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大学・研究所にある論文を検索できる 「トランスクリプトームによる自己免疫疾患病態の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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トランスクリプトームによる自己免疫疾患病態の解析

波多野, 裕明 東京大学 DOI:10.15083/0002005067

2022.06.22

概要

全身性自己免疫疾患の多くは,いまだ原因が不明であり,病態の理解も十分進んでいない.疾患特異的な治療薬はほとんどなく,ステロイドと免疫抑制剤による治療が中心である.

本研究では,全身性自己免疫疾患の患者末梢血の多種の免疫担当細胞サブセットをフローサイトメトリーで分取し,RNAシークエンスを行い,機械学習手法を用いてトランスクリプトームを解析し,サブセット特異的な発現遺伝子の同定,疾患分類器の作成,疾患特異的な遺伝子発現やスプライシングイベントの同定を行った.

対象とした患者は,全身性強皮症(SSc)67例,全身性エリテマトーデス(SLE)62例,炎症性筋炎(Myo)59例,ANCA関連血管炎(AAV)25例,関節リウマチ(RA)24例,ベーチェット病(BD)23例,混合性結合組織病(MCTD)19例,シェーグレン症候群(SjS)18例,成人スティル病(AOSD)18例,高安動脈炎(16例),Overlap症候群8例(SLE-SSc,SLE-SScMyo,Myo-SSc3例,Myo-SLE,Myo-RA2例)およびボランティアの健常者(HC)79例の計418例であった.

これらの患者の以下の 27 種の細胞[ naïve CD4+ T cells (NCD4), memory CD4+ T cells (MCD4), type 1 helper T cells (Th1), type 2 helper T cells (Th2), type 17 helper T cells (Th17), follicular helper T cells (Tfh), activated regulatory T cells (aTreg), fraction I Treg cells (Fra1), fraction Ⅲ Treg cells (Fra3), naïve CD8+ T cells (NCD8), memory CD8 (MCD8), effector CD8+ T cells (EffectorCD8), effector memory CD8+ T cells (EmCD8), central memory CD8+ T cells (CmCD8), naïve B cells (NaiB), unswitched memory B cells (UnswMB), switched memory B cells (SwiMB), plasmablast (PB), double negative B cells (DNB), NK cells (NK), CD16- monocytes (CD16nMo), CD16+ monocytes (CD16pMo), nonclassical monocytes (NonClassical), intermediate_monocytes (Intermediate), myeloid dendritic cells (mDC), plasmacytoid dendritic cells (pDC), low density granulocyte (LDG), 好中球 (Neu) ]の RNA シークエンスを行った.

まず,解析対象とした9,897サンプルについて,遺伝子発現による階層型クラスタリングを行ったところ,各サンプルはそれぞれの親サブセット(CD4+T細胞,CD8+T細胞,B細胞,NK細胞,好中球,単球,樹状細胞)と対応した群にクラスタリングされたことから,各免疫細胞の遺伝子発現の特徴がデータセットに反映されていることが確認された.

さらに,他サブセットを自身の部分集合として含まない24サブセット8,923サンプルについて階層型クラスタリングを行ったところ,各サブセットがクラスターを形成し,ほぼ全サンプルがサブセットをまたぐことなくクラスタリングされた.これらの結果から,24の異なるサブセットがそれぞれ特徴的な遺伝子発現を有すること,ほぼ全てのサンプルが正確に各サブセットの遺伝子発現の特徴を捉えていることが確認された.

次に,64例の健常者のサンプルを用いて,サブセット特異的な発現パターンをとる遺伝子を検出した.機械学習の1つであるランダムフォレスト(RF)により,あるサブセットを他のサブセットと弁別する試行を1,000回行い,弁別重要度によって遺伝子をランキングすることにより,各サブセットを特徴付けるのに重要な上位100遺伝子を同定した.同定した遺伝子リストには,既知のマスターレギュレーター遺伝子が上位に含まれており,結果の妥当性が確認された.また,longnon-codingRNA(lncRNA)も含まれており,サブセット特異的な発現パターンをとるlncRNAが存在することが確認された.

