Discrepancy between volume and functional recovery in early phase liver regeneration following extended hepatectomy with extrahepatic bile duct resection
概要
【緒言】
肝切除後の肝再生に関して、術後早期の肝再生を評価した報告は少なく、肝外胆管切除を伴った肝切除に関しては報告がない。また、術前門脈塞栓術はあらかじめ残肝容積を増大させるための手技であるが、この手技が肝切除後の肝再生や肝機能にどのように影響するかは知られていない。
肝再生に関しては、門脈塞栓術後の増加率が術後の合併症率や死亡率を予測することが知られている。しかし、肝切除後早期の肝再生に関して同様の検討をした報告はない。さらには、肝不全に関連する因子と肝再生との相関については解明されていない。
本研究の目的は門脈塞栓術及びそれに連なる広範囲肝切除後の肝再生について検討することである。肝再生に関連した臨床因子を検討し、また、肝再生と肝不全に関連する因子との相関から肝再生と肝機能の関係について検討する。
【対象及び方法】
2001 年 1 月から 2014 年 12 月までに肝門部領域胆管癌に対して門脈塞栓術の後に肝外胆管切除を伴う広範囲肝切除(肝右葉、肝右三区域、肝左三区域)を施行した 289 例を対象とした。
肝容積は CT 画像を元に専用のソフト(Vincent®, 富士フィルム, 東京)を用いて測定した。予定残肝容積(Future liver remnant volume: VFLR)は、計画された術式に基づいて計算し、門脈塞栓術(Portal vein embolization: PVE)前、手術前、術後 7 日目(Post- operative day 7:POD7)に撮影した CT を用いた。肝再生率(Growth rate: GR)は門脈塞栓術及び手術施行前の肝容積に対する術施行後の増加率で表した((GR= VFLR after PVE or operation-VFLR before PVE or operation)/ VFLR before PVE or operation×100[%])。さらに日当たりの増加率(Kinetic growth rate: KGR)を計算した。
臨床因子は後方視的に収集した。術後肝不全のマーカーとして血清総ビリルビン値と PT-INR を測定し、術後肝不全は International Study Group of Liver Surgery(ISGLS)による定義の grade B 以上を臨床的に有意とした。連続値は中央値と四分位範囲で示した。単変量、多変量解析を用いて KGRPVE、KGRPOD7 に影響を与える因子を解析した。多変量解析は単変量解析で p<0.2 を満たす因子を用いて行った。
【結果】
289 例中、肝右葉切除は 134 例(46%)、右三区域切徐は 34 例(12%)、左三区域切除は 121 例(42%)に施行された。膵頭十二指腸切除を併施したのは 50 例(17%)、門脈、肝動脈を含めた血管合併切除は 131 例(45%)で施行された。
門脈塞栓術前の予定残肝容積は 362(301-456)ml、門脈塞栓後は 450(388-556)mlであった。残肝容積は術後 7 日目に 609(524-727)ml まで増大した。日当たりの増加率(KGR)で表すと KGRPVE は 1.35(0.58-2.08)%、KGRPOD7 は 5.56(2.87-7.96)%で
あった。
術前の血清総ビリルビン値は 0.7(0.5-0.9)mg/dl であった。術後 1 日目に 2.5(1.7- 3.6)mg/dl まで上昇し、7 日目まで次第に低下した。術前の PT-INR は 1.01(0.96-1.06)で、術後 1 日目に 1.63(1.47-1.84)まで上昇し、7 日目まで次第に低下した(Figure 1)。
術前、術中因子と KGR の相関を見たところ、単変量解析で KGRPVE と有意差を認め たのは術前胆管炎の有無及び、門脈塞栓領域の割合であった。多変量解析では門脈塞栓領域の割合のみが有意差を認めた(Table 1)。一方、KGRPOD7 と有意差を認めたのは、単変量解析では年齢、血清アルブミン値、血清コリンエステラーゼ値、肝切除率であった。多変量解析では血清アルブミン値と肝切除率で有意差を認めた(Table 2)。実際に KGRPOD7 は肝切除率と有意な相関を認めた(相関係数: 0.436, p<0.001)(Figure 2A)。また、KGRPVE と KGRPOD7 は負の相関を認めた(相関係数: -0.182, p=0.002)(Figure 2B)。KGRPVE と KGRPOD7 は共に、術後の合併症率、死亡率に関連しなかった。
術後肝再生と肝機能の関係を見るため、KGRPOD7 と術後肝不全の指標である血清総ビリルビン値、PT-INR との相関を検討したところ、相関係数はそれぞれ 0.069(p=0.241)、と 0.005(p=0.938)で有意な相関を認めなかった(Figure 3)。肝不全のない群と grade B 以上の肝不全を起こした群の 2 群で KGR を比較したところ、KGRPV(E 1.37 vs. 1.25%, p=0.355)及び、KGRPOD7(6.04 vs. 5.07%, p=0.104)の両者ともに有意差を認めなかった。
術後肝不全に影響する因子を検討した。grade B 以上の肝不全を起こしたのは 110 例(38%)で、膵頭十二指腸切除が併施されている割合が高かった。連続変数では、年齢、インドシアニングリーンクリアランステスト、CRP、血清コリンエステラーゼ、手術時間、出血量などに有意差を認めた。多変量解析では年齢、手術時間、出血量に有意差を認めた。しかし、KGRPVE、KGRPOD7 の両者は肝不全と有意な関連を認めなかった(Table 3)。
【考察】
本研究は通常の肝切除より高侵襲である肝外胆管切除を伴う広範囲肝切除例を対象とした。その結果、KGRPVE に最も影響を与えるのは門脈塞栓領域の割合で、KGRPOD7に最も影響を与えるのは肝切除率であることが示され、他の因子の影響は少ないことが明らかになった。この事実は、肝外胆管切除を伴わない肝切除に関する過去の報告とも一致していた。また、KGRPVE と KGRPOD7 には負の相関があり、門脈塞栓術で増大した肝臓は、肝切除後に再生しにくいことが示された。過去の報告では、KGRPVE は術後の合併症率や死亡率に関連するとされていたが、本研究では KGRPVE、KGRPOD7 の両者ともに術後の合併症率や死亡率に関連しなかった。
KGRPOD7 は、術後肝不全の指標である血清総ビリルビン値や PT-INR と有意な相関を示さなかった。このことは術後早期の肝容積の変化が肝機能の回復とは直接的に関連していないことを示している。術後早期の肝容積の変化は肝細胞の増加だけでなく、浮腫などの影響を受けている可能性がある。肝容積と肝機能の関係についてはさらなる検討が必要である。
【結論】
肝外胆管切除を伴う肝切除の早期肝再生は肝切除率に最も影響を受けた。また、肝再生と肝不全に関連する因子との間に相関は示されなかった。術後肝不全は肝容積の変化と関連せず、肝再生と肝機能には直接的な関連がないことが示唆された。