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大学・研究所にある論文を検索できる 「早産児マウス敗血症モデルを用いたヒトリコンビナントトロンボモジュリンの敗血症保護効果の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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早産児マウス敗血症モデルを用いたヒトリコンビナントトロンボモジュリンの敗血症保護効果の検討

Ashina, Mariko 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景と目的】
新生児敗血症は全身性の細菌感染と続発する多臓器不全を本体とする致死的疾患である。特に早産児は正期産児と比較して敗血症致死率が高く、神経学的後遺症を残しやすい。新生 児敗血症の病態には、免疫応答の未熟性の影響が推察されていが、近年、炎症応答制御において、既知のサイトカインやケモカインに加えて、脂質メディエーター(Lipid mediators; LMs)の重要性が注目されている。LMs には炎症性と抗炎症性の相反する作用があり、LMs の作用のバランス調節の破綻が新生児敗血症の病因の一端を担っている可能性がある。

敗血症治療に関して、現在、成人および正期産新生児を含む小児の治療ガイドラインはあるが、早産児敗血症の治療に関するガイドラインはない。早産児敗血症治療において、抗生剤単独治療では効果は不十分であり、グロブリンなどの補助療法も効果は証明されていない。一方、日本において DIC 治療薬として使用されている recombinant human thrombomodulin (rhTM) は、DIC を合併した成人敗血症患者において、有意に死亡率を低下させることが多施設無作為化比較試験で示されている。rhTM はトロンビンと複合体を形成することで抗凝固作用を発揮する。加えて、ICAM-1 発現の抑制、PAR-1 の活性化、エンドトキシンの中和、および HMGB-1 の吸着溶解などを介した rhTM の抗炎症作用が、近年注目されている。以上より、抗凝固および抗炎症作用を有する rhTM は、合目的な敗血症治療薬と考えられる。更に注目すべきことに、白幡らは、本邦の市販後調査を解析した結果、正期産新生児DIC に対する rhTM の安全性と有効性は、小児および成人患者の成績に劣らないことを報告している。

しかしながら、早産児敗血症治療としての rhTM の有効性は明らかではない。 更に、これまでに、新生児敗血症におけるLMs 動態に関する研究報告はない。そこで、早産児敗血症に対する rhTM の効果を明らかにするために、早産児マウス敗血症モデルを用いて、 rhTM 皮下投与による敗血症保護効果および LMs 動態を検討した。

【対象と方法】
本研究は神戸大学の動物実験委員会(P160608)の承認のもと行った。
早産児マウス敗血症モデルは、既報に基づき糞便懸濁液投与法(Cecal Slurry(CS)法)を用いて作成した。CS 保存液の作成は、成獣マウスから虫垂を摘出し、その内容物を 15% glycerol-PBS に溶解してCS(100mg/ml)を作成し、1ml 毎に分注し-80℃で保存した。敗血症誘導時にCS 保存液を室温で解凍し、CS 保存液 50 μL を 1.5%agar を含む brain/ heart infusion(BHI) broth を用いて 37℃で 24 時間培養し、Colony Forming Unit(CFU)を計測した。全実験を通して、CFU の平均値は 5.2 ± 1.2 × 105 CFU/mL であった。ついで、免疫学的にヒト早産児相当である 4 日齢の FVB/NJcl 新生仔マウスに、異なる容量の CS を腹腔内投与して敗血症を誘導し、投与後 7 日間の死亡率を検討した。以降は、80%致死量 (LD80)となる CS 投与量(1.5mg/g 体重)で敗血症誘導を行った。

rhTM の敗血症保護効果の検討に関しては、敗血症誘導 6 時間前に、rhTM 3.0 mg/kg(rhTM3-CS)または 10.0 mg/kg(rhTM10-CS)、同量の生理食塩水(Veh-CS)を 4 日齢マウスに皮下投与し、6 時間後に CS 1.5mg/g 体重を腹腔内投与した。Non-septic controlとして、生理食塩水を皮下投与 6 時間後に生理食塩水を腹腔内投与した Veh-Veh 群を別に作成した。これら 4 群につき、投与後 24 時間の体重変化率、7 日間の死亡率を検討した。

血液ガス分析は、敗血症誘導 3 時間後に新生仔マウスを安楽死し、ABL 90 FLEX 血液ガス分析装置を用いて測定した。LMs 解析は、敗血症誘導 3 時間および 6 時間後に、新生仔マウスを安楽死し、摘出した肝臓を約5×5×1mm の小片に切り分け液体窒素で凍結させ、保存した肝臓サンプルを氷冷メタノール下でホモジナイズし、液体クロマトグラフィー質量分析法にてLMs を測定した。

統計解析は、Kaplan–Meier survival curves において log-rank tests を、2 群間の比較には unpaired Student’s two-tailed t-test、Mann–Whitney U-test 、Chi-square test を用いた。p<0.05 の場合に、統計学的に有意差ありとした。

