疫学レセプトデータベースを用いた日本国内におけるマクロライド系抗菌薬の使用実態調査研究、2013–2018年
概要
博士論文
疫学レセプトデータベースを用いた
日本国内におけるマクロライド系抗菌薬の
使用実態調査研究、
2013–2018年
東北大学大学院医学系研究科医科学専攻
新興・再興感染症学講座
井手
聡
目次
1. 要約 …………………………………………………………………………… 1
2. 研究背景 ……………………………………………………………………… 3
3. 研究目的 ……………………………………………………………………… 8
4. 研究方法 ……………………………………………………………………… 9
5. 研究結果 ……………………………………………………………………… 14
6. 考察 …………………………………………………………………………… 18
7. 結論 …………………………………………………………………………… 26
8. 文献 …………………………………………………………………………… 27
9. 図 ……………………………………………………………………………… 38
10. 表……………………………………………………………………………… 46
略語リスト
略語
定義
AMR
Antimicrobial Resistance
AMU
Antimicrobial Use
ASP
Antimicrobial Stewardship Program
ATC
Anatomical Therapeutic Chemical Classification System 解剖治療科学分類法
DDD
Defined daily dose
DID
DDD per 1,000 inhabitants per day
ICD
International Classification of Diseases
IQR
Interquartile range
WHO World Health Organization
日本語
薬剤耐性
抗菌薬消費量
抗菌薬の適正使用プログラム
1 日使用量
国際疾病分類
四分位範囲
世界保健機関
1. 要約
日本における抗菌薬の使用量は、他の高所得国と比較して低い水準にとどまっ
ているが、広域抗菌薬の消費割合(特に経口マクロライド系抗菌薬やβ–ラクタム系
抗菌薬)が大きいことが報告されている。広域抗菌薬の使用量の増加や不適切な使
用は、既存抗菌薬が無効である薬剤耐性菌の増加を引き起こし、医療現場において
疾病負荷となっている。薬剤耐性菌への対策がなにも実施されなければ、2050年に
は悪性腫瘍による死亡者数を上回ると予想されている。薬剤耐性への取り組みの一
つとして、マクロライド系抗菌薬の適正使用は重要な点であるが、これまで、国内
でのマクロライド系抗菌薬の使用実績について詳細な評価がなされておらず、今後
の抗菌薬適正使用の介入点がわかっていない。
そこで本研究では、マクロライド系抗菌薬の処方件数とその内訳、ならびにア
クションプラン前後におけるそれらの変化を明らかにするため、2013年1月から
2018年12月までの期間を対象に、JMDC社のクレームデータを用いて後方視的な観
察研究を行った。全内服抗菌薬およびマクロライド系抗菌薬の使用割合と、マクロ
ライド系抗菌薬が処方される疾患名や処方日数について調査した。また、アクショ
ンプラン前後3年間におけるマクロライド系抗菌薬が使用された疾患名を急性期疾患
(処方日数14日未満)と慢性期疾患(処方日数14日以上)に分けて明らかにした。マ
1
クロライド系抗菌薬の処方件数は内服抗菌薬全体の約30%程度で、うちクラリスロ
マイシンが約60%と最多であった。病名の調査では、急性期疾患では風邪症候群が
大半であり、慢性期疾患では風邪症候群に加えて、アレルギー疾患、皮膚疾患など
が含まれていた。これらの病名はアクションプラン前後で変化を認めず、アクショ
ンプランにおけるAMR対策のみではマクロライド抗菌薬の使用量を目標値まで減少
させることはできなかったため、異なるアプローチが必要である。今回用いたデー
タベースは健康保険組合のみが含まれており、日本全体を反映しているとは言えな
いことから、さらなる大規模なデータベースを用いて日本全体のマクロライド系抗
菌薬の使用実態を明らかにする必要がある。マクロライド系抗菌薬の適正使用のた
めには、今後は本来抗菌薬が不要である風邪症候群への安易な処方を控えること
や、皮膚疾患やアレルギー疾患などへの長期使用の適正評価を行う等の取り組み
を、診療所を中心に働きかける必要があると考える。
2
2. 研究背景
