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書き出し

センダイウイルスベクターを用いた生体内心筋直接リプログラミングによる心筋細胞の再生

礒見, まり 筑波大学 DOI:10.15068/0002007955

2023.09.04

概要

筑 波 大 学
博士(医学)学位論文

センダイウイルスベクターを用いた
生体内心筋直接リプログラミングによる
心筋細胞の再生

2022
筑波大学

礒見 まり

⽬次
【1】背景および⽬的 ....................................................................................................... 4

【2】研究 1「SeV を⽤いた⼼筋リプログラミングの⻑期効果の評価」 ....................... 8

⽅法 ............................................................................................................................... 8

1.

マウス ................................................................................................................. 8

2.

SeV ベクター作製 ............................................................................................... 9

3.

免疫組織学的解析 ............................................................................................. 10

4.

タモキシフェン投与による Cre/loxP 遺伝⼦組換え........................................ 11

5.

マウス⼼筋梗塞(MI)モデル作製と in vivo 遺伝⼦導⼊ ............................... 11

6.

⼼エコー検査 .................................................................................................... 12

7.

統計解析 ........................................................................................................... 12

結果 ............................................................................................................................. 13



Tcf21iCre/R26-tdTomato マウスで線維芽細胞が追跡されることを確認......... 13



通常免疫マウスにおいても SeV-GMT により誘導された⼼筋細胞を確認 .... 14



SeV-GMT の投与後 12 週においても⼼機能の改善を確認 ............................. 16



SeV-GMT 投与により 12 週後の梗塞巣の縮⼩と collagen I 発現量が減少 .... 17
1

考察 ............................................................................................................................. 19

【3】研究 2「⼼筋直接リプログラミングにより新たに出現した⼼筋細胞の由来の解
明 」 ............................................................................................................................... 21

⽅法 ............................................................................................................................. 21

1.

マウス ............................................................................................................... 21

2.

SeV ベクター作製 ............................................................................................. 22

3.

免疫組織学的解析 ............................................................................................. 22

4.

タモキシフェン投与による Cre/loxP 遺伝⼦組換え........................................ 23

5.

マウス⼼筋梗塞(MI)モデル作製と in vivo 遺伝⼦導⼊ ............................... 23

6.

統計解析 ........................................................................................................... 23

結果 ............................................................................................................................. 23



マウス⽣体内において SeV-GMT は真に⼼筋細胞を誘導することを確認 .... 23

考察 ............................................................................................................................. 27

【4】結語 ....................................................................................................................... 29

【5】要約図 .................................................................................................................... 30

【6】参考⽂献 ................................................................................................................ 30
2

【7】謝辞 ....................................................................................................................... 34

【8】出展 ....................................................................................................................... 34

3

【1】背景および⽬的
近年の医療技術の著しい発展にも関わらず、⼼機能の低下に起因する死亡率は依然と
して⾼いままである。⼼筋梗塞(Myocardial Infarction, MI)を起こした患者の多くは
⼼筋収縮⼒の低下やリモデリングを引き起こし、⼼不全状態に陥る。終末分化細胞であ
る⼼筋細胞は再⽣能⼒に乏しく、そのため⼼筋梗塞により壊死した⼼筋細胞は増殖した
⼼臓線維芽細胞や細胞外基質などに置き換えられる[1]。その結果、⼼臓の線維化や収
縮⼒の低下が引き起こされて⼼不全に⾄る。現時点での根本的な治療法は⼼臓移植しか
なく、新たな治療法としての⼼臓再⽣療法の開発に⼤きな期待が寄せられている。
⼼臓再⽣療法の細胞源として iPS 細胞が広く知られている。iPS 細胞を⽤いた⽅法で
は、まず線維芽細胞を iPS 細胞にリプログラミングし、その後に⼼筋細胞を分化・精製
して患者の⼼臓に移植するという⼯程がとられる。この⽅法は⼼筋細胞を⼤量に作製で
きるというメリットを持つ⼀⽅で、以下のような課題を克服する必要がある。①⼯程が
複雑で時間を要すること、②未分化な細胞を経由するため腫瘍化のリスクがあること、
③作製した⼼筋細胞を移植するために開胸術を必要とすることなどである。これらの課
題を解決する新たなアプローチとして、未分化な ES 細胞や iPS 細胞を介さずに線維芽
細胞から⽬的の細胞を直接誘導するダイレクトリプログラミングという⼿法が開発さ
れた。これまでに当研究室では、
⼼臓の発⽣過程で重要な転写因⼦である Gata4、
Mef2c、
Tbx5(GMT)をレトロウイルスベクターを⽤いて培養⼼臓線維芽細胞で過剰発現させ、
4

