イグジグオリドの全合成
概要
1.緒言
(–)-Exiguolide (1)は、2006 年に奄美大島の沿岸に生息する海綿 Geodia exigua Thiele から太田らにより単離・構造決定されたマク➫リドである 1(Figure 1)。本天然物の平面構造および相対配置は二次元 NMR 解析によって帰属され、Leeらの非天然型光学異性体の全合成 2 により絶対配置が決定された。本天然物は我々のグループによって初の全合成が達成され、ヒト非小細胞肺がん細胞 A549 や NCI-H460 に対し✃力な増殖阻害活性を示すことが明らかになった 3。このような背景から本天然物は多くのグループにより全合成のターゲットとされてきたが、 2,6-cis 置換テトラヒドロピランを 2つ含む 20員環マクロラクトン骨格にトリエン側鎖を配した複雑な構造を持つことから、過去 7 例の全合成は市販原料より 21–27 段階を要した。本研究ではマクロ環化と渡環反応を組み合わせた独自の新合成戦略によって、(−)-exiguolide (1)の効率的な全合成を達成することを目的とした。
2.結果及び考察
市販原料の(S)-epichlorohydrin (2)に対して 2- lithio-1,3-dithiane とアルキニルボランの連続した求核付加によってアルコール 3 に誘導した(Scheme 1)。続いて化合物 3 を PMB エーテルとし、ジチオアセタールを加水分解してアルデヒド 4 へ変換した。Brown 不斉アリル化によりホモアリルアルコール 5 をd.r. 10:1 で得た。生じたアルコールにTriBOT-PM4 によりPMB 保護を施し、ビス PMB エーテル 6 に誘導したのち、オレフィンの酸化的切断および Pinnick 酸化によりカルボン酸 7 を合成した。
次に市販原料のオレフィン 8 を m-CPBA 酸化したのち、Jacobsen 法 5 によるジアステレオマーの速度論的光学分割を行い、エポキシド 9 を単一のジアステレオマーとして得た(Scheme 2)。続いてGrignard 試薬により増炭してアルコール 10 を得、THP エーテル化とシリル基除去によりアルコール 11 に誘導した。さらに化合物 11 を Dess–Martin 酸化したのち、別途、市販原料から6 工程で調製したスルホン 12 との Julia– Kocienski オレフィン化 6 とシリル基除去によりアルコール 13 を合成した。
化合物 7 と 13 の山口法 7 による縮合と酸処理による 2 つの THP 基の除去によりプロパルギルアルコール 14 へ誘導した(Scheme 3)。ここで独自のタンデム反応による 14 から 17 への一挙変換を種々反応条件下で詳細に検討した。その結果、Meyer–Schuster 転位 8 でビニルケトン 15 に変換し、これを単離することなく第二世代 Grubbs 触媒(G-II)で CPME/(CH2Cl)2 の 1:1 混合溶媒中 40 ℃にて処理すると、閉環メタセシス(15→16)と渡環 oxa-Michael 付加(16→17)が連続的に進行し、所望の立体配置を有する β-アルコキシケトン 17 を収率 62%、単一のジアステレオマーとして得た。化合物 17 を Et3SiHと BF3•OEt2 で処理すると、2 つの PMB 基の除去とともに渡環岸還元 9 が進行し、所望の立体配置を有するメチレンビステトラヒドロピラン 18 を高収率かつ単一の立体異性体として得た。続いて化合物 18 を Dess–Martin 酸化したのち、別途調製したホスホン酸エステル 1910 との Horner–Wadsworth–Emmons 反応により、α,β-不飽和エステル 20 を合成した。最後に別途、市販原料から6 工程で調製したピナコールボラン21との鈴木–宮浦反応を行うことで、(–)-exiguolide (1)の全合成を達成した。
3.結論
マクロ環化後に2 つのテトラヒドロピラン環を渡環反応で閉じる独自の新合成戦略によって、(–)-exiguolide (1)の全合成を最長直線工程数 13 段階で達成し、従来法(21–27 段階)と比較して大幅な効率化を実現した。