG数も最も多く認められたPBに着目した。先のPBにおいて算出されたDEGを、pathway解析ソフト(Ingenuity Pathway Analysis: IPA)を用い検出された遺伝子群の関わる経路を解析したところ、inflammasome経路が検出された。実際にDEGとして検出された遺伝子の上位を確認したところ、予測された通りinflammasomeに関連するnucleotide-binding oligomerization domain-like receptor family pyrin domain containing 3: NLRP3遺伝子が含まれていた。inflammasomeに関連するNLRP1、NLRP3、NLRC4、NLRC5、CARD8/9/11、CASP1、CASP5、IL18、IL1BはAOSD群のPBにおける遺伝子発現データにおいてHC群と比較し高発現していた。

 これら遺伝子発現解析にて、PBの増加がAOSDの疾患病態と関連することが示唆されたが、実際の臨床情報との関連を明らかにする必要があると考え、更に我々は、Weighted Gene Co-expression Network Analysis (WGCNA)を用いた解析を行った。WGCNAは、先ず遺伝子発現プロファイルから、各遺伝子の発現パターンの類似性を機械的に組み合わせ「共発現ネットワーク」を構築、次に、階層クラスタリングにより類似性のある遺伝子群を分類し、moduleとして規定し、作られたmoduleと外部情報としての、疾患活動性、リンパ球存在比などの臨床パラメーターとの相関につき検討を行う手法である。本研究におけるplasmablastのWGCNA解析により得られたmodule No.3は、AOSD罹患の有無と関連したmoduleであると考えられた。同moduleには、inflammasomeを介した免疫応答において中心的役割を果たすNLRP3やMEFV、PSTPIP1といった遺伝性周期性発熱症候群と関連した遺伝子が多く含まれた。その他、CASP1、CARD9、NLRC4、NLRC5などのinflammasomeのカスケードに関連した遺伝子が見出された。module No.3のうち、inflammasomeに関連した遺伝子とその上流の分子であるNLRP3、CASP1、TLR2、TLR4、IL18、IL1Bに着目した。加えて、血清中のS100A8/A9濃度が、活動性のあるAOSDでRA患者、HC群と比較し、有意に高値であることは既に報告されており、module No.3で見られたS100A8、S100A9分子にも着目した。その結果CASP1、IL18、IL1B、NLRP3、S100A8、S100A9、TLR2、TRL4遺伝子いずれも、HC群と比較しその発現の有意な亢進を認めた。通常、ヒトB細胞においては、TLR2、TLR4などの発現が少ないことが知られている。AOSD患者群において、特にB細胞のPBへの分化に伴いTLR2、TLR4の遺伝子発現がHC群と比較し、段階的に有意差を持って亢進していた。CD14蛋白質は、TLR2、TLR4が機能する際に、CD14と複合体を形成するが、B細胞サブセットにおいても、CD14がPBへの分化に伴いAOSD患者群で有意に発現が亢進していた。この結果はAOSD患者におけるTLR刺激感受性亢進において合目的的であると考えられた。

 今回私は、AOSD患者14名とHC28名より得られた21種のリンパ球サブセットのRN Aseqデータと臨床情報の統合的解析から、PBの著明な増加と、同サブセットにおけるTLR2、TLR4を介したNLRP3、inflammasomeの活性化がAOSD病態との関連を示唆する知見を得た。一方で、今回の検討ではAOSDが希少疾患であるため疾患群の人数が少なく、また治療内容による考察も困難であった。今後は活動性の高い症例も含め症例数を増やし疾患層別化に有用な標的の同定を行う必要がある。

 近年、難治性AOSD患者にRituximabが奏功した症例報告やAOSD症例のリンパ節からB細胞浸潤を認める報告が散見され、B細胞もAOSDの病態形成に深く関与していると考えられている。本研究により、AOSDでは自然免疫に加え、獲得免疫の一旦を担うPBにおけるinflammasome活性化がその病態形成に関連する可能性が示唆された。