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大学・研究所にある論文を検索できる 「非小細胞肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測および予後予測因子としての投与前腫瘍径」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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非小細胞肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測および予後予測因子としての投与前腫瘍径

Katsurada, Masahiro 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景・目的】
非小細胞肺がんにおいて免疫チェックポイント阻害薬(Immune checkpoint inhibitor :ICI)は 2015 年 12 月に日本で上市されて以降、非常に重要な治療薬となっている。治療効果や予 後予測因子として Programmed death-ligand 1(PD-L1)を筆頭に好中球リンパ球比など様々 な因子が提唱されている(Poddubskaya E, et al.: N Engl J Med 373(2): 123-135, 2015.、 Borghaei H, et al.: N Engl J Med 373(17): 1627-1639, 2015.、Kiriu T, et al.: PLoS One 13(2): e0193018, 2018.)。投与前腫瘍径の合計量(Baseline tumor size :BTS)は、悪性黒色 腫において ICI の治療効果と予後を予測できる簡便な因子であることが報告されている(Joseph RW, et al.: Clin Cancer Res, 2018.)。しかし、非小細胞肺がんにおいて BTS が ICIの治療効果予測因子や予後予測因子となりうるかに関する報告はない。そこで、我々は非小細胞肺がんの ICI の治療効果予測および予後予測における BTS の有用性について検討した。

【方法】
当院で非小細胞肺がんと診断され、2015 年 12 月から 2018 年 4 月までに ICI 単剤投与をうけた患者について後方視的に分析した。BTS の測定法は、Response Evaluation Criteria in Solid Tumors (RECIST) version 1.1 に則り、最大 5 臓器を選択しそれぞれの臓器の中で最も大きい腫瘍部分と2 番目に大きい腫瘍部分を選択し、リンパ節以外は最大長径を、リンパ節は最大短径を計測し、それらすべてを合計した。Cutoff finder を用いて(Budczies J, et al.: PLoS One 7(12): e51862, 2012.)、ROC 曲線からカットオフ値を求めて、BTS が 101mm 未満、と 101mm 以上で分けた 2 群を比較した。主要評価項目は無増悪生存期間(Progression-free survival :PFS)とし、副次評価項目は全生存期間(Overall survival :OS)とした。解析には Mann-Whitney U 検定、Fisher’s 正確検定、log-rank 検定、Cox 回帰比例ハザード分析を用いた。

【結果】
2015 年 12 月から 2018 年 4 月までに ICI 単剤を投与された患者は 59 名おり、そのうち重複がんの 1 名を除いた 58 名を解析した。年齢中央値は 70.5 歳(第 1 四分位点、第 3 四分位点:65.25 歳、74.00 歳)で、Eastern Cooperative Oncology Group Performance Statu(s ECOG PS)0 または 1 は 84.5%であった。BTS の中央値は 84mm(第 1 四分位点、第 3 四分位点:15.10mm、208.10mm)であった。全奏効率は 26.3%であった。

患者群を BTS 101mm で 2 群に分けて比較したところ、101mm 未満は 34 名、101mm 以上は 24 名いた。2 群間で患者背景に有意な差は認められなかった。

PFS 中央値は 101mm 以上の群は 101mm 未満の群より有意に不良であった(それぞれ 2.07ヶ月(95%信頼区間=0.99-6.77 ヶ月)対 6.39 ヶ月(95%信頼区間=4.17-11.50 ヶ月))(P 値=0.044)。既報で予後因子と指摘されている ECOG PS、PD-L1、肝転移、化学療法治療歴の有無と BTS を組み込んで Cox 回帰比例ハザード分析による多変量解析を行い、「BTS101mm以上」と「既治療の化学療法治療歴があること」が PFS を有意に不良する因子であることを示した。

OS 中央値においても、BTS が 101mm 以上の群は 101mm 未満の群に比べて有意に不良であった(それぞれ 5.85 ヶ月(95%信頼区間=2.00-10.68 ヶ月)対 22.28 ヶ月(95%信頼区間=14.03 ヶ月-未到達))(P 値<0.01)。上記と同様に ECOG PS、PD-L1、肝転移、化学療法治療歴の有無と BTS を組み込んで Cox 回帰比例ハザード分析による多変量解析を行い、「BTS101mm 以上」と「既治療の化学療法治療歴があること」、「ECOG PS 不良」がOS の独立した予後不良因子となることを示した。

我々は OS に差が出た理由として奏効率に注目した。ICI 単剤の奏効率は BTS 101mm 以上と 101mm 未満で有意差は認められなかったが(16.7% vs. 32.4%)(P 値=0.231)、最良総合効果が進行(Progressive Disease:PD)であった割合は BTS 101mm 以上で有意に多かった(45.8% vs. 17.6%)(P=0.039)。

