ポリペプチド系抗菌薬を用いた新規癌治療戦略の構築
概要
博士論文(要約)
ポリペプチド系抗菌薬を用いた
新規癌治療戦略の構築
令和 4 年度
東北大学大学院薬学研究科
生命薬科学専攻
山田 真佑花
目次
P. 2
略語
序論
0.
抗癌剤治療の課題と新規治療戦略
P. 5
1.
PMB 依存的なフェロトーシスの誘導機構解明
P. 8
PMB 依存的なフェロトーシスの誘導機構解明
P. 11
PMB 依存的なフェロトーシスの誘導機構解明
P. 37
結果
1.
考察
1.
結論
P.41
実験材料及び実験方法
P. 42
参考文献
P. 56
発表論文
P. 60
謝辞
P. 61
1
略語
本文中及び図表中において、以下の略語を使用した。
3MA; 3-Methyladenine
5z-7; 5-z7-oxozeaenol
ACSL4; acyl-CoA synthetase long-chain family member 4
Act.D; actinomycin D
BHA; butylated hydroxyanisole
BSO; Buthionine sulfoximine
CHX; cycloheximide
CTX; cefotaxime
DFO; deferoxamine
DMT-1; divalent metal transporter 1
EDTA; ethylenediamine N,N,N’,N’ tetraacetic acid
EGFR; epidermal growth factor receptor
EGTA; ethylene glycol-bis(beta-aminoethyl ether)-N,N,N',N'-tetraacetic acid
Fer-1; Ferrostatin-1
FSP1; ferroptosis suppressor protein 1
FTH; Ferritin heavy chain
FTL; Ferritin light chain
GCL; Glutamate-cysteine ligase
GPX4; Glutathione peroxidase 4
HERC2; HECT and RLD domain containing E3 ubiquitin protein ligase 2
HIF; hypoxia inducible factor
IRE; Iron responsive elements
IRP1/2; Iron regulatory protein 1/2
2
JNK; c-Jun N-terminal kinase
MAPK; mitogen-activated protein kinase
MTS; 3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium
NAC; N-acetylcysteine
NC; non-targeting control
NCOA4; nuclear receptor coactivator 4
Nec-1; Necrostatin-1
NLRP3; NLR family pyrin domain containing 3
PL; phospholipid
PMB; polymyxin B
PMS; phenazine methosulfate
POR; cytochrome P450 oxidoreductase
PUFA; polyunsaturated fatty acid
PVDF; polyvinylidene difluoride
ROS; reactive oxygen species
SB; SB203580
SDS-PAGE; SDS-polyacrylamide gel electrophoresis
SDS; sodium dodecylsulfate
siRNA; small interfering RNA
SP; SP600125
TAK1; transforming growth factor-β (TGF-β)-activated kinase 1
TEMED; N,N,N’,N’-tetramethylethylenediamine
TFR; transfferin receptor
TNFR1; tumor necrosis factor receptor 1
Tris; 2-amino-2-(hydroxymethyl)propane-1,3-diol
3
UTR; untranslated region
z-VAD; z-VAD-fmk
4
序論
0.
