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大学・研究所にある論文を検索できる 「母乳を介したω3脂肪酸摂取による仔マウス皮膚アレルギーの制御機構」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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母乳を介したω3脂肪酸摂取による仔マウス皮膚アレルギーの制御機構

Hirata, So-ichiro 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景・目的】脂質はエネルギー源や生体膜成分として使用されるだけではなく、脂質メディエーターとして免疫応答を含む様々な生体応答に関わることが知られている。多くの脂質は日常的に摂取する食用油から供給されるが、その脂肪酸組成は製造に用いる原料により大きく異なる。例えば、大豆油にはω6 多価不飽和脂肪酸 (PUFA)であるリノール酸、亜麻仁油にはω3 PUFA である α リノレン酸、オリーブ油にはオレイン酸といった脂肪酸が豊富に含まれている。脂肪酸の中でもω3 PUFA とω6 PUFA は必須脂肪酸と呼ばれ、哺乳動物の体内では合成できないため、食事による免疫制御に大きな影響を与える可能性が提唱されている。これまでに当研究室では、ニワトリ卵白アルブミンをアレルゲンに用いた食物アレルギーマウスモデルを用いた解析から、ω3 PUFA である α リノレン酸を多く含む亜麻仁油の摂取により食物アレルギーを抑制可能であることを報告している (Kunisawa, J. et al. Sci. Rep. 2015)。さらに質量分析技術を用いたリピドミクス解析により、亜麻仁油による食物アレルギーの制御因子は、ω3 PUFA であるエイコサペンタエン酸 (EPA) 由来の代謝物の一つである 17,18-エポキシエイコサテトラエン酸 (EpETE) であることを見出した。引き続き行った研究から、17,18-EpETE は皮膚炎に対しても有効であることをマウスやカニクイザルを用いた接触皮膚炎モデルから明らかにしている (Nagatake, T. et al. J. Allergy Clin. Immunol. 2018)。また最近では EPA だけではなく、EPA の脂肪酸鎖長が伸長されたドコサペンタエン酸 (DPA)、さらに不飽和化が進んだドコサヘキサエン酸 (DHA) 由来の代謝物が抗炎症活性を持っていることが報告されつつあり、各脂質代謝物が持つ機能の解明と創薬シーズの開発が期待されている。一方で複数のコホート研究により、母乳中のω3 PUFA が乳幼児アレルギーの発症を抑制する可能性が示唆されているが、因果関係の有無やメカニズムについては明らかとなっていない。そこで本研究では、母体が摂取するω3 PUFA による仔マウスの皮膚アレルギー制御とその作用機序を明らかにすることを目的とする。

