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大学・研究所にある論文を検索できる 「Development of regenerative medicine for subacute spinal cord injury in dogs using intravenous administration of bone marrow-derived mesenchymal stem cells.」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Development of regenerative medicine for subacute spinal cord injury in dogs using intravenous administration of bone marrow-derived mesenchymal stem cells.

武田, 妙 東京大学 DOI:10.15083/0002004968

2022.06.22

概要

犬では、椎間板ヘルニアや外傷を原因とした脊髄損傷(SCI)の発生頻度が高い。従来、これらのSCIのうち重症例に対しては主に椎間板や椎体に対する外科手術が行われてきたが、損傷脊髄に対する直接的治療ではないため、機能回復が十分得られず、生涯にわたる歩行困難や排泄障害に陥る場合も少なくなかった。人ではこのような症例に対する新規治療法として、幹細胞を用いた様々な脊髄再生医療の研究が進められ、獣医療においてもSCI症例に対して適応し、一定の治療効果が得られたとする報告もある。しかし、治療効果が得られる機序や安全性についての検討はほとんど行われておらず、現状では盲目的な幹細胞投与が行われる傾向が強く、再生医療の発展の大きな障害となっている。

 獣医療では、再生医療に用いるセルソースとして細胞の分離・培養の簡便さやコスト等の理由から、骨髄や脂肪組織から得られる間葉系幹細胞(MSCs)が用いられることが多い。MSCsは、生体内で様々な組織中にわずかに含まれ、自己増殖能と骨・軟骨・脂肪などへの多分化能を有する細胞である。犬では最近、骨髄の脂肪細胞に付着する幹細胞能の高いMSCsが見出され、骨髄脂肪細胞周囲細胞(BM-PACs:Bone marrow peri-adipocyte cells)と名付けられた。従来の骨髄由来MSCsと比べ増殖能・多分化能に優れており、再生医療の治療戦略の幅を広げる有望な細胞材料であると期待されている。

 MSCsは損傷部へのホーミング機能や組織修復・炎症抑制に寄与する液性因子の分泌能(trophic effects)を有することで、生体組織の恒常性を維持しており、MSCsを利用した再生医療の概念は、これらの能力を利用して組織損傷の抑制あるいは修復を促し、治療効果を得ることである。脊髄損傷部では、特に亜急性期において細胞走化性因子としてケモカインCXCL12の発現が上昇することが知られており、マウスMSCsでは受容体であるCXCR4を発現し、損傷部へのホーミングを示すことが明らかになっている。犬MSCsにおけるCXCR4発現やCXCL12に対する走化性の報告はないが、CXCR4-CXCL12を軸としたホーミングが可能であれば、静脈投与などの全身投与でも損傷部へMSCsが到達でき、汎用性の高い移植法となることが期待される。さらに、投与したMSCsがtrophic effectsをもてば、神経再生や炎症が波及した周囲の脊髄組織における神経保護あるいは血管新生作用なども期待できる。

 一方、MSCsを用いた脊髄再生医療をより有効に実施するためには、SCIの病期や病態の正確な把握も重要となる。SCIは機械的損傷による一次損傷と、その後の炎症に伴う二次損傷からなるが、炎症は急性期から亜急性期にかけ沈静化し、亜急性期から慢性期にかけて軸索再生阻害因子であるグリア瘢痕の形成が進行する。したがって、亜急性期は炎症やグリア瘢痕の影響が少なく、MSCsが生着しやすいと考えられる。前述のように、ホーミング効果も得られやすいと期待されるため、脊髄再生医療の最も良いターゲット期と考えられる。

 以上から、本研究では、犬の亜急性期SCIをターゲットとした安全で効果的かつ汎用性の高い脊髄再生医療の開発を目標とし、まず、犬MSCsとしてBM-PACsを用い、CXCR4-CXCL12を軸としたホーミング機能を評価し(第1章)、神経栄養因子や血管新生因子の発現および分泌能からtrophic effectsについてinvitroで評価した(第2章)。次に、ヌードマウス亜急性期SCIモデルへの静脈投与を行うことで、in vivoでホーミング機能を評価し、組織学的修復と運動機能回復の評価からtrophic effectsを介した治療効果が得られるかを検討した(第3章)。最後に、SCIの代替として皮膚損傷を作製した健常ビーグル犬に対して、CXCL12発現が上昇することが知られている損傷10日後に自己BM-PACsの静脈投与を行い、生体における安全性の評価を行うとともに、BM-PACsの損傷部へのホーミング機能を評価した(第4章)。

