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大学・研究所にある論文を検索できる 「MRSを用いたグルタミン酸および総クレアチン測定による膠芽腫てんかん発作の術前予測」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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MRSを用いたグルタミン酸および総クレアチン測定による膠芽腫てんかん発作の術前予測

橋口, 充 神戸大学

2022.03.25

概要

序文:
膠芽腫は中枢神経原発悪性脳腫瘍の中で最も高頻度に見られる疾患である。近年は新たな治療法がいくつか提案されているが、その全生存期間の中央値は20.9か月と報告されており、いまだにきわめて予後不良である。このように治療困難な疾患であるため、患者のquality of lifeを維持することは重要な課題である。膠芽腫の患者のquality of lifeを著しく低下させるものの一つとして腫瘍関連てんかんの発症がある。
膠芽腫においては、しばしば腫瘍摘出術を行なった後に腫瘍関連てんかんを発症することが知られている。術後に発症する腫瘍関連てんかんを早期に発見して適切に管理することは、膠芽腫患者のquality of life維持につながる。
てんかんは脳神経細胞の電気的異常興奮により引き起こされる。膠芽腫において腫瘍摘出術後に腫瘍関連てんかんを呈する原因の一つとして、脳腫瘍周囲組織がてんかん原生を獲得することが報告されている。
てんかん原生獲のメカニズムとして、これまでにhemosiderin deposition、chronic hypoxia、代謝物の寄与などが報告されている。
特に局所的なグルタミン酸 (Glu)やGABAの濃度変化によって抑制系と興奮系メカニズムのバランス が崩れることで、脳腫瘍周囲組織がてんかん原生を獲得する可能性が指摘されている。
我々は腫瘍摘出後にてんかん発症しやすい膠芽腫は特徴的な代謝物プロファイルを有していると仮定した。
そこで我々は3.0-Tesla(3T)magnetic resonance imaging (MRI)と’H-magnetic resonance spectroscopy(MRS)を用いて治療前に腫瘍内代謝物を評価することで、腫瘍摘出術後のてんかん発作が予 測可能であるかについて後方視的に研究した。

方法:
神戸大学医学部附属病院で2013年1月から2020年4月までの期間に外科的治療を行った初発膠芽腫の連続症例を研究対象とした。てんかんの発症の有無、時期、組織所見(IDH変異)などの情報をカルテより収集した。てんかんの診断は2人以上の脳神経外科医で行った。
3T MRI/'H-MRSscanner(Achieva; Philips Medical Systems)を使用し、MRSシーケンスはdouble-echo point-resolved spectroscopic sequence(PRESS)で行なった。
MRS測定パラメータは、volume of interest (VOI)=1.5 x 1.5 x 1.5 cm; repetition time / echo time = 2,000/35 ms; number of acquisitions=128 averagesとした。
腫瘍範囲はGadolinium-enhanced T1WIを用いて造影される範囲を腫瘍範囲と決定した。VOIは造影病変の一部で、血腫やnecrosisを避けて設定した。MRSデータの精度が高いものを用いて評価するために、signal-to-noise ratio <5、もしくはCram'er-Rao lower bounds >30%であったMRSデータを有する症例を除外した。MRSデータに基づく代謝物濃度の定量化には、LC-Model,version6.3(Stephen Provencher, Oakville, Ontario, Canada)とシミュレーションソフト(GAMMA,Radiology, Duke University Medical Center, Durham, NC) を使用した。
我々は、術後経過中にてんかんを発症した群(epilepsy during the postoperative course:EP+群)と発症しなかった群(EP-群)の代謝物MRSデータを比較した。そして両群で有意差があった代謝物について、receiver operating characteristic(ROC) curve analysis を実施した。
さらにサブグループ解析として、術前にてんかん発症した症例を除いた集団についても同様な方法で解析を行った。得られた代謝物データについてはRのインターフェースソフトウェアである EZR(Saitama Medical Center,Jichi Medical University,Saitama,Japan)を用いて統計解析を行った。

結果:
研究期間内の109例の膠芽腫患者が対象となった。最終的にMRSデー夕を利用できた対象症例は51例(年齢中央値65才)であった。全ての対象症例は治療開始前の1週間以内に3T MRI/'H-MRSを実施された。術後抗てんかん薬は47人(92%)に投与された。51症例のうちEP+群は21例(41%)であり、術前にてんかんを呈した症例は10例(20%)であった。EPに関連する因子について多変量解析を行うと、腫瘍摘出率(Gross total resection)のみがEPとの関連性を示した(P=0.02)。
治療前'H-MRSを用いた代謝物の測定によると、EP+群とEP-群で有意差があったものは、総クレアチン濃度(tCre;P=0.02)、tCreに対するGlu 濃度の比(Glu/tCre;P<0.001)、tCreに対するGlu濃度とグルタミン濃度の総和(Glx/tCre;P=0.004)であった。術前てんかん症例を除いたサブグループ解析でも同様の結果であった。これらのパラメータにおけるEPの予測能力について、ROC curve analysisを用いて解析すると、Glu/tCre=1.81において感度70%、特異度90%(AUC=0.82 ; 95% CI:0.68-0.95)であり、Glu/tCreが最も高いAUCを有していた。サブグループ解析におけるROC curve analysis解析でも、Glu/tCre=1.81において感度75%、特異度88%(AUC=0.87 ; 95% CI:0.77-0.98)であり、同じくGlu/tCreが最も高いAUCを有していた。

考察:
我々は治療前'H-MRSを用いて、EP予測のための画像マーカーを検討した。その結果、EP+群においてtCr濃度は低値であり、Glx/tCrおよびGlu/tCrは高値であることがわかった。さらにGlu/tCreは術後てんかん発症の予測に有用である可能性が示唆された。
Gluはてんかん、脳虚血、代謝性疾患、外傷などのさまざまな中枢神経系疾患で重要な役割を担うことが示唆されている。特にてんかんの研究において、細胞外へのGlu放出やイオンチャンネル型Glu受容体の活性化がてんかん発症と関連することが報告されている。腫瘍関連てんかんについてもGluが重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。特にaggressiveな神経膠腫ではGluトランスポーターが減少しており、細胞外Gluの取り込みは低下する。その結果、細胞外にGluが蓄積する。この過剰な細胞外Gluによって、周囲脳組織がてんかん原生を獲得している可能性が指摘されている。
治療前’H-MRSを用いて術後てんかんの発症を予測することには2つの利点がある。まず第1に’H-MRSは低侵襲な検査であるため定期的な治療前検査に組み込むことが容易である。第2に、治療前'H-MRSによって得たてんかん予測に関する情報を医療チームで共有することで、術後てんかんの早期発見につながることが期待される。
本研究にはいくつかの課題が存在するものの、治療前’H-MRSによるGlu/tCrの評価は術後てんかん発作の予測に有用である可能性が示された。我々は、本研究の結果が膠芽腫患者のquality of life維持につながるものと信じている。

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