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書き出し

ポリペプチド系抗菌薬を用いた新規癌治療戦略の構築

山田, 真佑花 東北大学

2023.03.24

概要

博士論文(要約)

ポリペプチド系抗菌薬を用いた
新規癌治療戦略の構築

令和 4 年度
東北大学大学院薬学研究科
生命薬科学専攻
山田 真佑花

目次
P. 2

略語

序論
0.

抗癌剤治療の課題と新規治療戦略

P. 5

1.

PMB 依存的なフェロトーシスの誘導機構解明

P. 8

PMB 依存的なフェロトーシスの誘導機構解明

P. 11

PMB 依存的なフェロトーシスの誘導機構解明

P. 37

結果
1.

考察
1.

結論

P.41

実験材料及び実験方法

P. 42

参考文献

P. 56

発表論文

P. 60

謝辞

P. 61

1

略語
本文中及び図表中において、以下の略語を使用した。
3MA; 3-Methyladenine
5z-7; 5-z7-oxozeaenol
ACSL4; acyl-CoA synthetase long-chain family member 4
Act.D; actinomycin D
BHA; butylated hydroxyanisole
BSO; Buthionine sulfoximine
CHX; cycloheximide
CTX; cefotaxime
DFO; deferoxamine
DMT-1; divalent metal transporter 1
EDTA; ethylenediamine N,N,N’,N’ tetraacetic acid
EGFR; epidermal growth factor receptor
EGTA; ethylene glycol-bis(beta-aminoethyl ether)-N,N,N',N'-tetraacetic acid
Fer-1; Ferrostatin-1
FSP1; ferroptosis suppressor protein 1
FTH; Ferritin heavy chain
FTL; Ferritin light chain
GCL; Glutamate-cysteine ligase
GPX4; Glutathione peroxidase 4
HERC2; HECT and RLD domain containing E3 ubiquitin protein ligase 2
HIF; hypoxia inducible factor
IRE; Iron responsive elements
IRP1/2; Iron regulatory protein 1/2

2

JNK; c-Jun N-terminal kinase
MAPK; mitogen-activated protein kinase
MTS; 3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium
NAC; N-acetylcysteine
NC; non-targeting control
NCOA4; nuclear receptor coactivator 4
Nec-1; Necrostatin-1
NLRP3; NLR family pyrin domain containing 3
PL; phospholipid
PMB; polymyxin B
PMS; phenazine methosulfate
POR; cytochrome P450 oxidoreductase
PUFA; polyunsaturated fatty acid
PVDF; polyvinylidene difluoride
ROS; reactive oxygen species
SB; SB203580
SDS-PAGE; SDS-polyacrylamide gel electrophoresis
SDS; sodium dodecylsulfate
siRNA; small interfering RNA
SP; SP600125
TAK1; transforming growth factor-β (TGF-β)-activated kinase 1
TEMED; N,N,N’,N’-tetramethylethylenediamine
TFR; transfferin receptor
TNFR1; tumor necrosis factor receptor 1
Tris; 2-amino-2-(hydroxymethyl)propane-1,3-diol

3

UTR; untranslated region
z-VAD; z-VAD-fmk

4

序論
0.

