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大学・研究所にある論文を検索できる 「高校生の海外研修プログラム参加による変容プロセスとその中長期的影響―インドネシアにおけるESDの視点に立った国際協働型プログラム開発に着目して―」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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高校生の海外研修プログラム参加による変容プロセスとその中長期的影響―インドネシアにおけるESDの視点に立った国際協働型プログラム開発に着目して―

建元, 喜寿 筑波大学

2023.09.04

概要

【博士論文概要】

高校生の海外研修プログラム参加による変容プロセスとその中長期的影響
―インドネシアにおける ESD の視点に立った国際協働型プログラム開発に着目して―
2022 年度
建元 喜寿
筑波大学大学院 人間総合科学学術院 人間総合科学研究群
カウンセリング科学学位プログラム
本研究は、日本の高等学校における海外研修に焦点をあて、
「世界の持続可能性」を育む人材育成
という視点からプログラム開発を行い、プログラム参加による生徒の変容とその中長期的影響を明
らかにすることを目的とした。また、研究成果を、高等学校における今後の海外研修プログラム開発
に活用できる形でまとめ、高等学校における ESD の視点にたった海外研修プログラムの推進に資す
る提言を行った。
世界的な潮流としてのグローバル化の進展に伴い、グローバル人材の育成が様々な場所において
行われている。とくに日本においては、英語を中心としたコミュニケーション能力の育成に重点が
おかれ、経済界からの要請で海外との経済摩擦の中でも打ち勝っていく、
「競争型のグローバル人材」
の育成に注力が注がれてきた。
しかし、グローバル化の拡大とともに、気候変動、経済格差の拡大、社会分断、パンデミックなど、
世界の持続可能性の危機が懸念されるようになった。2015 年には、国連で「持続可能な開発のため
の 2030 アジェンダ(SDGs)
」が採択された。世界各国で、
「気候非常事態宣言」がだされ、気候変
動教育が重要視され、ユース世代も参画し持続可能な社会の構築に動き出している。2019 年 12 月
には国連総会で ESD for 2030 が採択され、ESD を軸に SDGs の達成を目指し、持続可能な世界を
構築にむけた教育を実現していくことが世界の教育における中心的課題となった。
ESD の視点に立った教育活動では、生徒が主体的に参加し社会の変容をおこしていくことが重視
されている。国際理解教育を推進するユネスコも、ESD による個人変容とそれにともなう社会変容
を促す教育を推進している。本研究における海外研修プログラム開発も、これら ESD の要点を基盤
においたプログラム開発を行った。
研究の対象は、おもに文部科学省が全国の高等学校を対象に公募し実施した、スーパーグローバ
ルハイスクール事業(以下、SGH とする)
、および SGH の後継事業に位置付けられているワール
ド・ワイド・ラーニングコンソーシアム構築支援事業(以下、WWL とする)、そして、それに参加
した高校生とした。具体的には、日本側は SGH に指定され、WWL 事業では全国の幹事管理機関に
おけるカリキュラム開発拠点校である筑波大学附属坂戸高等学校(以下、筑坂)、インドネシア側は
筑坂の国際連携協定校として SGH および WWL 事業に関わったインドネシアボゴール農科大学附
属高等学校、およびインドネシア環境林業省附属林業高等学校とした。
プログラムの開発は、2か国の高校が協力し開発する、短期海外研修プログラムおよび長期海外

研修プログラムにわけて行った。SDGs では、先進国および開発途上国の枠組みを超え、世界が協働
してグローバルな社会課題を解決していくことが求められている。短期海外研修プログラムは、日
本、インドネシア、双方に共通する「森林の持続性」を課題に設定し、インドネシアの農村部におい
て、両国の高校生が協働で課題解決活動を行うプログラムの開発を行った(第 5 章:研究 1)

長期海外研修プログラムは、継続的・持続的な取り組みとなるよう、各国の高校が国際連携協定を
締結したうえで開発を行った。これまで留学の阻害要因とされてきた語学力や経済面に配慮した協
定を締結し開発を行った(第 6 章:研究 2)