線維芽細胞から⼼筋細胞を直接誘導できることを発⾒した(⼼筋直接リプログラミング)
[2]。さらに、GMT もしくは Hand2 を加えた GHMT をウイルスベクターで⼼筋梗塞
モデルマウスの⼼臓に投与することにより、⽣体内でも⼼筋直接リプログラミングが可
能であることを確認している[3-5]。しかしながら、以上の実験はレトロウイルスベク
ター、あるいはレンチウイルスベクターを⽤いていた。これらのウイルスベクターは感
染した宿主の遺伝⼦に組み込まれてタンパク質に翻訳されるという特徴をもつため、挿
⼊変異を起こす可能性が否定できない。したがって、治療法として臨床応⽤を⽬指すた
めにはこの課題を克服することが求められていた。
センダイウイルスベクター(SeV)はレトロウイルスベクターやレンチウイルスベク
ターと同じ RNA ウイルスであるが、感染した細胞の細胞質で翻訳されるため宿主の遺
伝⼦に組み込まれることなく⽬的のタンパク質を発現させることができる[6]。SeV ベ
クターを⽤いて培養線維芽細胞に GMT を発現させると、レトロウイルスベクターと⽐
較して⼼筋直接リプログラミング効率が改善することが明らかになった[7]。さらに、
急性⼼筋梗塞を起こさせた免疫不全マウスに GMT を搭載した SeV ベクター(SeVGMT)を投与すると⼼機能の改善が⾒られ、梗塞巣が縮⼩することも確認された[7]。
本論⽂では、SeV を⽤いた⼼筋ダイレクトリプログラミングについてこれまでに未解
明であった次の 2 点について検証した。研究 1「SeV を⽤いた⼼筋リプログラミングの
⻑期効果の評価」、研究 2「⼼筋直接リプログラミングにより新たに出現した⼼筋細胞
5

の由来の解明」である。以下に各研究の⽬的を⽰す。

研究 1「 SeV を⽤いた⼼筋リプログラミングの⻑期効果の評価」 の⽬的
上述の通り、SeV ベクターを⽤い遺伝⼦導⼊により⼼筋ダイレクトリプログラミング
が可能であることが報告されている。宿主細胞の核内に侵⼊しないベクターを⽤いてダ
イレクトリプログラミングに成功したことは、挿⼊変異のリスクを解決するという点で
重要な進歩である [7] 。しかしながら、これまでの報告では SeV-GMT 投与後 1 週間
の誘導⼼筋細胞は確認されていたが、より⻑期間存在するかどうかは未確認であった
[7]。また、⼼筋リプログラミングによる治療の効果については免疫不全マウスである
NOD-SCID を⽤いた 4 週間の観察のみであった [7] 。将来的に臨床応⽤を⽬指した治
療法の開発においては通常免疫のマウスでの⻑期効果について評価することが不可⽋
である。したがって、本研究では SeV による GMT の過剰発現が⼼不全マウスに対し
て⻑期的に効果を⽰すかということを検証するため、通常の免疫機能を有するマウスを
⽤いてさらに⻑期間の観察を⾏った。

研究 2「⼼筋直接リプログラミングにより新たに出現した⼼筋細胞の由来の解明」の⽬

これまでに⼼臓内の c-kit 陽性(c-kit+)細胞から新しい⼼筋細胞が産⽣されるという
6

報告があったが、その後の研究で細胞系譜を追跡できるマウスを⽤いてこのことが否定
された[8,9]。c-kit+細胞を追跡した結果、新たな⼼筋細胞とされていたものは周囲の⼼
筋細胞との融合によりできた細胞であることが証明され、 c-kit+細胞は⼼臓再⽣にはほ
とんど寄与しないことが明らかになった。このような経緯から、⼼筋直接リプログラミ
ングにより誘導された⼼筋細胞が真に⼼臓線維芽細胞から誘導されたものであるのか、
あるいは⼼臓線維芽細胞と⼼筋細胞の融合により現れたものであるのかということが
俎上に載せられてきた。このことについては、⼼筋リプログラミング研究を進めるにあ
たって重要な事項であるにも関わらず、細胞融合の可能性が未だ否定されていなかった。
このような背景から、 SeV-GMT の投与による⼼筋直接リプログラミング法を⽤い
て⽣体内で新たに出現した⼼筋細胞が真に⼼臓線維芽細胞に由来するかどうか検証す
る必要があると考え、研究を開始した。本研究では⼼臓線維芽細胞を標識して追跡する
ことにより、新⽣⼼筋細胞の由来の解明を試みた。

7

【2】研究 1「SeV を⽤いた⼼筋リプログラミングの⻑期効果の評価」
⽅法
1.