抗癌剤治療の課題と新規治療戦略
近年、癌は日本人死因の第1位を占めており、2 人に 1 人が発症するとも言われる身近な

疾患となっている[1]。癌の治療には様々なものがあるが、特に 3 大療法として「手術療法」
「化学療法」
「放射線療法」が挙げられる。中でも、抗癌剤による化学療法は、手術不能な
症例や転移した癌に対しても有効であることから、癌の治療には必要不可欠な治療法であ
る。手術療法や放射線療法に比べ、化学療法の歴史は浅いが、これまで治らないとされてい
た白血病は近年では抗癌剤によって 50 %の治癒率まで進歩してきた。癌細胞に特徴的な環
境や分子機構の解明に伴い、上皮成長因子受容体 epidermal growth factor receptor (EGFR) の
チロシンキナーゼ阻害薬として知られる gefitinib など、副作用の克服を目指した分子標的
薬も開発され、癌の種類によって様々な抗癌剤が適用されている。
従来の抗癌剤は、DNA を標的として機能するものが多い。例えば、cisplatin などの白金製
剤は、DNA とクロスリンクし、その修復過程で DNA 障害が誘導され、etoposide などトポ
イソメラーゼ阻害剤は、DNA 複製時に機能するトポイソメラーゼを阻害することによって、
DNA 障害を生じる。また、fluorouracil (5-FU) は、DNA 複製時にウラシルの代わりに取り込
まれ、DNA 複製を阻害する。抗癌剤によって、癌細胞の増殖抑制や死滅など、抗癌作用は
異なるが、DNA を標的とした抗癌剤の多くは、主に DNA 障害を介したアポトーシスを誘
導することで癌細胞を排除する。抗癌剤によるアポトーシス誘導には、癌抑制遺伝子として
知られる p53 が関与している[2]。しかしながら、多くの癌組織で p53 の欠損や機能欠損変
異が見られ、アポトーシスに対して耐性を獲得しており、抗癌剤に耐性を示すという問題点
がある。また一方で、抗癌剤による DNA 障害は、癌細胞だけではなく正常な細胞に対して
も誘導されるため、副作用が生じてしまうという問題点もある。副作用を減らすために開発
された分子標的薬も、実際には副作用が報告されている[3]。我々はこれまでに、副作用とし
て間質性肺炎が報告されている gefitinib が、EGFR 非依存的な作用として Fas 誘導性アポト
ーシスを亢進する作用を見出した[3] 。この発見は、EGFR 非依存的な作用でも gefitinib が

5

抗癌作用を示す可能性とともに、EGFR 非依存的な経路で副作用を生じる可能性もあること
を示唆している。このように、抗癌剤治療は著しい進歩を遂げた一方で、
「抗癌剤に対する
耐性」と「重篤な副作用」の 2 点が、抗癌剤治療における大きな障壁となっている。本研究
では、これらの課題を解決する癌治療戦略として、
「フェロトーシス」と呼ばれる新規細胞
死に着目した。
近年新たに提唱されたプログラム細胞死であるフェロトーシスは、鉄依存的な過酸化脂
質の蓄積によって引き起こされる非典型的細胞死の一つである[4]。癌細胞では細胞内の鉄
濃度が高いことから、フェロトーシス誘導によって癌細胞を選択的に排除するという新た
な癌治療戦略に大きな注目が集まっている[5]。しかし、実際に抗癌剤として使用できるフ
ェロトーシス誘導剤は存在しない。
当研究室では、抗癌剤など薬剤の細胞毒性軽減や、新たな薬効への応用を目的として、副
作用として細胞毒性を示す薬剤の毒性発揮機構を解析している。近年、我々は抗癌剤
Gefitinib の新規細胞毒性として EGFR 非依存的に Fas 誘導性のアポトーシスを亢進するこ
とを見出した[3]。また、抗菌薬のヒト細胞に対する細胞毒性として、ポリペプチド系抗菌薬
polymyxin B (PMB) が caspase-3 欠損細胞において細胞毒性を示すことや[6]、セファロスポ
リン系抗菌薬 cefotaxime (CTX) が transforming growth factor-β (TGF-β)-activated kinase 1
(TAK1) 依存的に ROS を産生することも見出した[7]。さらに、ヒト細胞に対する新たな薬
効として、CTX が微弱な活性酸素種(ROS)の産生を介して、強力な細胞保護作用を有す
る Nrf2 の活性化や、HSP70 の誘導を引き起こすことを見出し、CTX が組織障害の修復や創
傷治癒に優れた薬効を示す治療薬となる可能性を示した[8]。このように、抗菌薬がヒト細
胞に対しても作用する可能性があり、その作用機構を解明することは、抗菌薬の細胞毒性の
軽減や、様々な疾患の治療薬として新たな薬効の応用につながる。
PMB は、環状のポリペプチド系抗菌薬である[9]。グラム陰性桿菌に対して優れた殺菌
作用を示し、緑膿菌にも効果を示す。一方で、PMB は重篤な副作用も報告されており、ヒ
ト細胞に対して影響を及ぼすことも知られている。当研究室では、これまでに、PMB がマ

