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第72回 香川生物学会総会 研究発表要旨

溝口 裕基 松本 一範 出水 佑之介 工藤 祐也 篠原 渉 玉川 晋二郎 金子 之史 香川大学

2021.06.30

概要

第72回 香川生物学会総会 研究発表要旨
メダカはオペラント条件付け実験に適した材

とが明らかになった。アンケート対象者に対

料なのか

して生物学的種概念を把握するための授業を

溝口裕基・松本一範(香川大・教育)

実践した。授業では,
「子孫を残せるかどう

 ミナミメダカがオペラント条件付け実験に

か」ということを基に生物を分類する方法が

適した材料であるのかどうかを検討した。ミ

あり,それに基づいて分類された生物個体の

ナミメダカを針金製の輪(弁別刺激)を備え

集団が一般に種と見なされていることを説明

た水槽に入れ,ミナミメダカがその輪をく

した。加えて,外部形態を基に種を分類する

ぐる(オペラント行動)と輪を取り出して

ことが難しい生物が多くいることも説明し

餌(強化刺激)を与え,20分間の輪くぐり回

た。授業の最後に,子孫を残せるかどうか

数と各輪くぐりに要した時間を測定した。こ

という観点から,いくつかの動物が同じ種に

の試行を雌雄各個体に対して1日3回,1週

属するといえるかどうかを考えさせた。その

間連続で行ったところ,雌雄とも輪くぐり回

際,交雑で生まれた子孫が何世代も続く動物

数と輪くぐり時間のいずれも,実験日数の経

と,一代で途絶える動物の説明も行った。授

過に伴って有意に変動することなかった。ま

業後,授業前と同じ内容のアンケートを行っ

た,雄の輪くぐり回数と輪くぐり時間はいず

たところ,種の捉え方と生物学的種概念に関

れも,餌を与えた場合と与えなかった場合で

する設問では,授業前の誤答者の多くが授業

有意に異なることはなかったが,雌において

後には正答者となったため,授業は種を生物

は,餌を与えた場合の方が与えなかった場合

個体の集団として捉えるという点と生物学的

よりも輪くぐり回数は有意に多くなり,輪く

種概念を把握する点で効果があったと考えら

ぐり時間は有意に短くなった。雌雄とも輪く

れた。

ぐり行動は日々強化されていくことはないも
のの,雌においてはその日の輪くぐり行動の

「あたたかさと生き物」における野外での観

生起率は強化刺激の有無に依存したため,前

察学習の実態と,教師の虫嫌いに関する研究

日の強化とは独立に日々オペラント条件付け

出水佑之介・松本一範(香川大・教育)

学習が行われていることが示唆された。しか

 小学校の現職教員を対象に,第4学年「あ

し,強化刺激によって輪くぐり行動が日に日

たたかさと生き物」の単元の授業に関して,

に変化することは観察されなかったため,ミ

質問紙法によるアンケート調査を行い,1)

ナミメダカはオペラント条件付け実験に適し

現職教員が,野外観察を取り入れた授業を実

た材料ではないと判断された。

際どれくらい行っているのか,2)周辺の人
口密度が高い地域と,周辺の人口密度が低い

「生物学的種概念」を把握するための授業研究
金澤卓生・松本一範(香川大・教育)

地域に立地する小学校間で,授業に野外観
察を取り入れる程度に違いは見られるのか,

 大学生を対象に生物学的種概念を把握する

3)教師の虫嫌いは野外観察を取り入れる程

ための授業を立案・実践し,授業の有効性を

度に関係するのかを明らかにした。
「あたた

検査した。事前に香川大学生を対象に質問紙

かさと生き物」の単元の授業を担当した経験

法によるアンケートを行った結果,種を特定

のある教員は全員野外観察を取り入れた授業

の1個体として捉えている人や,種を区別す

を行っていた。植物を観察した経験のある教

る際に外部形態を基準としている人が多いこ

員の割合は,人口密度が高い地域の小学校と

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人口密度が低い地域の小学校で,有意に異な

種である可能性が高いと考えられる。

ることはなかったが,動物を観察した経験の
ある教員の割合は,人口密度が高い地域に

香川県におけるクスベニヒラタカスミカメの

比べて人口密度が低い地域の方が高かった。

分布状況

「あたたかさと生き物」に記載されている動

玉川晋二郎

物と植物について,1種以上の動物もしくは

(大阪市立自然史博物館外来研究員)

植物に不快感を感じたことのある教員は約

  ク ス ベ ニ ヒ ラ タ カ ス ミ カ メ Mansoniella

43%存在した。本研究から,学校周辺の人口

cinnamomiは,2015年に大阪府岸和田市にお

密度や,指導教員が動物や植物に不快感を感

いて日本国内で初めて見つかった外来のカメ

じているかどうかにかかわらず,
「あたたか

ムシで,クスノキの葉を吸汁する害虫として

さと生き物」の授業では,野外観察を取り入

知られている。近畿地方を中心とした急速な

れた授業は一般的に行われていることが明ら

分布の拡大とともに,クスノキの被害の深

かになった。

刻化が懸念され,四国でも2018年には愛媛
県,香川県,徳島県,2019年には高知県にお

サジランとイワヤナギシダとヒメサジランの

ける報告がある。本報告では,2020年の調査

同所集団でみつかった推定雑種個体群の遺伝

を基に,香川県における本種の分布状況を示

的解析

した。県内14市町合計50地点で調査を行った
工藤祐也・篠原 渉(香川大・教育)

ところ,47地点で本種による吸汁痕が確認さ

 近年,高知県の長沢の滝でこれまでに記録

れ,そのうち43地点で成虫が採取された。未

されたどの種にも該当しないサジラン属のシ

確認である島嶼部を除けば,県内全域に広く

ダ植物が発見された。このシダ植物は日本に

分布していることが明らかになった。大木の

分布するサジラン属の種であるサジラン(L.