1940 年代にペニシリンが臨床応用されるようになって以来、多くの感染症患者
を救うことが可能となった。その後も抗菌薬の開発は目覚ましく、クロラムフェニコ
ール、エリスロマイシンなどが次々と発見され、1970 年代までは抗菌薬発見の黄金
時代と呼ばれた 1)。しかし、新規抗菌薬開発は 1980 年代がピークとなり、1990 年代
後半からは抗菌薬の承認数は減少した。この理由として、抗菌薬開発の収益性が他の
薬効群の医薬品に比べて低いこと、新規抗菌薬の創薬研究に限界が見え始めてきたこ
となどが原因として考えられている 2, 3)。そして、2000 年頃を境にして臨床現場での
抗菌薬使用量の増加、不適切な使用により既存抗菌薬が効かない薬剤耐性菌
(antimicrobial resistance; AMR)の増加が始まった 4)。AMR は世界的に大きな脅威と
なり、診療における疾病負荷となっている 5)。既に世界で 2019 年に薬剤耐性菌感染
症による死亡者数は、ヒト免疫不全ウイルス感染症/後天性免疫不全症候群やマラリ
アによる死亡者数よりも多いことが報告されている 6)。また図1の通り 7)、AMR に対
して対策がなにも実施されなければ、2050 年には薬剤耐性による死亡者数は世界で
1 千万人に上り、悪性腫瘍による死亡者数を上回ると予想されている 8, 9)。
世界保健機関(World Health Organization; WHO)は AMR の増加・蔓延という
世界的な危機に対して 2011 年の World Health Day に「Antimicrobial Resistance:
3
No Action Today, No Cure Tomorrow」という警告を出した 10)。WHO はこの警告を
通じて、AMR は世界的な脅威であり、AMR により現有の抗菌薬治療ではコントロー
ルできない感染症によって死亡リスクが高まる、医療費の高騰を引き起こす、近代医
療(臓器移植,悪性腫瘍治療,外科手術など)を困難にさせる、経済や貿易などに大
きな損失を与える等の問題を引き起こす可能性を訴えた。そして、早急にグロ―バル
レベルでの AMR 対策の取り組みが必要であると報告した。また、2015 年 5 月の世
界保健総会では、
「AMR に関するグローバル・アクション・プラン」が採択され、加
盟各国に 2 年以内の自国の行動計画の策定を求めた 11)。
これを受けて、日本政府も 2016 年に「National Action Plan on AMR」 を発表し
た 12)。ナショナルアクションでは、図 2 のように 13)、普及啓発・教育、動向調査・監
視、感染予防・管理、抗微生物剤の適正使用、研究開発・創薬、国際協力の合計 6 つ
の分野に関する目標を設定し、各分野の戦略及び具体的な取り組みを盛り込んだアク
ションプランが策定された。そして、成果指標として、ヒトへの抗微生物薬使用を減
らすこと、主な微生物の薬剤耐性率を下げることに関する数値目標が設定された
12)
。
抗菌薬の使用量と AMR との間には関連があり 14)、例として、健常人へのマクロライ
ド系抗菌薬の漫然とした使用が口腔内におけるマクロライド耐性連鎖球菌の出現を
誘発することが報告されている 15)。抗菌薬の不適切な使用は AMR 出現の要因の一つ
であることから、抗菌薬の適正使用プログラム(antimicrobial stewardship program;
4
ASP)の推進は主要戦略の一つとして挙げられている 11)。日本感染症学会による抗菌
薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンスでは、医療機関の実情に応じた独
自の ASP 策定することを推奨しており、ASP を個別展開するにあたっての基本戦略
を図 3 のように 16)、(1)抗菌薬の適正使用の体制づくり、(2)介入、(3)抗菌薬使用の最
適化、(4)微生物検査診断の利用、(5)抗菌薬の適正使用の評価測定、(6)特殊集団の選
択と抗菌薬適正使用の集中、(7)教育啓発の 7 つにまとめ、そのチェックリストが作
成されている。
図 4 に示す通り 7)、日本における抗菌薬の使用量は、他の高所得国と比較して低
い水準にとどまっている。しかし、2009 年から 2013 年までの日本における抗菌薬消
費量(antimicrobial use; AMU)のサーベイランスデータによると、経口 AMU は全
体の 92.6%を占め、経口 AMU の 77.1%が第 3 世代セファロスポリン、マクロライ