6

クロファージに対して特異的に強い作用を示し、NLR family pyrin domain containing 3
(NLRP3) インフラマソームを活性化することで炎症を誘導しており、これが腎障害の原因
であることを見出した[10]。そのほかにも、PMB が腎細胞においてアポトーシスや DNA
損傷を誘導することが報告されている[11][12]が、ヒト細胞に対する作用は未だ未解明な点
が多い。
本研究では、抗菌薬を候補薬剤としてフェロトーシス誘導剤の探索を行った結果、ポリペ
プチド系抗菌薬の一つである PMB がフェロトーシス誘導能を示すことを見出した。そこで
本研究では、PMB を用いたフェロトーシス誘導機構の解明を目的とした。

7

1.

PMB 依存的なフェロトーシスの誘導機構解明
フェロトーシスは、鉄依存的な過酸化脂質の蓄積を伴う、非典型的なプログラム細胞死

である[4]。神経変性疾患や、腎障害、肝障害などの臓器障害に深く関与することが報告さ
れている[13]一方で、抗癌剤に耐性を示す癌細胞において、顕著に誘導される細胞死とし
ても知られている。癌細胞においてフェロトーシスが誘導されやすい理由はさまざまなこ
とが考えられているが、一つの理由として、癌細胞の多くは、鉄の含有量が多いことが知
られており、フェロトーシスが誘導されやすいと考えられる[5]。これらのことから、フェ
ロトーシス誘導剤は新たな癌治療戦略として近年注目を集めている。しかしながら、実験
的にフェロトーシスを誘導する薬剤は多数存在する一方で、主作用としてフェロトーシス
を誘導する抗癌剤 (医薬品) は存在しない。
フェロトーシスの制御機構は、近年盛んに研究が進められており、過酸化脂質の蓄積を
促進する細胞死の誘導経路と、抗酸化経路による抑制経路の 2 つの経路によって制御され
ている[13][14]。定常状態では、これら 2 つの経路がバランスを保っているため、恒常性が
維持されているが、フェロトーシス誘導経路が過剰に活性化された場合や、抑制経路が阻
害された場合に、細胞死誘導へとバランスが崩れると、過酸化脂質が過剰に蓄積し、フェ
ロトーシスが誘導される。特に、フェロトーシスを抑制する抗酸化経路は、数多く報告さ
れており、最も主要な抑制因子である Glutathione peroxidase 4 (GPX4) は、グルタチオン
(GSH/GSSG) を補酵素として、過酸化脂質を還元・除去することで、フェロトーシスを抑
制する[15]。さらに、SLC7A11 と SLC3A2 から構成される system xc-は、シスチン/グルタ
ミン酸交換輸送体であり、グルタチオンの生合成に必要とされるシスチンを取り込むトラ
ンスポーターとして働く[4][16]。また、もう 1 つの主要な抑制経路として知られる、
ferroptosis suppressor protein 1 (FSP1) は細胞膜上において、コエンザイム Q を還元する
[17][18]。コエンザイム Q は、脂質ラジカルを還元し、Ferroptosis を抑制する。これら 2 つ
の抑制経路を標的としたフェロトーシス誘導剤が多数存在し、SLC7A11 の阻害剤である
Erastin や、GPX4 の阻害剤である RSL3 が汎用されている[14]。

