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書き出し

局所構造の化学的制御によるビスマス層状酸化物の電子物性の開拓

松本, 倖汰 東北大学

2023.03.24

概要

博士論文

局所構造の化学的制御による
ビスマス層状酸化物の電子物性の開拓

松本 倖汰
令和 4 年

目次
第1章

序論

第2章

本研究の目的

第3章

実験手法

第4章

酸素挿入された La2O2Bi における結晶

構造解析と電子物性評価
第 5-7 章 ビスマスを含む層状酸化物における
結晶構造解析と電子物性の評価
第8章

総括

参考文献

1

第1章

序論

酸化物は古くは絶縁体としてのみ認知されていたが、1986 年の銅酸化物超伝導体の
発見を機に 1、絶縁体から超伝導体まで多様な電子物性を示す材料として研究されてき
た。酸化物の電子物性制御の一般的な手法は元素置換である。電気伝導を担う Bi 正方
格子層と絶縁層の RE2O2 層が積層した RE2O2Bi (RE = 希土類)では、希土類元素置換に
よって、Bi-Bi 結合距離を制御し、金属絶縁体転移が報告されている 2。また、RENiO3
(RE = 希土類)では、希土類元素置換によって、Ni-O-Ni の結合角が制御可能で、Ni の 3d
軌道と O の 2p 軌道の重なりの大きさによって、金属からモット絶縁体という電子状態
に変化する 3。モット絶縁体は元素置換によるキャリアドーピングによっても金属化し、
Sr1−xLaxTiO3 では、モット絶縁体の LaTiO3 に Sr を置換し、正孔キャリアをドーピングす
ることで金属化が報告されている 4。
近年、元素置換とは異なり、層状酸化物の局所構造に着目した電子物性制御手法が報
告された。この手法では、金属的な RE2O2Bi において、Bi 正方格子層と RE2O2 層の層間
に酸素を挿入することで、超伝導が発現する 5–7。この酸素挿入は、RE2O2Bi の電子物性
制御に有効な手法であるが、物性変調のメカニズム解明に必要な、挿入された酸素の結
晶学的位置や化学状態についてはわかっていない。また、RE2O2Bi で唯一半導体的な電
気伝導を示す La2O2Bi への酸素挿入の効果も明らかになっていない。
層状銅酸化物において、局所構造に着目し、秩序的・無秩序的な原子配列をもつ構造
を作り分けることで、電気抵抗率が 10 倍程度異なることが報告されている。これは原
子配列の秩序状態を任意に制御できれば、電気伝導性が制御可能であることを示唆して
いる。しかし、原子配列制御による電気伝導性変化の報告は、同じ結晶構造の系でこの
1 例のみで、電気抵抗率変化のメカニズムなどはわかっていない。

第2章

本研究の目的

RE2O2Bi において Bi-Bi 結合距離が最も長く、唯一半導体的な電気伝導を示す La2O2Bi
に酸素挿入を行い、電気伝導性の向上を狙った。酸素挿入した La2O2Bi について、詳細
に結晶構造解析を行うことで、層間酸素の位置と化学状態についても解析した。さらに、
異なる酸素組成の La2O2Bi の電子物性を評価することで、酸素挿入が電子物性に及ぼす
影響を調べた。これらの結果と考察は第 4 章にまとめた。
原子配列制御が報告されている層状銅酸化物と同じ結晶構造で、Bi を含む層状酸化
物において、原子配列制御を試み、電子物性の制御を狙った。この酸化物は過去に、電
2

気抵抗率の温度依存性において、特異な熱ヒステリシスが報告されている。これは、加
熱によって原子配列の秩序状態が変化し、電気伝導性が変わることを示唆している。第
5–7 章には、Bi を含む層状酸化物において、熱処理によって原子配列を制御し、結晶構
造と電子物性の相関を調べた結果と考察をまとめた。