【結果】
早産児マウス敗血症モデルにおける rhTM の保護効果
生存した新生仔マウスにおける、敗血症誘導 24 時間後の体重変化率の比較検討では、 Veh-CS 群(1.7±4.1%,n = 5)、rhTM3-CS 群(1.9±4.3%, n = 11)、rhTM10-CS 群(2.3±1.8%, n = 6)となり、各群間に有意差を認めなかった。しかしながら、これらの群は、Veh-Veh 群 (28.9 ± 4.9%, n=7, p<0.0001)と比較して体重増加率が有意に低かった。

敗血症誘導 3 時間後では、Veh-Veh 群と比較して Veh-CS 群が、乳酸、アニオンギャップ、血糖の値が有意に高かった。一方、Veh-Veh 群と比較して rhTM3-CS および rhTM10- CS 群は、血糖値が有意に高く、pH が有意に低かった。また、Veh-CS 群と比較して rhTM10- CS 群は、乳酸およびアニオンギャップの値が有意に低く、pCO2 が有意に高かった。

Veh-CS(79%, n = 11)、rhTM3-CS(47%, n = 17)、および rhTM10-CS(100%, n = 16)群の死亡率は Veh-Veh 群の死亡率よりも有意に高かった(0%, n=7, p=0.003, p=0.04, p<0.0001)。また、rhTM3-CS 群の死亡率は、Veh-CS 群よりも有意に低かった一方、rhTM10-CS 群の死亡率は、Veh-CS 群よりも有意に高かった。

早産児マウス敗血症モデルにおける LMs 動態
rhTM 3.0 mg/kg の前投与では死亡率の改善を認めたが、rhTM 10.0 mg/kg の前投与では敗血症保護効果を認めなかったため、以降の研究は rhTM3-CS 群のみを用いた。敗血症誘導 3 時間後において、Veh-CS 群では、2 種のエイコサペンタエン酸(EPA)由来の LM
(12-HEPE、EPA)、3 種のドコサヘキサエン酸(DHA)由来の LM(14-HDHA、DHA 、 PD1)、および6 種のアラキドン酸(AA)由来LM(PGD2、15 d-PGJ2、12S-HHT、lipoxinB4、 12-HETE、AA)が、Veh-Veh 群と比較して有意に上昇した。 敗血症誘導 6 時間後において、Veh-CS 群では、3 種の EPA 由来 LM(5-HEPE、15-HEPE、18-HEPE)および 2 種の DHA 由来 LM(17-HDHA、PD1)が、Veh-Veh 群と比較して有意に上昇した。

敗血症誘導 3 時間後において、Veh-CS 群の EPA、DHA、12S-HHT、lipoxinB4 の上昇は、rhTM 前投与によって有意に抑制された。また、敗血症誘導 6 時間後においては、rhTM前投与により、EPA のみが Veh-CS 群と比較して有意に上昇した。また、non-septic control (Veh-Veh)群からの LM の変化量を ΔLM とした場合、敗血症誘導 3 時間後において、ΔEPA、 ΔDHA、ΔAA、Δ12S-HHT、および ΔlipoxinB4 は、rhTM3-CS 群がVeh-CS 群と比較して有意に低かった。 しかしながら、敗血症誘導 6 時間後において、ΔEPA は、rhTM3-CS 群が Veh-CS 群と比較して有意に高かった。

【考察】
本研究では、早産児マウス敗血症モデルにおいて、敗血症誘導 6 時間前にrhTM 3mg/kgを皮下投与することで、血液ガス値および死亡率の改善を認め、rhTM の敗血症保護効果を明らかにした。また、敗血症誘導 3 時間および 6 時間後に複数の炎症性 LMs の上昇を認め、これらのうち幾つかの LMs において、敗血症誘導 3 時間後の LMs の上昇が rhTM 前投与により抑制されることを明らかにし、早産児敗血症の病態に LMs 動態が関与している可能性を示した。

今回の検討では、敗血症誘導 6 時間前に rhTM を皮下投与法することで敗血症保護効果を証明したが、臨床応用の観点からは、敗血症誘導後に治療投与することでの有効性の確認が望ましい。今後は、動物モデルを用いた rhTM 治療投与による検討が必要である。また、本検討結果より、炎症性LMs の上昇抑制が、rhTM の敗血症保護効果と関係している可能性が考えられた一方、rhTM による炎症性LMs の上昇抑制は敗血症誘導3時間後までしか認めず、6 時間後には再上昇している LMs もあった。炎症応答制御の観点からは、より長期に炎症性 LMs の上昇を抑制することができれば、更なる敗血症保護効果が得られる可能性が考えられため、より効率的にLMs 上昇を抑制できる治療法に関して今後更なる検討が必要である。

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