8

一方で、フェロトーシスの促進経路は、リン脂質の産生や細胞内遊離鉄の増加に関わる
因子が関与する。特に、多価不飽和脂肪酸 (PUFA) を含むリン脂質 (PUFA-PL) が過酸化
されやすいことが報告されており、フェロトーシスの促進因子 acyl-CoA synthetase longchain family member 4 (ACSL4) は、PUFA-PL の生成に寄与する[19]。さらに、PUFA の過酸
化には、cytochrome P450 oxidoreductase (POR) が寄与することが最近報告された[20][21]。
鉄依存的な細胞死であるフェロトーシスは、鉄の代謝制御を担う因子によっても制御さ
れている[14]。細胞内の鉄は通常、トランスフェリンに結合した三価鉄 (Fe3+) が、トラン
スフェリン受容体 (TFR) と結合し、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれ
る。取り込まれた Fe3+は、エンドソーム中で鉄還元酵素により二価鉄 (Fe2+) へと還元さ
れ、鉄トランスポーターdivalent metal transporter 1(DMT-1) によって細胞質中へ放出される
[22][23]。鉄は細胞の代謝活動において重要であり、溶けやすく反応性の高い Fe2+の状態で
利用される。一方で、反応性の高い Fe2+は、酸素と反応して活性酸素種 (ROS) を産生
し、細胞毒性にも寄与してしまうことから、利用されない時には安全な Fe3+の状態でフェ
リチンに貯蓄されている。フェリチンは Ferritin heavy chain (FTH) と Ferritin light chain
(FTL)、2 種類のサブユニットから構成される複合体であり、24 個の FTH と FTL が含まれ
る。鉄欠乏時には、フェリチンの、特に FTH1 がオートファジーを介して分解される、フ
ェリチノファジーによって、貯蓄された Fe3+がリソソームの酸性条件下で Fe2+へと還元さ
れ、細胞質中へ補給される。一方で、鉄過剰時には、FTH や FTL が翻訳誘導され、フェリ
チンに鉄を貯蓄する。
鉄の代謝制御機構の中でも特に、フェリチノファジーは、Erastin 依存的なフェロトーシ
スにおいても誘導され、Fe2+を増加させることでフェロトーシスを促進することが報告さ
れている[24][25][26]。フェリチノファジーの誘導因子として、nuclear receptor coactivator 4
(NCOA4) が報告されており、NCOA4 は FTH1 と結合し、オートファゴソームへとリクル
ートするカーゴタンパク質であることが知られている[27]。
細胞内の鉄量を制御する因子の多くは、Iron responsive elements (IRE) を mRNA 配列の非

9

翻訳領域 (UTR) に保有している[28][23]。IRE は Iron regulatory protein 1/2 (IRP1/2)が結合
する領域であり、細胞内遊離鉄の量が少ない状況において、IRP1/2 が IRE へ結合し、翻訳
阻害または mRNA の安定化を引き起こす。FTH や FTL も IRE を mRNA の UTR に保有す
る因子の一つで、鉄欠乏時には、IRP が FTH や FTL の 5’UTR に存在する IRE に結合し、
リボソームの結合を阻害することで翻訳を阻害する。一方で、鉄の取り込みに必要である
TFR は、3’UTR に IRE を保有しており、鉄欠乏時には IRP が IRE に結合することで TFR
の mRNA が安定化する。多くの鉄関連因子がこの IRE-IRP システムによる翻訳制御を受け
ているが、NCOA4 が IRE-IRP システムによる翻訳制御を受けるかどうかは、未解明であ
った。
本研究では、抗癌剤として応用できるフェロトーシス誘導剤を同定することを目的と
し、既知の医薬品の中から新規フェロトーシス誘導剤の探索を行い、その誘導機構を解析
した。その結果、PMB が新規フェロトーシス誘導剤であることを見出し、その誘導機構と
して、PMB はフェリチノファジーを誘導することで、細胞内遊離鉄を増加させていること
が明らかとなった。さらに、フェリチノファジーの誘導には NCOA4 が関与しており、
PMB は NCOA4 を翻訳依存的に増加させることで、フェリチノファジーを誘導しているこ
とが判明した。NCOA4 は鉄欠乏時に増加し、鉄を補給する機能を持つ[26]が、PMB は、
鉄が十分存在する状況下にもかかわらず、NCOA4 を増加させることができる初めての
NCOA4 誘導剤であることが明らかとなった。

