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大学・研究所にある論文を検索できる 「Prognosis and acute complications at the first onset of idiopathic nephrotic syndrome in children: a nationwide survey in Japan (JP-SHINE study)」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Prognosis and acute complications at the first onset of idiopathic nephrotic syndrome in children: a nationwide survey in Japan (JP-SHINE study)

佐藤 舞 横浜市立大学

2021.03.25

概要

1. 背景
特発性ネフローゼ症候群(idiopathic nephrotic syndrome; INS)は腎臓の糸球体内で蛋白が血液から尿に漏れ出る状態で,その結果として低蛋白血症と全身性の浮腫が起こる.欧米では, 1年間に小児 10 万人に 2 人がネフローゼ症候群を発症すると報告されている.小児 INS の第 1 選択薬は経口副腎皮質ステロイド薬であるが,約 10%の患者はステロイド抵抗性を示し,その一部が末期腎不全に至る.一方,90%の患者はステロイド感受性であるが,その半数程度が頻回再発・ステロイド依存性ネフローゼ症候群(frequent relapsing nephrotic syndrome/steroid dependent nephrotic syndrome; FRNS/SDNS)となり,ステロイド薬による肥満・成長障害・骨粗鬆症・高血圧・白内障・緑内障・糖尿病・中心性肥満・感染症・消化管潰瘍・精神障害・副腎機能不全などの副作用が大きな問題となる.

これまでわが国で本症についての大規模な疫学調査は行われておらず,臨床経過の実態は明らかとなっていなかった.本研究の一次調査として,全国の小児有床施設を対象として,小児 INSの疫学調査を行った.対象は 2010 年 1 月 1 日から 2012 年 12 月 31 日に初発小児INS と診断され,治療を開始された患者とし,発症数,年齢,性別を調査した.全小児科有床施設 1860 施設宛てに調査票を郵送し,回収数は 1050(56.5%)であった.新規罹患率は小児人口 10 万人当たり年間 6.5人で,地域差はなかった.また小児人口 10 万人あたり男児 8.5 人,女児 4.4 人(男女比 1.9)であり,51.4%が 5 歳未満で発症していた.欧米と比較し,本邦における罹患率は約 3 倍であった.男女比,発症年齢については欧米の報告とほぼ同等であった.

今回,長期予後を明らかにする目的で一次調査の対象集団をコホートとした研究を立ち上げ,本症における患者背景,予後,治療,合併症,重症化の予測因子等について詳細な調査を行った.

2. 方法
2010 年 1 月から 2012 年 12 月の 3 年間に初発 INS と診断され,ステロイド治療を開始した 6 ヶ月以上 15 歳以下の児を対象とした.先天性ネフローゼ症候群や二次性ネフローゼ症候群は除外した.一次調査で新規発症のネフローゼ症候群ありと返答し,二次調査への協力を承諾した 388 施設に二次調査票を郵送した.

3. 結果
221 施設(58.4%)の施設より回答を得,1033 例の小児 INS 患者の情報を得た.このうち性別不明の 1 例と,年齢不明の 33 例を除外し,999 例について検討した.

患者総数は 999 名,男児 672 名であった.発症年齢の中央値は 4.5 歳,男児が女児の約 2 倍であった.人種は日本人を含む東洋人が 99%を占めており,ネフローゼ症候群の家族歴を 3.4%に認めた.初発の発症時期に季節性はなく,アレルギー歴を 31%に認めた.
ステロイド治療の方法は,プレドニゾロン 2 mg/kg/日が 39%,60 mg/m2/日が 61%であった.ステロイドの漸減方法は 4 週間連日投与,その後 4 週間の隔日投与を行う国際法が 68%で行われており,3〜7 ヶ月かけての長期漸減法をとられていたのは 27%であった.

初発時のネフローゼ症候群の合併症は,治療を要した高血圧が 10.8%(可逆性後頭葉白質脳症 0.9%),血栓症が 1 例のみ,重症細菌感染症が 2%であった.KDIGO stage 2 以上の重症急性腎障害(AKI)を 24%に認めた.4 例で透析を必要としたが,全例離脱可能であった.ロジスティック回帰解析で,年齢,血尿の有無,重度低 Alb 血症(Alb <1.0 g/dL),重症細菌感染症と AKI に関連はなく,女児(オッズ比 1.48,95%CI 1.07-1.73, p=0.018)と高血圧(オッズ比 3.96, 95%CI 2.60-6.02, p≦0.001)のみが AKI に有意に関連していた.

ステロイド治療の副作用として,17.4%に治療を要する眼圧上昇を認めた.ロジスティック回帰解析で年長児が有意に眼圧上昇と関連しており(p=0.0029),有意差はなかったが男児は眼圧が高い傾向があった(p=0.064).