ド、フルオロキノロンなどの広域抗菌薬であった 17)。これは、外来診療での処方が多
いことを示しており、処方の必要のない疾患に対して広域抗菌薬を他国よりも処方し
ていることが考えられる。また、2016 年の抗菌薬別の使用量はマクロライド系抗菌
薬(32%)がセファロスポリン系(28%)を超えて 1 位であった
。抗菌薬使用量の
18)
単位である 1 日使用量(defined daily dose; DDD)を住民数で割った値である DID
(DDD per 1,000 inhabitants per day)は人口や抗菌薬毎の使用量の差を補正するため
に用いられるが 19)、マクロライド系抗菌薬の使用量を DID で比較すると、欧州連合
5
および欧州経済領域では 3.1(2013–2014 年)に対して、日本が 4.83(2013 年)であ
り、多く使用されていたことが報告されている 20, 21)。日本のアクションプランにおけ
る成果指標では、2013 年と比較して 2020 年の経口セファロスポリン、フルオロキノ
ロン、マクロライド系抗菌薬の使用量を 50%減少することを目標としていたが
12)
、
結果はそれぞれ 42.8%、41.5%、39.5%の減少に留まり、目標は達成できなかった 22)。
特にマクロライド系抗菌薬は使用量の減少率が最も低く、ASP の重要なターゲットで
かつ、今後も継続的な取り組みが必要であると考えられる。2016 年からのアクショ
ンプラン期間中に行われたアプローチとして、抗菌薬の意識調査、サーベイランス、
プライマリ・ケアへのガイダンス作成、抗微生物薬適正使用の手引の作成、啓発用ツ
ールやポスターの作成など様々な取り組みが行われているが 23-25)、マクロライド系抗
菌薬を対象としたアプローチはまだない。
筆者は東北大学大学院医学系研究科・連携大学院である国立国際医療研究センタ
ーの AMR 臨床リファレンスセンターにて研修を行い、抗菌薬使用量についてのデー
タベース作成に従事した。その際に内科、外科以外の抗菌薬使用量を調査したところ、
マクロライド系抗菌薬が気道感染症を診療する耳鼻科以外にも、皮膚科、泌尿器科、
整形外科、眼科など他の診療科でも広く処方されていることを明らかとした。また、
皮膚科ではロキシスロマイシンや、泌尿器科ではアジスロマイシンなど、クラリスロ
マイシン以外のマクロライド系抗菌薬が頻用されている診療科もあったが、それらが
6
使用された患者背景や病名についての情報が不足していた。そこで、今後のマクロラ
イド系抗菌薬の適正使用の推進にあたっても重要であることから、JMDC データを解
析してマクロライド系抗菌薬の使用実態を明らかにする研究に取り組んだ。
7
3. 研究目的
本研究はマクロライド系抗菌薬の処方実態を調査することで、今後、適正使用を
働きかけるべき対象や疾患を明らかにすることを目的とした。具体的には、マクロラ
イド系抗菌薬の処方件数とその内訳、ならびにアクションプラン前後におけるそれら
の変化を調査した。また、マクロライド系抗菌薬は急性上気道炎などの急性期疾患に
対して短期間使用される場合以外にも、びまん性細気管支炎や喘息といった慢性期疾
患に対して長期間使用される場合があるため、マクロライド系抗菌薬が処方される急
性期疾患と慢性期疾患について、処方される疾患名や処方日数についても調査を行っ
た。上記の想定に従い、研究前の仮説として、クラリスロマイシンは風邪症候群への
短期投与ならびに慢性気管支炎への少量長期投与が行われていると想定した。
8
4. 研究方法
(1) 研究デザインとデータソース
本研究は株式会社 JMDC(Tokyo, Japan)が保有する診療報酬の請求データのうち、
2013 年 1 月から 2018 年 12 月までのデータを対象とした後方視的観察研究である。
JMDC 社は健康保険組合より二次利用許諾を得て受領したレセプトデータ及び健診
データの匿名加工データから医療ビッグデータを構築し、製薬企業、研究機関などに
提供している会社である
26)
。JMDC データベースは複数の健康保険組合から寄せら
れたレセプト(入院、外来、調剤)および健康診断、加入者の匿名台帳データを元に
作成されている。2022 年 4 月の時点で累積加入者数は 1400 万人となっており、日本
の人口約 10%をカバーしている 26, 27)。対象年齢は 0 歳から 75 歳までであるが、特性
上、生産年齢人口である 15–65 歳が多く登録されている。データは複数のデータセッ
トに分かれており、患者情報(患者 ID、生年月日、性別)、施設情報(医療施設 ID、
