Comparison of an Inside Stent and a Fully Covered Self-Expandable Metallic Stent as Preoperative Biliary Drainage for Patients with Resectable Perihilar Cholangiocarcinoma
概要
主論文の要旨
Comparison of an Inside Stent and a Fully Covered
Self-Expandable Metallic Stent as Preoperative
Biliary Drainage for Patients with Resectable
Perihilar Cholangiocarcinoma
肝門部領域胆道悪性腫瘍術前ドレナージとしてのInside stentと
Fully-covered self-expandable metallic stentsの後ろ向き比較研究
名古屋大学大学院医学系研究科
病態内科学講座
総合医学専攻
消化器内科学分野
(指導:川嶋 啓揮
森 裕
教授)
【緒言】
切除可能な肝門部領域胆道悪性腫瘍(PHCC;perihilar cholangiocarcinoma)患者に対し
ては術前内視鏡的胆道ドレナージ(PBD;preoperative biliary drainage)が推奨され、よ
り忍容性の高い方法が求められている。近年、苦痛の少ない PBD として Inside Stents
(IS)が注目されている。一方で PHCC の PBD として、Fully-covered self-expandable
metallic stents(FCSEMS)を胆管内に留置することの有効性が期待されているが、多数
例の報告はない。
本研究は、PHCC が疑われ手術を予定している患者に対し、PBD として IS と FCSEMS
の有効性、適応、偶発症を明らかにすることを目的とし、両者を比較検討する単一施
設での後ろ向き研究を行った。
【方法】
本研究は、名古屋大学医学部附属病院での単施設の後ろ向き研究である。目的は、
PHCC が疑われる手術予定患者に対する PBD として IS と FCSEMS を比較することで
ある。この研究の主要評価項目は胆管再閉塞(RBO;Recurrent biliary obstruction)まで
の時間とした。副次評価項目は RBO の原因、術後偶発症とした。
名古屋大学医学部附属病院で 2017 年 5 月から 2019 年 8 月までに、造影 CT 所見に
基づき切除可能な PHCC と診断し、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP;endoscopic
retrograde cholangiopancreatography)を行い予定最終術前胆道ドレナージ(FSPBD;Final
scheduled PBD)が IS または FCSEMS である患者を対象とした。
ERCP では、良悪性鑑別診断と腫瘍の進展度を評価し、予定残肝胆管枝のドレナー
ジを行った。総ビリルビン値が 3 mg/dl 以上の場合は内視鏡的経鼻胆道ドレナージを
挿入し、総ビリルビン値が 3 mg/dl 未満の場合かつ手術までの待機期間が 2 週間以上
と予想される時に IS または FCSEMS を挿入した。
FCSEMS の適応は、胆管狭窄部の上端から最初に分枝する胆管が 5 mm 以上離れて
おり、胆管狭窄部の下端が乳頭から 20 mm 以上離れている症例とし、ステント上端が
予定残肝の胆管枝を塞がないように留置した。IS は胆管狭窄部もしくは狭窄部の上流
5 mm 以内から分岐する胆管枝があり、胆管狭窄部の下端が乳頭から 20mm 以上離れ
ている症例に挿入した(Figure 1)。ステント留置後に RBO が発生した場合は、直ちに
IS または FCSEMS を抜去し、同じまたは非ドレナージ領域の胆管に内視鏡的経鼻胆
道ドレナージを留置した。
ERCP 後に発症した胆管炎、胆嚢炎、膵炎は TOKYO Guideline 2014 に基づき評価し
た。RBO は肝胆道系酵素値の上昇を伴う肝内胆管の再拡張と定義し、非ドレナージ領
域の区域性胆管炎も含めた。RBO を発症せずに手術した場合や切除不能と診断した場
合は、打ち切り例とした。
両群での RBO に影響する因子を評価した。ステントによる胆管枝の閉塞は、ERCP
で造影される予定切除肝の胆管枝がステントで閉塞することと定義した。
積極的な治療介入を必要とする Grade B と C を術後偶発症として評価した。胆汁漏、
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肝不全は肝切除の有無、膵液瘻は膵切除の有無に分類して評価した。
【結果】
対象は 86 例(IS 群 51 例、FCSEMS 群 35 例)であった。胆道癌の胆管占拠部位につ
いては Bismuth-Corlette 分類を用いて左右肝管合流部までの I/II と左右胆管の片方ま
たは両方の二次分枝まで進展する III/IV に分類し、IS 群では FCSEMS 群に比べ後者が
多かった(P<0.001)。最終診断は胆管癌 72 例、胆嚢癌 14 例であり、両群間に有意差は
なかった(P=0.439)(Table 1)。IS 群 51 例のうち、26 例に肝切除術を、3 例に肝切除+