第3章

実験手法

酸素組成の異なる La2O2Bi は固相反応法によって合成した。合成時には試料を真空引
きした石英管内に封管し、焼成した。酸素組成を制御するために、合成時の酸化物試薬
の量を調整する仕込み組成制御と CaO を酸化剤とする CaO 酸化と呼ばれる方法を用い
た。結晶構造評価には、実験室 X 線回折測定 (XRD)に加え、放射光施設 SPring-8 で XRD
を測定し、リートベルト解析により層間酸素の位置や化学状態などを決定した。La2O2Bi
の組成はリートベルト解析に加え、エネルギー分散型 X 線分光 (SEM-EDX)、熱重量分
析により評価した。異なる酸素組成の La2O2Bi について、電気抵抗率・Hall 抵抗率を測
定し、酸素挿入が電子物性に与える影響について考察した。
Bi を含む層状酸化物は固相反応法によって合成した。合成した酸化物の原子配列は
熱処理によって秩序度を制御した。原子配列の秩序度は放射光 XRD を測定し、リート
ベルト解析により求めた。この際、異なる空間群や未知構造の同定に EXPO2014 という
ソフトウェアを用いた。酸化物の電子状態については、WIEN2k による第一原理計算を
行い、予測した。異なる原子配列の秩序度をもつ酸化物の電気抵抗率・Hall 抵抗率・比
熱・磁化率・熱重量変化を測定し、結晶構造と電子物性の相関を調査した。

3

第4章

酸素挿入された La2O2Bi における結晶

構造解析と電子物性評価
本章では、仕込み組成制御と CaO 酸化によって、酸素量の異なる La2O2Bi のバルク多

結晶試料を合成し、結晶構造の同定、化学組成の分析、電気磁気特性の評価を行った。
仕込み酸素組成の増大に伴い、a 軸長に大きな変化はなかったが、酸素挿入による c 軸
長の伸長を確認した。さらに、高純度の La2O2Bi 試料に対し、熱重量分析と EDX 測定
により、酸素組成を決定した。また、放射光 XRD を測定し、リートベルト解析によっ
て酸素組成を定量するとともに、層間酸素が原子状態で 4e サイトに存在することを明
らかにした (図 1a)。層間酸素は La イオンとの距離が 1.28 Å と短いことから配位結合
を形成している可能性がある。電気抵抗測定の結果から、酸素欠損組成の La2O2Bi は既
報と同様の半導体的挙動であったが、過剰酸素組成の La2O2Bi は金属伝導を示した (図
1b)。また、Hall 効果測定から半導体的伝導を示した La2O2Bi の伝導キャリアは電子であ
ったのに対し、金属伝導を示した La2O2Bi は伝導キャリアが正孔となり、酸素挿入によ
る伝導キャリアの極性反転を確認した。また、ニクトゲンやカルコゲンを含む層状化合
物多結晶の物質群の中では、La2O2.20+δBi の組成において、150 cm2V−1s−1 という高い正孔
キャリア移動度を示すこともわかった。本研究において、RE2O2Bi で最も格子の大きな
La2O2Bi への酸素挿入が高移動度正孔キャリア伝導を誘起することがわかり、既報の
RE2O2Bi の超伝導化とは異なる電気伝導性変化を見出した 8,9。

図 1 (a) La2O2Bi の過剰酸素構造。(b) 酸素組成の異なる La2O2Bi の電気抵抗率の温
度依存性。

4

第 5-7 章 ビスマスを含む層状酸化物における
結晶構造解析と電子物性の評価
熱処理した Bi を含む層状酸化物の放射光 XRD について、リートベルト解析を行い、
原子配列の秩序状態が異なる 4 種類の結晶構造に分類されることがわかった。また、加
熱温度によっては、絶縁体の新物質に構造変化することがわかった。Bi を含む層状酸化
物は、電子状態計算と比熱測定から原子配列の秩序状態によらず、金属的な基底状態を
とることがわかった。ここで、電子状態は原子配列に関わらず金属であるが、電気抵抗
率は原子配列の秩序度によって大きく異なった。電気抵抗率の温度依存性から、無秩序
的な原子配列をもつ結晶構造では高抵抗で、秩序的な原子配列では低抵抗であった。こ
れは、原子配列の乱れが伝導キャリアの局在を促し、キャリア移動度が著しく低下した
ためと考えられる。また、秩序構造と無秩序構造、新物質の電気抵抗率が大きく異なる
3 相間で、特定の温度プログラムによって結晶相の熱的スイッチング可能であることが
わかった。これは秩序構造と無秩序構造の作り分けを行った層状銅酸化物でも達成され
ておらず、酸化物で初の現象である。

