リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「心房細動患者における腸内細菌叢の変化と食事・薬剤の影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

心房細動患者における腸内細菌叢の変化と食事・薬剤の影響

Tabata, Tokiko 神戸大学

2020.09.25

概要

【背景】
腸内細菌は宿主の代謝と免疫機能に影響を与え、腸内細菌自身やその代謝産物が種々の疾患の病態において重要な役割を担っていることが報告されている。

心房細動は、高齢者で最も頻度の多い不整脈であり、超高齢社会の日本において患者数の増加は著しく、心不全や脳梗塞のリスクを増加させ、罹患者の生活の質を低下させる。すでに腸内細菌叢との関連が報告されている肥満・2 型糖尿病・高血圧は、心房細動の独立したリスクファクターである。また、腸内細菌菌体毒素のリポポリサッカライド(LPS)や腸内細菌代謝物である Trimethylamine-N-oxide(TMAO)、インドキシル硫酸(IS)は心房の電気学的不安定性を増加させ、心房細動の発症と関連することが報告されている。本研究では、心房細動患者における腸内細菌叢の調査を行い、さらにその腸内細菌叢の変化に関連する食事や内服薬の影響についても合わせて検討した。

【方法】
神戸大学医学部附属病院に、心房細動カテーテルアブレーション治療を目的に入院した患者 34 名をエントリーし、国立医薬基盤健康栄養研究所(NIBIOHN)により収集されている日本人の腸内細菌叢と食事との関連調査研究のデータベースより患者と年齢・性別・併存疾患の背景を一致させた 66 名を選んでコントロールとした。腸内細菌叢については、糞便より腸内細菌の DNA を抽出し、細菌 16SrRNA の PCR 産物をランダムシークエンスにて解析する腸内細菌メタゲノム解析を行った。食事内容に関しては簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)を用いて、各栄養素の摂取量を算出し、腸内細菌叢と共に 2 群間での比較検討を行った。

【結果】
コントロールを年齢、性別、高血圧・糖尿病・脂質異常症の罹患率をマッチさせて選出したが、内服薬に関しては完全に一致させることが困難であり、抗凝固薬・胃薬プロトンポンプ阻害薬 (PPI)・β遮断薬や抗不整脈薬は心房細動患者で多く使用されていた。

腸内細菌叢の多様性の中でも、菌種の均等性を示す Shannon index [各菌種の存在比率が偏らずに、均等になれば高い値になる指標]には2群間で差はなかったが、菌種の豊富さ(richness)の指標である Chao1 index [菌の種類が多ければ高い値になる指標]は心房細動患者で有意に低下を認めた(control 1392 [1078-1660] vs. AF 1200 [1059-1454], p=0.03)。属レベルの解析で、存在割合が上位の 25 菌の中では、Enterobacter 属が心房細動患者で有意に低下していた一方で、Parabacteroides 属、Lachnoclostridium 属、 Streptococcus 属や Alistipes 属が増加していた。存在割合は少ないが Butyricimonas や Dorea も心房細動で増加していた。

すでに報告のある胃薬 PPI 内服による腸内細菌叢への影響を検討するため、PPI 内服患者と非内服患者で腸内細菌叢を比較した。既報と同様に Streptococcus 属と Lactobacillales 目が PPI 内服患者で増加していた。これらは PPI が胃酸分泌を抑制し、胃内の pH を上昇させることによって口腔内細菌の殺菌作用が減弱して糞便まで移行することで、口腔内細菌の糞便中での存在割合が増加する結果だと考えられる。

栄養に関しては、エネルギーや水分摂取量、電解質・ビタミンの摂取量は 2 群間での有意差はなかったものの、心房細動患者はコントロールに比して動物性脂肪によるエネルギー摂取が多い傾向を認めた。中でも青魚などに豊富に含まれている n-3 不飽和脂肪酸の摂取が心房細動患者群で増加していた。食事中の脂肪摂取割合と門レベルの主要な腸内細菌との関連を調べたところ、Firmicutes 門の存在割合と脂肪摂取、特に動物性脂肪の摂取と正の相関関係を認め、一方で Bacteroidetes 門の存在割合とは弱い逆相関を認めた。

【論考】
我々は、横断研究により心房細動患者の腸内細菌叢では菌種数の指標となる Chao1 index が低下し、属レベルでは Enterobacter 属が減少し、Parabacteroides 属、 Lachnoclostridium 属、Streptococcus 属、Alistipes 属や Dorea 属が増加することを見出した。

腸内細菌叢の菌種数の低下は、心房細動のリスクファクターであるインスリン抵抗性や炎症などとの関連がすでに報告されており、心房細動を含む慢性炎症性疾患の発症自身、さらにはその発症基盤と関連している可能性がある。

Streptococcus 属の増加に関しては、胃薬 PPI 内服による胃酸分泌低下に伴って糞便中に口腔内細菌の存在割合が増加することが原因と考えらえる。しかし、Streptococcus 属や Dorea 属の増加は、心房細動患者における腸内細菌叢の変化を報告した先行研究にも同様の結果が報告されている。また、高血圧症・心不全・冠動脈疾患でも同様の報告があることから、これらの菌が心疾患の病態に何らかの影響を及ぼしている可能性は否定できない。さらに、これらの菌の増加は血中・糞便中インドールの上昇との関連が示されてお り、インドールは宿主の肝臓により IS に変換され、IS は肺静脈や心房の電気学的不安定性を誘発し、心房細動の発症に関わると報告されている。

本研究の中で明らかになった心房細動で増加している菌の一部は、TMAO の産生に関わることが報告されている。TMAO は、心血管イベントの発生と血中濃度が正の相関を示すことが報告されており、循環器領域では最も注目される腸内細菌関連代謝物である。逆に唯一減少している Enterobacter 属は TMAO を分解することが示されている。これらの菌叢の変化が TMAO の増加に関わり、結果的に心房細動の発症に関わる可能性がある。

腸内細菌叢は食事の影響を受けやすく、既報と同様に我々の検討でも食事中脂肪摂取と主要な腸内細菌である Firmicutes 門・Bacteroidetes 門の存在割合との関連を示してい る。中でも食事中の n-3 不飽和脂肪酸が Enterobacteriaceae 科を減少させるとの報告から心房細動患者の n-3 不飽和脂肪酸摂取が多いという食習慣が菌叢に影響を及ぼし、結果として病態に影響した可能性も考えられる。食習慣の改善によって、腸内細菌叢の dysbiosisが改善し、疾患に悪影響を及ぼす腸内細菌代謝産物が減少に転じることにより、心房細動のカテーテルアブレーション後の再発を抑制するのみではなく、健常者においても食習慣による心房細動予防を行える可能性があると考える。

【結論】
心房細動患者における腸内細菌叢の特徴を明らかにし、これらの菌叢の変化は食習慣の影響を受けている可能性を示した。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る