ベッド数コード、診療科コード、経営体コード)、レセプト(患者 ID、診療年月、医
療施設 ID,診療科コード)、傷病情報(患者 ID、診療年月、医療施設 ID、International
Classification of Diseases, 10th Revision (ICD–10)コード)、医薬品情報(患者 ID、
診療年月、医療施設 ID、Anatomical Therapeutic Chemical Classification System(ATC)
コード、1 処方あたりの投与量・日数、投与経路)、処方状況(入院・外来)などの情
9
報から構成されている。日本における抗菌薬の使用は内服抗菌薬が中心であること、
外来での処方割合が多いことから 17)、本研究では外来処方かつ経口抗菌薬のコードの
み を 抽 出 し た 。 抗 菌 薬 の 系 統 分 類 や 成 分 名 は WHO に よ る ATC シ ス テ ム
(https://www.whocc.no/atc_ddd_index/)を用いた。
(2) JMDC データ分析のプロセス
JMDC のデータセットを患者 ID または医療施設 ID で紐づけし、全身性抗菌薬
(ATC: J01)が使用されたものを抽出した。さらにマクロライド系抗菌薬(ATC:
J01FA)のみを対象としたデータベースを作成した。本研究における研究対象期間内
に使用された内服マクロライド系抗菌薬は、エリスロマイシン(J01FA01)
、スピラマ
イシン(J01FA02)、ロキシスロマイシン(J01FA06)、ジョサマイシン(J01FA07)、
クラリスロマイシン(J01FA09)、アジスロマイシン(J01FA10)、ロキタマイシン
(J01FA12)の合計 7 種類であった。このうち、ジョサマイシン、スピラマイシン、
ロキタマイシンの使用量はわずかであることから、その他のマクロライド(other
macrolides)としてまとめた。
マクロライド系抗菌薬の使用病名の実態ならびに、アクションプラン前後におけ
る使用病名の変化を調査するため、使用されたマクロライド系抗菌薬の種類と、つけ
られた病名の一覧を作成し、患者 ID と診療年月のユニーク数を計算した。JMDC デ
10
ータベースの母数は年々増加しており、年間の使用量を件数で比較することが困難で
あることから、本研究では各項目の割合を用いて結果を示した 27, 28)。
(3) 変数の定義
日本では国民医療費のほとんどが国民健康保険でカバーされているが、子供に関
しては自治体からも医療補助が受けられる。自治体の医療費助成による抗菌薬処方の
割合の違いや学齢、先行研究での区分などを考慮し、患者を 0–3 歳、4–6 歳、7–12 歳、
13–18 歳、19–29 歳、30–39 歳、40–49 歳、50–59 歳、60–69 歳、70–75 歳の 10 区分
に分類し、それぞれの年齢におけるマクロライド系抗菌薬の処方の割合を調べた
27)
。
マクロライド系抗菌薬は多くのグラム陽性球菌と一部のグラム陰性桿菌
(Bordetella pertussis、Helicobacter pylori、Campylobacter jejuni など)、非定型病原
菌(Mycoplasma pneumoniae、Legionella pneumophila、Chlamydophila pneumoniae、
Babesia microti, Ureaplasma spp.)、非結核性抗酸菌に活性を有する 29-31)。それぞれの
疾患や重症度、免疫不全などの背景疾患によって必要となる抗菌薬の投与日数は大き
く異なり、一部の疾患では最適な治療期間が決まっていないが、重症 M. pneumoniae
肺炎や、免疫不全者の Legionella 肺炎では最長 14 日のマクロライド系抗菌薬の投与
が検討されるとの記載もあり 32, 33)、本研究では処方日数が 14 日未満であった疾患名
を急性期疾患、14 日以上であった疾患名を慢性期疾患と定義した。
11
(4) 統計学的分析
はじめに、2013 年から 2018 年における全抗菌薬および、マクロライド系抗菌薬
の処方割合を明らかにした。次に、アクションプラン前後 3 年間(2013 年–2015 年
と、2016 年–2018 年)におけるマクロライド系抗菌薬が処方された基本情報を明らか
にした。最後に、アクションプラン前後 3 年間におけるマクロライド系抗菌薬が処方
された疾患名を急性期疾患と慢性期疾患に分けて明らかにした。
連続変数については中央と四分位範囲(interquartile range; IQR)、カテゴリー変