【方法・結果】ω3 PUFA が豊富な亜麻仁油もしくは通常の市販餌に用いられるω6 PUFA が豊富な大豆油を含む餌で飼育したマウスから生まれてきた仔マウスに対する接触皮膚炎の症状を解析した。ジニトロフルオロベンゼン(DNFB)をアレルゲンとして腹部皮膚へ感作、耳介皮膚へ惹起した際に誘導される耳介皮膚の腫れを測定したところ、亜麻仁油群では耳の腫れが抑制されていた。接触皮膚炎は DNFB のようなハプテンに暴露された皮膚中の樹状細胞により、ハプテン特異的な CD8 陽性 T 細胞が活性化され、IFN-γ が産生されることにより表皮に細胞間浮腫が引き起こされるアレルギー疾患である。また CD8 陽性 T 細胞を活性化する細胞として、樹状細胞、好中球やマクロファージが関与することが報告されている。一方で CD8 陽性 T 細胞の活性化を抑制する制御性 T 細胞や形質細胞様樹状細胞のような免疫寛容性の細胞も報告されている。そこでこれらの免疫細胞の数や分布、機能分子の発現をフローサイトメトリー解析や定量 PCR 法にて検討したところ、亜麻仁油群では接触皮膚炎増悪の主要な役割を担う皮膚中の IFN-γ産生 CD8 陽性 T 細胞が減少していた。さらに過去の報告から CD8 陽性 T 細胞の活性化を抑制しうる候補分子の発現を検討したところ、これまでに CD8 陽性T 細胞のアポトーシスや活性化の阻害を誘導することが示されている TNF 関連アポトーシス誘導リガンド (TRAIL) 分子の発現が、亜麻仁油群の皮膚中に存在する形質細胞様樹状細胞 (pDC) において上昇していた。また TRAIL 阻害抗体の投与により、亜麻仁油による接触皮膚炎の抑制効果がキャンセルされたことから、母体亜麻仁油摂取による仔マウス接触皮膚炎の抑制効果は、pDC における TRAIL の発現誘導を介していることが示唆された。次に里子実験により出産直後に親子を入れ替えたところ、亜麻仁油群の母マウスに大豆油群の仔マウスを哺乳飼育させることにより、仔マウス皮膚中の pDC における TRAIL の発現誘導を伴う接触皮膚炎の抑制が観察された。よって母体亜麻仁油摂取による仔マウス接触皮膚炎の抑制効果は、母乳中因子が重要であることが示唆された。そこで母乳中の3 PUFA を高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置 (LC-MS/MS) により測定したところ、亜麻仁油群では DPA が多く検出された。そこで DPA の抗アレルギー効果を検証する目的で、DPA を仔マウスへ腹腔内投与したところ、予想に反し仔マウスでの接触皮膚炎は抑制されなかった。一方で、大豆油で飼育した母体へ DPA を腹腔内投与することにより、仔マウス pDC における TRAIL の発現誘導を伴う接触皮膚炎の抑制が認められたことから、母体で産生される DPA 由来代謝物が、仔マウス接触皮膚炎抑制因子である可能性が示唆された。そこで仔マウス血清中の DPA 由来代謝物を LC-MS/MS により測定したところ、亜麻仁油群では DPA の 12-lipoxygenase (12-LOX) 代謝物である 14-HDPA が特徴的に検出された。次にリコンビナントの 12-LOX と DPA を反応させ脂質画分を抽出した 14-HDPAを含む DPA の 14-lipoxygenation 代謝物は、in vitro にてヒト pDC 株における TRAIL の発現を直接顕著に上昇させた。そこで次に 14-HDPA が母乳で産生されるメカニズムを検証するため、授乳期乳腺における脂肪酸代謝酵素の mRNA 発現レベルを定量 PCR 法にて検討した。一般に脂肪酸代謝が盛んな臓器として知られている肝臓をコントロールとして授乳期乳腺と比較したところ、授乳期乳腺においては、EPA から DPA へと変換する Elovl5 mRNAの発現が肝臓と比較して高い一方で、DPA の鎖長を伸長しテトラコサペンタエン酸へと代謝する酵素である Elovl2 mRNA の発現レベルは顕著に低かった。また DPA から 14-HDPAを産生する 12-Lox mRNA の発現は授乳期乳腺と肝臓で同等であった。よって授乳期乳腺では肝臓と比較してDPA と 14-HDPA を中心とする 14-lipoxygenation 代謝物が産生、蓄積しやすい臓器であることが示唆された。

【結論】母体が亜麻仁油を摂取することにより、乳腺における酵素環境により母乳中に DPAが蓄積すると共に 14-HDPA などの 14-lipoxygenation 代謝物が産生される。これら DPA の 14-lipoxygenation 代謝物は母乳を介して仔マウスへ移行し、皮膚中の pDC における TRAILの発現を上昇させ、IFN-γ産生 CD8 T 細胞を減少させることで、接触皮膚炎を抑制すると考えられた。これらの知見は母子栄養を介した乳幼児アレルギーの制御において、有用な基礎的情報であり、新たな乳幼児アレルギー予防・改善法の開発につながると期待される。

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