10

結果
1. PMB 依存的なフェロトーシスの誘導機構解明
1-1. PMB はフェロトーシスを誘導する
フェロトーシスは、鉄依存的な過酸化脂質の蓄積を伴う、非典型的なプログラム細胞死で
ある[4]。癌細胞の多くは、鉄の含有量が多いことが知られており、フェロトーシスが誘導さ
れやすいと考えられることから、フェロトーシス誘導剤は新たな癌治療戦略として近年注
目を集めている[5]。しかしながら、実験的にフェロトーシスを誘導する薬剤は多数存在す
る一方で、主作用としてフェロトーシスを誘導する抗癌剤 (医薬品) は存在しない。そこで、
既知の医薬品の中から、過酸化脂質の蓄積が見られる薬剤を探索することとした。
活性酸素種 (ROS) を産生することが当研究室の解析から明らかとなっていた抗菌薬 5 種
類を候補薬剤とし、ヒト線維肉腫細胞株 HT1080 を用いて ROS 産生および過酸化脂質の蓄
積を評価したところ、各種抗菌薬を 24 時間処置すると、同程度の ROS 産生が見られた条件
で (Fig. 1A)、PMB のみ、顕著に過酸化脂質の蓄積も見られた (Fig. 1B)。さらに、PMB 依存
的な細胞死を、細胞生存率と PI 陽性細胞率によって評価すると、PMB 依存的な細胞死は過
酸化脂質の捕縛剤である Ferrostatin-1 (Fer-1) によって抑制されたことから (Fig.1C, D)、
PMB はフェロトーシスを誘導していることが示唆された。
フェロトーシスは、過酸化脂質の産生に関わる促進経路と、抗酸化機構による抑制経路の
バランスによって制御されている[14]。促進経路が過剰に活性化した場合や、抗酸化機構が
阻害された場合に、過酸化脂質が蓄積し、フェロトーシスが誘導される。フェロトーシスの
抑制経路については、近年、多数の機構が報告されている。最も主要なフェロトーシス抑制
経路 として、 グルタチオン (GSH/GSSG) を 補酵素 として抗 酸化的に働 く Glutathione
peroxidase 4 (GPX4) 依存的な経路[15]と、コエンザイム Q を還元する ferroptosis suppressor
protein 1 (FSP1) 依存的な経路[17][18]が存在する。GPX4 は欠損によりフェロトーシスが誘
導される[29][30]ことから、グルタチオンの生合成に関わる SLC7A11 と FSP1 をそれぞれノ
ックダウンした際の PMB 依存的な細胞死を評価した。その結果、興味深いことに、SLC7A11

11

や FSP1 をノックダウンすると、
PMB 依存的な細胞死が顕著に亢進した (Fig.1E-J)。さらに、
この細胞死は、Fer-1 の処置によって抑制されたことから (Fig.1K, L)、フェロトーシスであ
ることがわかった。また、これらの結果に相関して、 SLC7A11 の阻害剤である Erastin や、
グルタチオン産生経路において働く酵素 Glutamate-cysteine ligase (GCL) の阻害剤である
Buthionine sulfoximine (BSO) と PMB を共処置した際も、それぞれ単独の処置では細胞死が
誘導されないほど弱い条件において、フェロトーシスが誘導されることがわかった
(Fig.2A-C)。この結果に相関して、Erastin と PMB の共処置によって、過酸化脂質の蓄積も
顕著に増加した (Fig.2D)。さらに、実際にチロシンキナーゼ阻害薬として抗癌剤の承認を受
けており、副作用として SLC7A11 を阻害する機能が最近報告された、Regorafenib[21]を用
いて、同様の解析を行なった。その結果、ここまでの結果に相関して、それぞれ単独の処置
では細胞死が誘導されないほど弱い条件において、PMB との共処置によって、フェロトー
シスが誘導されることがわかった (Fig.2E)。以上の結果から、PMB は既知のフェロトーシ
ス誘導剤との共処置によって効率よくフェロトーシスを誘導できる新規フェロトーシス誘
導剤であることが明らかとなった。