数については割合(%)を計算した。図 6、7 については Cochran-Armitage 検定を
行った。表 1 の年齢については Mann-Whiteney の U 検定、男性、年齢群、専門
家、医療施設の種類についてはカイ 2 乗検定を行った。年齢群、専門家、医療施設
の種類についてはどの項目が有意差をもたらしたのかを明らかにするために、年齢
群、専門家、医療施設の種類について残差分析を行った。有意水準は 0.05 と定め
た。全ての分析は、Stata/MP 17.0 software (StataCorp LLC, College Station, TX,
USA)を用いた。
(5) 倫理的配慮
本研究は、公開されている患者の個人情報を取り扱わないデータベース研究であ
12
るため、倫理審査は不要と判断した。
13
5. 研究結果
(1) 2013 年から 2018 年において処方された抗菌薬の割合の変化
2013 年から 2018 年までに年別で処方された全抗菌薬の種類の処方件数を図5、
割合を図6に示した。図5の通り、JMDC データベースへの登録件数が年々増加して
いる影響もあり抗菌薬の処方件数自体も増加し、マクロライド系抗菌薬の処方件数も
2013 年は 958,028 件に対して 2018 年は 1,939,474 件と約 2 倍となっていたため、図
6のように割合での比較を行った。件数の割合は、セファロスポリン系抗菌薬、マク
ロライド系抗菌薬で減少し(p<.001)、キノロン系抗菌薬、ペニシリン系抗菌薬は増加
(p<.001)していた。
2013 年から 2018 年までに年別で処方されたマクロライド系抗菌薬における種
類の割合を図7に示した。クラリスロマイシンの割合が全ての年において 60%以上
と最多であった。クラリスロマイシンは負の相関(減少)、アジスロマイシン、ロキシ
スロマイシン、エリスロマイシンは正の相関(増加)を示した(いずれも p<.001)。
(2) 2013 年から 2018 年における、年齢群毎のマクロライド系抗菌薬の処方割合の
変化
2013 年から 2018 年までのすべての期間のマクロライド系抗菌薬の処方件数を
14
年齢群に分けた結果を図 8 に示した。クラリスロマイシンの処方はおおよそどの年代
別でも 60%以上となっており、60%以下であった 0–3 歳は代わりにエリスロマイシ
ン(19.4%)、19–29 歳は代わりにロキシスロマイシン(14.3%)の処方割合が他の年齢
群と比較して多かった。ロキシスロマイシンの処方割合は 13–18 歳、19–29 歳で高く、
以降は減少傾向であった。アジスロマイシンの処方割合は 19–29 歳、30–39 歳で 25%
を超えて特に高い結果であった。
(3) アクションプラン前後 3 年間におけるマクロライド系抗菌薬が処方された基本
情報
次に研究対象期間全体(n = 13,657,028)と、2013–2015 年(n = 5,242,369)、2016–
2018 年(n = 8,414,659)にマクロライド系抗菌薬が処方された結果を表 1 に示した。
全体では男性が 6,505,157 件(47.4%)で、年齢の中央値(IQR)は 39 歳(16–54 歳)
であった。年齢を 10 歳毎の区分で分けると、30 歳代以降(70–75 歳を除く)の群は
それぞれ 10%を超えており、50–59 歳代が 2,276,643 件(17.1%)と最も多かった。受
診した診療科は内科が 6,889,473 件(50.4%)と最多であり、次いで耳鼻咽喉科が
1,216,313 件(8.9%)、小児科 907,866 件(6.6%)であった。医療機関の種類では診
療所が 8,963,226 件(65.6%)と処方の過半数であった。507 件はデータが欠損して
いた。
15
2013–2015 年と 2016–2018 年における比較では、0–3 歳、4–6 歳、7–12 歳がそ
れぞれ 8.1%, 6.6%, 8.7%から 6.5%, 5.4%, 8.0%に減少しており、対して 40–49 歳、
50–59 歳、60–69 歳がそれぞれ 16.2%、16.1%、11.2%から 16.9%、17.8%、12.6%に
増加していた(p<.001)。また、耳鼻科と小児科の処方件数の割合はそれぞれ 9.5%,
7.0%から 8.5%, 6.4%に減少した(p<.001)。医療機関の種類としては診療所が 67.0%
から 64.8%に減少し(p<.001)、代わりに大学病院が 6.1%から 7.5%に増加した
(p<.001)。 ...