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都市化によるチョウ相の変化に関する保全生態学的研究

吉田 周 大阪府立大学 DOI:info:doi/10.24729/00017408

2021.06.10

概要

かつて関東や関西の都市周辺には,農地,燃料や肥料などを供給する二次林,集落などによって構成される里地里山の景観が広がり,多様な生態系が維持されていたが,近年の都市域の急速な拡大により,里地里山に生息していた多くの動植物種が衰退している.古くから人々の関心の高いチョウ類においても特に高度経済成長期以降に東京や大阪などの都心部で種数が減少し,多くの種で生息域の縮小が指摘されてきた.チョウ類は植食性で植物との結びつきが強く,自然環境の状態を把握し,その保全を検討するのに有用とされる.都市化にともなうチョウ類の衰退は植生の多様性の劣化を意味すると考えられる.本研究では,古くから鱗翅類研究がおこなわれ,チョウ類のトランセクト調査も行われてきた京都市を調査地として,都市化によるチョウ類の衰退要因を明らかにし,チョウ類群集の回復のための方策を検討することを目的とした.

本論文は 4 章で構成され,第 1 章では,標本調査により昭和前期の京都市のチョウ相を復元し,土地利用との関係を考察した.第 2 章では,里地里山地域に造成された住宅地周辺においてチョウ類群集の調査を実施し,その特徴と変化について考察した.第 3 章では,二次林を構成要素に含む都市緑地においてチョウ類群集の調査を行い,その特徴を明らかにした.第 4 章では,都市域におけるチョウ類の多様性を評価するための都市化非耐性指数を考案し,チョウ類の保全への適用を試みた.

第 1 章 標本調査により復元した昭和前期の京都市のチョウ相と土地利用との関係
標本は特定の種がある場所,ある時期に生息したことを示す証拠であり,多くの標本を集めたコレクションは過去の生物相を示す有効な資料となる.そこで,箕浦忠愛博士が京都府内で採集したチョウ類の標本(箕浦コレクション)のラベル情報にもとづき 1930 年代から 1950 年代の京都市周辺のチョウ種の分布を調査し,京都府および環境省のレッドリスト掲載種と比較した.
箕浦コレクションは 1904 年から 1969 年にかけて京都府内の 50 カ所で採集された 63 種 961 個体の標本によって構成され,7 種のレッドリスト掲載種が含まれていた.961 個体の中で 924 個体(96.1%)は 1930 年代から 1950 年代に採集されていた.個体数上位 5 種は,ベニシジミ,ヤマトシジミ,ルリシジミ,ウラナミシジミ,モンキチョウであった.採集地を 8 地域(嵯峨,衣笠,西賀茂,岩倉-東山,西山,山間部東部,山間部西部,京都市外)に分けて種数と個体数を比較したところ,嵯峨および衣笠では 43 種 496 個体が採集されていた.レッドリスト掲載種についてみると,この 2 地域においてオオウラギンヒョウモンやウラナミアカシジミなどの絶滅危惧種が衰退したことを示していた.
1931 年と 2016 年の間で嵯峨および衣笠の土地利用の変化を国土地理院発行の地図(1/25000)の解析によって検討したところ,両地域ともに市街地の拡大にともなって水田と水田周囲の二次草原を意味する荒れ地が減少していた.また,嵯峨では針葉樹林が減少して常緑広葉樹林がやや増加し,衣笠では針葉樹林や落葉広葉樹林が減少していた.以上より,かつては普遍的に分布していた一部のチョウ種が,二次草原と,針葉樹や落葉樹によって構成される二次林の減少により衰退し,レッドリストに掲載されるまでになったと考えられた.

第 2 章 里地里山地域に造成された住宅地周辺のチョウ類群集の特徴と変化
都市化による里地里山地域の縮小がチョウ類の多様性に及ぼす影響を検討するため,京都市の岩倉において,2012 年から 2016 年までの 4 月から 10 月の月 2 回,チョウ類のトランセクト調査を実施した.5 年間の調査において,38 種 2,960 個体のチョウ類を確認した.個体数上位の種は,モンシロチョウ,ヤマトシジミ,キタキチョウ,ヒメウラナミジャノメ,モンキチョウであり,これら 5 種で総個体数の 77.4%を占めた.対照的に,11 種は 5年間の総個体数が 5 未満であり,それらのうちの 10 種は日華区系の種であった.38 種中20 種は寄主植物の遷移ランク(SR)が 5 以上の森林性種であったが,総個体数の 90%以上は SR4 以下の林縁性種または草原性種で占められていた.レッドリスト掲載種は確認されなかったが,落葉広葉樹で構成される里山の二次林に依存する種がミヤマセセリやアカシジミなど 6 種確認された.
箕浦コレクション,および 1957 年から 1983 年までのチョウ類の文献記録によると,調査地を含む岩倉周辺ではギフチョウなど 10 種のレッドリスト掲載種を含む 83 種が記録されていた.本研究の調査では,この 83 種中 46 種が確認できなかった.確認できなかった46 種中 35 種は SR が 5 以上の森林性種,34 種は日華区系の種であった.1931 年と 2016 年の土地利用を比較したところ,水田の大幅な減少と市街地の顕著な拡大が認められた.以上の結果は,京都市の郊外において都市化の進行による里地里山地域の縮小に伴い,落葉広葉樹林との結びつきが強い日華区系の森林性のチョウ種が衰退したことによってチョウ類の多様性が低下したことを示している.

