信州大学農学部附属AFC 構内演習林におけるカラ類の繁殖状況を明らかにした．2016年に23個，2017～2018年に20個の巣箱を設置し，種ごとの繁殖成否，一腹卵数，初卵日および繁殖ステージの推移を調査した．その結果，3年間でシジュウカラParus minor のべ57つがい，ヤマガラPoecile varius のべ6つがいの計63つがいの繁殖を確認した．繁殖に成功したつがい数はシジュウカラがのべ34つがい，ヤマガラがのべ3つがいだった．また，25つがいは繁殖に失敗し，これらの巣において卵の放棄および消失，巣箱内での雛の死亡およびアオダイショウElaphe climacophora による雛の捕食を確認した．一腹卵数は，シジュウカラ3～11個，ヤマガラ5～6個だった．調査期間を通して両種は，₃月に営巣を開始し，3月までに育雛を終えた．
場合もあった．
シジュウカラは毎年10～13つがいが繁殖に成功し，
₁）荒瀬輝夫．2015．信州大学農学部構内における最
近10年間の鳥類相について．信州大学農学部 AFC
繁殖成功率は．2016年に45.5 %，2017年に78.6 %，
2018年に72.2 % だった．ヤマガラは2016年に₂つ
がい（繁殖成功率66.7 %）
，2017年に₁つがい（繁
報告13：123－130．
₂）濱尾章二・樋口正信・神保宇嗣・前籐 薫・古木
香名．2016．鳥の巣における生物間の相互作用：
殖成功率100 %）が繁殖に成功したが，2018年に繁
シジュウカラ・苔・蛾・蜂の関係．日本鳥学会誌
殖に成功したつがいはいなかった（表1,2,3）．
繁殖に失敗した巣では，卵の放棄（₉例）
，卵の
消失（₁例）
，巣内における雛の死亡（₈例），雛の
65⑴：37－42．
₃）叶内拓哉・安藤直哉・上田秀雄．2013．山渓ハン
ディ図鑑₇ 新版日本の野鳥．山と渓谷社，東京．
消失（₁例），雛の捕食（₆例）を確認した．捕食
者はアオダイショウ Elaphe climacophora だった．
一腹卵数は，シジュウカラが₃～11個，ヤマガラ
が₅～₆個だった．初卵日のレンジは，シジュウカ
672 pp.
₄）風間健太郎．2015．鳥類がもたらす生態系サービ
ス：概説．日本鳥学会誌64⑴：₃－23．
₅） 気 象 庁．2019． 各 種 デ ー タ・ 資 料．http://www.
data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view（2019 年 ₄ 月
ラにおいて2016年は₄月11日～₆月₅日，2017年は，
₄月20日～₇月₂日， 2018年は₄月17日～₇月₃
日だった．ヤマガラの初卵日のレンジは，2016年は
12日閲覧）
₆）Naef-Daenzer, L., Naef-Daenzer, B. and Nager, G.
2000 . Prey selection and foraging performance of
₄月10日～₆月10日，2017年は₄月15日～₄月22日，
breeding Great Tits Parus major in relation to
2018年は₄月17日のみだった（表1,2,3）
．営巣は₃
food availability. Journal of Avian Biology 31 (2 ):
～₄月から始まり，₇～₈月には繁殖がみられなく
なった（図2,3,4）
206‒214 .
₇）Whelan, C. J., Wenny, D. G. and Marquis, R. J.
2008 . Ecosystem services provided by birds.
Annals of the New York Academy of
Sciences1134 : 25‒60 .
Breeding Status of Tits (Paridae) in Campus of Faculty of Agriculture, Shinshu
University
, ＊
, ＊＊
Hayato KIKUCHI＊＊
, Kahori KOBAYASHI＊, Hiroaki MATSUMIYA＊＊
and Shigeyuki IZUMIYAMA＊＊＊＊
＊＊
Graduated from Department of Forest Science, Faculty of Agriculture, Shinshu University
Present address: Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine, Obihiro, Hokkaido 080-0017
＊＊＊
＊＊＊＊
Environmental Assessment Center Co., Ltd. Azumino, Nagano 399-8204
Institute of Mountain Science, Interdisciplinary Cluster for Cutting Edge Research, Shinshu University
96
信州大学農学部 AFC 報告 第18号 （2020）
表₁．信州大学農学部構内におけるカラ類の繁殖状況（2016年）
巣箱 no.