 第1章では、BM-PACsのCXCR4発現およびCXCL12に対する走化性を評価した。MSCsの機能を明確にするため、対照としてnon-stemな間葉系細胞である皮膚線維芽細胞(Dermal fibroblasts; DFs)を用いた。免疫細胞染色およびCXCL12に対するケモタキシスアッセイの結果、いずれの細胞もCXCR4を発現しCXCL12濃度依存的な走化性を示した。したがって、これらの細胞はSCI亜急性期に対する静脈投与により損傷部へのホーミングが期待出来ると考えられた。

 第2章では、BM-PACsとDFsにおける神経栄養因子(NGF、BDNF)および血管新生因子(VEGF、HGF、CTGF、FGF-2、PDGF)の発現量を定量的PCRを用いて検討した。その結果、VEGFの発現量に有意差がみられ、ELISAによる評価においてもBM-PACsは有意に高いVEGF分泌能を示した。さらに、各細胞の馴化培地でヒト臍帯血由来血管内皮細胞を用いたtube for mation assayを行ったところ、BM-PACsの馴化培地が有意に血管新生を促進したことから、BM-PACsはVEGF分泌を介した血管新生効果を示すことが期待された。

 第3章では、ヌードマウス亜急性期SCIモデルに対してBM-PACsおよびDFsの静脈投与を行い、損傷部へのホーミング機能と、血管新生を含めた組織修復効果および運動機能回復効果を評価した。ヌードマウス第10胸椎レベルの脊髄に重度圧挫傷を作製し、亜急性期である損傷10日後に蛍光標識したBM-PACsおよびDFsを静脈投与した。また、対照として培地のみ投与する無治療群も設定した。その後、In vivo Imaging System(IVIS)を用いて体内における細胞の局在を観察した。その結果、BM-PACs、DFsとも投与翌日には脊髄損傷部での蛍光が認められ、1週後に蛍光強度がピークとなった。ピーク時の蛍光強度は両細胞間で差はなかった。損傷部での蛍光は2週後には減退し、3週後にほぼ消失した。また、BM-PACsの投与と同時にCXCR4阻害薬を投与したところ、損傷部における蛍光強度の有意な減少が見られた。一方、運動機能はBM-PACs投与群でのみ、投与1週後から無治療群に対して有意な運動機能促進が認められ、損傷4週後には歩行可能なレベルまで回復した。投与6週後に損傷部を含めた脊髄組織の組織学的評価を行った結果、BM-PACs投与群で血管数、脊髄白質量、残存軸索量の有意な増加がみられた。また、損傷中心部において、軸索再生マーカ―であるGAP43の発現を定量した結果、BM-PACs投与群で再生軸索の有意な増加がみられた。これらの結果から、亜急性期SCIに対してBM-PACsを静脈投与することで、CXCR4-CXCL12軸を介して損傷部へホーミングし、治療効果を発揮すると考えられた。また、DFs投与群では十分な血管や軸索の再生と運動機能回復がみられなかったことから、VEGF分泌能の差が治療効果に影響を与えた原因であると考えられた。VEGFと血管新生の直接的な関連は明らかにはならなかったが、BM-PACsによる血管新生作用が、損傷部における栄養や酸素供給を促進し、神経保護および再生に寄与することで、機能回復が得られることが示唆された。

 第4章では、犬で皮膚損傷を作製し、蛍光標識したBM-PACsを損傷10日後に静脈投与し、IVISを用いて損傷部へのホーミング機能を評価した。同時にBM-PACsに超磁性体も取り込ませ、MRIを用いたホーミング機能の評価が可能かについても検討した。BM-PACs投与1週間後まで、定期的に身体検査、血液検査、X線検査、CT検査を行ったが、アナフィラキシー反応や細胞塞栓等を疑う有害事象はみられず、自己BM-PACs投与の安全性が示された。また、投与1週間後に損傷部へのホーミング機能がIVISにより確認されたが、MRIによる評価では検出が困難であった。

 以上の結果から、犬骨髄由来MSCsであるBM-PACsは亜急性期SCIに対してCXCR4-CXCL12軸によるホーミング機能とVEGF分泌によるtrophic effectsを介して、組織学的修復および運動機能回復促進効果を持つ可能性が示唆された。また、犬における自己BM-PACs静脈投与の安全性が示されたことから、脊髄損傷後早期に深部痛覚の消失を示すなど、重度SCIと診断された症例では骨髄を採取してBM-PACsを培養しておき、術後の機能回復が十分でない場合、培養BM-PACs静脈投与を行うことで、従来の治療法では得られなかった高い治療効果が得られることが期待された。今後は、有効性と安全性を両立可能な細胞数の上限の決定や、複数回投与の有効性と安全性の検証などを通し、より効果的な治療プロトコルの確立を進める必要がある。

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