TRIM21 Dysfunction enhances aberrant B-cell differentiation in autoimmune pathogenesis
概要
1. 序論
全身性エリテマトーデス(SLE)は, 様々な自己抗体が産生され, 諸臓器に炎症を来す全身性自己免疫疾患であり, 個々の症例で多彩な病型を示すことから, ターゲットを絞った分子標的治療薬の開発が滞っている. SLE の重要な病態として, B 細胞の過剰な活性化による抗体産生があり, 近年, B 細胞をターゲットとした分子標的治療薬が開発されているが, その効果は限定的で, 最適化医療や新規の治療ターゲットの探索が求められている.
TRIM21(別名, Ro52/SS-A1)は SLE やシェーグレン症候群の患者血液中にしばしば認められる自己抗体である抗 SS-A 抗体の対応抗原の一つであり, 血清抗 SS-A 抗体の存在は、これらの疾患の診断において重要な要素である. TRIM21 は, Tripartite motif containingファミリーに属するたんぱく質であり, E3 ユビキチンリガーゼ活性を持ち, 標的蛋白のユビキチン化を介して, 転写制御, 細胞増殖, アポトーシスなどの様々な生命現象に関与することが知られている(Ozato et al., 2008). 先行研究では, TRIM21 が SLE の疾患感受性遺伝子として知られている IRF5, IRF7, IRF8 の発現を制御し、SLE に重要とされる 1 型インターフェロンや IL-12p40 の産生に関与することが示されており(Espinosa et al., 2009, Yoshimi et al., 2009), TRIM21 が SLE の病態で重要な要素であることが示唆されているが, これまでに自己免疫病態におけるTRIM21 の機能を解析した研究はない. 本研究の目的は、SLE においてTRIM21 の機能が自己免疫病態にどのような影響を与えるかを明らかにすることである.
2. 実験材料と方法
先行研究で使用した Trim21 欠失 C57BL/6 マウスと広く SLE モデルマウスとして使用されているMRL/Faslpr/lpr(MRL/lpr)マウスを戻し交配し, Trim21 欠失 MRL/lpr マウスを作成した. 作成した Trim21 欠失 MRL/lpr マウスの遺伝的背景が MRL/lpr となっていることをマイクロサテライト STR 解析で確認した. 対照群(MRL/Fas 野生型マウスと Trim21 野生型MRL/lpr マウス)と Trim21 欠失 MRL/lpr マウスにおいて, 生命予後, リンパ節や脾臓の重量, 比色法による定量的な蛋白尿の測定, ELISA 法を用いた血清中の抗 dsDNA 抗体の測定を行い, SLE 病態の評価を行った. マウスのリンパ節, 脾臓における免疫系細胞の評価はフローサイトメトリー(FACS)を用いて行った. マウスのリンパ節, 脾臓から磁気刺激細胞分離法(MACS)を用いてCD3+T 細胞を分離し, T 細胞転写因子の発現を定量リアルタイムPCR(qPCR)で評価した. マウスの CD43 陰性休止期B 細胞を (MACS)で脾臓から分離し, B-cell receptor(BCR)刺激, CD40L 刺激, 各種Toll 様受容体(TLR)刺激下に培養し, 形質芽細胞への分化, 免疫グロブリン産生能をFACS で評価した. マウス由 来休止期B 細胞の刺激後の IRF, B 細胞分化因子の評価を, Western-blotting, FACS, qPCRで行い, さらにTRIM21 による IRF5 のユビキチン化を免疫沈降法と Western-blotting で評価した. 健常者, SLE 患者の末梢血から, CD43 陰性休止期B 細胞を磁気刺激細胞分離法 (MACS)で分離し, BCR 刺激, CD40L 刺激, 各種TLR)刺激下に培養し, 形質芽細胞への分化, 免疫グロブリン産生能をFACS で評価した. ヒト血清中の抗TRIM21 抗体は ELISA 法で測定し, 未治療の SLE 患者の末梢血単核球(PBMC)の TRIM21 発現を Western- blotting で評価した.
3. 結果
Trim21 欠失 MRL/lpr マウスは, 野生型マウスと比較して, 尿蛋白の増加, 抗 dsDNA 抗体の上昇を示した. Trim21 欠失マウスでは野生型と比較して, 脾臓における B 細胞, リンパ節における形質細胞の数が増加していた. さらに Trim21 欠失マウス由来の B 細胞では野生型と比較して形質芽細胞への分化能や抗体産生能が亢進していた. Trim21 欠失マウス由来のB 細胞では野生型と比較して, TRIM21 機能欠失に伴うユビキチン化減少により IRF5の蛋白発現が増加していた.マウスの実験結果と類似して, ヒトの抗TRIM21 抗体陽性SLE患者由来B 細胞において, 健常者や, 抗 TRIM21 抗体陰性 SLE と比較して、形質芽細胞への分化亢進を来し、Ig 産生が増加した. 未治療の抗TRIM21 抗体陽性SLE 患者由来PBMCでは, 抗 TRIM21 抗体陰性患者と比較して, TRIM21 の蛋白発現が有意に低下していた.
4. 考察
本研究により, SLE モデルマウスにおいて, TRIM21 機能不全は, 自己免疫病態を増悪させることが明らかとなった. また, その原因として、B 細胞の機能異常が疑われ, TRIM21 機能欠失に伴うユビキチン化減少による IRF5 発現増加が関与していることが示唆された. B細胞分化に関与する IRF として, ほかに IRF4 や IRF8 も知られているが, 本研究では, Trim21 欠失マウスと野生型を比較して, IRF4 の発現が増加していたが、IRF8 の発現に明らかな差は認められなかった. さらに, 免疫沈降法により, IRF4 と TRIM21 は結合せず, IRF4 はユビキチン化修飾も受けていないことが明らかとなり, 以上の結果から, TRIM21が IRF5 発現調節を介して, IRF4 の発現に影響を与えた可能性が考えられた. 本研究による重要な臨床的知見として, 抗 TRIM21 抗体陽性SLE では Trim21 欠失マウスと同様にB細胞の機能異常があること, 抗 TRIM21 抗体陽性 SLE 由来の PBMC では抗 TRIM21 抗体陰性 SLE と比較して, TRIM21 の蛋白発現が有意に低下していることから, 抗 TRIM21抗体が, TRIM21 の発現や機能に影響を与えている可能性や, TRIM21 の機能不全のバイオマーカーとなる可能性が示唆された. 今後, 抗 TRIM21 抗体がどのような機序で, TRIM21の機能に影響を与えるのか検証が望まれる.