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大学・研究所にある論文を検索できる 「機械学習モデルを用いて頭部外傷後の退院時転帰を予測する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

機械学習モデルを用いて頭部外傷後の退院時転帰を予測する

Matsuo, Kazuya 神戸大学

2020.03.25

概要

緒言
頭部外傷後の正確な転帰予測は、最適な治療方針を決めるにあたり、また重症例においては家族らの意思決定の援助などに際して重要である。しかし、実臨床においては現状の頭部外傷後の転帰予測が正確に行えていると認識している臨床 家は37%だけであったとも報告されており、これまでに様々な転帰予測因子の有用性が研究されてきた。しかしまだ有効かつ包括的な頭部外傷後の転帰予測モデルは確立していない。

近年、AI の発達は著しく、医療の分野でも広く活用されつつある。しかしまだ頭部外傷の分野においては最新の機械学習モデルを用いた研究は乏しい。そこで今回、 救急の現場で現実的に収集可能な因子のみを用いて、簡便かつ正確な頭部外傷後の転帰予測を行う機械学習モデルの確立を試みた。加えて、その機械学習モデルから抽出される重要な転帰予測因子についても検討した。

方法対象
2013年10月から2016年9月の間に、3次救命救急センターである兵庫県立加古川医療センターに入院を要した頭部外傷連続268症例を対象として後方視的に院内外傷データベースと電子カルテより因子を抽出した。全ての症例は非穿通性頭部外傷で、頭部CT で異常所見を認め入院加療を要した。来院時心肺停止、10歳未満の若年、妊婦、必要データ不足の症例を除外した。

治療
救急外来へ搬送された全患者に、ガイドラインに準拠し標準化された初期治療が行われた。全身安定化の後すぐに CT が撮影された。頭部 CT で5mm以上の正中偏位を伴う症例や、5mm未満の正中偏位でも Glasgow coma scale (GCS) が8未満の意識障害や瞳孔異常所見が認められるような重傷頭部外傷症例は、CT 撮影後すぐに初療室で緊急穿頭術が行われ、可及的な血腫の排出とともに脳実質内へ intracranial pressure (ICP) センサーの挿入が行われた。その後必要に応じてすぐに手術室で開頭血腫除去術が行われた。術中に脳腫脹が著明な症例には外減圧術も追加された。これらの外科的治療の適応と考えられる症例でも、すでに脳死状態である場合や他部位の重症外傷により呼吸循環動態が非常に不安定な症例、家族が積極的治療を希望しなかった場合は、上記の緊急手術は行われなかった。初療での治療後は ICP 管理を第一とする内科治療を行い、さらに ICP 亢進があれば外科的治療を追加する方針とした。

転帰予測因子
過去の報告などから、以下14の転帰予測因子を機械学習モデルの学習に使用した。その14因子は、搬送時の年齢、GCS、瞳孔異常所見の有無、収縮期血圧、頭蓋外重症外傷の有無、頭部 CT 所見、生化学的検査のうち血糖値、C-reactive protein (CRP)、fibrin/fibrinogen degradation products (FDP) とした。生化学的検査は来院時の検体を用い、頭部 CT 所見は受傷翌日までのすべての CT を対象として、急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、外傷性くも膜下出血、脳挫傷、頭蓋骨骨折それぞれの所見の有無と、Marshall CT 分類とした。頭蓋外重症外傷は、胸部・腹部・骨盤部・四肢における Aabbreviated injury scale score 3以上の外傷とした。

機械学習モデルの作成
機械学習アルゴリズムは、プログラミング言語 Python で比較的簡易に使用可能 な、Ridge regression とleast absolute shrinkage and selection operator (LASSO) regression, random forest, gradient boosting, extra trees, decision tree, Gaussian naïve Bayes, multinomial naïve Bayes, support vector machine (SVM) の9つのアルゴリズムを用いて比較した。症例データはランダムに分割して、8割を訓練用データ、 2割をテスト用データとした。訓練用データで cross-validation 法を用いてアルゴリ ズムのパラメーターの最適な組み合わせを探索し調整した。

モデルの比較
パラメーターの最適化の後、それぞれのアルゴリズムでまずは訓練用データにおける転帰の予測を行った。その転帰予測の感度、特異度、正答率、receiver operating characteristic (ROC) 曲線下面積(AUC)をそれぞれ計算し、それぞれの値が最も高かったモデルを用いて、テストデータの転帰予測も行った。テストデータの転帰予測に際しては、bootstrap method も用いて、感度、特異度、正答率、AUCとそれぞれの95%信頼区間を算出した。また、アルゴリズムが重要視した因子についても検討した。

転帰
転帰は、退院時の Glasgow Outcome Score (GOS) で評価した。GOS 1-3(死亡、植物状態、重度障害)を転帰不良と規定し、退院時死亡と退院時転帰不良をそれぞれ予測対象とした。