マウス

全ての動物実験は筑波⼤学動物実験倫理委員会の承諾のもとで⾏った。
線維芽細胞の追跡には Tcf21iCre/R26-tdTomato マウスを⽤いた。Tcf21iCre/R26tdTomato を発現するマウスは Tcf21iCre マウスと R26R-tdTomato レポーター遺伝⼦
発現マウスの交配により作製した[5,7,10]。 Tcf21iCre マウスは線維芽細胞特異的なプ
ロ モ ー タ ー で あ る Tcf21 領 域 に タ モ キ シ フ ェ ン 誘 導 型 の Cre リ コ ン ビ ナ ー ゼ
(MerCreMer)をノックインした Tcf21iCre ノックインマウスである[7,11]。また、R26tdTomato は loxP 配列に挟まれた領域にストップコドンが挿⼊されており、下流に
tdTomato レポーター遺伝⼦が存在するため Cre が発現した場合のみ Tomato 陽性とな
る。したがって、 Tcf21iCre/R26-tdTomato マウスでは線維芽細胞でのみ Cre リコンビ
ナーゼが発現し、Tomato が発現するため線維芽細胞のみが⾚で標識される(Figure 1)。
⼼機能の評価と線維化の評価には通常免疫を有する C57/BL6 マウス 8 週齢を使⽤
した。 C57/BL6 マウス は CLEA(東京)より⼊⼿した。⼼エコー検査には各群 15 匹
(n=15)、免疫組織学的解析には n≧3 のマウスを⽤いた。遺伝⼦型の判定には Table 1
のプライマーを使⽤した。

8

Figure 1
Tcf21iCre/R26-tdTomato マウスを⽤いた内在性⼼臓線維芽細胞追跡の仕組み。
誘導された⼼筋細胞は tdTomato と cTnT を発現する。図は cTnT を緑で標識した場合で、⾚
と緑が重なり⻩⾊の⼼筋細胞として観察される様⼦を⽰す。

Table 1. Mouse Genotyping Primer Sequences
Mouse line

Forward primer

Reverse primer

Tcf21iCre

GTTCGCAAGAACCTGATGGACA

CTAGAGCCTGTTTTGCACGTTC

R26-tdTomato

CTGTTCCTGTACGGCATGG

GGCATTAAAGCAGCGTATCC

2.

SeV ベクター作製

F 遺伝⼦⽋損温度感受性 SeV ベクター(SeV/TSΔF)の作製には Gata4-Mef2c-Tbx5
ポリシストロニック遺伝⼦を SeV/TSΔF ベクターの cDNA に挿⼊した[6,12]。この際、
ポリシストロニック GMT は SeV の転写終結(E)
、介在配列(I)、転写開始(S)と接
続して SeV ベクターの cDNA に挿⼊した[6,7]。293T 細胞に各導⼊遺伝⼦を搭載した
SeV ベクターの cDNA(pSeV/F)と T7 RNA ポリメラーゼ、NP、P、F5R、L 遺伝⼦
を搭載した pCAGGS プラスミドを感染させ、 SeV/TSΔF ベクターを産⽣されるまで

9

10%FBS 添加 DMEM 培地で 1-3 ⽇間培養した。その後、SeV F 発現 LLC-MK2 細胞株
である LLC-MK2/F7/A 細胞を⽤いてウイルスベクターを増幅した。ベクターの⼒価
(cell infectious units [CIU]/mL)は抗 SeV ウサギポリクローナル抗体による免疫染⾊
で測定した。

3.

免疫組織学的解析

採材したマウスの⼼臓は 4%パラホルムアルデヒドに⼀晩浸漬して固定した後、
O.C.T.コンパウンド(サクラファインテック)に包埋した[7]。これを両⼼室が確認で
きるように 7μm 厚で薄切した。薄切⽚はまず以下の⼀次抗体で染⾊した: cardiac
troponin T(cTnT; Thermo Fisher Scientific, MS-295-P1)
、green fluorescent protein
(GFP; MBL, 598)
、collagen I(Millipore, AB765P)
。その後、Alexa 488、546、DAPI
で標識された⼆次抗体で染⾊した。Collagen I+領域の⾯積は Adobe Photoshop analysis
tool(Adobe, ver. 21.0.1)を⽤いて⼼筋領域に対する collagen I+領域を算出した。以上
の数値は各群 3-10 匹のマウスより 30-50 枚の薄切⽚を作製して解析した。Z スタック
画像は共焦点レーザー顕微鏡(Carl Zeiss, LSM800)を使⽤して作製した。マッソント
リクローム染⾊はパラフィン包埋切⽚を⽤いて⾏い、梗塞巣の測定には前述の Adobe
Photoshop analysis tool を使⽤した。梗塞巣は⼼臓の乳頭筋レベル(L1)
、中間レベル
(L2)
、⼼尖部(L3)で横軸⽅向に切り出した薄切⽚において左⼼室の梗塞部(⻘⾊)、
10

