Ce4+またはF-ドープによるT’構造をもつNd2CuO4酸化物への電子キャリアの導入
概要
Nd2CuO4は図 1 に示される T’構造をもつ酸化物であり、構造中に電子キャリアを導入することで超伝導を発現する。この酸化物への電子キャリアの導入方法として、3価の Nd3+サイトへの 4 価の Ce4+の置換がよく知られている。1 Ce4+の置換により、電気的中性則を満たすため Cu の価数が 2 価から 1 価に変化する。この時に放出される電子がキャリアとなる。この場合、超伝導の発現には Ce4+のドープに加えて、酸素欠損の導入が必須であり、CexNd2-xCuO4-y となって初めて超伝導が発現する。近年、当研究室ではこの酸化物の酸素欠損挙動に注目して研究を行ってきた。この酸化物は二つの酸素サイトを有しており、一つは CuO2 面を構成する面内 O1 サイト(6 配位)、もう一つが Nd-Nd間に存在する頂点 O2 サイト(4 配位)である。MADEL プログラム 2 を用いた二つの酸素サイトのポテンシャルエネルギー計算によると、Ce 置換のない Nd2CuO4では O2 サイトがより不安定であり、酸素欠損はこの O2 サイトから選択的に起こることが示唆された。しかし同時に Ce を置換していった場合、この二つの酸素サイトの持つエネルギーが互いに接近していくことも明らかになっている。このことは超伝導発現に不可欠である、不安定な O2 サイトからの選択的な酸素欠損を妨げることを意味しており、Ce4+置換はこの系の超伝導発現に対して不利であることが示唆されていた。そこで本研究では別のアプローチからの T’型構造 Nd2CuO4 への電子キャリアドープを試みることにした。具体的には Ce4+置換に代表されるカチオン側からの価数変化ではなく、アニオン側からの価数変化に注目した。すなわち Nd2CuO4 の 4つ存在する酸化物イオン O2-をフッ化物イオン F-で置換し、構造全体の負電荷を減らすことで、銅の価数を 2 価から 1 価に変化させ構造中に電子キャリアをドープできないかと考えた。F-を置換した Nd2CuO4-zFzについて、超伝導転移の先行報告はあるが、詳細な結晶構造解析は行われていない。超伝導発現の条件についても、酸素欠損が必要であるか等、詳しく調べられていない。3 そこで本研究では、T’構造をもつ Nd2CuO4 へ F-置換を試み、結晶構造解析や電気抵抗測定により物性を評価することで、電子キャリアが導入できるかどうか調べることを目的とした。また、上記で作製した試料について超伝導が発現する条件についても検証を行った。