次いで疾患の違いが遺伝子発現に与える影響について検討した.サンプルが300以上存在する19サブセットを対象に,各サブセットで主成分分析を行い,上位20個の主成分を算出した.計380個の各主成分について,疾患を説明変数として主成分得点を線形回帰した結果,140個の主成分がいずれかの疾患の有無と有意に(FDR

同定した140個の主成分を用いて,疾患および個人の階層型クラスタリングを行うことで,疾患間の類似性や疾患内の多様性について検討した.疾患のクラスタリングでは,SLEとMCTDの類似性が高く,ついでMyo,SSc,SjS,RAといった自己免疫疾患が隣接し,一方でこれらと離れてAOSDとBD,AAVとTAKという自己炎症性疾患および血管炎がクラスタリングされた.これは,臨床的な疾患分類と合致する結果であった.

さらに,各主成分がどのような遺伝子群の発現を反映しているかについて概観するため,因子負荷量に応じたエンリッチメント解析を行ったところ,SLEとMCTDに共に関連する主成分がインターフェロン関連の遺伝子群の発現を反映していることや,BD,AAV,AOSDに共に関連する主成分の一部が,CellCycleやTranslationactivity関連の遺伝子群の発現を反映していることが示唆された.

個人のクラスタリングでは,同じ疾患では比較的隣接した位置にクラスタリングされる傾向があったが,疾患ごとに1つにはまとまらず,個人間の分散が大きいことが推察され,患者間の病態の多様性が反映された結果と考えられた.

これまでの検討で,各疾患群は特徴的な遺伝子発現のパターンを有する一方,各患者個人単位で遺伝子発現を観察すると同一疾患内でも多様性に富むことが確認された.このことは自己免疫疾患が多彩な臨床症状を呈することに合致するが,その中で各疾患に特徴的な遺伝子発現マーカーが同定されれば,臨床診断および病態理解に役立つと考えられる.そこで,各疾患を特徴づける要素を抽出するため,50症例以上のデータがある3疾患(SLE,SSc,Myo)を対象として,遺伝子発現及びスプライシングイベントを入力に用いたRFにより,i)健常者(HC)およびii)その他の疾患(others)との間の弁別を行った.対象疾患群をトレーニングデータ用,テストデータ用に6:4にランダムに分割し,対象疾患群とサンプルサイズ・男女比が一致するように比較対象群もランダム抽出した.このようなランダム抽出を100回施行し,各回でトレーニングデータによる予測モデルの作成と重要度算出を行い,テストデータによる精度評価を行った.結果として,SLEとHCでは95%,MyoとHCでは90%,SScとHCでは85%の予測精度が得られた.これらの疾患は治療中であったとしても,免疫細胞の遺伝子発現が健常者とは大きく異なっていることが示唆された.また,SLEとothersでは90%,Myoとothers,SScとothersでも70%前後の予測精度が得られ,各疾患に特異的な特徴量が存在することが示された.

さらに,疾患の弁別に用いた(サブセット)_(遺伝子)または(サブセット)_(スプライシングイベント)の組を100回の試行での重要度の平均でランキングすることにより,これらの疾患に特徴的な遺伝子発現,スプライシングイベントを網羅的に同定し,いくつかの遺伝子において,実際に各疾患での発現に有意差があることを示した.また,疾患弁別重要度が上位であったスプライシングイベントについて,ゲノムにマップされた全リードを疾患別に重ねて可視化することにより,SLE,Myoにそれぞれ特徴的なスプライシングイベントが存在することを示した.

本研究の結果は自己免疫疾患の病態の理解,診断マーカーの作成,疾患特異的な治療薬の開発に寄与ことが期待できる.今後,本研究のようなアプローチと,ゲノムデータやメタゲノムデータなどとのマルチオミックス解析をすすめることにより,さらに自己免疫疾患の病態に迫ることができると考える.

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