リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「炎症性筋疾患における末梢血免疫担当細胞種のトランスクリプトーム解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

炎症性筋疾患における末梢血免疫担当細胞種のトランスクリプトーム解析

杉森, 祐介 東京大学 DOI:10.15083/0002002406

2021.10.13

概要

炎症性筋疾患(idiopathic inflammatory myopathy: IIM)は筋, 皮膚, 肺などに自己免疫学的機序で炎症を生じる自己免疫疾患である.IIMの治療は有害事象の大きいステロイドや免疫抑制薬に大きく依存しており, IIMの10年生存率も全体で70%程度と良好ではないため, より病態に則した有効かつ副作用の少ない治療法を開発することが望まれている.

 これまでの報告から, IIMにおいてtype Ⅰ interferon(IFN)が末梢血中および病変局所で強く作用していること, 複数の免疫担当細胞種(subsetsと略す)の関与が想定されること, 遺伝学的素因があることは示唆されているが, 詳細なメカニズムは解明されていない.こうした背景をうけて我々は, IIMの病態に関与する分子や経路の探索を目的に, IIM患者の末梢血中subsetsにおける遺伝子発現を網羅的に解析するアプローチを選択し検討を行った.

 2015年4月から2018年5月までの間に東京大学医学部附属病院アレルギー・リウマチ内科を受診し, 厚生労働省診断基準を満たしたIIM患者45例および健常人(healthy control: HC)43例を対象として, セルソーターにより末梢血から計22種類のsubsetsを分離し, subsetごとに次世代シークエンサーを用いてRNA-seqを行った.

 IIMは平均年齢56.4歳, 男女比11: 34であり, HCと比較して年齢・性別とも有意差を認めなかった.病型の内訳は皮膚筋炎20例, 筋無症候性皮膚筋炎13例, 多発性筋炎9例, 壊死性筋症3例であった.筋炎特異自己抗体の内訳は抗MDA5抗体7例, 抗ARS抗体14例, 抗Mi-2抗体5例, 抗TIF1抗体3例, 抗SRP抗体1例, 抗HMGCR抗体1例, 抗体不明14例であった.初発治療前の症例が10例, 維持治療下にも関わらず筋逸脱酵素が高値で持続している症例が6例, 高度関節炎が持続している症例が1例おり, これらを合わせた17例をactive IIM, それ以外をinactive IIMと定義した.2017年3月以前と2017年4月以降でセルソーターが異なるため, 遺伝子発現データについてはbatch処理を行ったデータで解析した.

 フローサイトメトリーによる各subsetの存在比率をIIMとHCで比較すると, IIMでB細胞中のplasmablast(PB)の割合の増加とunswiched memoryB細胞(UnSwMB)の割合の減少, classical monocyteの割合の増加を認めた.これらのsubsetsに分化する過程に筋炎の病態形成に重要な何らかの機構が存在する可能性があると考えられる.そのほか, B細胞から産生される自己抗体が病態を担っている可能性があることを考慮すると, active IIMではUnSwMBが末梢血中から筋, 肺, 皮膚など病変局所に移行して病態に関与していることで, 末梢血中の存在比率が低下している可能性もあるものと考えられる.

 Type I IFN signalのIIMにおける重要性は以前から知られていることであるが, それらが末梢血中subsetsにおいてどの様に作用しているかについては, 既報のないところであった.今回163種のtype Ⅰ IFN関連遺伝子の発現量から計算したtype Ⅰ IFN signature scoreは, 幅広いsubsetsにおいてactive IIMではHCのみならずinactive IIMと比較しても有意に高く, 特に抗MDA5抗体陽性のactive IIMで高値であった.また, Th1細胞, Th2細胞, follicular helper T細胞, naïve CD8陽性T細胞, effector memory CD8陽性T細胞, double negative B細胞(DNB)において, inactive IIMであってもHCと比較して有意にtype Ⅰ IFN signature scoreが高値であった.また, 発現変動遺伝子(Differentially expressed genes: DEGs)におけるパスウェイ解析結果からも, subsets横断的なtype I IFN関連経路の重要性が示された.すなわち, IIMの病勢期にはtype Ⅰ IFNが幅広いsubsetsに作用していることが示されたと同時に, type Ⅰ IFN signature scoreが特に予後不良の病態である抗MDA5抗体陽性のactive IIMで高値であることから, type Ⅰ IFN signalの強さと病勢の強さとの関連が示唆された.加えてinactive IIMであってもDNBなど一部のsubsetsでtype Ⅰ IFN signature score高値であり, 治療で病勢が安定していてもtype Ⅰ IFNシグナルは個体から完全に消失していないと推察された.

 DEGsに含まれる遺伝子を丁寧にみることでIIMの病態を考えることも重要なアプローチであるが, その方法では単独で興味深い遺伝子の同定は可能であるものの, 複数の遺伝子間の関連性はわからない.生物学的には同じ方向に動いている遺伝子群を同定することによりsubset内で機能しているpathwayを想定することも重要である.そこで, 既存のデータベース情報に依存せず, 遺伝子発現の変動の類似性をもとに遺伝子をmoduleというグループにまとめるネットワーク解析の1つであるiterative WGCNAを行い, IIMとHCの判別に寄与する重要なmodulesを同定した.

 それらmodulesに対して, 既知の機能情報, 代謝経路, 受容体反応, 蛋白質間相互作用, 遺伝子発現制御などのデータベースから与えられた遺伝子群が多く含まれる経路を検出する解析手法であるパスウェイ解析を行うと, 多くの免疫担当細胞subsetsにおいてtype I IFN関連経路とミトコンドリア機能/酸化的リン酸化の経路を認めた.

 次に, IIMの自己抗体に着目したIIM内部におけるiterative WGCNA結果において, DEGsが最も多いsubsetであるDNBで抗MDA5抗体と強く相関するmoduleではtype I IFN関連経路とミトコンドリア機能/酸化的リン酸化の経路に関連する遺伝子群が豊富に含まれていた.

 免疫担当細胞subsetsは体内で相互に作用しながら協調して働いており, PBMC全体としてではなくセルソーターで細かく分けたsubsetsを検体としてRNA-seqを行ったことが我々の研究の強みである.Iterative WGCNAとパスウェイ解析を組み合わせることで, IIMに共通した免疫系の修飾として, type I IFN関連経路とミトコンドリア機能/酸化的リン酸化の経路が存在することが明らかとなった.ミトコンドリア機能/酸化的リン酸化の経路が検出されるということはIIM全体に共通した免疫系修飾として代謝状態の変容が生じている可能性を示唆している.

 また, IIMとHCを判別し得るmodulesの多くにIIMの疾患感受性遺伝子であるPTPN22, PTTG1, RGS1, STAT1, UBE2L3などの遺伝子が含まれていることも明らかになると同時に, 関連modules数の多いsubsetとしてmonocyteも今後の病態解明の鍵となり得ると考えられた.

 本研究ではIIMの中の自己抗体毎の症例数が少ないという限界はあるが, IIMに共通したB細胞の量的修飾および免疫系の遺伝子発現において共通して亢進する経路が明らかとなり, 今後の疾患層別化および治療法の解明に寄与すると考えられる.