抗癌剤治療の課題と新規治療戦略
近年、癌は日本人死因の第1位を占めており、2 人に 1 人が発症するとも言われる身近な
疾患となっている[1]。癌の治療には様々なものがあるが、特に 3 大療法として「手術療法」
「化学療法」
「放射線療法」が挙げられる。中でも、抗癌剤による化学療法は、手術不能な
症例や転移した癌に対しても有効であることから、癌の治療には必要不可欠な治療法であ
る。手術療法や放射線療法に比べ、化学療法の歴史は浅いが、これまで治らないとされてい
た白血病は近年では抗癌剤によって 50 %の治癒率まで進歩してきた。癌細胞に特徴的な環
境や分子機構の解明に伴い、上皮成長因子受容体 epidermal growth factor receptor (EGFR) の
チロシンキナーゼ阻害薬として知られる gefitinib など、副作用の克服を目指した分子標的
薬も開発され、癌の種類によって様々な抗癌剤が適用されている。
従来の抗癌剤は、DNA を標的として機能するものが多い。例えば、cisplatin などの白金製
剤は、DNA とクロスリンクし、その修復過程で DNA 障害が誘導され、etoposide などトポ
イソメラーゼ阻害剤は、DNA 複製時に機能するトポイソメラーゼを阻害することによって、
DNA 障害を生じる。また、fluorouracil (5-FU) は、DNA 複製時にウラシルの代わりに取り込
まれ、DNA 複製を阻害する。抗癌剤によって、癌細胞の増殖抑制や死滅など、抗癌作用は
異なるが、DNA を標的とした抗癌剤の多くは、主に DNA 障害を介したアポトーシスを誘
導することで癌細胞を排除する。抗癌剤によるアポトーシス誘導には、癌抑制遺伝子として
知られる p53 が関与している[2]。しかしながら、多くの癌組織で p53 の欠損や機能欠損変
異が見られ、アポトーシスに対して耐性を獲得しており、抗癌剤に耐性を示すという問題点
がある。また一方で、抗癌剤による DNA 障害は、癌細胞だけではなく正常な細胞に対して
も誘導されるため、副作用が生じてしまうという問題点もある。副作用を減らすために開発
された分子標的薬も、実際には副作用が報告されている[3]。我々はこれまでに、副作用とし
て間質性肺炎が報告されている gefitinib が、EGFR 非依存的な作用として Fas 誘導性アポト
ーシスを亢進する作用を見出した[3] 。この発見は、EGFR 非依存的な作用でも gefitinib が
5
抗癌作用を示す可能性とともに、EGFR 非依存的な経路で副作用を生じる可能性もあること
を示唆している。このように、抗癌剤治療は著しい進歩を遂げた一方で、
「抗癌剤に対する
耐性」と「重篤な副作用」の 2 点が、抗癌剤治療における大きな障壁となっている。本研究
では、これらの課題を解決する癌治療戦略として、
「フェロトーシス」と呼ばれる新規細胞
死に着目した。
近年新たに提唱されたプログラム細胞死であるフェロトーシスは、鉄依存的な過酸化脂
質の蓄積によって引き起こされる非典型的細胞死の一つである[4]。癌細胞では細胞内の鉄
濃度が高いことから、フェロトーシス誘導によって癌細胞を選択的に排除するという新た
な癌治療戦略に大きな注目が集まっている[5]。しかし、実際に抗癌剤として使用できるフ
ェロトーシス誘導剤は存在しない。
当研究室では、抗癌剤など薬剤の細胞毒性軽減や、新たな薬効への応用を目的として、副
作用として細胞毒性を示す薬剤の毒性発揮機構を解析している。近年、我々は抗癌剤
Gefitinib の新規細胞毒性として EGFR 非依存的に Fas 誘導性のアポトーシスを亢進するこ
とを見出した[3]。また、抗菌薬のヒト細胞に対する細胞毒性として、ポリペプチド系抗菌薬
polymyxin B (PMB) が caspase-3 欠損細胞において細胞毒性を示すことや[6]、セファロスポ
リン系抗菌薬 cefotaxime (CTX) が transforming growth factor-β (TGF-β)-activated kinase 1
(TAK1) 依存的に ROS を産生することも見出した[7]。さらに、ヒト細胞に対する新たな薬
効として、CTX が微弱な活性酸素種(ROS)の産生を介して、強力な細胞保護作用を有す
る Nrf2 の活性化や、HSP70 の誘導を引き起こすことを見出し、CTX が組織障害の修復や創
傷治癒に優れた薬効を示す治療薬となる可能性を示した[8]。このように、抗菌薬がヒト細
胞に対しても作用する可能性があり、その作用機構を解明することは、抗菌薬の細胞毒性の
軽減や、様々な疾患の治療薬として新たな薬効の応用につながる。
PMB は、環状のポリペプチド系抗菌薬である[9]。グラム陰性桿菌に対して優れた殺菌
作用を示し、緑膿菌にも効果を示す。一方で、PMB は重篤な副作用も報告されており、ヒ
ト細胞に対して影響を及ぼすことも知られている。当研究室では、これまでに、PMB がマ
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クロファージに対して特異的に強い作用を示し、NLR family pyrin domain containing 3
(NLRP3) インフラマソームを活性化することで炎症を誘導しており、これが腎障害の原因
であることを見出した[10]。そのほかにも、PMB が腎細胞においてアポトーシスや DNA
損傷を誘導することが報告されている[11][12]が、ヒト細胞に対する作用は未だ未解明な点
が多い。
本研究では、抗菌薬を候補薬剤としてフェロトーシス誘導剤の探索を行った結果、ポリペ
プチド系抗菌薬の一つである PMB がフェロトーシス誘導能を示すことを見出した。そこで
本研究では、PMB を用いたフェロトーシス誘導機構の解明を目的とした。
7
1.
