Predictive values of early suppression of tumorigenicity 2 for acute GVHD and transplant-related complications after allogeneic stem cell transplantation: prospective observational study
概要
1.序論
血液悪性腫瘍に対する同種造血幹細胞移植における重大な合併症のひとつとして, 急性graft-versus-host disease(GVHD)が挙げられる.最近の研究でいくつかの血清中のバイオマーカーが急性GVHD発症を予測しうることが報告されている.これらのバイオマーカーを用い, 急性GVHD発症率を予測可能となれば, 急性GVHDのマネージメントに役立てることが出来る可能性があり, 臨床的に重要である.Soluble suppression of tumorigenicity 2 (sST2)はIL-33のdecoy受容体で, Th1免疫に関与している.近年, 急性GVHD(Ponce et al. 2015)やその他の移植関連合併症(Treatment-related complication;TRC)の発症(Akil et al.2015, Rotz et al. 2017), 非再発死亡(Non-relapse mertality;NRM)(McDonald et al.2015, AbuZaid et al. 2017)を予測するバイオマーカーとして有用であると報告されている.しかし, 移植前後におけるsST2の動態や臨床的意義については十分な検討がなされていない.今回, 患者の血清を用いてsST2を測定し, 同種造血幹細胞移植前後のsST2の動態, 急性GVHD発症率, その他のTRCとの関連について検討した.
2.実験材料と方法
2014年2月~2015年7月に横浜市立大学附属2病院において, 初回の同種造血幹細胞移植を受けた32名の患者を対象とした.同種造血幹細胞移植前, 移植日, 14日目, 21日目, 28日目のそれぞれのポイントでsST2をELISA法で測定した.
3.結果
患者背景は, 年齢中央値50.5歳.疾患は18例が急性骨髄性白血病, 4例が急性リンパ性白血病, 4例が骨髄異形成症候群, 4例が悪性リンパ腫, 1例が多発性骨髄腫, 1例は再生不良性貧血であった.同種造血幹細胞移植前の病期は19例で完全寛解, 13例は非寛解.HLAは21例で合致していた.ドナーソースは20例で非血縁骨髄, 3例で血縁骨髄, 5例で血縁末梢血, 4例で臍帯血であった.17例が骨髄破壊的前処置, 15例が骨髄非破壊的前処置を受けた.追跡中央期間は21.5ヶ月であり, 9例で急性GVHD(gradeⅡ-Ⅳ)を発症した.9例すべてが消化管GVHDを発症し, うち4例はII-IVの皮膚GVHDを合併していた.
sST2の中央値は同種造血幹細胞移植前3.3ng/mL(range:0-130), 当日51.4ng/mL(range:0-686), 14日目53.7ng/mL(range:0-420), allo-SCT後21日目92.6ng/mL(range:0-420), 28日目35.9ng/mL(range:0-419)であった.Cutoff値はROC曲線の結果から, 曲面下面積が最大である14日目のsST2(100ng/mL)を用い, sST2高値群(high-sST2群)と低値群(low-sST2群)に群分けした.High-sST2群とlow-sST2群では年齢・性別・診断・病期・ドナー条件・前処置の強度・移植のリスクなどの背景因子に有意な差は認めなかった.
急性GVHD発症した群と発症しなかった群のsST2は, 移植後14日目に最も差が開き, 急性GVHD発症した群のsST2が高値であった. ROC曲線の結果と合わせ, 移植後14日目のsST2(100ng/mL)をCutoff値としてその後の急性GVHD発症率を解析すると, high-sST2群で有意に高かった(56.7% vs. 16.5%, P<0.01).また, 多変量解析でも同様の結果が示された(HR=9.35, 95%CI:2.92-30.0, P<0.01).本研究では, 急性GVHDを発症した症例すべてが消化管GVHDを発症しており, 急性GVHD発症臓器別にみると, 消化管GVHDと強く相関していることが判明した.急性GVHDを発症した9例のうち, 6例がhigh-sST2群, 3例がlow-sST2群であった.発症時期を見るとhigh-sST2群で同種造血幹細胞移植後22日(range:9-50日), low-sST2群で同種造血幹細胞移植後48日(range:42-55日)と, high-sST2群がより早期に発症していることが分かった.
非再発死亡率(NRM)について解析すると1年NRMはhigh-sST2群で有意に高かった(33% vs. 0%, P<0.01).High-sST2群のうち4例のNRMを認め, 死因は敗血症, 生着不全, 肺炎, 血栓性微小血管障害(TMA)であった.同種造血幹細胞移植後, 致命的な合併症として肝中心静脈閉塞症(VOD)やTMAがあげられるが, VODを発症した5例, TMAを発症した2例はいずれもhigh-sST2群であった.
4.考察
本研究の結果, 同種造血幹細胞移植後14日目のsST2が高値であることはその後の急性GVHD発症率と関連することが示唆された.また, high-sST2群ではVOD, TMAなどの致命的となりうる重篤な合併症を起こした症例が含まれており, NRMも有意に高かった.sST2は様々な炎症下で分泌されることが知られており, 本研究でもCRPやフェリチンとの相関は示された.しかし, CRPやフェリチン自体は急性GVHD発症率を予測する因子とはならず, sST2の有用性を支持する結果となった.sST2のリガンドであるIL-33に関しては, これまで検討された報告はなく, 今回IL-33の測定を行ったが1例を除き検出感度以下となったため, IL-33の臨床的な意義を検討することはできなかった.
本研究で, sST2は移植前は低値を示すが, 前処置が終わった移植日から上昇傾向を認めることが分かった.またhigh-sST2群で, 急性GVHDやその他TMA・VODなどのTRCが多く発症することが示された.これらの合併症は内皮障害が関連していると考えられており, sST2の上昇につながっていると考える.小数例での検討であり, 今後さらに症例数を増やした検討が望まれる.