海外研修参加による変容とその中長期的影響は、短期海外研修プログラムおよび長期海外研修プ
ログラムにわけて検討を行い、最後に総合考察を行った。調査対象は日本人高校生としたが、プログ
ラムの協働性を重視した短期海外研修プログラムについては、プログラム参加前後の変化を、国際
的資質尺度短縮版と自由記述からなる質問紙調査により両国の高校生を対象に調査を行った(第 7
章:研究 3)
。調査は SGH 最終年度である 2018 年度にプログラムに参加した 21 名の高校生(日本
人 7 名、インドネシア人 14 名)を対象に行い、国際的な協働活動の基盤となる「異文化肯定意識」
が、両国に共通して有意に高まることが示された。一方、協働活動に関連する質問項目からなる「国
際理解における他者理解」や「国際事象への知識・スキル」には有意な変化は見られなかった。
海外研修プログラム参加による変容や影響に関しては、日本人高校生 22 名を対象に M-GTA(修
正版グラウンデッドセオリーアプローチ)を用いて、その変容プロセスの分析を行った。まず、短期
海外研修プログラム参加中の変容(第7章:研究 4)について分析を行った。さらに、短期海外研修
プログラム参加後にインドネシア長期海外研修プログラム(留学)にも参加した 10 名に関しては、
インドネシア留学を選択するプロセス(第 8 章:研究 5-1)および留学参加中の変容プロセス(第 8
章:研究 5-2)をまとめた。
海外研修プログラム参加による中長期的影響は短期海外研修プログラムのみ参加群 12 名(第 9
章:研究 6)
、長期海外研修プログラム(留学)にも参加した群 10 名(第 9 章:研究 7)にわけて MGTA による分析を行い、現在(2022 年 8 月)の状況に関する聞き取り調査も踏まえて(第 9 章:
研究 8)、海外研修プログラム参加による中長期的な影響の考察を行った。
研究 4 の短期研修参加中の変容では、インドネシアを訪問した日本人高校生は当初、先進国から
来た自分たちが、インドネシアを支援するという意識をもっていた。しかし、森林保全という両国に
共通する課題に対し、インドネシアの同世代の高校生や地元住民と取り組む中で、自分たちの無知・
無力さやを認識し、途上国支援という意識から、課題解決に向けて相互に協力し合うことが重要で
あると考えるようになった。このような変容をもたらした要因は、インドネシアの同世代の高校生
や地元住民と密接な時間を共有し直接やりとりを行う事で、相互理解が促進され、信頼関係が醸成
されたことがあげられた。
研究 5-1 では、インドネシア留学を決定して行くプロセスの基盤となるのは、事前のインドネシ
アとの交流経験により、日本人高校生がインドネシアに対し親和性を高めることにあるという点が、
本研究で明らかにされた特徴的な点であった。インタビュー協力者全員が、インドネシア一択の留
学選択であった。これには、協力隊に参加経験があるインドネシアに詳しい教員の存在と、インドネ
シアの高等学校との国際連携協定の締結という学校としての体制の整備が要点となっていた。
研究 5-2 では、インドネシア長期研修(留学)中の高校生の変容のプロセスがあきらかになった。
インドネシア留学の成果として、1)生きていく自信の獲得、2)多様性を尊重する意識の獲得、3)イン
ドネシア第二の母国化があげられた。1)の「生きていく自信」は、これまでの固定概念を大きく覆さ

れるような環境の中で、1 年間の生活を乗り越えた達成感から醸成されたと考えられた。2)の「多様
性を尊重する意識の獲得」は、特にインドネシアが国是として「多様性の中の統一(Bhinneka
Tunggal Ika)」を掲げ、他者への寛容精神を重んじるインドネシアという国の特質が影響している
といえた。3)の「第二の母国化」は、他者への寛容性や相互扶助の精神の重要性を、インドネシアの
生活で身をもって体験し、自分を受け入れてくれたインドネシアへの感謝や、これからも関わって
いきたいという思いへとつながっていった結果であるといえた。以上のような 3 つの成果について
の考察に基づけば、インドネシアは日本人高校生にとって多様なメリットのある留学先の一つであ
るといえた。
研究 6 では、高校時代のインドネシア海外研修プログラム参加は、短期であっても大学進学や大
学生活に中長期的に影響をあたえ、
【自分を生きる・共に生きる】ことを基盤においたキャリア選択
につながっていくことがわかった。これは、1)少人数の研修で主体的にプログラムに参加せざるを得
ない状況におかれ、自己の内面と深く向き合わざるを得ず、自己の関心や活かし方を深ぼることに
つながったこと、2)「森林の破壊」という課題が発生している現場で、社会貢献意識を高めることを
意図したプログラムを経験することで、自己を活かすことと社会の課題を解決することが意識の中
でつながったこと、そして 3)相互扶助の精神が社会に深く息づいているインドネシアの住民と過ご
し、実際に様々な場面で助けられたことが、プログラム参加直後だけではなく中長期的に影響を与
えることにつながったと考えられた。
研究 7 では、長期研修参加者も大学進学や大学生活に中長期的に影響をあたえ【自分を生きる・
共に生きる】につながるという同様の影響がみられた。さらに長期研修参加者には 1)インドネシア
への愛着に基づく 2 国間のつなぎ役としての役割を果たしていくようになること、2)日本で暮らす
外国人の大変さの理解が促進されること、3)インドネシア生活のなかで受けた恩を、日本で暮らす外
国人の手助けという形で恩返しをしようとする特徴が見られた。このような影響を及ぼす要因とし
て、他者への寛容性と相互扶助に根差したインドネシア社会を、約 1 年間という期間、身をもって
学ぶ機会を得られたことが、インドネシアへの愛着につながり、自らも他者への寛容性や相互扶助
への意識を高めたことが考えられた。
研究 8 では大学卒業後のキャリア選択に関して、国内外で多様な職種に就いており、とくに社会
貢献を見据えたうえで就職先の検討を行っていることが特徴的であった。長期研修参加者はさらに、
インドネシア語能力を活かしたキャリア選択を行う事例が複数みられた。インタビュー協力者は、
大学院生や大学生に在籍中である協力者が半数おり、11 名の聞き取りに基づく結果ではあるが、高
校時代の海外研修は、大学卒業後のキャリア選択にも影響を与えうるといえた。
最終的な結論として、日本人高校生の高校時代のインドネシア海外研修経験は、短期であれ長期
であれ、多文化共生や持続可能な社会の構築に資する変容をもたらし、その影響は中長期的にわた
ることが明らかとなった。研修が効果的に行われた要因として、生徒が訪問国の人々や社会を尊重
し、また学校が関わることで安心して参加するできる状況を、両国の学校や研修に関わる関係者が、
信頼関係のもとに協働し、プログラムを実践できていることがあげられた。
高校生を対象とした海外研修の効果に関する実証的な研究は極めて少ないのが現状である。今後、
欧米圏や近隣のアジア圏だけではなく、多様な国や地域における海外研修プログラムが開発、実施
され、プログラムごとの継続的な実証研究が行われることが期待される。 ...

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