PMB 依存的なフェロトーシスの誘導機構解明
フェロトーシスは、鉄依存的な過酸化脂質の蓄積を伴う、非典型的なプログラム細胞死
である[4]。神経変性疾患や、腎障害、肝障害などの臓器障害に深く関与することが報告さ
れている[13]一方で、抗癌剤に耐性を示す癌細胞において、顕著に誘導される細胞死とし
ても知られている。癌細胞においてフェロトーシスが誘導されやすい理由はさまざまなこ
とが考えられているが、一つの理由として、癌細胞の多くは、鉄の含有量が多いことが知
られており、フェロトーシスが誘導されやすいと考えられる[5]。これらのことから、フェ
ロトーシス誘導剤は新たな癌治療戦略として近年注目を集めている。しかしながら、実験
的にフェロトーシスを誘導する薬剤は多数存在する一方で、主作用としてフェロトーシス
を誘導する抗癌剤 (医薬品) は存在しない。
フェロトーシスの制御機構は、近年盛んに研究が進められており、過酸化脂質の蓄積を
促進する細胞死の誘導経路と、抗酸化経路による抑制経路の 2 つの経路によって制御され
ている[13][14]。定常状態では、これら 2 つの経路がバランスを保っているため、恒常性が
維持されているが、フェロトーシス誘導経路が過剰に活性化された場合や、抑制経路が阻
害された場合に、細胞死誘導へとバランスが崩れると、過酸化脂質が過剰に蓄積し、フェ
ロトーシスが誘導される。特に、フェロトーシスを抑制する抗酸化経路は、数多く報告さ
れており、最も主要な抑制因子である Glutathione peroxidase 4 (GPX4) は、グルタチオン
(GSH/GSSG) を補酵素として、過酸化脂質を還元・除去することで、フェロトーシスを抑
制する[15]。さらに、SLC7A11 と SLC3A2 から構成される system xc-は、シスチン/グルタ
ミン酸交換輸送体であり、グルタチオンの生合成に必要とされるシスチンを取り込むトラ
ンスポーターとして働く[4][16]。また、もう 1 つの主要な抑制経路として知られる、
ferroptosis suppressor protein 1 (FSP1) は細胞膜上において、コエンザイム Q を還元する
[17][18]。コエンザイム Q は、脂質ラジカルを還元し、Ferroptosis を抑制する。これら 2 つ
の抑制経路を標的としたフェロトーシス誘導剤が多数存在し、SLC7A11 の阻害剤である
Erastin や、GPX4 の阻害剤である RSL3 が汎用されている[14]。
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一方で、フェロトーシスの促進経路は、リン脂質の産生や細胞内遊離鉄の増加に関わる
因子が関与する。特に、多価不飽和脂肪酸 (PUFA) を含むリン脂質 (PUFA-PL) が過酸化
されやすいことが報告されており、フェロトーシスの促進因子 acyl-CoA synthetase longchain family member 4 (ACSL4) は、PUFA-PL の生成に寄与する[19]。さらに、PUFA の過酸
化には、cytochrome P450 oxidoreductase (POR) が寄与することが最近報告された[20][21]。
鉄依存的な細胞死であるフェロトーシスは、鉄の代謝制御を担う因子によっても制御さ
れている[14]。細胞内の鉄は通常、トランスフェリンに結合した三価鉄 (Fe3+) が、トラン
スフェリン受容体 (TFR) と結合し、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれ
る。取り込まれた Fe3+は、エンドソーム中で鉄還元酵素により二価鉄 (Fe2+) へと還元さ
れ、鉄トランスポーターdivalent metal transporter 1(DMT-1) によって細胞質中へ放出される
[22][23]。鉄は細胞の代謝活動において重要であり、溶けやすく反応性の高い Fe2+の状態で
利用される。一方で、反応性の高い Fe2+は、酸素と反応して活性酸素種 (ROS) を産生