【考察】
我々は、肺がんにおいて BTS が PFS および OS における予後不良因子となることを本研究で初めて示した。既報において悪性黒色腫において BTS が OS の予後不良因子であることは示されており(Joseph RW, et al.: Clin Cancer Res, 2018.)、肺がんにおいても同様のことが当てはまることを示した。本検討において BTS101 ㎜以上の群で PFS および OS が不良だった理由としては、最良総合効果が PD だった割合が多かったことにあると思われる。BTS は腫瘍量を示すことを考えると、腫瘍量が大きいと ICI の治療効果が低いことを示したといえる。腫瘍量が大きいと ICI 治療効果が減弱する理由は明確ではないが、今回、我々は下記の 3つの理由を考察した。一つ目は腫瘍量が増大することによる免疫細胞の流入の低下、二つ目はケモカインやサイトカインの変化による腫瘍免疫微小環境( Tumor immune microenvironment:TIME)の変化、三つめは免疫細胞と腫瘍量のバランスである。

一つ目の理由の腫瘍量と免疫細胞の流入の低下に関して、腫瘍量が増大することにより腫瘍内部の圧が高まり、腫瘍内部の圧が高まることによりリンパ流量が減ると考えられる。Rajuらは、リンパ流を総合的に判定できるマーカーである抗 Lymphatic vessel endothelial hyaluronic acid receptor (LYVE)-1 抗体を使用して、マウス舌がんモデルにおいて腫瘍へのリンパ流を解析したところ、抗 LYVE-1 抗体は腫瘍中心部よりも周辺部で増加していることを 2008 年に報告した(Raju B, et al.: J Oral Pathol Med 37(3): 137-144, 2008.)。腫瘍量が増大することにより腫瘍内圧が上昇し、腫瘍内部へのリンパ流が虚脱することが原因の一つと考えられる。腫瘍内部へのリンパ流が阻害されることは腫瘍関連抗原提示の相対的な減少に繋がることが考えられ、それは、腫瘍とリンパ球との抗原提示を必要とする免疫チェックポイント阻害薬の効果を低下させる原因になりうると考えた。

二つ目の理由の TIME におけるサイトカインやケモカインの変化についてで、腫瘍量が増大することにより腫瘍内部は低酸素の状態および低 pH の状態となっていることが知られている。この状態は、Hypoxia-inducible factor-1 (HIF-1)を産生する。HIF-1 は Vascular endothelial growth factor-A (VFGF-A)を誘導する(Arsham AM, et al.: Cancer Res 64(10): 3500-3507, 2004.)。VEGF-A は細胞障害性 T リンパ球(CTLs)に Programmed cell death 1(PD-1)や T cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3 (TIM-3)、Cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4 (CTLA-4)を発現するように誘導し、免疫抑制状態を作り出す。加えて、VEGF-A は樹状細胞や抗原提示細胞の働きを阻害する(Schaaf MB, et al.: Cell Death Dis 9(2): 115, 2018.)。同様にケモカインも変化する。Chemokine ligand(CCL) 2 や CCL5、CCL21、CCL28 の産生が増加し、CCL2 や CCL5 は腫瘍細胞の増殖や転移を促進し(Nagarsheth N, et al.: Nat Rev Immunol 17(9): 559-572, 2017.)、CCL21 や CCL28は TIME への制御性 T 細胞を誘導する。さらに、腫瘍細胞は Granulocyte colony stimulating factor を産生し、免疫抑制作用を促進する Gr-1+CD11b+骨髄系細胞を増加させる(Binnewies M, et al.: Nat Med 24(5): 541-550, 2018.)。これらの TIME におけるサイトカインやケモカインの変化は全体としてがん免疫に対して不利に働くと考えられる。

三つ目の理由は免疫細胞と腫瘍量のバランスについてである。 Huang らは Ki67+PD-1+CD8T リンパ球が、ICI の 1 つであるペムブロリズマブの投与 3 週間後をピークに上昇することに注目した。ペムブロリズマブ投与後に Ki67 が上昇することが ICI の治療効果と相関することを示した。しかし、Ki67 は予後不良因子である腫瘍量と相関することを見出したため、Huang らのグループはペムブロリズマブ投与後の Ki67 と腫瘍量の比率を測定し、Ki67/腫瘍量が大きいことが予後と相関があると結論付けた(Huang AC, et al.: Nature 545(7652): 60-65, 2017.)。これらの点から考えると、ICI の治療効果は免疫だけなく腫瘍量とのバランスが重要であると思われる。

以上のことより、ICI はPD-1 とPD-L1 による腫瘍の免疫回避機構を解除する薬であるが、腫瘍量が大きいことで引き起こされる複合的な要因により腫瘍免疫反応が減弱するため、効果が減弱すると考えた。本研究は後方視的単施設での観察研究であることと、validation cohort がないことがlimitation であるものの、腫瘍量を示すサロゲートマーカーである BTSが ICI の治療効果を予測する因子として有用であることを示した。ただし、BTS はあくまでバイオマーカーの一つであり、今後の治療効果予測のために、PD-L1、好中球リンパ球比や腸内細菌叢などその他のバイオマーカーも含めたスコアリングによる治療効果予測式が開発されることを期待する。

【結論】
BTS は ICI の治療効果を予測するうえで、簡便かつ有用な予測因子である。

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