膵頭十二指腸切除術を、1 例に膵頭十二指腸切除術が施行され、21 例が切除不能と診
断された。FCSEMS 群 35 例のうち、14 例に肝切除術を、5 例に肝切除+膵頭十二指腸
切除術を、5 例に膵頭十二指腸切除術を、1 例に肝外胆管切除術が施行され、10 例が
切除不能と診断された(Figure 2)。
IS 群 7/51 例、FCSEMS 群 3/35 例で RBO が発生したが、両群間に有意差はなかった
(P=0.464)。RBO を発症しなかった IS 群 44 例のうち、28 例に手術が施行された。
FCSEMS 群では、RBO を発症しなかった 32 例のうち、23 例に手術が施行された(Figure
2)。FSPBD から手術までの時間の中央値は、IS 群 41 日、FCSEMS 群 43 日(P=0.836)
であった。両群とも RBO を発症した全例でステント抜去は容易に施行可能であった。
両群での Bismuth-Corlette 分類Ⅰ/ⅡとⅢ/Ⅳの偏りをなくすために、傾向スコアマッチ
ングを行った。その結果、各群から 18 名の患者が抽出された(Table 1)。両群とも 18
例中 3 例が RBO となった。RBO までの時間の中央値は得られなかったが、平均は IS
群 37.9 日、FCSEMS 群 45.1 日で有意差はなかった(P=0.912)(Figure 3)。
多変量解析において、FCSEMS 群でのみステントによる胆管枝の閉塞が RBO の危
険因子であった(HR 29.8,95%CI 2.5-350.1,P=0.008)(Table 2)が、IS 群では有意な
危険因子はなかった。ステントによる胆管枝の閉塞がない場合(IS 群 17 例、FCSEMS
群 32 例)、RBO は各群 1 例のみであった。
RBO に至らずに手術を行った IS 群 28 例、FCSEMS 群 23 例について術後合併症を
評 価 し た 。 肝 切 除 例 は IS 群 (27/28 例 ) が FCSEMS 群 (17/23 例 ) よ り 有 意 に 多 く
(P=0.020)、膵切除例は FCSEMS 群(11/23 例)が IS 群(4/28 例)より有意に多い結果で
あった(P=0.009)(Table 3a)。出血量や手術時間、胆汁漏や肝不全の発生率については、
有意差はなかった。しかし、膵液瘻は FCSEMS 群(13/23 例)が IS 群(3/28 例)より有意
に多かった(P=0.001)(Table 3b)。肝切除の有無で患者を分類すると、両群間で胆汁漏
の発生率に有意差はなかった(Table 4a)。同様に膵液瘻も膵切除の有無で分類した。膵
切除を行った患者では膵液瘻の発生率に有意差はなかったが、膵切除を行わなかった
患者で、FCSEMS 群(5/12 例)が IS 群(0/24 例)より有意に膵液瘻の発生率が高かった
(P=0.001)(Table 4b)。
【考察】
近年、PHCC に対する PBD として、Oddi 括約筋より肝臓側に胆管ステントを留置す
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ることが注目されている。最大の利点は、十二指腸液の胆管への逆流を防ぐ Oddi 括約
筋を温存することができ、胆道感染のリスクを減らすことである。もう 1 つの利点は、
膵管開口部を圧迫しないため、内視鏡的乳頭括約筋切開術を行わずに複数個のステン
トを留置することができることである。内視鏡的乳頭括約筋切開術を行わないことの
欠点として、ステントを抜去するのが困難となる可能性があったが、本研究では容易
にステントを抜去することができた。
FCSEMS 群のみ、ステントによる予定切除肝の胆管枝の閉塞が RBO の危険因子と
なることが示された。さらに、ステントの留置により胆管枝が閉塞していない症例に
おいても、RBO 発生率に両群で有意差はなかった。したがって、ステント留置によっ
て胆管枝の閉塞の危険性がある場合には、FCSEMS を留置する必要はなく、IS を留置
すれば PBD としては十分であると考えられた。
膵切除を伴わない手術では、膵液瘻発生率は IS 群より FCSEMS 群が有意に高かっ
た。これは、FCSEMS による過拡張に伴う胆管開口部周囲の線維化が、遠位胆管側の
切除と膵周囲リンパ節郭清を複雑にしているためと考えられ、この問題についてはさ
らなる研究が必要であると思われる。
本研究では、使用するステント選択の際に、胆管の浸潤範囲を示す Bismuth-Corlette
分類に基づいて均等に割り付けられていないなど、両群間で不均一な患者背景となっ
ており、今回の結果は慎重に解釈する必要がある。しかし、このことはより胆管浸潤
範囲が広いと考えられる IS 群の RBO 率が FCSEMS 群と同等であったという結果や、
IS 群では術後膵液瘻が少なかったという結果に影響を与えることはないと思われる。
今後より多くの症例と研究が必要であると思われる。
【結語】
胆管枝閉塞を考慮して挿入しなければならない FCSEMS と比較し、容易に挿入可能
な IS は RBO に差を認めず、術後偶発症は少ないため、PHCC の PBD として好ましい
と考えられる。
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