利用種
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pv
Pm
Pm，Pm
Pm
Pm
Pm
Pm，Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pv，Pv
初卵日
₄/20
₄/21
₅/23
₄/11
₄/21
₄/16
₅/14
₄/17
₅/17
₆/₅
₄/21，6 /₁
₄/22
₄/26
₄/21
₄/14，6 /₄
₄/22
₄/17
₄/22
₄/26，5 /21
₄/22
₄/10，6 /10
一腹卵数
繁殖成否
10
10
8,7
10
9,8
1,7
6,5
成功
成功
成功
失敗
失敗
失敗
成功
成功
失敗
失敗
失敗，失敗
失敗
失敗
成功
成功，成功
失敗
成功
失敗
失敗，成功
失敗
成功，成功
失敗理由
巣内で雛死亡
アオダイショウによる雛の捕食
アオダイショウによる雛の捕食
巣内で雛死亡
卵放棄
アオダイショウによる雛の捕食（両方）
卵放棄
卵消失
卵放棄
巣内で雛死亡
卵放棄
アオダイショウによる雛の捕食
Pm：シジュウカラ Pv：ヤマガラ
表₂．信州大学農学部構内におけるカラ類の繁殖状況（2017年）
巣箱 no.
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
利用種
Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pm
Pv
Pm
Pm
不明
Pm
Pm
Pv，Pm
初卵日
一腹卵数
₄/23
₄/30
₅/₃
₅/₈
₇/₂
₄/20
₄/26
₅/₈
₄/28
₄/28
₅/18
₄/22
₄/28
₅/22
₄/25
₅/19
₄/24
₄/15，不明＊＊
6,6
繁殖成否
不明
成功
成功
成功＊
失敗
成功
成功
成功
成功
成功＊
成功
成功
失敗
失敗
失敗
成功
成功
失敗，不明
失敗理由
雛消失
卵放棄
巣内で雛死亡
卵放棄
巣内で雛死亡
Pm：シジュウカラ Pv：ヤマガラ
*：一部の雛死亡
＊＊
：産卵期に卵数を確認できなかったため，初卵日を推定できなかった．
信州大学農学部附属 AFC 構内演習林におけるカラ類の繁殖状況
表₃．構内演習林におけるカラ類の繁殖状況（2018年）
巣箱 no.
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
利用種
初卵日
Pm
₆/₄
Pm
₅/₂
Pm
₄/20
Pm
₄/26
Pm
₄/21
Pm，Pm ₄/23，6 /21
Pm
₄/20
不明＊＊
₄/29
Pv，Pm ₄/17，7 /₃
Pm
₄/30
Pm
不明
Pm
不明
Pm
₄/21
Pm
₄/21
Pm
₄/25，6 /20
Pm
₄/18，6 /16
Pm
₄/25
Pm
₅/₈
一腹卵数
11
11
10,7
6,7
11
7,2
9,8
繁殖成否
失敗理由
不明
成功＊
成功
成功
成功
成功，成功＊
成功
失敗
卵放棄
失敗，不明
巣内で雛死亡
成功
失敗
巣内で雛死亡
失敗
巣内で雛死亡
成功
成功
成功＊，失敗 卵放棄
成功，失敗
アオダイショウによる雛の捕食
成功
失敗
卵放棄
Pm：シジュウカラ Pv：ヤマガラ
：一部の雛死亡
＊＊
：産卵期に巣を放棄したため，親鳥を確認できなかった．
図₂．信州大学農学部附属 AFC 構内演習林におけるカラ類の繁殖ステージの推移（2016年）
97
98
信州大学農学部 AFC 報告 第18号 （2020）
図₃．信州大学農学部附属 AFC 構内演習林におけるカラ類の繁殖ステージの推移（2017年）
図₄．信州大学農学部附属 AFC 構内演習林におけるカラ類の繁殖ステージの推移（2018年）
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