し、細胞毒性にも寄与してしまうことから、利用されない時には安全な Fe3+の状態でフェ
リチンに貯蓄されている。フェリチンは Ferritin heavy chain (FTH) と Ferritin light chain
(FTL)、2 種類のサブユニットから構成される複合体であり、24 個の FTH と FTL が含まれ
る。鉄欠乏時には、フェリチンの、特に FTH1 がオートファジーを介して分解される、フ
ェリチノファジーによって、貯蓄された Fe3+がリソソームの酸性条件下で Fe2+へと還元さ
れ、細胞質中へ補給される。一方で、鉄過剰時には、FTH や FTL が翻訳誘導され、フェリ
チンに鉄を貯蓄する。
鉄の代謝制御機構の中でも特に、フェリチノファジーは、Erastin 依存的なフェロトーシ
スにおいても誘導され、Fe2+を増加させることでフェロトーシスを促進することが報告さ
れている[24][25][26]。フェリチノファジーの誘導因子として、nuclear receptor coactivator 4
(NCOA4) が報告されており、NCOA4 は FTH1 と結合し、オートファゴソームへとリクル
ートするカーゴタンパク質であることが知られている[27]。
細胞内の鉄量を制御する因子の多くは、Iron responsive elements (IRE) を mRNA 配列の非
9
翻訳領域 (UTR) に保有している[28][23]。IRE は Iron regulatory protein 1/2 (IRP1/2)が結合
する領域であり、細胞内遊離鉄の量が少ない状況において、IRP1/2 が IRE へ結合し、翻訳
阻害または mRNA の安定化を引き起こす。FTH や FTL も IRE を mRNA の UTR に保有す
る因子の一つで、鉄欠乏時には、IRP が FTH や FTL の 5’UTR に存在する IRE に結合し、
リボソームの結合を阻害することで翻訳を阻害する。一方で、鉄の取り込みに必要である
TFR は、3’UTR に IRE を保有しており、鉄欠乏時には IRP が IRE に結合することで TFR
の mRNA が安定化する。多くの鉄関連因子がこの IRE-IRP システムによる翻訳制御を受け
ているが、NCOA4 が IRE-IRP システムによる翻訳制御を受けるかどうかは、未解明であ
った。
本研究では、抗癌剤として応用できるフェロトーシス誘導剤を同定することを目的と
し、既知の医薬品の中から新規フェロトーシス誘導剤の探索を行い、その誘導機構を解析
した。その結果、PMB が新規フェロトーシス誘導剤であることを見出し、その誘導機構と
して、PMB はフェリチノファジーを誘導することで、細胞内遊離鉄を増加させていること
が明らかとなった。さらに、フェリチノファジーの誘導には NCOA4 が関与しており、
PMB は NCOA4 を翻訳依存的に増加させることで、フェリチノファジーを誘導しているこ
とが判明した。NCOA4 は鉄欠乏時に増加し、鉄を補給する機能を持つ[26]が、PMB は、
鉄が十分存在する状況下にもかかわらず、NCOA4 を増加させることができる初めての
NCOA4 誘導剤であることが明らかとなった。
10
結果
1. PMB 依存的なフェロトーシスの誘導機構解明
1-1. PMB はフェロトーシスを誘導する
フェロトーシスは、鉄依存的な過酸化脂質の蓄積を伴う、非典型的なプログラム細胞死で
ある[4]。癌細胞の多くは、鉄の含有量が多いことが知られており、フェロトーシスが誘導さ
れやすいと考えられることから、フェロトーシス誘導剤は新たな癌治療戦略として近年注
目を集めている[5]。しかしながら、実験的にフェロトーシスを誘導する薬剤は多数存在す
る一方で、主作用としてフェロトーシスを誘導する抗癌剤 (医薬品) は存在しない。そこで、
既知の医薬品の中から、過酸化脂質の蓄積が見られる薬剤を探索することとした。
活性酸素種 (ROS) を産生することが当研究室の解析から明らかとなっていた抗菌薬 5 種
類を候補薬剤とし、ヒト線維肉腫細胞株 HT1080 を用いて ROS 産生および過酸化脂質の蓄