結果
対象母集団
全頭部外傷症例268例の内、来院時 CPA(15例)、若年(2例)、妊婦(2例)、瞳孔所見不足(2例)、FDP の検査不足(15例)の合計36例が除外された。残る232症例が訓練用データとテストデータに分割された。症例は、平均年齢59.4歳で16 9例(72.8%)が男性、GCS 平均9.1で、約半数が GCS8以下の重症症例であった(表1)。頭部 CT の所見では、頭蓋骨骨折(53.9%)、脳挫傷(49.1%)が多かった。平均入院日数は28.7日で、その間の死亡率は26.3%で、77.6%が退院時転帰不良であった。

退院時転帰不良の予測
まず訓練用データでの予測結果(表2、図2)は、感度最高が random forest の9 7.2%、特異度最高が Gaussian naïve Bayes の82.8%、正答率最高が gradient boosting の87.5%、AUC 最高がSVM の0.894であった。それぞれの統計結果で最高値を示した上記の4モデルを用いてテスト用データの転帰予測を行うと、 random forest が正答率と AUC において最も良い予測性能であった(表3)。

退院時死亡の予測
まず訓練用データでの予測結果(表4、図 3)は、感度最高が ridge regressionの85.1%、特異度最高が random forest の99.3%、正答率最高が SVM の89. 8%、AUC 最高が random forest の0.960であった。それぞれの統計結果で最高値を示した上記の3モデルを用いてテスト用データの転帰予測を行うと、ridge regression が感度と AUC において、最も良い予測性能であった(表5)。

因子重要度
退院時転帰不良と死亡の予測いずれにおいても比較的良い予測性能を示した random forest が重要視した因子を調べると、転帰不良に関しては、年齢、GCS、 FDP の順に重要度が高かった(図4A)。死亡に関しては、FDP、GCS、瞳孔異常所見の順に重要度が高かった(図4B)。CT 所見では、Marshal CT 分類が最も重要度が高かった。

考察
今研究より、最新の機械学習モデルを用いると頭部外傷後の転帰を比較的良好に予測できることが明らかとなった。転帰不良の予測は random forest が最も良い結果で、感度100%、特異度72.3%、正答率91.7%、AUC 0.895であった。死亡の予測は ridge regression が最も良い結果で、感度88.4%、特異度88.2%、正答率88.6%、AUC 0.875であった。Random forest による重要因子の抽出の結果、転帰不良予測と死亡予測のいずれにおいても、年齢、GCS、FDP、血糖値の重要度が高かった。

機械学習と頭部外傷について
最新の機械学習モデルを用いて頭部外傷の転帰予測を行った研究はまだ少ない。Rughani らは浅層 artificial neural network (ANN) アルゴリズムを用いて 11 因子で頭部外傷後の転帰予測を行っている。7769症例でモデルの訓練を行い、別の 100 症例でテストをして、院内死亡の予測結果は正答率87.8%、AUC 0.86と今研究と同等の結果であった。しかし、重要な因子である CT 所見や生化学的検査は因子に含まれていない。

Eftekhar らも浅層ANN アルゴリズムを用いて7因子で頭部外傷1271症例の転帰予測を行っている。 その結果、死亡の予測結果は今研究よりも良く、正答率95. 1%、AUC 0.965であった。しかし母集団の7.5%だけが GCS8未満の重症症例で軽症症例が多い母集団であることや、因子の計算方法が明記されていないこと、受傷から死亡を判定するまでの期間が明示されていないことなどが問題と考えられる。

Shi らも浅層 ANN アルゴリズムを用いて6つの因子で頭部外傷 16956 症例の院内死亡を予測している。その結果、院内死亡の予測の正答率95.2%、AUC 0.8 96と、本研究よりも若干良い結果であった。しかし本研究と異なる点として、手術加療を行った症例のみを対象にしている点や慢性硬膜下血腫も対象としている点があげられる。また、モデルの学習因子として入院期間を用いており、初療時に使用できるモデルではないことも問題と考えられる。

制限
今研究の制限としては、まずサンプル数が多くないことが挙げられる。深層学習モデルを除けば、80-560サンプルあれば必要なモデルの学習はできるとも報告されているが、やはりデータは多いほど機械学習モデルの性能は改善する。次に、貧血や低酸素の有無など重要な予測因子が含まれていない可能性がある。また、今研究のモデルの学習に用いたサンプルは約半数が重症頭部外傷であったため、軽症の頭部外傷の転帰予測は十分行えない可能性がある。対象母集団の分布が 異なる施設や治療方針が異なる施設での症例の転帰を予測できるかについても評価が必要である。

結論
今研究より、最新の機械学習モデルを用いると頭部外傷後の転帰を比較的良好に予測できることが明らかとなった。転帰不良の予測は random forest が、死亡の予測は ridge regression が最も良い結果で、いずれも正答率は約90%であった。 Random forest による重要因子の抽出の結果、転帰不良予測と死亡予測のいずれにおいても、年齢、GCS、FDP、血糖値の重要度が高かった。

今後、AI はさらに発展していくことが予想され、より正確で信頼性の高いモデルが実装される可能性が高いが、正確な転帰予測が可能となっても、どうすればその転帰を改善できるかを AI は教えてくれない。AI が転帰不良だと予測した症例においても、その予測を乗り越えるべく、より良い治療を行うべく努力をする必要がある。

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