12

13

Fig. 1 PMB はフェロトーシスを誘導する
(A) HT1080 cells were treated with 1 mg/mL Polymyxin B (B), 2 mg/mL polymyxin E (E: colistin),
1 mg/mL cefotaxime (C), 2.5 mg/mL vancomycin (V), or 0.4 mg/mL levofloxacin (L) for 24 h,
and then measured reactive oxygen species (ROS) using 2’, 7’-Dichlorodihydrofluorescin
diacetate (DCFH-DA). Graphs depict the value of means and SD. Significant differences were
determined by student’s t-test; ***p < 0.001; **p < 0.01; *p < 0.05. ...

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59

発表論文

[原著論文]

“The Antibiotic Cefotaxime Works as Both an Activator of Nrf2 and an Inducer of HSP70 in

Mammalian Cells”

Mayuka Yamada*, Midori Suzuki*, Takuya Noguchi*, Takumi Yokosawa, Yuto Sekiguchi,

Natsumi Mutoh, Takashi Toyama, Yusuke Hirata, Gi-Wook Hwang, and Atsushi Matsuzawa.

*These authors contributed equally to this work. Co-first author.

BPB Reports, Vol.3, No.1, 16-21, 2020.

60

謝辞

本研究は、日本薬学会長井記念薬学研究奨励金、東北大学学際高等研究教育院、日本学術

振興会のご支援のもと行いました。

本研究を進めるにあたり、終始御指導御鞭撻を賜りました東北大学大学院薬学研究科衛

生化学分野教授 松沢 厚

先生に厚く御礼申し上げます。

本研究を進めるにあたり、御指導御助言を頂きました東北大学院薬学研究科代謝制御薬

学分野教授 斎藤 芳郎 先生に深く感謝申し上げます。

本研究を進めるにあたり、御指導御助言を頂きました東北大学院薬学研究科薬物送達学

分野准教授 内田 康雄 先生に深く感謝申し上げます。

本研究を進めるにあたり、終始御指導御鞭撻を賜りました東北大学院薬学研究科衛生化

学分野准教授 野口 拓也 先生に深く感謝申し上げます。

本研究を進めるにあたり、終始御指導御鞭撻を賜りました東北大学院薬学研究科衛生化

学分野助教 平田 祐介 先生に深く感謝申し上げます。

本研究を進めるにあたり、研究機器の使用をご快諾くださいました代謝制御薬学分野の

先生方に深く感謝申し上げます。

また、本研究を進めるにあたり多くの御助言と御協力を頂きました鈴木

氏、関口

雄斗 氏、山田 侑杜 氏、島田 竜耶 氏、横沢 拓海 氏、鍵 智裕 氏、蘆田 諒 氏、

江崎 雄亮 氏、黒川 礼温 氏、小松 寛武 氏、濵野 修平 氏、伊藤 環 氏、鈴木

若奈 氏、高野 紗彩 氏、矢吹 洋佑 氏、山田 裕太郎 氏、伊東 諒 氏、大久保 拓

氏、柏原 直樹 氏、丹 真桜子 氏、大谷 航平 氏、小島 諒太 氏、田口 蒼真

氏、丸山 朋笑 氏、本間 望 氏をはじめとする東北大学大学院薬学研究科衛生化学分野

の皆様および卒業生の皆様に深く感謝申し上げます。

本研究を進めるにあたり、ご支援くださいました皆様に深く感謝申し上げます。

61

...

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