第 3 章 二次林を構成要素に含む都市緑地のチョウ類群集の特徴
京都市岩倉に近接する丘陵地に位置し,主に落葉広葉樹で構成される二次林を構成要素に含んでいる宝が池公園において,2019 と 2020 年の 3 月から 10 月まで月 2 回のチョウのトランセクト調査を行ない,45 種 1023 個体のチョウを確認した.個体数の上位 5 種は,ヤマトシジミ,キタキチョウ,ヒメウラナミジャノメ,コツバメ,ツマグロヒョウモンであり,森林性の種であるコツバメが含まれていた.宝が池公園のチョウ類群集は,近接する岩倉周辺に比較して,森林性種の種数が多く草原性種の個体数が少なかった.
45 種の中には,京都府レッドリスト掲載種であるキマダラルリツバメなどの落葉広葉樹で構成される二次林に特徴的な森林性種が 12 種含まれており,落葉樹林の存在がチョウ類の多様性を高めていることが確認された.また,過去に岩倉周辺で記録がある 83 種のうち,半数以上の 43 種が確認されたが,森林性種の中には個体数が少ない種もあった.このことには,低木層や林床植物の衰退が関わっていると考えられることから,植生遷移を抑制するような落葉樹林の管理を行う必要があると考えられた

第 4 章 都市域におけるチョウ類の都市化非耐性指数の考案と保全への適用
先行研究にもとづき,都市化によるチョウ類の衰退には,第 2 章で明らかにした環境嗜好性と地理的分布型に加えて,幼虫の寄主植物,成虫の餌資源,移動性,化性が関わると推定した.これら 6 つの要素について,チョウ類の種ごとに 3 つの水準を設定した.本研究の調査地に既存の研究を加え,都市公園 4 カ所,住宅地 3 カ所,大学キャンパス 1 カ所,二次林を含む緑地 2 カ所の合計 10 カ所のそれぞれについて,確認された種を目的変数,6つの要素を説明変数とした数量化 2 類による判別式を用いて,対象とした調査地で過去から現在までに確認されている 87 種について生息の可否を判定した.判別式の妥当性を示す相関比の平均値は 0.46,予測と実際の確認種との一致度を示す判別的中率の平均値は 83.0%であった.各要素の目的変数に対する寄与の大きさは調査地ごとに異なっており,すべての要素がいずれかの調査地において上位に入っていた.これらのことから 6 つの要素は都市緑地または都市化が進行する地域のチョウ相の形成に強く関連していると考えられた.
そこで,6 つの要素の 3 水準を 1~3 点として,チョウ種ごとに合計し,6〜18 点で評価する都市化非耐性指数を考案した.1980 年代以前に岩倉周辺で記録のある 83 種を宝が池公園で確認した 45 種および岩倉で確認した 38 種と比較すると,1980 年代以前の記録種中の 33 種が確認できなかった.この 33 種について指数を計算したところ,31 種で指数が 13以上であった.次に,過去に記録のある種,宝が池公園での確認種,岩倉周辺での確認種に加えて,近年に京都市中心部に造成された梅小路公園で記録のある 36 種について,指数の分布を比較した.指数 13 未満の種は,1980 年代以前では 30 種,宝が池公園では 28 種,岩倉周辺では 26 種,梅小路公園では 28 種であり大きな違いは認められなかったが,指数13 以上の種は,1980 年代以前の 53 種に対して,宝が池公園では 19 種,岩倉周辺では 12種,梅小路公園では 8 種であった.
以上のことから,指数が 13 未満の種は都市においても生息できる可能性が高いが,13以上では指数の増加とともに都市に生息できる可能性は低下すると考えられた.他地域における既存の研究 22 例にこの指数を適用したところ,指数の中央値と指数 13 以上の種の割合は里地里山でもっとも高く,二次林を含む都市緑地,里地里山に造成された住宅地,都市緑地の順となり,都市化の進行に伴う多様性の低下を反映していた.

本研究の結果から,都市化の進行に伴う里地里山の縮小によって、日華区系の森林性種の中で 1 化性かつ移動性の低い種が衰退し,チョウ類の多様性が低下したことが明らかになった.一方,落葉広葉樹によって構成される二次林を構成要素に含む都市緑地には,森林性種が多く生息しており,樹林が多様性の維持に貢献していると考えられた.これらのデータに基づいて考案した都市化非耐性指数を用いることにより,衰退種の特定と都市域におけるチョウ類の多様性の評価が可能になった.以上より,都市域におけるチョウ類の種多様性の維持・増進のためには,多様な落葉広葉樹をできるだけ多く植栽・管理して,都市化によって衰退する種の寄主植物と餌資源を提供できる安定した植生の維持が重要であり,そのことが都市域における生物多様性の回復や保全につながると考えられる.

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