第8章

総括

本研究では、ビスマス層状酸化物の局所構造に着目し、制御することで顕著な電子物
性の変化を見出した。La2O2Bi への酸素挿入では、層間酸素の位置や化学状態を初めて
明らかにし、金属的な電気伝導を実現した。また、La2O2.20+δBi は類縁層状化合物多結晶
の中でもトップクラスの 150 cm2V−1s−1 という高い正孔キャリア移動度を示すこともわ
かった。Bi を含む層状酸化物では、加熱処理によって 4 種類の原子配列と新物質の結
晶相に相変化可能であることがわかった。さらに秩序構造と無秩序構造、新物質の 3 相
間で、顕著な電気抵抗率変化を伴う結晶相の熱的スイッチングを酸化物で初めて見出し
た。

5

参考文献
1

J.G. Bednorz and K.A. Müller, Z. Phys. B 64, 189 (1986).

2

H. Mizoguchi and H. Hosono, J. Am. Chem. Soc. 133, 2394 (2011).

3

E. Dogdibegovic and N.S. Alabri, Rep. Prog. Phys. 81, 046501 (2018).

4

Y. Tokura, Y. Taguchi, Y. Okada, Y. Fujishima, T. Arima, K. Kumagai, and Y. Iye, Phys.

Rev. Lett. 70, 2126 (1993).
5

R. Sei, S. Kitani, T. Fukumura, H. Kawaji, and T. Hasegawa, J. Am. Chem. Soc. 138, 11085

(2016).
6

K. Terakado, R. Sei, H. Kawasoko, T. Koretsune, D. Oka, T. Hasegawa, and T. Fukumura,

Inorg. Chem. 57, 10587 (2018).
7

R. Sei, H. Kawasoko, K. Matsumoto, M. Arimitsu, K. Terakado, D. Oka, S. Fukuda, N.

Kimura, H. Kasai, E. Nishibori, K. Ohoyama, A. Hoshikawa, T. Ishigaki, T. Hasegawa, and T.
Fukumura, Dalton. Trans. 49, 3321 (2020).
8

K. Matsumoto, H. Kawasoko, H. Kasai, E. Nishibori, and T. Fukumura, Appl. Phys. Lett. 116,

191901 (2020).
9

K. Matsumoto, H. Kawasoko, N. Kimura, and T. Fukumura, Dalton. Trans. 50, 6637 (2021). ...

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参考文献

J.G. Bednorz and K.A. Müller, Z. Phys. B 64, 189 (1986).

H. Mizoguchi and H. Hosono, J. Am. Chem. Soc. 133, 2394 (2011).

E. Dogdibegovic and N.S. Alabri, Rep. Prog. Phys. 81, 046501 (2018).

Y. Tokura, Y. Taguchi, Y. Okada, Y. Fujishima, T. Arima, K. Kumagai, and Y. Iye, Phys.

Rev. Lett. 70, 2126 (1993).

R. Sei, S. Kitani, T. Fukumura, H. Kawaji, and T. Hasegawa, J. Am. Chem. Soc. 138, 11085

(2016).

K. Terakado, R. Sei, H. Kawasoko, T. Koretsune, D. Oka, T. Hasegawa, and T. Fukumura,

Inorg. Chem. 57, 10587 (2018).

R. Sei, H. Kawasoko, K. Matsumoto, M. Arimitsu, K. Terakado, D. Oka, S. Fukuda, N.

Kimura, H. Kasai, E. Nishibori, K. Ohoyama, A. Hoshikawa, T. Ishigaki, T. Hasegawa, and T.

Fukumura, Dalton. Trans. 49, 3321 (2020).

K. Matsumoto, H. Kawasoko, H. Kasai, E. Nishibori, and T. Fukumura, Appl. Phys. Lett. 116,

191901 (2020).

K. Matsumoto, H. Kawasoko, N. Kimura, and T. Fukumura, Dalton. Trans. 50, 6637 (2021).

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