健常部(⾚⾊)の⾯積を算出した。各レベル 3 枚ずつ測定し、各群 n=5 とした。なお、
測定と計算は全て盲検的に⾏った。

4.

タモキシフェン投与による Cre/loxP 遺伝⼦組換え

タモキシフェン誘導型 Cre リコンビナーゼを活性化するため、タモキシフェン(45
mg/kg/day , Sigma, T5468)を 5 ⽇間連続して腹腔内投与した。タモキシフェンは 90%
ピーナッツオイル(Sigma、P2144)/10%エタノールを溶媒として 50 mg/mL になるよ
うに調整した。タモキシフェン投与最終⽇の 7 ⽇後にマウス⼼筋梗塞モデルを作製し
た。

5.

マウス⼼筋梗塞(MI)モデル作製と in vivo 遺伝⼦導⼊

⼿術はイソフルランガス⿇酔下で⾏った。左胸を開胸して左前下⾏枝を 7-0 絹⽷で結
紮し、左⼼室を虚⾎状態にすることによりマウス MI モデルを作製した。⾎管結紮後直
ちに 29G 針を使⽤して SeV ベクター(1×107 ICU/mouse)60μL を梗塞領域と境界部
に注⼊した。MI ⼿術後の死亡率は 10%以下である。
術後 2 ⽇⽬に⼼エコー検査を⾏い、
左室駆出率(Ejection Fraction, EF)が 40%以上であるものは除外した。

11

Figure 2
マウス MI モデルを⽤いた実験のタイムスケジュールを⽰す。

6.

⼼エコー検査

⼼機能の評価は、
術後 2 ⽇⽬と 2、
4、
12 週に経胸壁⼼エコー
(Visual Sonics,

Vevo2100)

を⽤いて⾏った(各群 n=15)
。⼼エコー検査は低濃度のイソフルランによる⿇酔下で⾏
った。EF 値、左室内径短縮率(Fractional Shortening, FS)は乳頭筋レベルの M モード
⼼エコー図から算出した。

7.

統計解析

サンプル数(n)、記述統計(平均値、標準偏差)、有意差等の統計パラメーターは各
図表の説明⽂に記載されている。最低 n=3 のサンプルを統計処理に使⽤した。有意差
検定は Dunnett 法に基づいて Student の t 検定または⼀元配置分散分析で⾏い、p 値が
0.05 以下の場合を有意差ありと判定した。

12

結果


Tcf21iCre/R26-tdTomato マウスで線維芽細胞が追跡されることを確認

線維芽細胞を追跡するために Tcf21iCre/R26-tdTomato マウス系統を作製し、タモキ
シフェンを 5 ⽇間投与後、最終投与⽇から 7 ⽇後に MI の⼿術を⾏った。 Figure 3A は
MI 後 4 週の⼼臓切⽚を tdTomato(⾚)、⼼筋細胞マーカーである cTnT(緑)、核染⾊
として DAPI(⻘)で染⾊した全体像である。梗塞巣の部分は線維芽細胞が増殖し、⾚
が⼤部分を占めている。また、Tomato 陽性の細胞が線維芽細胞であることを確認する
ため、MI のみ(ウイルスベクターの投与なし)のマウスの⼼臓切⽚を cTnT または線
維芽細胞マーカーの collagen I で染⾊した。Figure 3B に⽰すように、Tomato+細胞は
cTnT とは重ならず、collagen I⁺細胞と重なっており、線維芽細胞が Tomato で標識さ
れていることが確認された。

A

B

Figure3
Tcf21iCre/R26-tdTomato マウスにおいて線維芽細胞が Tomato で標識されていることを確認
13



通常免疫マウスにおいても SeV-GMT により誘導された⼼筋細胞を確認

MI 術を施した Tcf21iCre/R26-tdTomato マウスに Mock あるいは SeV-GMT を投与
し、4 週間後に解析した。 ...

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