クスノキは重要な存在になっており,船山神

duclouxii)
,イワヤナギシダ(L. salicifolia),

社や日枝神社には県の天然記念物に指定され

ヒメサジラン(L. grammitoides)と同所的に

たクスノキ,白鳥神社には香川の保存木に指

生育していた。そこで,本研究では長沢の

定されたクスノキがある。いずれも立派な大

滝のサジラン属のシダを採集し,形態形質の

木であるが,例にもれず加害を受けていた。

比較と分子遺伝学的解析から,謎のサジラン

本種は車の交通を中心とした人間活動により

属のシダ植物の両親種の特定を試みた。形態

運搬されている可能性が高いと考えられてい

形質の比較から,謎のサジラン属のシダは葉

る。本調査においても,吸汁痕が確認できな

身の長さ,幅がともにイワヤナギシダとヒメ

かった地点の共通点としては,交通量が少な

サジランの中間の大きさをもつことが分かっ

い場所であることや付近に別のクスノキ群落

た。さらにrbcL遺伝子領域の塩基配列の比較

がないことがあげられる。本種の飛翔能力か

から,謎のサジラン属のシダ植物の塩基配列

ら考えて,平野部のクスノキから離れ,比較

は同所的に生育していた3種の中でヒメサジ

的標高の高い屋島寺境内にどのようにして飛

ランに非常に近い塩基配列を有していた。形

来したのかは興味が持たれる。表遍路道にあ

態形質の比較から同所的に生育していた3種

たる登山口の手前には屋島陸上競技場があ

の中でヒメサジランに近い大きさであったこ

り,歩道に沿ってクスノキが植栽され,本種

とや葉緑体DNAのrbcL遺伝子領域は母性遺

が大いに繁殖している。ここのクスノキの下

伝をすることから,今回発見された謎のサジ

層の葉は大人の肩に触れる高さにあることか

ラン属のシダはヒメサジランを母親とする雑

ら,登山道を通る参拝客によって,屋島寺境

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内のクスノキに本種がもたらされたのではな

で大発生し,また日本での未知種であること

いかと推測している。

を明らかにした。小貫は「我が邦に存する
「モグラ子ズミ」はArvicolaに属する。外国に

なぜ昆虫学者佐々木忠次郎はハタネズミの

は8種あるが我が邦に在るものは其の何れに

新 種 記 載(Arvicola hatanedzuimi Sasaki,

属するかを決定する能わずと雖ども恐らくは

1904)をおこなったのか?

A. subterranius(ママ)に属するものならんか」

金子之史(坂出市在住)

と述べ,吻が突出せず短尾・短耳のネズミの

  現 在, ハ タ ネ ズ ミ は ミ ズ ハ タ ネ ズ ミ 科

形状と三角形が交互に並んだ臼歯紋の形状を

Arvicolidaeに 属 し, 学 名Microtus montebelli

図示した。また佐々木(1901)
「野鼠の害」

(Milne-Edwards, 1872)を用いる。しかし,

は詳細にその習性を記述した。さらに今回,

Sasaki(1904) はMilne-Edwards(1872: 出

Sasaki(1904)の脚注で不十分な表示であっ

版年は金子1875による)が富士山採集標本

た2点の文献(Bos, J. TR. 1891. Ludwig, H.

で原記載をしたことを知らずに学名Arvicola

1883)を参照でき,そこには同様な臼歯紋の

hatanedzumiを提唱した。当時,日本ではネ

形状と8種が示されていた。当時農商務省農

ズミ科Muridae7種のみ知られており(岡田

事試験場昆虫部長の小貫は帝国大学農科大学

1891『日本動物總目録』

,ミズハタネズミ科

教授の佐々木の門下生であったので(長谷川

の知見はなかった。昆虫学者である佐々木

1967;江崎1957:復刻版2巻170頁)
,小貫が

忠 次 郎( 鏑 木1938,1939; 石 森1938; 磯 野

新種記載を佐々木に依頼したと推測する。宮

1988)がどのようにミズハタネズミ科に関す

島(1908)はハタネズミと恙虫病との関係で

る情報を得たのかは,動物学史上では未知で

Milne-Edwards(1872)の原記載を日本で最

あった。種々の検索によって以下の事項が判

初に指摘したが,おそらくThomas(1906)

明した。小貫信太郎(1901)
「野鼠識別法及

を参考にしたのだろう。 ...