積を評価したところ、各種抗菌薬を 24 時間処置すると、同程度の ROS 産生が見られた条件
で (Fig. 1A)、PMB のみ、顕著に過酸化脂質の蓄積も見られた (Fig. 1B)。さらに、PMB 依存
的な細胞死を、細胞生存率と PI 陽性細胞率によって評価すると、PMB 依存的な細胞死は過
酸化脂質の捕縛剤である Ferrostatin-1 (Fer-1) によって抑制されたことから (Fig.1C, D)、
PMB はフェロトーシスを誘導していることが示唆された。
フェロトーシスは、過酸化脂質の産生に関わる促進経路と、抗酸化機構による抑制経路の
バランスによって制御されている[14]。促進経路が過剰に活性化した場合や、抗酸化機構が
阻害された場合に、過酸化脂質が蓄積し、フェロトーシスが誘導される。フェロトーシスの
抑制経路については、近年、多数の機構が報告されている。最も主要なフェロトーシス抑制
経路 として、 グルタチオン (GSH/GSSG) を 補酵素 として抗 酸化的に働 く Glutathione
peroxidase 4 (GPX4) 依存的な経路[15]と、コエンザイム Q を還元する ferroptosis suppressor
protein 1 (FSP1) 依存的な経路[17][18]が存在する。GPX4 は欠損によりフェロトーシスが誘
導される[29][30]ことから、グルタチオンの生合成に関わる SLC7A11 と FSP1 をそれぞれノ
ックダウンした際の PMB 依存的な細胞死を評価した。その結果、興味深いことに、SLC7A11
11
や FSP1 をノックダウンすると、
PMB 依存的な細胞死が顕著に亢進した (Fig.1E-J)。さらに、
この細胞死は、Fer-1 の処置によって抑制されたことから (Fig.1K, L)、フェロトーシスであ
ることがわかった。また、これらの結果に相関して、 SLC7A11 の阻害剤である Erastin や、
グルタチオン産生経路において働く酵素 Glutamate-cysteine ligase (GCL) の阻害剤である
Buthionine sulfoximine (BSO) と PMB を共処置した際も、それぞれ単独の処置では細胞死が
誘導されないほど弱い条件において、フェロトーシスが誘導されることがわかった
(Fig.2A-C)。この結果に相関して、Erastin と PMB の共処置によって、過酸化脂質の蓄積も
顕著に増加した (Fig.2D)。さらに、実際にチロシンキナーゼ阻害薬として抗癌剤の承認を受
けており、副作用として SLC7A11 を阻害する機能が最近報告された、Regorafenib[21]を用
いて、同様の解析を行なった。その結果、ここまでの結果に相関して、それぞれ単独の処置
では細胞死が誘導されないほど弱い条件において、PMB との共処置によって、フェロトー
シスが誘導されることがわかった (Fig.2E)。以上の結果から、PMB は既知のフェロトーシ
ス誘導剤との共処置によって効率よくフェロトーシスを誘導できる新規フェロトーシス誘
導剤であることが明らかとなった。
12
13
Fig. 1 PMB はフェロトーシスを誘導する
(A) HT1080 cells were treated with 1 mg/mL Polymyxin B (B), 2 mg/mL polymyxin E (E: colistin),
1 mg/mL cefotaxime (C), 2.5 mg/mL vancomycin (V), or 0.4 mg/mL levofloxacin (L) for 24 h,
and then measured reactive oxygen species (ROS) using 2’, 7’-Dichlorodihydrofluorescin
diacetate (DCFH-DA). Graphs depict the value of means and SD. Significant differences were
determined by student’s t-test; ***p < 0.001; **p < 0.01; *p < 0.05. ...