寛解までの中央値は 8 日間(7-10 日),6%がステロイド抵抗性であった.34%で腎生検が施行され,75.6%が微小変化群,11.5%が巣状分節性糸球体硬化症,4.9%がびまん性メサンギウム増殖であった.観察期間中に 2 名が死亡していた.頻回再発/ステロイド依存性(FRNS/SDNS)をエンドポイントとした,Kaplan-Meier 曲線では 3 年 FRNS/SDNS free survival は 55.8%であった.Cox回帰分析で年少児(HR 1.72,95%CI 1.16-2.57, p=0.007)と初発時の寛解までの期間(HR 1.28, 95%CI 1.07-1.52, p=0.006)が有意に FRNS/SDNS と関連していた.第一選択に使用された免疫抑制薬はシクロスポリンが 46%と最も多く,ミゾリビンが 34%,シクロホスファミドが 5%であった.

中央値 4.1 年(2.5-5.1 年)の観察期間で AKI は軽度 CKD(CKD stage 2 以上)と有意に関連していた.ロジスティック回帰解析で性別とシクロスポリンの使用は CKD への進展と関連がなく,年長児が有意に関連していた.

4. 考察
わが国における小児 INS の詳細な背景,初発時の状態,合併症,ステロイドの副作用,予後について明らかにした.特に,初発時において重症 AKI の発症率が 24%と非常に高かった.さらに,ステロイドの副作用として,眼圧上昇が 17.5%と高率であった.

本研究において,24%の患者で重症 AKI(KDIGO stage 2 以上)がみられた.成人のネフローゼ症候群においては AKI の発症はまれではなく,Chen et al.(2011)は 16%に stage 2 以上の AKIを認めたと報告している.小児 INS における AKI の頻度を示した報告は少なく,Kiliś-Pstrusińska et al.(2000)は 0.8%と報告している.近年,Rheault et al.(2015)が入院加療を要した小児 INS 患者において重症 AKI を 24%に認めたと報告しているが,初発と再発とをすべて含めた患者が対象となっており,初発ネフローゼ症候群患者のみを対象とした本研究とは異なるものである.

小児 INS の長期予後として 3 年間で 44.2%が FRNS/SDNS に至っていた.この結果は過去の海外の報告と一致するものであった.また,小児 INS 患者における AKI の長期予後の報告は少ない.

本研究で AKI は stage 2 以上の軽度 CKD と有意に関連していた.FRNS/SDNS において第一選択薬はシクロスポリンであるため,長期のフォローアップにおいて腎機能の評価が重要である.

ステロイド治療は重症な副作用をきたしうる.本研究では 17.4%に治療を要する眼圧上昇を認め,0.4%が手術を要していた.また,ロジスティック回帰解析で年長児が有意に眼圧上昇と関連していた.小児 INS の治療において,定期的な眼科的診察が非常に重要であると考えられた.

本全国疫学調査により,小児 INS の初発において高率に AKI を合併すること,AKI と CKD が関連していることが明らかとなった.さらに,ステロイドの副作用として眼圧上昇が高率にみられていた.より長期間の予後を明らかにするために,さらに長期のフォローアップスタディが望まれる.

参考文献

Chen T, Lv Y, Lin F, Zhu J. (2011), Acute kidney injury in adult idiopathic nephrotic syndrome. Ren Fail, 33, 144-9.

Kikunaga K, Ishikura K, Terano C, Sato M, Komaki F, Hamasaki Y, Sasaki S, Iijima K, Yoshikawa N, Nakanishi K, Nakazato H, Matsuyama T, Ando T, Ito S, Honda M; Japanese Pediatric Survey Holding Information of NEphrotic syndrome (JP-SHINE) study of the Japanese Study Group of Renal Disease in Children. (2017), High incidence of idiopathic nephrotic syndrome in East Asian children: a nationwide survey in Japan (JP-SHINE study). Clin Exp Nephrol, 21, 651-657.

Kiliś-Pstrusińska K, Zwolińska D, Musiał K. (2000), Acute renal failure in children with idiopathic nephrotic syndrome. Pol Merkur Lekarski, 8, 462-4.

Rheault MN, Zhang L, Selewski DT, Kallash M, Tran CL, Seamon M, Katsoufis C, Ashoor I, Hernandez J, Supe-Markovina K, D'Alessandri-Silva C, DeJesus-Gonzalez N, Vasylyeva TL, Formeck C, Woll C, Gbadegesin R, Geier P, Devarajan P, Carpenter SL, Kerlin BA, Smoyer WE; Midwest Pediatric Nephrology Consortium. (2015), AKI in Children Hospitalized with Nephrotic Syndrome. Clin J Am Soc Nephrol, 10, 2110-8.

Sinha A, Hari P, Sharma PK, Gulati A, Kalaivani M, Mantan M, Dinda AK, Srivastava RN, Bagga A. (2012), Disease course in steroid sensitive nephrotic syndrome. Indian Pediatr, 49, 881-7.

Tarshish P, Tobin JN, Bernstein J, Edelmann CM Jr. (1997), Prognostic significance of the early course of minimal change nephrotic syndrome: Report of the International Study of Kidney Disease in Children. J Am Soc Nephrol, 8, 769-776.

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